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225 バルゴ騎士団の相談事


 中継点に冬が訪れる。

 ホールの内側は25℃をキープしているけど、外は最高気温でも氷点下を越えることが無い。

 カンザスは北緯45度付近まで南下してマンガン団塊を採掘しているし、白鯨は吹雪を回避しながらも高緯度地方での採掘を継続している。


「皆は、指揮所のダメ出しに出掛けたって?」

「形ができたので具合を確かめると」


 済まなそうな表情でローラが教えてくれたけど、ローラとオデットはパンジーの搭乗員ということで一緒にならなかったようだ。そう言う意味ではフレイヤとエミーも同じなんだけど、元々は火器管制を行っていたからね。指揮所ともなれば当然火器の指揮も必要と思ったんだろうな。


「おかげで、リオ様を独占出来ます」


 オデットが嬉しそうに呟いた。俺達の前にワインを置いてローラの隣に腰を下ろす。

 何も無ければ良いんだけど……。


「あら? 3人だけなの」

 いつも通り、カテリナさんは突然現れる。


「指揮所のダメ出しだそうですよ。何かありましたか?」

「特に何も無いから、やってきたんだけど……。そうそう、リバイアサンの完成の目途が付いたわ」


 カテリナさんの話では、春の訪れの頃にリバイアサンが完成するらしい。もちろん、オルカやドルファン達の完成も一緒だ。

 今は雪が降り積もる酷寒の地に俺達はいるのだが、春になれば季節のない世界に飛び出すことになる。

 その前に、ガリナムⅡがメイデンさん達に引き渡されるはずだ。おかげでメイデンさんがとんでもなくご機嫌で、この前騎士団領に寄港した時には、旦那さんの前なのにいきなりキスされてしまった。

 よほど、360mm砲を気に入ったに違いない。元のガリナムは若干の改修を行ってローザが指揮を執るアンゴルモアと行動を共にするということだ。国王達の思惑を飛び越えて、3王国共同の艦隊が出来たことになる。

 おかげで、機動要塞の建造が急ピッチで進められているらしいが、カテリナさんが協力してあげない限り移動は出来ないという事を忘れてるんじゃないのかな?


 ドミニク達は白鯨が中継点の戻る度に、白鯨の操船を行っている。リバイアサンの操縦を物にしようとしているらしいが、重力の束縛があるのとないのではだいぶ違うんじゃないかな?

 まあ、努力していることは認めなければなるまい。


 俺達がワインを楽しんでいると、メープルさんが近づいてきた。


「バルゴ騎士団が挨拶したいと言ってるにゃ。それと、ローザ様が相談したいと単独で中継点に向かってるそうにゃ」


 思わず4人が同じように首を傾げた。

 バルゴ騎士団がこちらに向かっている話は聞いたことがある。拠点の設置位置の最終調整ということだから、この中継点でひとまず休憩ということなんだろう。ついでに俺達に挨拶ということかな?

 問題は、ローザの方だ。何か不味いことでも起きたのだろうか?


