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221 ハンモックのお約束


 白鯨とヴィオラⅡ、それにカンザスのクルーが一時に休暇を過ごす。カンザスなら寝ている間にヴィオランテに到着できてしまう。

 おかげで、船内にいる時からリゾート気分で水着になってるんだよね。ベラスコに至ってはシュノーケルを付けたマスクまで首に掛けている始末だ。フィンを履いてペタペタと歩かないだけましかもしれない。

 アレク達はリビングでいつも通りに飲んでいる。


 翌日は朝食もそこそこに、自分のバッグを持ってカンザスを下りて行った。

 俺達の宿は宿泊施設にあるんだが、50室以外は空いている部屋を使うらしい。それでも入りきれない連中は、カンザスの部屋を使うことになる。

 中にはテントを張って野宿を楽しむ連中もいるようだ。騎士団の団員が増えると、変わった連中も出てくるのは仕方がないことなんだろう。

 他人の迷惑にならない限り、規制するようなことをしないのが俺達ヴィオラ騎士団ということになる。


 皆が海に走って行ったのを見届けると、ヤシの木陰に持って来たハンモックを吊り、のんびりと昼寝を楽しむ。

 贅沢な時が過ぎていくのが自分でもわかるんだよなぁ。

 遠くで、ローザ達の嬌声が聞こえて来るけど、俺の至福の時が邪魔されない限り問題はない。


 そんな贅沢な時間は、そんなに長く続かなかった。

 つんつんと何かに突かれたかと思って下を眺めると、俺を見つめるドロシーとノンノの姿が見えた。

 ハンモックから降りようとして、クルリとひっくり返るのはお約束だから、今更言葉も無いけれど、俺が背中をさすりながら起き上るのをジッと2人が眺めていた。


「どうしたんだい。2人揃って?」

「ヒルダ様が呼んでる!」


 ヒルダ様? どうしてこんなところに来てるんだ。疑問はあるが、待たせるわけにもいくまい。

 ドロシー達の案内で、砂浜に出ると、パラソルが並んでいる中に設けられたターフの中に入っていく。

 その中にあるテーブルで、ヒルダ様とカテリナさん達が水着姿で談笑していた。一緒の女性達は他国のお妃様なんだろう。見覚えのある顔だ。


「何か、御用があるとか?」

「休んでいるところを申し訳ありません。この前の話がどうなっているのか知りたくて、やってきましたのよ。先ずはお掛けになって」


 椅子に座ると、侍女が冷たいジュースを運んできてくれた。とりあえず一口飲んで、話を始める。


「現在検討中ですが、今の状況で2つ、いや3つほど問題が出てきました。1つは単独艦とするわけには行かず、2艦作る必要がありそうです。

2つ目は、ブラックボックスがどうしても必要になります。整備や点検はヴィオラ騎士団の中継点で行うことになるでしょう。

最後に、現在の中継点はヴィオラ騎士団の艦船の建造と改修で手一杯です。詳細設計までは何とかできますが、製作設計は王都の工廟に任せられないかと?」


 俺の話を面白そうに聞いているけど、理解してるんだろうか? ちょっと心配になってきた。


「その中のいくつかは、先ほどまで話していました。元々詳細設計までという事ですから問題はありません。ですが、2隻となる理由とブラックボックスの必要性はどのような理由からですの?」


 一度、カテリナさんに見せているから、あらかじめリークしてくれたみたいだな。


「重巡洋艦を改造するつもりでいます。ですが、速度が時速40kmでは救援艦としては不足です。そこで、白鯨で使っている新型の反応炉と反重力装置を使います。

今のところ修理点検が可能な技術者は中継点以外におりません。時速50kmを目標にすると、その2つがどうしても必要になります。2隻とするのは場合によっては、西岸をも目指す事を考慮し、搭載戦機の数を増やしたいと……」

「工作船とまではいかずとも、ある程度の修理を可能とするなら、それなりの装備と区画が必要ということですね。でしたら、3隻を作りましょう。

各王国とも賛同したいとのことです。出来れば、工作船は補給船を兼ねて別に作ることも視野に入れていただけませんか?」

「ちょっと待ってください!」

 

 どうやら国王達の間で、話が大きくなってしまったようだ。となると、根本的に全体を見直すことになりそうだ。

 一番大事なのは、目的の明確化って事になる。

 3つの王国が各国の騎士団の西進を援助したいと考えていることに間違いはあるまい。中継点を作るだけでは満足していないって事か。

 中継点を起点に騎士団は活動する。騎士団の進出状況に合わせて中継点を作れば良いと思っていたが……。ん? ちょっと待てよ。


 中継点のネットワークとコンテナ輸送が物流を加速することは、商会の連中も納得している。その中継点は安全性が求められることになるから、機動艦隊やローザ達のアンゴルモアが守っているんだが……。

 防衛が万全な中継点と反対の性質を持った中継点を作ったらどうだろう。

 固定した中継点では無く、可動する中継点は、防衛力を重視するのではなく攻撃性を重視する……。コンテナの受け渡しは可能であるだけで良い。どちらかと言うと修理が中心になるな。


「どうしたの? 良いアイデアが浮かんだのかしら」

「アイデアとしては面白そうです。それに、重巡洋艦ではなく、もっと小型の艦で十分ですし、工作船や補給船も必要ありません」


「概念だけでも教えてくれないかしら?」

「ちょっと漠然としてますけど……」


『マスターは機動要塞を考えているようです』

「「何ですって!」」


 カテリナさんが声と共に立ち上がって、両手で俺の首を持ち上げている。ガネーシャがそれに加わったけど……。俺が人間でなくて良かったような気がするな。でないと既にこの世の人では無くなりそうだ。


「カテリナさん。そろそろ離してあげたら? でないと、その後の話が聞けないわ」

「そうね……。確かに今死なせるには惜しい存在だわ」


 思わず、首を絞めたようだけど、そんなに驚くことなんだろうか?

