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217 突撃艦になるのかな


 最初の値が800万L。その値での購入希望者は800人を超えている。この会場にはそんな人数がいないはずだから、ネットでの参加者もいるということなんだろうな。

 値段が50万L単位に上昇して、1000万Lで20人を切ったようだ。

 1100万Lで10人が残り、その登録番号が表示される。全て2桁数字だから、名の知れた宝石商なんだろう。


 1200万Lで2組が残る。次の数字は小刻みな数字だ。1300万Lで2組とも下りない場合は、その2組で2個のサイコロを振り、合計数字の高い方を落札者とすることであらかじめ調整をしてある。

 竹串の先を赤く染めたクジでは時間が掛かりそうだと、急遽サイコロの目の数が多い方にということになったけど、参加者はその決定に喜んでいたから案外勝負事が好きな連中なんだろうな。


 その道のプロが評価した額の標準値を1割超えた額。それが俺達が定めた価格だ。

 無駄な投資を防止して、大店おおだな以外の参入も可能とするということで仲間達と合議はしているし、宝石ギルドの了承も取ってある。

 どうやら2組とも下りないようだ。補佐が2組の登録番号を読み上げ、俺達のテーブルの上で2個のサイコロを振りあった。


 「落札は登録番号27番!」


 会場に拍手が起こった。

 そんな感じで、次々と原石がオークションに掛けられる。やはり評価額の2割が上限という形では単独の落札者は中々出なかったが、逆にサイコロ勝負の方が会場の受けが良いのが面白い。さすがに評価額が数百万以下の原石には大きな店は参加せず、中小の店の競りを面白そうに眺めながらグラスを傾けている。

 とはいえ、数が多いからなぁ……。深夜を過ぎても、誰も席を去ろうとしないのが不思議なくらいだ。お妃様もたまに競りに参加して、サイコロを振ってたのしんでいるようだ。


「ドロシー、現段階でいくら位になってるんだ?」

「もう直ぐ、100億Lを超えるよ。このままいけば150億Lを超えるかも?」

 

 色々作らなくちゃならないからね。初期投資額的には何とかなりそうだ。運営費は残りの原石を年間数個ずつ手放せば良いんじゃないかな。


 最後の原石の競りが終わった時には午前3時を過ぎていた。

 全て現金払いが原則だが、それは教会の銀行が隣室で手続きを簡略化している。支払者の口座残高から、その場で俺達の口座に送金手続きがなされるのだ。約束手形や小切手は一切扱わない。ある意味現金取引と同等になる。中小の店の中には実際に現金を持参した者もいたが、支払いの後の現金は直ぐに口座に落としていたらしい。やはり高額の現金を持っているのはストレスがあるようだ。


 「で、いくらになったの?」

 「ヴィオラ騎士団としては80億というところらしい。皆のところもそれなりだけど税金は取るからね。

 個人だと6割、公共目的に使用するなら2割とのマリアンからお達しだ。ローザのところにはそのまま金額を転送する。数億ということらしいけど、ローザ達もアンゴルモアの改造費とするそうだ」

 

 個人的に使えるなら途方もない金額だけど、全員不機嫌なんだよな。

 まあ、税金が6割だと聞けば残りの原石をホイホイ手放さないだろう。問題はカテリナさん達が何というかだ。中間の4割にしたいけど、公共性を主張するに違いない。

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「大変良い品を取引させていただきました。値段の上限をあのように決めて頂き、私達も予定以上の品を確保できたことを喜んでいます。中小の宝石商もかなりの原石を手に入れたようですから、今度は加工業者の奪い合いになるでしょう」

 

 そんなことを言って宝石ギルドの理事が笑っている。

 同行してきた数人の男女の機嫌も良さそうだ。俺達も用意してきた全ての原石が売れたことを喜んでいる。マリアンも税金の額に騎士団領の施政庁で喜んでいるに違いない。

 フレイヤ達は少し不機嫌だったが、それでも10億を超える金額を手に入れたはずだ。各自の必要な計画を実行出来るに違いない。

 ん? ……ひょっとしたら、一番喜んでいるのは、拠点の商会かも知れないぞ。大型工事や設備の受注が舞い込むんだからね。


「原石を扱う騎士団と比べてはるかに安い値段となりましたが、このような機会が度々あるとは思えませんから、それらの騎士団の恨みを買うことも無いでしょう。我らの取引は継続しますからね。とはいえ、ヴィオラ騎士団が保有する残りの原石に興味があることも事実です。一度鑑定にお伺いしたいのですが……」

「いいですよ。ヴィオラ騎士団のウエリントン王国にある支所もしくは拠点の施政庁にいるマリアンと日時を調整してください。俺達は常に騎士団領にいるとは限りません。本業の鉱石採掘がありますから」

 

 そんな俺の言葉を頷きながら代表者が聞いている。

 それにしても、かなりの金額だな。一気に領内の施設建設が始まりそうだ。

 そういえば、ベレッド爺さん達の砂金採取はどうなったんだろう?

