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233 ライデンに戻る前に


 リバイアサンの採掘した金属粗鋼の搭載量は、カタログスペックによれば3千tなんだけど、専用カーゴの中に入ると、5百tのシリンダー型の輸送容器の数は10個並んでいた。

 2倍とはならないけれど、これはいくら何でも余裕度を超得ているように思えるなぁ。


『半重力装置の相乗効果と最適コントロールの賜物ということでしょう。機体重量の2割程度と推測していたのですが、思いのほかドロシーの制御技術が卓越しているようです』

「これ以上に搭載できると?」

『現状の2倍でも何ら問題はありません。ですが、収容区画を考える必要があります』


 白鯨と比較するなら4倍以上の容積があるのだが、色々と積み込んでいるようだ。乗員の生命維持に必要な設備を3重化できたのも、最初は余ってる部屋が多かったからなんだろう。

 

 アリスが収容区画にこだわったのは、まだ未確定の区域があるということなんだろう。だけど、この航海で色々と不満も出ていることだから、それらの対処に使われてしまうんだろうな。


「宇宙用のデンドロビウムも考えた方が良いということになりそうだ」

『昨日、必要であるとお話ししましたが?』


 ん? 宇宙での俺達の拠点とも言うべき領土と、その領土とライデンを結ぶ定期便の話しじゃなかったのか?

 アリスの考える宇宙船がデンドロビウムの思想に近いとなれば、こたえは貨客船に近いものになる。

 荷の運搬と人を運ぶのが同時にできる船。それに一番近いのは高速艇なんだけど、あれは荷物も運べるというだけで、メインは人の移動だ。やはり根本的に考える必要がありそうだ。


 自室に戻ると、仮想スクリーンをいくつか開きながら新たな領土の概念を纏めることから始めることにした。

 先ずは目的からだな。

 これは採掘した鉱石の分別と精練となるのだろう。運行管理局との取引拠点ともなり得なければならないし、引き渡し方法も考えねばなるまい。

 リバイアサンの運用は、白鯨のクルー並みの航海期間を考えれば1か月程度だ。休暇はライデンでのんびりして貰おう。となれば、拠点に保養施設は作らなくても良いだろう。区画を明かしておけば後々の対応も出来るはずだ。


 ジッと仮想スクリーンを眺めているけど、何のアイデアも浮かんでこない。

 ここは少し頭を冷やしてみるべきだろうな。

 窓際のソファーから立ち上がって、シャワーを浴びることにした。地上よりは重力が低いのだろう。足元に飛び散る水滴がゆっくりと落ちるのに最初は驚いたんだけどねぇ。

 最初か……。

 宇宙に乗り出そうとした時には、色々と考えたんだよな。

 最初はユニットだけを連結しようとしたり、大きな小惑星をくり貫こうとしたんだっけ。


 ん! 待てよ。小惑星をくり貫くというのは、あの当時は無理だとしても今なら可能なんじゃないか?

 採掘現場と精練所は近い方が望ましいし、運行管理局への鉱石払い出しは電磁ネットの向きを運行管理局が複数持つ必要も出てくるだろう。そんな面倒なことを運行管理局が実施するとも思えない。

 それに、運行管理局の航路防衛艦隊に俺達の拠点を容易に見つけらるようなら後々困ったことも起きるかもしれない。

 小惑星に偽装するという方法で考えてみようか。


 冷たいシャワーを浴びると何故か体が火照る。着替えを済ませると、仮想スクリーンに指を這わせて簡単なスケッチを始めた。


「こんな感じかな? アリス、これを基に概念図を描けるかい?」

『12面体ですね。正五角形を張り合わせるのですか。中の空間に12面体の枠を作り、それに球体型の居住区を作る……。マスター、この外壁は駆動させるおつもりですか?』


「面がズレれば、中の空間にリバイアサンを収容できるだろう? その収容時に、攻撃されても困るから、こっちの盾を使って隠すつもりだ。盾は平面でも良いから10枚の六角形の板でその時に作れば良いんじゃないかな。小惑星をくり貫いても良さそうだけど、これの方が応用が利くだろう?」

『拡張性に優れています。12個の外壁にスラスターや武装、観測装置も取り付けられるでしょうし、その後の改造も容易です。それに、ユニットをリバイアサンで運ぶのも容易でしょう』


「仕様としては、ライデンからの敵便は500t/月で維持管理ができること。収容人員は5百人以上、最大で2千人だ。想定される戦闘は、運行管理局の戦姫と指揮する巡洋艦の兵装の脅威を退けられること。桟橋は2本にしたい」

『かなり巨大になりますが、小惑星を移動するよりは容易でしょう。了解しました。設計を開始します』


 後は貨客船だ。

 運行管理局の用いるイオンロケットはボーマン軌道を使って惑星間を運行し、最外惑星『レブラット』の月である『サリーデン』で、恒星間を運行する組織に引き渡すらしい。

 恒星間を渡る宇宙船はかなりの大型なんだろうし、イオンロケットというわけではないだろう。最低でも半重力推進を使うはずだし、俺達の知らない推進システムもあるはずだ。アリスと同じように時空間の歪を利用した輸送方法も考えられるな。

 となると恒星系内で恒星間の推進方法を使わない理由は何なんだろう?