「聞いてます?」

「何のことかさっぱりねぇ。西の中継点で変わったことがあったとは聞いてないけど」


 俺も聞いていないし、危機的な状況が起こりでもすればアリスが耳打ちしてくれるに違いない。となると……。思わず笑みが浮かんできた。


「何を考えたか分かる気がするけど、それならエミーに任せた方が良いわね」

「そうですね。俺も賛成です」


 アリスを介してエミーにローザの来訪を知らせて貰った。

 後は、バルゴ騎士団の方だな。


 昼食を頂いていると、ローラの形態に着信があったようだ。俺に小さく頭を下げると、後ろを向いてどこかと話を始めた。

 再度連絡する様に告げないところをみると、緊急性の高い連絡ということになるんだが……。


「バルゴ騎士団のラウンドシップが桟橋に到着したようです。リオ様の御都合を確認したいそうですが?」

「人数を確認してくれないか? 少人数ならこの人数で臨みたいね」


 ローラが再び端末を使って話を始めた。どうやら相手はラズリーらしいな。


「2時間後に、副騎士団長を含めて3人がパレスを訪問するそうです」

「了解。ということだから、メイクと服装を整えといて欲しいな」


「私も含めて?」

カテリナさんが笑みを浮かべて聞いてくる。

「もちろんです」

そう言っておかないと、後が怖いからなぁ。


 昼食を終えると、3人がジャグジーに向かった。

 カテリナさんも一緒だから、難題にも応えてくれるに違いない。

 そう自分に言い聞かせて、メープルさんが運んでくれたコーヒーを頂く。


「やはり重巡は大きいにゃ。さすがは12騎士団筆頭にゃ」

「エルトニア王族とも深くかかわってるんでしょう?」


「エルトニア王族と婚姻関係を何度も繰り返しているにゃ。貴族でないのが不思議なくらいにゃ」

「前に会った時に、貴族の称号を貰う様に勧めたんですが、不味かったですか?」


 メープルさんが俺の傍で立ったまま首を傾げて考えている。

 ウエリントン王国の奥深くで活動していたメープルさんのことだ。他の王国の内情は誰よりも詳しいに違いない。


「たぶん貴族に激震が走ったに違いないにゃ。バルゴ騎士団であるなら、筆頭貴族でさえ道を譲るにゃ」


 それって、貴族内の順位が大きく変わるってことなのか? 俺も公爵だけど、貴族からの嫉妬や横やりは無いんだけど。


「リオ様は特別にゃ。国王陛下の前で騎士に過ぎないと公言するぐらいにゃ。貴族の既得権益を侵さないことをウエリントンの貴族は誰でも知ってるにゃ。でもエルトニアでは、バルゴ騎士団の知名度がありすぎるにゃ」


 それはエルトニアの国政にも関係があるようだ。国王、貴族、ギルド、騎士団、それに教団の代表者による会議で重要な国策を決めるらしい。


「投票で決めるにゃ。国王陛下が2票持ってるにゃ」


 その他は1票ということだ。過半数で採決するということだが、それなら国王の案がほとんど通るんじゃないかな?

 今度の案件でも、国王と騎士団で3票になるんだからね。


「たぶん同数になったに違いないにゃ。同数なら案件は保留にゃ」

「貴族にギルドと教団が加担したと?」

「私にはそう思えるにゃ。筆頭貴族が交代するとなれば、ギルドと教団も少なからず影響は受けると考えたに違いないにゃ」


 騎士団の武装を貴族枠と同じにしたいだけなんだけどなぁ……。とはいえ安易な考えだったかもしれない。

 俺達の受けた好意が、必ずしも他国で同じようにならないということに気が付かなかった。

 まあ、もう直ぐ分かることだ。

 バルゴ騎士団の来訪時刻がだんだんと迫ってきている。


 予定時刻の30分前には、数段美人度が増した3人がソファーに腰を下ろしている。

 パーティではないからドレスではない。俺と同じようなテニスウエアモドキだ。淡い暖色系を選んだのは今が冬だからだろう。

 カテリナさんは白衣姿だけど、多分その下は下着なんだろうな。ちゃんと前ボタンが留められていることを確認しておく。


「バルゴ騎士団の3人がやってきたにゃ。1階の応接室に案内しといたにゃ」

「ありがとう。さて、出掛けますか」


 到着を教えてくれたメープルさんに頭を下げると、3人に向かって軽く頷いた。

 頷き返してくれた3人が席を立ち、俺の後に続いてソファーを離れた。

 エレベーターを使って1階に下りると、いくつかの部屋が並んでいる。メープルさんが応接室と言ったから、この部屋に違いない。


 軽くノックをして扉を開けると、3人の男女がソファーから立ち上がって俺達に軽く頭を下げる。


「どうぞお席に着いてください。直ぐにお飲み物を準備します」

 

 俺達4人が席に着くのを待って、バルゴ騎士団の3人が腰を下ろした。

 さて、どんな難題を持って来たんだろう? 

