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232 新たな領土はどこに?


 2個の小惑星がリバイアサンの口に飲み込まれたところで、2番隊が船外作業を終える。

 1番隊は次の小惑星を近くに運んでくるらしい。無理をすれば3個は入るんじゃないかと思うけど、案外カテリナさんは慎重なところがあるな。


「下の口にある半重力装置の力場を反転させることで、半口の中に疑似重力が作れるわ。地上の四分の一ぐらいだけど、重力がある方が作業はしやすいはずよ」

「獣機が先ほどの獣機と違いますが?」


 どう見ても地上でマンガン団塊を集める獣機と同じに見える。空間機動に難があるから疑似重力にしてるんじゃないかな。


「獣機のコクピット周りだけに気密処理をしてあるの。念の為にこんな装備をさせているから、一応3重の対応よ」


 俺が作った仮想スクリーンに画像が出てきた。ウエットスーツのような作業服に、頭金魚鉢のようなマスクと一体となったヘルメットを付けている。宇宙服と比べるとかなりの軽装に見えるけど、リバイアサンの口の中はこれで十分ということなんだろう。


「口の中の気圧は低いけど、この展望ラウンジと同じ空気の循環システムを組み込んであるわ。2系統あるから、あのヘルメットと背中に付けたボンベは保険みたいなものよ」


 真空ではないということか……。作業で体を守る障壁ともいえる宇宙服が破れる恐れを考えたわけだ。

 となると、小惑星にウイルスがいたらバイオハザードが起きるんじゃないか?

 恐る恐るカテリナさんに顔を向けると、俺の心配が分かったらしく笑みを浮かべて頷いている。


「だいじょうぶよ。小惑星帯ができたのは30億年以上昔の話だし、2つのライデン並みの大きさの惑星が衝突してできたとも言われてるわ。それが本当なら、衝突エナルジイで発生した熱で命あるものは全て滅んだはずよ」


 とはいっても、遺伝子レベルのものだっていたんじゃないかな?

 何らかの検証はしといた方が良いように思えるんだけどね。


「念の為に空気サンプリングと、小惑星の塵はラボに運んで分析中よ。あの装備は、そのためでもあるの」


 出口には簡単な洗浄装置まで設けたようだ。

 万が一、バイオハザードが発生したら、俺達だけで何とかするしかなさそうだな。


『カテリナ博士、反跳中性子線分析装置からの小惑星の詳細データがまとまりました。記憶槽にファイルしてあります。MT-AA01、02です』

「ありがとう。それでドロシーの感想は?」

『ビンゴ! ……です』


 カテリナさんが、さらに仮想スクリーンを作って装置のデータを眺めている。俺には意味のない文字列と数字の羅列にしか見えないんだけど、見る人が見れば意味があるってことなんだろうな。


「へぇ~、確かにビンゴね」

「どういうことです? 俺にはそのデータを読み解くことができないんですけど」


『地上のマンガン団塊投入比較して純度が高いということです。このまま溶融炉を使わず目的別の金属を取り出すことも可能でしょう』

「そういうこと。7割は単体分離が出来そうよ。残りはさすがに既存の方法で分離することになるのでしょうけどね」


 そうなると、精練設備も積み込まないといけなかったんじゃないか?


「時間当たり10t処理できる溶融炉と電磁分離機を装備しているわ。電解槽は小型だけど、1日で20tのイオン分離が可能よ」


 簡単な精錬所ってことになるのかな? ラボの連中ならそれを使って高度な分離ができるんだろう。

 この後はどうするのかと仮想スクリーンを見守っていると、獣機が削岩機のような物を持って来た。あれで小惑星を砕くというのだろうか?


 2体の獣機がひたすら小惑星を砕いていく。砕かれた破片はもう1体の獣機がベルトコンベアにスコップを使って乗せていた。

 壁の奥に消えていく鉱石は、分別機を通って少しずつ精練されていくということかな。


『2番隊の収容を終了しました。30分後に作業獣機が6体になります』

「少しは捗るかしら? ここまで来れば心配は無さそうね」


 これをひたすら繰り返すということなんだろうな。

 退屈な作業に見えるから、交代制を取っているのかもしれない。同一のグループが3つあるんだからね。


「先行しているドローンのその後は?」

「既にいくつか小惑星を選んでいるから、現在は原石探しをしてるんじゃないかしら」


 あの、どでかい原石に味をしめたかな?

 

「手ごろな大きさの原石を見付けたら、1個頂けませんか? 運行管理局に鉱石を卸すんですから、最初の御挨拶というやつです」

「おもしろそうね。宝石ギルドが運行管理局との交渉を考えているみたいだから、案外使えるかも」


 宝石ギルドに譲れば、それなりのお金になるんだろうけど、カテリナさんはそんなお金を望んではいないようだ。

 あまりにも大きな原石は、惑星ライデンの中での取り扱いは難しいのかもしれない。星間貿易の材料として使えるなら、その対価となる他の恒星系からもたらされる物資の量が格段に増えるだろう。

 惑星ライデンが更に栄えるなら、国王陛下も喜んでくれるに違いない。


「宝石ギルドには私の方から伝えておくわ。ドミニク達も、あんな原石が売れるとは思ってないみたい。割れば売れるかしら? なんて聞いてきたのよ」


 そう言って笑い転げている。

 確かに大きかったからなぁ。あれを10個ぐらいに分割しても買い取れる金持ちはいないんじゃないか?