 

『総額で7千万Lとの報告を受けています。半分は国庫に入りますが、残った金額でドワーフ住宅の環境整備と住宅建設に使用すると聞きました』


 それなら、全額を当てたら良さそうな気がするな。酒をタルごとたくさん仕入れるに違いないと思ってたんだけどねぇ。

 会談が終わったところで、宝石ギルドの連中は帰って行った。

 明後日にはアレクやローザ達もこの島に集まってくるはずだ。たった3日間だが今のローザ達には、それ位の休暇もたまに取れるぐらいに忙しくなったのだろう。

 ガリナム艦隊をたまに派遣してやるか。残り2つの王国の機動艦隊が出来れば少しはローザ達も余裕が出来るだろうが、それまでの期間なら俺達の警備体制に穴が空くことはない。


 ホテルで荷造りを終えたところで、リビングでコーヒーを楽しむ。

 今日の夕方にはカンザスに戻らなければならない。ホテルの1フロアを借り切っているのは、いくら自分達の施設ではあってもコスト的に問題だ。

 カンザスなら宿代は掛からないし、食堂のメニューだって俺達好みだ。


「リオは用意が終わったの?」

「元々あまり持ってこなかったぞ。ところで夕食はカンザスってことだよね?」

「やはり、私はセレブにはなれないわね。少しずつ出てくる料理なんて私には合わないわ」


 それは同意出来る。一度に持ってくれば済むことを1品毎に運んでくるんだからね。食べた気がしないのは俺だって同じだ。

 みんなでカンザスに戻ってくると、ホッと一息ついたような表情を見せる。高額な宝石の原石の取引を終えたから肩の荷が下りた感じだ。見かけはガラス破片の古びたやつにしか見えないのが1千万Lを超えるんだからね。やはり俺達には金属鉱石の方が生にあっている。


 たっぷりと盛られた夕食を見て俺達の目が輝く。やはり料理は量も大事だ。アレクやローザ達が明日にはやってくる。またバーベキューを浜辺でやることになりそうだ。ネコ族の連中もそわそわしてるからきっと楽しみに待ってるに違いない。


「これで、皆さんの資金が揃いますね。私もこの資金を保健医療に使用できます」

「領土の監視用ギガントが10億だからな。3台は必要だけど何とかなりそうだ」

「私はパンジーの小隊を作るの。円盤機は偵察が主で攻撃が従でしょう。攻撃が主で偵察を従にすれば拠点とガリナム艦隊が万全になるわ」


「ディアンティスの2番艦を作ります。ディアンティスをローザ様が買い取ってくれると言っていますから、パンジーとゼロを搭載する母艦の設計をお願いします」

 

 レイドラの課題は艦隊編成らしいな。通常の母艦ではなく、攻撃専用の母艦ってことか。ガリナムのパワーアップを考えるとやはり速度は優先されそうだ。


「姉さんから、リオにガリナムの改造を頼んでほしいって言付かったわ。でも、あれ以上改造できるの?」

「少し考えてみるよ。でも概念設計までだぞ。後は、ガネーシャさんに頼んでほしいな。もっとも向こうも何か考えてるらしいから、その辺は調整が必要になると思うよ」

 

 場合によっては、根本的に見直しした方が良さそうだ。メイデンさんの気性も分かったし、乗組員もメイデンさんに感化されてるからね。


「私の資金はプールしておくわ。これから長く拠点を維持しなければならないでしょう。あまり無駄遣いは出来ないと思うの」

 ドミニクの意外な言葉に皆が考え込んでいる。でも、それはドミニクだけでなく俺もそうだ。原石はいつでも売れる。それまでは何もないパレスの壁を飾ってもらおう。


 緊張したオークションを終えたことで、夕食を終えると直ぐにベッドに向かった。

 今夜はドミニクとクリスが一緒だけど、ジャグジーから帰ったらすぐに寝落ちしている。彼女達もかなり精神的に疲れたに違いない。

 

 まだまだ目が冴えているから、ベッドを抜け出してリビングのソファーで一服を楽しむ。ライムさんもメープルさんもいないようだから、ミニバーからビール缶を持ち出して飲み始めた。

 さて、アリスと一緒にメイデンさんの艦隊を考えてみるか……。


『突撃艦というのは、この世界では初めてになるでしょうね』

「前に頂いた駆逐艦はガリナムよりも大型だったな。領土の防衛艦になっているけど、あれを改造した方が良さそうだ。ガリナムの兵装を削減して代用できるんじゃないかな」


『空は飛ばなくても良いでしょう。それだけ地上速度を上げれば良いのですから』

「だが、強度を増すには装甲版を厚くしなけれならない。重量は増加するんだよな」

 

