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022 巨獣の足が欲しい?


 ヴィオラから5km程離れたところで、滑走モードに移行する。足を動かさずに地上を滑るように進めるから俺のお気に入りだ。

 

「目標地点10km手前で高度を50mに上昇。外部探査センサオールオープン。今回は地中探査は必要ないだろう」

『了解です。現状の探査範囲周囲30km。生体反応はありません』

 目標近くでアリスが高度を上げる。

 高度50mは巨獣相手にはギリギリの線だ。場合によってはもう少し上昇する必要があるだろうが、そうなると科学衛星や他の騎士団から見つからないとも限らない。更なる上昇は目標が明確になってからで良いだろう。


『左前方に巨獣の群れを発見。どうやら、中型のトリケラのようです』

 30分も経たずにアリスが巨獣を見つけたようだ。

 全周モニタの一部が拡大されて、巨獣の暗視野画像が現れる。頭にある巨大な3本角を前にしてゆっくりと進む姿は恐竜のようにも見える。

 初めて本物の巨獣を目にしたが、とんでもなく大きい。戦機ナイトで攻撃することが命がけだと言う事が良く分かる。アリスは中型と言っているけど、どう見ても体長15m、体重は50tほどはありそうだ。

 

「進行方向と、速度は?」

『進行方向は、現在の採掘現場を掠めます。時速15km程度で向かっていますから、接触予想時間は約3時間後と推測します』

 群れの大きさを確認すると約50頭近い。

 トリケラの突進速度は時速40km近くなると聞いたから、バージに荷を積んでいなくともヴィオラが逃げ切るのは難しいだろう。


「側面を攻撃して進行方向を変える外になさそうだ。ヴィオラに連絡してくれ」

『了解しました。……連絡終了。……返電受信。「2檄してコースに変化無き場合は再度連絡」とのことです』

「東から群れの前面を威嚇射撃。次いで側面を攻撃して西に逸らす」

 軽くジョイスティックを倒すと滑るようにアリスが群れに向かっていく。大きく時計回りにコースを変えて東から群れに接近することにした。

 

「威嚇射撃をするぞ!」

 俺の声に反応して全周スクリーンにターゲットマークが表示される。

 群れの前方に照準を合わせるとジョイスティックのトリガーを引いた。

 軽い振動が伝わってきたのは、マガジン1本分を全て群れの前に撃った衝撃だろう。

 群れの前に小さな炸裂が上がったのが見て取れる。


 着弾でトリケラの群れが少しざわついた。前方を歩くトリケラが立ち止まったところに後続がぶつかったようだな。

 続いて、側面に40mm砲が発射された。前と同じく全弾を群れに撃ち込んでいる。


「どうだ、方向を変えたか?」

『若干西に寄りましたが、このまま進んだ時に何かのきっかけで再度コースが戻る可能性があります』

「とりあえず2檄だ。状況を連絡。接触予定時間も連絡してくれ」

『了解しました』

 さて、いよいよベレスコの初陣かな?