 やって来た3人は副団長のアニーさんと副官の女性、それに筆頭騎士だ。面識はあるんだけど、生憎と名前を思い出したのはアニーさんだけだった。


「実は……」

 アニーさんが話してくれた内容は、やはりバルゴ騎士団の貴族認定に問題があったようだ。


「北西に拠点を設けるなら貴族となりなさい、とリオ殿はおっしゃってました。それができない場合は拠点の防衛はやはり難しいのでしょうか?」

「エルトニアの国政を知らず、軽々しくお話したことを恥じ入るばかりです。ですが、その時に理由もお話したはず」


「騎士団の武器は口径100mm以下の火砲と、100kgを越えない爆装です。その頸木を外すためだと聞きましたし、会議の席上でもそれを告げたのですが」

「なら、もう1つ手があります。もっとも、今度はエルトニアだけでなく3王国を交えた国王陛下達の同意が必要ですが、俺の方から口添えをすることも可能です」


 ちょっと沈んでいたアニーさんが、目を輝かせて俺達に顔を向けてきた。


「その方法は?」

「エルトニア王国軍の前線基地として拠点を開放するということです」


 3人だけじゃない。カテリナさんも俺を睨むような目で見ているんだよなぁ。


「それって、かなりの冒険よ。他の王国も追従して拠点を作るんじゃないかしら?」

「その余裕があるとも思えません。当然エルトニア王国についてもです。あくまで、貴族の反対を抑える方便だと思ってください。

 とはいえ、駐在武官的な軍の士官を何人か中継点に滞在させることになってしまうでしょうけどね」


 軍との共同管理という名目なら、火砲の制約など一切なくなる。

 貴族枠などの制約もないんだが、バルゴ騎士団の中継点であることが広く知られるまでは時間が掛かってしまうだろうな。


「それならウエリントンやナルビクの国王達も納得してくれるでしょうね。名ばかりの貴族だということが分からなければ、貴族の没落も遠くはないかもしれないわ」


 貴族の締め付けを強化するということなのかな?

 あまり締め付けると反旗を翻しそうだな。


「1つ、質問をよろしいでしょうか? リオ殿の案をウエリントン、ナルビクの国王陛下が了承する理由が分かりません」


 アニーさんの言葉に両側の2人が重々しく頷いている。

 裏を知らないんだからしょうがないだろうな。


「そうね。3年後には間違いなく登場するんだし、バルゴ騎士団は12騎士団の筆頭でもあるわ。知っていた方が良いでしょうね」


 カテリナさんが端末を使って仮想スクリーンを作る。

 大陸の東側に集中した王国と、今までに作られたウエリントンの西の中継点やコンテナターミナルを表示していった。


「現時点で一番西にあるのは、3王国の戦姫が守るこの中継点よ。その北西部にバルゴ騎士団は拠点を作ることになるわ。かなりリスクが高いのは自覚してるでしょうね?」


 テーブル越しの3人がスクリーンを見つめながら頷いた。


「この西の拠点から3千km先に新たな拠点が作られるの。場所は表示できないわ」

「軍が絡んでいると?」

「軍も関係するけど、表示できないのはその拠点が動くからなの」


 3人が大きく目を見開いた。

 声も出ないほど、ということかな?


「まさか、機動要塞をリオ殿は作られるのですか?」

「簡単に破壊できるから、機動要塞とは言えないと思うな。だけど、巨獣にとっては機動要塞そのものと言っても良いかもしれない」


「困った国王陛下達よねぇ。この機動要塞を拠点に騎士団の真似事をしようと考えてるみたいなの。当然軍も手助けするでしょうから、バルゴ騎士団の拠点作りは良い経験になるでしょうね」


「でも、拠点を動かすなんて、本当に可能なんでしょうか?」

「リオ君の発想には、私も驚いた1人よ。話を聞いてみると、確かに現在の技術で出来るのよねぇ」


「であるなら、我等の拠点のリスクはかなり軽減できそうだ」

 筆頭騎士が、頷きながらアニーさんに話をしている。

 場所が場所だけにある種の覚悟を決めてたのかな。


 だけど、先ずは国王達の了承を得る必要がある。

 エルトニアの軍人が常駐するともなれば、エルトニア王国の西方支配の拠点と勘違いされそうだ。


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