「確かに、考えないといけませんね。ちょっとした思い付きでしたけど」

「損して得取れの典型なんでしょうね。リオ君がドミニク達に伝えたら喜ぶんじゃないかしら」


「それで、カテリナさんはどうするんですか? かなりの財産になる気もしますが?」

「そうねぇ……。リオ君は何をしたいの?」


 のんびりとハンモックで揺られて眠りたいと言ったら怒るんじゃないかな?

 どんな言葉が出て来るのかと、カテリナさんがワクワクした表情を俺に向けている。


「領土を広げたいですね。いちおう、一国の主なんでしょうけど、その領土は王都の半分にも満たない程です。宇宙は大きいですからね。小惑星帯の航跡採掘はヴィオラ騎士団に長く富をもたらしてくれるでしょう。なら、地上ではなく宇宙に領土を持っても良いように思えます」


「そう言うと思ったわ。たぶんアリスが考えてるんじゃなくて?」

『2つの方法と、1つの宇宙船の概念を纏めています』


「ほらね」 と言って、得意そうにワインを飲んでいる。

 宇宙空間に領土を持つという考えはあっても、そこからの方法はまるで考え付かない。だがアリスは2つも方法があると言ってるんだよな。それに宇宙戦も必要らしい。リバイアサンでは満足できないということになるんだろうが、なぜそれが必要かを考ええば答えも出てくるはずだ。

 まだまだ退屈な日々が続くはずだ。少し考えてみるのもおもしろそうだ。


「アリスに教えて貰う前に、2人で考えてみるのもおもしろそうね」

「ヒントは2つの方法とロケットですか……。とりあえず帰投する前までということで」


 笑みを浮かべて頷いている。

 さて今度は、カテリナさんを相手にコンペをすることになりそうだ。

 ガネーシャと違って既成概念や常識をどっかに忘れているような御人だから、突拍子もない考えを出してくるんじゃないかな?

 今回は、アリスの助言を請わないでおこう。自分でどれだけ概念を纏められるかを試してみよう。


 夕食に皆が集まったところで、原石の1個を運行管理局に贈呈する話をしたら、全員に反対されてしまった。

 ここは……、とカテリナさんに顔を向けたら、視線が合ってしまった。小さく頷いてくれたから俺の意図は分かってくれたんだろうが、後が怖い気がしてきたぞ。


「リオ君の狙っているのは販路の拡大ということになるの。あの大きさの原石ではライデンの王侯貴族、大商会の大株主でも購入は難しいでしょうね。前の原石オークションでおおよその値段は知ってるはずよね。今回の原石はその100倍以上の大きさになるのよ。大きな原石は数が少ないからそれ以上に値段が膨らむわ」


 フレイヤ達が互いに頭を寄せ合って、何やら相談を始めたようだ。

 そんな彼女達を眺めていると、やがて小さく頷いている。どうやら結論が出たのかな?


「2つほど確認したいわ。1つは、宝石ギルドとの関係と、販売で得た資金の使い道なんだけど……」

「宝石ギルドも販路を伸ばそうと運行管理局と接触しているらしいから、俺達から少し後押ししても良いんじゃないかな。長い付き合いになるのだったら、最初の1個は惜しくはないと思うんだけどね。それで、それで得た資金は中継点に反映することはもちろんだけど、俺達の領土を広げる資金としたいね」


 ドミニクの問いに答えていると、領土を広げるというところで彼女達の目が大きく開いた。


「新たな領地……、甘美な言葉ねぇ」

「3つの王国が西を目指しているわ。私達も乗り遅れることが無いように、リバイアサンで一気に西に向かい艦隊を展開して領土を確保するのね!」


 フレイヤが興奮した表情で大声を上げたけど、そんなことをしたら戦が始まりそうだ。


「リオ殿は、ライデンの覇王を目指すのですか?」

「メイデンさんをたくさん集めないと……」


 メイデンさんが10人もいたら、確かに覇王になれそうだけどねぇ。

 まったく、地から足を離せないんだから。


「そうじゃあないんだ。俺の言う領地とは……」


 皆の視線が一斉に俺に集中する・


「この宇宙に設ける。かなり大規模な設備も必要だし、巨獣はいないが別のリスクもある。上手い具合に運行管理局は惑星間を結ぶ航路を支配しているだけだ。惑星間を結ぶ航路は惑星間の公転軌道のごく狭い範囲に限定される。それ以外の航路を飛ぶ技術が運行管理局には無いからね」


 フレイヤ達が一気に騒ぎ始めた。

「凄い!」とか「できるの?」なんて言葉が飛び交っているけど、反対の意見は無さそうだな。


「アイデアを期待してるわよ。もちろん私も負けない努力はするつもりだけど」

「御手軟かにお願いします」


 たぶんかなり過激な拠点になるんじゃないか?

 小惑星帯とライデンの極近傍。どちらにもメリットデメリットはあるだろう。直径2千mほどのライデンの月も利用できるのだろうけど、運航管理局の拠点が10個近くありそうだ。


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