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216 オークションが始まる


 オークション当日の朝が来た。

 ヒルダ様達は久し振りの娘達との語らいを、朝食後も続けている。

 ちょっと仲間外れになった感じもするけど、他のお妃様が言葉巧みに俺達の近況を知ろうとしている。

 王族は暇なのかな? それとも常に情報収集に努力を傾けているのだろうか?


「バルゴ騎士団は既に動き始めたようですよ。西の中継点の完成は、もう少し掛かると思っていましたのに」

「巨獣対策に目途が付けば、中継点の維持は比較的容易なのではと考えています。既にかなりの騎士団が西に活動領域をシフトしたと聞いています」


「ローザ様達の努力あっての事でしょう。3王国の機動艦隊も活動してはいるようですが、まだまだ訓練不足のようですねぇ」


 訓練不足というよりは、巨獣との戦闘経験が不足しているためじゃないかな?

 1年もすれば、騎士団並みに戦えると思うんだけどねぇ。


「それにしても、2度と行わないのは少し惜しくありませんか?」

「できればマンガン団塊を採掘した利益で国作りをしたかったんですが、色々と資金難が出てしまった結果です。今回の取引量と同じぐらいの数をまだ持っていますから、しばらくは何とかなるでしょう」


 大河での原石採掘は他の騎士団でも可能だろう。なら、1度行った俺達は遠慮した方が騎士団全体のバランスが取れるんじゃないかな。

 それに原石を狙うなら、もっと大きな採掘場があるんだからね。


「自国のみではなく、広く騎士団を考えるお方は、それほどおりませんよ。その上、新しい産業までおこすのですからねぇ」


 隣のお妃様と顔を見合わせて笑みを浮かべている。

 新しい産業? ……量産型デンドロビウムを使った運送会社の事かな?

 王族を加えるような提案をしたから、御妃様の目に適った人物を送り出せたのかもしれないな。


 新たなタバコに火を点けようとしていたら、腕時計型の端末が着信を知らせてくる。

 お妃様達に軽く頭を下げたところで、小さな仮想スクリーンの表示に指を走らせ通話モードを選択した。


『そっちはまだ時間が掛かるのかしら? 宝石ギルドの理事が是非ともリオと話をしたがってるの』

「そうだね。そろそろ引き上げようかな。エミー達に用事が無いなら、ヒルダ様と競売まで時間を上げようかと思うんだけど?」

『そうねぇ……。リオだけ戻ってらっしゃい。ドロシーも一緒で良いわよ』


「長らく引き留めてしまいましたね。4人は責任を持って御送りします」

「申し訳ありません」


 席を立って、ヒルダ様の前に行くと、お暇を告げる。エミー達にはヒルダ様達と会場に来るように伝えると、急いでホテルに帰った。

 円盤機で送って貰ったから直ぐに到着したんだが、ホテルの玄関口にはフレイヤが俺を待っていてくれた。


「このまま会議室に向かって頂戴。ギルドの鑑定人がたくさんやってきたんだけど、そっちは私達で何とかできるから」

「色々と大変だな。ところでどの会議室?」


 ホテルだけあって、1階にはいくつかの会議室が作られている。

 フレイヤが教えてくれたのは、105と番号の付けられた会議室とのことだ。あまり待たせたりしたら値切られるかもしれないと、足早にエントランスホールを横切った。


 部屋番号を確認して、ノックをする。

 待っていてくれるんだから、いきなりは失礼というものだ。


「お待たせしました。俺に会いたいとの知らせを受けて、御妃様のお茶会を抜け出してきたんですが……」


 3人の男女がテーブルに付いていた。話をしながらテーブル越しの席に着く俺に、少し驚いているようだ。


「失礼ですが、リオ公爵様でございますか?」

「そのリオだ。公爵は後からついたものだからあまり気にしないでほしいな。ヴィオラ騎士団の騎士リオということで、普段の口調で話をしたい」


 3人が顔を見合わせている。真ん中の男性が理事なのかな?短いオールバックの髪型はスーツ姿に良く似合っている。右手の若い男性は端末を取り出して少し緊張気味だ。左手の女性は、サンドラ達と歳が近いかもしれない。

 趣味の良いワンピース姿だけど、シースルーはどうかと思うな。


「それで話とは?」

「先ほど、今回の出品物を見せて頂きました。質の良さとその数に驚く限りです。御妃様の願いで、我等が今夜のオークションをお引き受けしましたが、できれば我等の願いをいくつかお聞き入れくださればと……」


「たぶん値崩れを気にしていると思う。今回は俺達が資金欲しさに他を気にせずに行った結果だ。残りの原石の販売については宝石ギルドと調整したいと思っていたんだが」

「リオ殿に、そう言っていただけると助かります。たぶん中継点に保管しているのでしょう。一度、残りを見せて頂けないでしょうか?」


「中継点のマリアンに連絡してくれれば、俺達の休暇と時間を合わせられるだろう。他には?」


 ネコ族のお姉さんが運んでくれたコーヒーに砂糖をたっぷり入れていると、理事の隣の女性がちょっと驚いている。

 甘いのがコーヒーだと思うんだけどなぁ。


「たいへん言いにくいことではありますが、この6品についてはオークションにかけずに我等にお売り頂けないでしょうか?」

 

 まだオークション番号は付けていないようだ。

 仮想スクリーンに原石の画像を映して同意を求めている。


「ギルドにお願いしたのは、俺達が集めた原石の適正価格を決めて頂くこと。かなりの専門知識が必要でしょうから無償にすることはできません。現在あなた方が付けた値段でお売りしたいが?」


 俺の言葉に3人がホッとした様な表情を浮かべる。

 渋ると思ってたんだろうか?


