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239 海賊たちの動き


 リバイアサンの自室で、ぐるぐると巻かれた包帯姿の俺を、慈愛に満ちた表情でカテリナさんが見ている。

 メープルさんとの練習はドローで終わったんだけど、とっさに次元の歪を作って移動したらしい。

 あのままメープルさんの蹴りを受けた方が、被害が少なかったかもしれないな。


「相変わらず無茶をするんだから……。症状は最初に出会った時と同じだから、またやったんでしょうけど。でも、あの時は傷は無かったはずよ」

「その前にかなり攻撃を受けましたからね。ところでメープルさんは?」


「バイオタンクで療養してるわ。骨折はないけど、体中切り傷だらけよ。まるでナイフで白兵戦をした後のようね」


 互いの攻撃速度が半端じゃなかったからなぁ。俺の攻撃を紙一重で避けていたメープルさんも最後はかわしきれなかったということか。


「いくらナノマシンの強化体でも、あれだけ打ち合えば怪我をするということね。でも、メープルさんは嬉しそうだったわよ」


 自らの力を最大に使える相手をして俺を見てるのかな?

 だけど、あれだけ使えるなら現役を続けても良かったんじゃないかな。


「とりあえず、今日1日寝てなさい。すでに治ってるとアリスが教えてくれたけど、メープルがバイオタンクから出るまでは、このままでいて頂戴」


 ベッドに腰かけていたカテリナさんが立ち上がって、俺の掛けていたシーツを直して部屋を出て行った。

 ところで、この部屋にいるということは現在中継点へと向かっている途中なんだろうか?


『1時間ほどで中継点に到着します。メープル様の傷は2時間程で完治するでしょうから、マスターも今日中にはパレスのベッドで眠ることができますよ』

「このまま1週間は辛いからねぇ……」

『前回をマスターの下層意識が覚えていたのでしょう。一時的に体を強化したようですが、少し遅かったようですね』


 それで、体があまり影響を受けなかったということなのか。

 そうなると、次はもっと上手く体が反応するんじゃないかな?


『次は無傷とまでは行かないでしょうが、倒れることは無いでしょう。定期的にメープル様と試合をすることをお勧めします』


 そうは言ってもねぇ……。試合というより、白兵戦なんだよな。

まぁ、1人でベッドに寝る機会はそうそうあるものでもない。少なくとも2時間は眠れそうだ。


 体を揺すられて目が覚めた。

 包帯の隙間から覗くと、フレイヤとカテリナさんがベッドの傍に立っている。

 どうやら、安眠の時間は終わりらしい。


「メープルさんもバイオタンクを出たから、リオ君も起きてだいじょうぶよ。治ったと知ったら皆が押し寄せそうだから、少し包帯を残し解いてあげるわ」


 カテリナさんの恩情に目が熱くなる。

 上半身を起こした俺に、ハサミをカチャカチャ鳴らしながらフレイヤが包帯を切っていく。包帯なら巻き取ると思ったんだけど、切った方が速いのかな?

 ハサミで刺されないかとヒヤヒヤしながらジッとしている。動くと本当にブスリとなりかねない。


「はい、終わったわよ。食事は少し後にしなさい。先にお風呂に行ってくれば皆と時間をずらせそうね」

「ほら、出掛けるわよ!」


 カテリナさんに比べるとフレイヤの方はそっけないな。

 急いで衣服を着ると、扉のところで俺を待っているフレイヤのもとに向かう。

 ベッドに腰を下ろして俺達に手を振るカテリナさんに軽く頭を下げると、フレイヤに手を引かれてリバイアサンを下りることになった。


「明日は、パレスでのんびりできるわよ。明後日は南のコンテナターミナルに向かうことになってるけど、私が一緒だから安心して良いわ」

「連絡は取れたの?」

「歓迎してくれると言ってたわ。やはり、課題があるみたいね」


 歩きながらの会話だから、詳しい話はしてくれないようだ。

 たぶん海賊対策に違いないとは思うんだけどね。


 隠匿桟橋を歩いて事務所に向かう。そこで電動カートを借りてパレスへと向かった。誰が返しに行くのかと心配するのは俺だけなんだろうな。

 フレイヤの運転は、怪我人が下りて歩きたくなるような運転なんだけど、どうにかパレス近くの駐車場に停まった時には、ホッとして胸をなでおろしたくなった。

 パレスの無駄に大きなエントランスホールの階段を上って2階に向かう。

 誰にも会わないけど、皆は既に3階でくつろいでいるんだろう。


 真っ直ぐに回廊を歩いて、風呂に向かう。

 このパレスの良いところは、いつでもお風呂に入れることだ。それも小さな風呂ではない。2階の風呂は一番大きな湯船があるからなぁ。

 ローザ達が泳いでいると、ライムさんが教えてくれたぐらいの広さだ。


「しばらく浸かっていれば良いわ。包帯は後で巻きなおしてあげる」


 更衣室でさっさと裸になったフレイヤが先にお風呂に向かったけど、すぐに大きな水音が聞こえてきたから、飛び込んだに違いない。

 温水プールと勘違いしてないか?

 俺も衣服を脱いで頭の包帯を取ると、風呂に足を踏み入れた。

 

 少し内装を変えたのかな?