 効率を考えたなら、上位の運行管理組織が運行管理局に推進方法の情報を開示するか、ブラックボックス化して引き渡しそうな気もするんだが……。


『時空間に歪を作りだしての亜空間跳躍航法は、連合宇宙軍の独占技術です。恒星間の人間と物資の運搬は、亜空間跳躍航法で作りだしたゲートを使って行われていますから船体に設けられているわけではありません。ゲートへの出入は半重力推進機関を搭載した宇宙船が行っています』

「それなら、恒星系に根を下ろした運行管理局が重力推進の船を持っていても良さそうだけど……」


『過去に大規模な反乱が起こったようです。ゲートを使えば恒星間に融合弾を移動させることも可能ですから。多大な犠牲を払って鎮圧した結果、恒星系内での宇宙船に対して、重力場推進装置の提供を停止したようです。推進装置、制御装置ともブラックボックス化での提供でしたから、自分達で新たな重力場推進システムを構築できた運行管理局の情報は皆無です』


 ん? そうなるとアリスの存在とリバイアサンは問題にならないのだろうか?

 俺とアリスならば、別の恒星系へ旅立つという手もあるけど、残されたヴィオラ騎士団の運命が問題だ。その時はアリスと一戦することになるんだろうか……。


『反乱を起こさぬ限り問題はないかと。それに私達は運行管理局ではありませんし、リバイアサンの半重力制御装置は人類の作りだしたものではありません。運行管理局への提供を止めただけですから、運行管理局の重鎮であるミレーネ様も技術提供を私達に求めるのは問題ないと判断しての事なのでしょう』


 使うことを禁止したわけではないということなのかな?

 その辺りは政治判断ということなんだろうな。


「それならライデンと宇宙に設ける中継点を結ぶ貨客船はリバイアサンと同じで良いということになるのかな?」

『そうなりますね』


 とはいえ、同じ形というのもねぇ……。

 だいたいシリンダーを船体内に搭載する必要もないはずだ。外に配置した方がシリンダーの荷下ろしが楽になるんじゃないかな。もっとも、ライデンからの補給物資は船体内に格納した方が運行管理局に情報を与えずに済むだろう。


 さらさらと仮想スクリーンにラフなスケッチを描く。

 直径50m、長さは200mの船体の前部と後部の円周上に12台のシリンダーを個別に搭載する架台を設ける。鉱石運搬用のシリンダーは直径20m長さが50mほどだから、船体内に3台は収容できそうだ。船体の後に設けた船外活動可能な獣機の出入り口を兼ねれば、中にシリンダーを納めているとは思われないだろう。


「こんな形に出来ないかな? 少々の変更は容認するよ」

『前部にも出入口を設けれることでよろしいですね。拠点の12面体との整合も確認します』


 アリスが了承してくれたなら、結果を待つだけになる。

 自分で出来るのは最初のアイデア段階だけだからね。さて、そうなるとカテリナさんの概念図も気になるところだ。

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 小惑星帯での採掘は予定期間である10日間も掛からずに、6日で終了してしまった。それも予定量の3千tではなく5千ッということだからねぇ。

 大成功ということになるんだが、まだまだ油断はできない。この後にライデンの軌道上を回っている運行管理局の静止衛星へシリンダーを納入しなければならない。

 妨害されることはないと思うけど、事前に調整をしといた方が良いんだろうな。


「リオ君が先行して調整すれば簡単よ。お土産を忘れないでね」


 俺の心配を食事の時に提案したら、カテリナさんの一言で先行調整の任務をドミニクから指示されてしまった。

 俺は国王で、提督で戦姫のパイロットなんだけど、ヴィオラ騎士団の騎士でもある。やはり団長の指示は絶対だからねぇ……。


「ローラに先行することを伝えて貰うから、運行管理局の衛星に近づいたら連絡して欲しいわ。それほど掛からないんでしょう?」

「アリスと一緒なら1時間も必要ない。接触時間を1400時にしてくれないか? ライデンの標準時刻は運行管理局も分かるはずだ」


 これを持って行きなさいと、渡されたバッグには重さ20kgはありそうなダイヤの原石が入っていた。

 ハンマーで割って販売した方が良いのかもしれないけど、こんな大きな宝石の使い道なんてあるのだろうか?


「まだ俺達に気付いていないみたいだな」

『回収待ちのシリンダーと一緒に浮んでますから、レーダーでは判別出来ませんし、光学迷彩はサーマル領域にも拡張しています』


 熱画像としても捉えられないということか。ニンジャみたいだな。


「衛星内の様子は?」

『シリンダー回収用のハッチは多目的用途のようですね。戦機に似た機体が数機待機しています。そろそろミレーネ様に到着を報告します』


 さてどんな歓迎をしてくれるのかな?

 俺とアリスだけだから、最悪の結果になっても脱出は可能だろう。

 その時は、ライデン恒星系内でのレアメタルの輸送は俺達が代行することになりそうだけどね。


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