「オークションでは2倍を超えるかもしれません。それで良いのですか?」

「マンガン団塊なら俺達にも適正価格が分かるが、宝石の原石となると石との違いも分からないからね。できれば無償としたいが、国作りの最中ということで御理解いただきたい」


 元々は拾った石だからねぇ。彼らの適正価格がどれぐらいになるのか分からないけど、気に入ったならそれなりの値が付いてるんじゃないかな。


「ところで、適正価格の3割を超える値が付いた場合は、クジ引きで良いと聞いたのですが、御冗談ですよね?」

「いや、その通りでお願いしたい。あまりの値を付けたなら、騎士団全てが原石採掘を始めかねない。それはライデン全体を揺るがす事態にもなり得ると考えている。スタートは8割で終わりは3割増し、それでも複数がエントリーしているならばクジ引きで落とし先を決めて欲しい」


 大手の宝石商だけが潤うのは問題だろう。3割程度の上乗せなら中規模の宝石商も参加できるに違いない。


「大金を手にできるチャンスを逃すのですか?」

「先に行った通り建国に使われる資金不足を補うためだ。他の騎士団に恨まれたくはないし、宝石ギルドにしても小規模な宝石商に恩恵を与えても良いと思うんだが」


 俺の言葉に理事が驚いていたけど、すぐ真顔に戻ると俺に向かって笑みを浮かべた。


「確かに早々あるものではありませんな。今の話をギルド内に伝えてもよろしいでしょうか?」

「お願いしたい。とはいえ、会場があの広さだ。参加者の調整はギルドに一任としたい」

「お任せください。たぶん、しばらくは話題に事欠かないでしょうね」


 これでギルドとの話は終わりになる。

 向こうとしても、残った宝石の放出に関与できると知って喜んでいるし、俺達も手間が省けることになる。市場の動向を見ながら残りの原石を上手く扱ってくれるだろう。


 会議室を出ると、原石の展示場に向かった。

 カシム達が警備をしている以上、盗難の心配は無い。昼近いこの時間なら、ギルド筆頭の鑑定人達が、原石に値を付けた頃だろう。


「あら、向こうの話は終わったの?」

「どうにかね。それで、どうなんだい?」

「もう少し、掛るみたい。オークションに参加する宝石商達への披露は1500時からだから、十分に時間はあるんだけどね」


 原石の展示場となった会議室の入り口近くの小さなテーブルで、フレイヤがお茶を飲んでいた。

 鑑定の成り行きを見守っていたのだろうけど、会議室にはカリムの部下が2人ずつ張り付いて警備をしているし、1部屋毎に数台の監視カメラが原石と競売人の動きを見ている。少しでも不審な動きがあればカシムが駆け付けるに違いない。


 3人の鑑定人がパーティを組んで原石の鑑定をしている。パーティが4つあるのは、最大、最小の鑑定結果を削除し、中の2つのパーティの鑑定結果を平均して原石の値とするとフレイヤが教えてくれた。

 自慢げに話してくれたけど、フレイヤも疑問に思って鑑定人に聞いたんじゃないかな?


 白い手袋をした鑑定人が1つずつ原石を手に取って、その品質を確認している。

 場合によっては拡大鏡や特殊なライトを当てて調べている。小さなタブレットに出展番号と見比べて評価を書きこんでいるようだ。

 部屋を出る時に、必ず原石を見て溜息を付いているのは微妙だな。良い方向に考えておこう。


 後を警備員に任せて、フレイヤを連れて最上階に戻ることにした。

 そろそろ昼食時だ。皆も集まって来るんじゃないかな。


 スイートルームの大きなリビングに戻って来ると、エミー達が戻っていた。聞きたがりのお妃様達の誘導尋問めいた会話に付いて行けなくなったのかな?