 アレクも戦鬼オーガを使うのを楽しみにしてる感じもあるからな。


『ヴィオレからの指示です。「可能な限り側面より攻撃を継続せよ」以上です』

「マガジン2個で再度側面攻撃。それが終ればレールガンを使ってくれ」

 アレク達は緊急展開を始めたに違いない。

 側面を攻撃して襲ってこなければ良いのだが、場合によってはヤバイことになりそうだ。

 一応、ヴィオラには88mm連装砲が3基あるし、ガリナムは75mm砲を12基揃えている。並みのラウンドシップよりは火力がある筈だ。


『側面攻撃終了です。引き続きレールガンにて攻撃します』

「了解。可能な限り刈り取ってくれ!」

 素早く亜空間を使った武器の換装が行なわれると、アリスの攻撃が開始される。

 高度を下げて滑空モードで攻撃を仕掛ける。

 ジョイスティックのトリガーを引くたびに、光のスジが一瞬トリケラに向かって伸びると2頭のトリケラが倒れた。

 10射するとトリケラの数が半分になっている。


「コースに変化は?」

『一直線に南に向かっています。移動速度30km付近に上昇しました』

 かなりマズイな……。

 そう思った時だ。トリケラの前方と右側面に火柱が上がった。

 円盤機が爆弾を投下したようだ。

 恐慌をきたしたトリケラの群れが散開したが、進行方向を変えるまでには至らなかった。そのまま南に向かっている。


『ヴィオラの迎撃態勢が完了したようです。裏から戻るように指示を受けました』

「了解。武装を換装して急いで戻るぞ!」

 荒地を滑走しながら群れから離れてヴィオラに向かう。

 たちまち群れは後ろに消えていった。

 その間に、ヴィオレに半数削減の報告を行なう。たぶん驚いているだろうな。


『カテリナ様から隠匿通信です。「一段落したら生体の巨獣の片足を確保せよ」以上です』

「死んでない奴の片足を切り取って来いって事なのかな?」

『たぶん。でも何に使うんでしょうね。……焼いて食べる?』

 おもしろいことをアリスは想像しているようだ。俺も、カテリナさんが大きな肉を焚き火の上でぐるぐる回しながら焼いている姿を思い浮かべてしてしまった。

「たぶん実験じゃないかな? 一応バイオ工学の権威者だしね」

 いくらなんでも食べることはないだろう。だけど食べられないという話も聞いたことはないな。


 後3km程でアレクの戦鬼が見えてくるはずだ。

 姿を見つけると同時にアレクから通信が入って来た。

「俺の後ろだ。そこに40mmのカートリッジがあるぞ。通常弾ではなくAPDSだ」

 アレクから怒鳴り声の指示を受けると、カートリッジを拾い上げて交換する。APDS弾は炸裂はしない。高速の矢を撃ち出すのだ。


「爆弾で群れが広がってます!」

「了解だ。先ずはラウンドシップが撃つ。それでも向かってくる奴が俺達の獲物だ!」

 2隻が俺達の後ろに並んでいる。

 その砲塔は既に群れを捉えているのだろう。


 コクピットの動体検知レーダーでトリケラの動きを探る。すでに10kmをきっている。あと2、3分で視野に飛び込んでくるはずだ。

 その姿が見えたとき、まるで暴走しているように見えた。荒地を高速で駆けるからまるで砂嵐の接近のようにも見える。

 距離、1kmでラウンドシップの砲撃が始まった。

 厚さ10cmの装甲板を突き抜ける位だから、それなりに期待出来そうだな。数も18門だ。


 そんな中、1頭が俺達の方に接近してくる。

 アレクの75mm砲が発射されると、その場に昏倒した。次にやってきたトリケラには、サンドラ達の50mm砲が命中する。

 アレクの戦鬼を斜め前方に配置し、斜めに戦機が並んでいる。

 さすがに大型は難しそうだが、中型であればこれで何とかなりそうだ。

 弾切れを起こしたアレクの代わりに俺が40mm砲を打ち出す。1発では倒せないが、サンドラ達が援護してくれるので、それなりに倒すことが出来た。

 数匹を倒したところで、群れが南に去っていく。どうやら、終了だな。

 

『シリンダーをシュートから落とすそうです。「生きのいいところを頼むわ!」と追加文があります』

「早めに取ってこようか? 確か長剣があったよな」

『イオンビームサーベルを使います。その方が出血が抑えられますから』

 

 そんな話をしながら俺達は北へと滑るように進んでいく。

 まだ息のあるトリケラの後足を、一太刀で切取ると、引き摺るようにして持ち帰る。

 ころころとシリンダーを転がしてきたベラスコに出会うとその中に足を入れて、2機でヴィオラに転がしながら戻っていった。


 俺達がヴィオラに戻ると同時に、拠点に向かってラウンドシップが走り出した。

 カーゴのハンガーにアリスを固定して、後をベレッドじいさんにお任せする。

 待機所に戻る途中、獣機のハンガーの1つに例のシリンダーが立ててあったのを見付けた。

 売れるんだろうか?