 極端な例が戦艦だ。巡航速度は時速30kmも出ない。出来れば通常の駆逐艦よりも装甲を厚くしたいんだが……。


『部分的に厚くすることは可能です。艦首、側面を補強することで全体重量は1割程度の総重量増加に抑えられます。多脚式走行装置を3列に配置すれば側面防御用に外側の足を使えますよ』

「大口径砲を積めないか? 軸線上に1門あると色々と役立ちそうだ」

『連射は出来ませんが、数発なら出来そうですね。船体補強で発射時の衝撃にも耐えられますよ』

 

 会話を楽しみながら設計デザインが纏まってくる。ゼロの母艦になる新型艦はゼロの搭載量を8機に増やす。作戦可能回数を3回から5回に増やして、武装は40mm連装砲塔をブリッジの前後に付けるだけだ。

 設計項目を次々と決めていくと、それに従って仮想スクリーンに映し出されたラウンドクルーザーの形が変化していく。

 新たなガリナム艦隊は、大型駆逐艦を改造したガリナムⅡと改造母艦の2隻になる。払い下げられた大型駆逐艦を改造するから、新規購入艦は改造母艦だけで良いのだが、欲張ったせいで軽巡洋艦並みになってしまった。ディアンティスをローザ達が買い取ってくれないとかなりの金額になってしまいそうだ。

 だけど、それだけの価値はあるんじゃないかな。動力炉と反重力装置を白鯨と同じものを使うことで、最大速度は時速80kmに近い数字だ。今のガリナムよりも早くなるから、空を飛べなくてもメイデンさんは満足してくれるだろう。

 

 簡単なメール文に2隻の概念図を添えて、メイデンさんに送っておいた。不満があれば直ぐに返事をくれるだろう。


 次は、ギガント型の監視船だ。既に概念設計まで終了しているから詳細設計に進むようにアリスに伝えておく。

 ミニバーでインスタントコーヒーを入れて、仮想スクリーンに映る中継点の様子を見る。桟橋の工事は一段落したけど、その桟橋に工事中の建物が数棟あるようだ。区画図を見ると新たなアパートと商店街のようだ。住民区画にはそんな商店も必要なんだろうな。

 一番西の桟橋には2隻のラウンドクルーザーが停泊している。こうこうと照らされた照明燈の下で、数組のドワーフ達が忙しそうに働いている。24時間体制で点検整備を行っているのだろう。

 現在、中継点に設置された桟橋は、一般用が3つにヴィオラ騎士団専用が2つの5つに増えている。東から番号を振っているから点検整備中の桟橋は5番桟橋だ。ここは東側だけが使用可能で西の壁にはドワーフ族の住宅や工房が控えている。4番桟橋は居住区や学校、大型プールまである住宅居区画だし。3番桟橋は商業区域に行政庁が作られている。2番桟橋はヴィオラ艦隊の停泊区画であり、ヴィオラ騎士団の居住区と少し離れてパレスが立っている。1番桟橋は隠匿桟橋だから中継点から直接行くことができない。入り口さえ尾根を1つ離れた場所になる。

 3番、4番桟橋には6隻のラウンドクルーザーが停泊している。

 明りが半分落ちているから、補給と休養に訪れた騎士団なんだろう。3番桟橋の商会のビルはまるで昼間のように人通りが多い。24時間体制で店を開いているんだろうか?

 施政庁のビルも明りが灯っている。

 まだまだやるべきことが多いようだからな。ザクレムさん達には頭が上がらなくなりそうだ。

 

「あら? まだ起きてたの」

 振り返ると、カテリナさんが立っていた。

 俺に微笑みかけると、ミニバーに行ってワインのボトルとグラスを2個手に持って俺の隣に座り込んだ。


「メイデンさんの依頼を考えてたんですけど……。どうにか、概念を纏めました」

 そう言って、仮想スクリーンにガリナムⅡを映し出す。


「やはり、空は飛ばないのね?」

「短時間ですが時速80km程で移動することで、何とか納得してもらいたいですね。高速駆逐艦より速いですよ」


「でも、制動用スラスターを艦首に付けたんでは、納得してくれないんじゃなくて?」


 ワインのコルクを抜いてグラスに注ぐと、俺に1つを渡してくれた。

 軽くグラスを合わせて一口飲む。さっぱりした甘さだな。


「この部分ですか? これは360mm砲の砲口ですよ。軸線上に固定してますが、アリスの計算ではこれ以上の艦砲では船体が持たないと……」


 俺の言葉にカテリナさんは声も出ないようだ。ジッと概念図を眺めている。

 そんなカテリナさんを見ながらタバコに火を点けた。


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