 既存技術で十分可能な気がするけど。

 

「それで?」

 コホンと小さな咳をして、カテリナさんが俺に話を向けてきた。


「機動要塞は大げさだと思います。基本は、中継点が移動したらという発想ですからね。

 そうすることで、中継点を拠点としたラウンドクルーザーは小型化が可能になります。

 補給の心配はないし、他の騎士団からコンテナさえ受け取れる。兵站は量産型デンドロビウムでカバーできるでしょう」


 仮想スクリーンが開くと円盤型の物体が姿を現した。ラフな画像をアリスが作ったようだ。

 中心にある溝のような場所が桟橋になるのだろう。左右に重巡クラスまで停泊出来そうだ。桟橋にはゲートがあり入港しない場合は閉じるようになっている。ピラミッド型の構造物がブリッジになるのだろう。大型だから武装は格納式に出来そうだ。


『こんな形になると推測します。直径約1km。地上高150m。ブリッジの高さは上部装甲甲板から120mになります。武装は格納式でゼロやパンジーなら中隊単位で搭載可能でしょう。地上走行速度は巡航で時速30km程度になると考えています』

「呆れたわ。機動要塞は各国がかつて夢見た代物だけど、出来るだけの技術が確かに揃ったって事かしら?」


 考えてたんだ。意外と物騒な思想の持主だったということなんだろうか?


「兵器ではありませんよ。機動要塞のような代物であって機動要塞ではありません」

「防御力と攻撃力に難があるって事?」


 聡明なカテリナさんらしく、すぐに俺の指摘の意味に気が付いたみたいだ。


「俺が機動要塞を作るんでしたら、戦艦の主砲に耐えられるように作ります。それに戦艦を沈めるだけの兵装も必要でしょう。それが無い以上、移動要塞とは呼べないですね。

 でも、これがあれば新たに重巡洋艦を複数作らなくとも、アンゴルモアをコピーすれば十分です。周辺監視はパンジーを分隊で持てば十分でしょう。ゼロだって1個中隊ぐらいは楽に積めます。こちらの広い甲板を使ってコンテナの受け渡しが出来ますから、300tクラスの移動式クレーンを数台搭載すれば積荷の受払も十分可能です」


 直径1kmはいくらなんでも大きすぎるだろう。臨時に中継点の機能も持つことが出来ると考えればもっとコンパクトに作れると思うな。

 3つの王国でこの要塞モドキを維持すれば、王族達が作ろうと考えている騎士団はアンゴルモアクラスで十分なはずだ。先にラウンドクルーザーを作って、近場で経験を積む活動すれば、西に向かっても十分に使えると思うな。


「ヒルダ、リオ君の発想なんだけど……。ブラックボックスを使用するなら、十分可能よ。重巡洋艦を3隻とするか、この移動要塞を母艦とした巡洋艦を作るか、他の王族を交えて決めればいいわ」

「どちらを作ろうとしても、王都の工廟で作ることは可能なのですね?」

「可能よ。ただし、動力炉と反重力装置はブラックボックス化して供与することになるわ」


 工廟で作ることは王族達も賛成するだろうな。ある意味特需になりそうだ。そんなラウンドクルーザーが出来たことで、さらに大陸西方面への進出が加速するだろう。3王国の飛地が出来るのはそれ程遠い将来ではないのかも知れない。


「リオ殿には毎回驚かされますわ。たぶん国王陛下は移動要塞を選ぶでしょう。先行した艦船の設計は無駄になりそうですが、その辺りは国王とて何らかの補償を考えるはずです」

「カテリナさんのリバイアサンが出来るまでは俺も暇になってますから、それはかまいませんよ」


 出来るなら、のんびりしたいけどね。

 この状況だと、とことん使われそうだ。まあ、騎士団にプラスになれば、協力するに越したことはない。

 

「ところで、リオ殿は御1人でしたの?」

「皆は海に繰り出しました。のんびりハンモックで寝ていたところです」


「お疲れなんですねぇ……」

 口に手を当てて俯いているのは、俺が朝から寝ていた原因に思い当たるということなんだろう。

 まさしくその通りではあるんだけど、本人を前にして聞いてくるんだからなぁ。


「おかげで、色々と実験ができるの。製薬会社からのパテント料はかなりの金額よ」

「あれですね。たまに試してますのよ」


「習慣性は無いんでしょう?」

「今のところは、そんなクレームもないし、製薬会社の継続試験でも確認されないみたい。でも、毎日服用するのはねぇ……」


 例の薬の話しなんだろうな。愛用者が多いということなんだろうけど、カテリナさんの言い方では、俺の服用が問題になるんじゃないかな? 今でも、1日1カプセル服用しているんだからね。


「だいじょうぶ。リオ君のは特別配合だから。市販されてる薬より数倍の効果よ」


 途端に顔が青くなるのが自分でもわかる。

 やはり俺をモルモットとして見てる感じだな。アリスは実害は全くないと言ってるんだけど、一度詳しく聞いてみた方が良いかもしれないな。



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