 そんなことを考えながらエレベーターに乗ると上階を目指す。


 待機所は賑やかに騒いでいる。

 拠点に十分な鉱石を運べるし、中型とは言えトリケラの襲撃を跳ね除けたのだ。

 これからの騎士団の発展を祝ってるのかな?

 そんな俺に、ビールのジョッキが渡される。これは、一緒に騒いでいた方が良さそうだ。


「そうか。50はいたんだな」

「はい、どうにか半減まで持って行きましたが……」

「まあ、そう気を落とすな。全て、リオが片付けたのでは俺達の存在価値が無くなる。確かに戦姫バルキリーは強力な機体だ。だが、なるべく存在は隠せ。俺がいなくなっても今夜のように対応していれば、戦鬼の影に隠れられる」

「分ってます。でも、戦鬼の砲撃は凄いですね」

「だろう。俺も気に入ってるんだ。トリケラの突進を一撃で倒せるんだぞ。艦砲も当れば良いんだが戦鬼並みに小回りが効かないからな」

 

 そんな俺達のところに他の騎士達も集まってきた。

 やはり、戦鬼の姿を目の当りに見れば嬉しくなるよな。何て言ったって俺達の仲間なんだから。


「戦鬼様様ね。あの攻撃は戦機では出来ないわ。単独行動で良いんじゃないかしら?」

「ところがそうも行かないんだ。マガジンの交換に時間が掛かる。やはりその間を援護して貰わんとな」

 そう言いながらも、ソファーの傍にある棚を開けると、ウイスキーを取り出した。

「リオに貰ったんだが、高級過ぎて中々手が出なかった。今日はこれを飲もう! ベラスコ、これはあっちの獣機の連中に渡してきてくれ。今日の祝いだといえば喜んでくれる筈だ」

 気前良く2本を空にするつもりだな。そんな使い方なら士気も上がるだろう。

 サンドラがテーブルに並べた氷入りのグラスに、アレクがウイスキーを注いでいくと、良い香りが辺りを包む。

「へぇ~、良い匂いね。リオ、高かったんじゃない?」

「何時も、ここで飲ませて貰ってますから、そのお礼に買い込んだものです。たまには高いお酒も飲んでみたいじゃないですか」

 そう言ってサンドラさんに笑い掛けると、「次もお願いね!」ってウインクされたぞ。

 結構な出費だったが、次も買い込んでくるか……。

「戦鬼とベラスコの初陣に!」

 アレクの声で俺達はグラスを鳴らして酒を飲む。

 美味い酒を戦闘の後に無事な仲間と飲むのは良いもんだな。


「それにしても、リオさんの戦機は小回りが効きますね。まるでリオさんがそのまま動いているように見えました」

「褒めても、もう酒は無いよ。確かに小さいからね。あれで戦鬼並みの動きなら食われてしまうよ。今回はAPDS弾のおかげで助かった。通常弾は炸裂するけど40mmだから、あまり効果がないんだ。偵察時に見つけてマガジン2個を使ってもあの通り、コースを変えられなかった」

「かえって怒らせたかもね。その点、私達は長砲身の50mmだからそれなりに効果はあるわよ」

「更に砲身の長い俺の弾丸を受けた奴は転倒してました。アレクさん、譲って頂いて感謝してます」

「あの砲身長を持ったライフルは外に無いぞ。大事に使えよ」


 アレクの言葉にベラスコは感動してるようだ。グイって一気に酒を飲むと、次の酒を注いでいる。

 俺達が倒したトリケラはどうなるんだろうか?

 小さな肉食巨獣にでも食べられてしまうんだろうけど、血の匂いを嗅いで大型が集まってくるようでは、今後に支障が出るかも知れないな。


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