 3階の岩風呂も風情があるけど、ここはローマ時代を思わせるような大理石の湯船と円柱がアクセントになっている。

 床は少しざらついた感じが伝わってくる。滑って転んだら怪我をしそうだからね。ちょっとした安全策ということなんだろう。

 

 ヨイショと声を出しながら湯船に入る。途端に首付近までお湯に浸かったからローザでは潜ってしまうんじゃないか? お風呂で泳いでいたのは深かったからというのが真相のようだ。


「ほら、何も一番深い場所に入らなくても良いでしょう? あっちは浅いのよ」


 突然目の前に顔を出したフレイヤに手を引かれながら場所を移動する。確かにこっちは浅いし、腰を掛けるに調度良い段差があった。


「ところでコンテナターミナルの課題は?」

「リオの思っていた通り海賊の動きが活発らしいの。騎士団の保有する1隻を監視用に使っているらしいんだけど、被害がかなり出ているらしいわ」


 俺にそう言ったかと思うと体を寄せてきた。

 ジャグジーで抱き合ったことはあるけど、こんな大きなお風呂ではねぇ……。とはいえ、このままではフレイヤも満足しないだろうな。


 1時間後、すっかりのぼせてしまったフレイヤと一緒に冷たいシャワーを浴びて体の火照りを取る。

 まだ俺に抱き着いているからしばらくはこのままだ。

 どうにかシャワー室から出て衣服を整え終えると、フレイヤがメイクルームに向かう。時間が掛かりそうだから、壁に埋め込まれた冷蔵庫よりビールを取り出して風呂を眺めながら一服だ。

 来客用に作った風呂だけど、たまに利用するのも良いな。

 もっとも、3階にある岩風呂の方が、俺には合っている気もするんだけどね。

 

「アリス、海賊の活動状況を調べることができるかな?」

『軍と商会ギルドの電脳を探ってみます』


 かなり詳しい情報が手に入るだろう。

 その情報から見えてくるものがコンテナターミナルの課題解決に役立つんじゃないかな。


『海賊の襲撃地点を表示します』


 目の前に仮想スクリーンが作られて南のコンテナターミナルとローザ達の駐屯する中継点、それに中継点から東にあるコンテナターミナルが緑で示される。この三角の1辺の長さだけで2千kmを越えていそうだな。


 続いて襲撃地点が赤の輝点で表示される。

 なるほどねぇ……。ローザ達と3王国の機動艦隊が遊弋する範囲にはほとんど輝点が無い。

 やはり中緯度から低緯度に偏っているな。


『四半期ごとの襲撃地点を黄色、橙、赤で表示します』

「ん? 南に移動してないか?」

『機動艦隊の1つが低緯度に移動したためと思われます。それでも無くなったわけではありませんから、海賊達も何らかの手段で機動艦隊の動きを監視しているのではないかと』


 監視の手段は色々とあるからなぁ……。科学衛星による情報だって、運行管理局は金を払えば見せてくれるだろう。偽装騎士団も使えそうだし、傭兵稼業の騎士団も海賊側に足を踏み入れている者達もいるに違いない。

 さらには小さなヤードだって、我が身かわいさで情報を売ることもあるだろう。

 

 あまり活発ならテンペル騎士団の矜持を疑われかねないな。

 12騎士団の誇りもあるから、格下の俺達に正式な協力を依頼できかねていたに違いない。

 

「何を見てたの?」

 俺の隣に腰を下ろしたフレイヤが、仮想スクリーンを覗き込んで聞いてきた。


「海賊の動きだよ。かなり活発みたいだね」

「いそうな場所に片っ端から爆弾を投下すれば良いのよ。私達だって、海賊に襲われたことがあるんだからね」


 ヴィオラ騎士団に入団して直ぐだったな。

 あの襲撃で命を落とした団員もいたし、重症を負って退団した仲間もいた。

 それにアレク達を襲った軍の連中も、海賊と言って良いだろう。まったく飛んで間内連中だ。フレイヤの言いたいことも理解できるな。


「たぶんテンペル騎士団の課題は海賊対策だ。フレイヤも少し対策を調べておいてくれないか?」

「望むところよ。1か月もあるんだから、海賊の2つや3つは壊滅させないとヴィオラ騎士団の名が泣くわ」


 そこまで言わなくても良いような気もするけどね。

 確かにそれぐらい潰せば、少しはおとなしくなるかもしれないな。


 やる気満々のフレイヤを連れて3階のリビングに向かう。

 入る早々、皆の視線が俺に集まってきたけど、食事を取る間はそっとしておいてくれるみたいだ。

 ライムさんが運んでくれた料理は何時も通りの大盛りだ。

 ありがたく頂きながら、ソファーでくつろいでいるドミニク達の話しに聞き耳を立てる。

 

 彼女達の前にいくつか仮想スクリーンがあるのは、それぞれの分担する対象の状況を確認しているのだろう。

 それなりの技能を持っている彼女達なら酔い解決策を見つけてくれるに違いない。

 

 ん? カテリナさんがいないぞ。

 どうしたんだろう。


『カテリナ博士はガネーシャ博士と密談中です。そうそう、カテリナ博士からマスターに伝言です。「名前を付けてね」と言ってました』

「何の名前なんだろう? 思い浮かばないんだけど」


『機動要塞の電脳を統括するナノマシン端末です。ドロシーの一番下の妹になります』

「そう言うことか……。となれば、機動要塞とセットが良いね。う~ン、何が良いかな。白鯨にリバイアサン、デイジー達の巡洋艦がアンゴルモアだったからなぁ……」


 やはり神話から取りたいところだ。

 あれだけの大きさと破壊力を持った機動要塞ということになると、それなりの名前がいるだろうな。


「決めたよ。機動要塞が『ヨルムンガンド』、制御する女の子は『シグルーン』だ」

『かなり古い文献から取りましたね。世界を取り巻くほどの大蛇と勇者を導く女神ですか……』


 軍の精鋭を集めるに違いないからね。ヒルダ様が可愛がってくれるだろう。きっと良い娘に育つんじゃないかな。


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