 ソファーに腰を下ろした俺の周りに集まって来る。


「中々の評価のようですよ。今晩のオークションが楽しみです」

「そうかな? 皆部屋を出る時に呆れたように溜息を付いていたんだけど」


「それは、品質の良さを評価してるのでしょう。母様のところに、大勢の商会が会見のお膳立てを願い出ているようですよ」


 ヒルダ様は、そんな陳情を軽く笑いながら聞き流してるんじゃないかな。資産運用にこだわっているようなところもあるけど、王国の維持には色々と入用なんだろう。俺達も国を作ってそれが分かったようなものだ。とかく国はお金が掛かる。

 まあ、長期的計画でも立てればそれ程必要とはならないんだろうけど、新興国だし、作った場所の緯度が高いからね。低緯度というか、赤道付近の王都から比べれば国防費は馬鹿にならない。


「宝石ギルドとの調整窓口が出来そうだよ。今回はオークションにするけど、残りは宝石ギルドと話し合って買い取ってもらおう。個別に原石を売るのはこれが最初で最後だ」

「私達が個人的に所有している原石もですか?」

「そこまでは規制しないさ。だけど、手放すのは年間1、2個で、出来れば所領にいる商会を通した方が良さそうだ。商会には色々と便宜を図ってもらってるし、少々安値でも十分だろう?」


 個人が持っている原石まで使い方を云々するつもりはない。だけど、個人的な事にはあまり使わないんじゃないかな? 何かあった時や、自分で対処しなければならない時に、国庫からではなくその原石を使うと思う。

 国庫の金庫番であるマリアンは使途に厳格だからね。ちょっとお金が足りないぐらいでは出してもらえない可能性が高い。ある意味裏金なんだろうけど、それも必要悪ということで黙認してもらおう。


 ギルドの鑑定人の評価が終わると、今度は一般の金持の登場だ。その前にカシムの部下が、全ての原石をガラスケースで覆っている。ケースには振動センサーが付いているらしい。不特定多数の来客となる以上、手に取って眺めるという訳には行かないのだろう。


 準備が一段落したとの連絡を受けたところで、仮想スクリーンを展開して展示場の様子を見ることにした。

 会議室の扉が開くと同時に、大勢の金持が貴婦人を伴ってぞろぞろと入ってきた。

 ガラスケースの中の原石を眺めているんだけど……、鑑定出来るんだろうか? かなり疑問だな。取引のある宝石商を同行させている連中もいるようだ。ガラスケース越しに拡大鏡で覗いている。何組かの客は警備員と何やら話をしているが、少し話をしてムッとした表情で立ち去るところをみると、ガラスケースを開けるよう懇願したんだろう。


 宝石ギルドの代表者の鑑定結果は全てオープンされる。専門家の評価は少し変動があるようだけど、アリスの意見では偏差内に収まっているとのことだ。


 ドミニク達が部屋に戻ってきた。たぶん買い物なんだろうけど、拠点で待つ連中にも何かお土産を買っていかねばなるまい。遊んでからだと忘れちゃうからね。

 

「夕食は1600からになるわ。2000から競売を始めるそうよ」

「オークションは宝石ギルドに一任してきたよ」

「あのギルドなら安心できるわ。宝石ギルドの依頼も既に終えてるわよ。ギルドの選んだ15個の原石はオークション番号から削除してあるし、既に入金もされてるわ。2割増しの入金をした上で、御礼を伝えてきたの」


 彼らの信用問題にも係わるわけか。それだけ、あの原石が欲しいという事なんだろうな。


「リオは侯爵なんだから、ちゃんと正装するのよ。私達も全員正装だからね」


 フレイヤがどこからか聞いてきた内容を俺達に告げる。

 刀をマントで巻いていくか? あのマントを着るのはどうも抵抗があるんだよな。

 ドロシーも付いていくみたいだ。ドロシーの正装は、あの探検隊ルックらしい。まあ、無難なところだ。同じ服装でライムさん達2人が一緒のようだから安心できる。


 16時になったところで、2組に分かれて食事をとる。トリスタンさんに不特定の来客時には、食事は全員が同じ時刻で取らないように厳命されている。そこまでする必要があるかどうかは別にして、こういう事は専門家の言う通りにしておいた方が良いだろう。

 食事が終わり、軽くシャワーを浴びて着替えると、既に開催1時間前だ。

 コーヒーを飲みながら仮想スクリーンで会場を眺めると、小さなテーブルに数個の席が100セット程作られている。その上にベンチシートが20個程用意されているようだ。

 オークションの席は一段高く作られ、その右手には少し大きなテーブルが用意されている。どうやら俺達の指定席らしい。その隣のテーブルは3か国のお妃様達の為だろう。公的な力関係で席をきめたのかな?

 既にベンチシートは空きがない状態だ。最後尾には立ってオークションが始まるのを待っている人達もいる。

 TV局のカメラマンとリポーターがリハーサルを何度も繰り返していた。

 何か、一大イベントのように思えるな。このオークションの視聴率が気なるところだ。

 スクリーンを見ながら時間を潰していると、続々と皆が集まってきた。


「さて、出掛けるわよ。銃は持ってるわね。何も無いでしょうけど、私達はやられたら反撃出来る騎士団なんだから!」

  

 かなり物騒な事をドミニクが告げると、フレイヤ達が「「オオォ!」」と声を上げている。

 呆顔の俺の腕を取って、皆がリビングを歩き出す。

 大ホールのある2階までエレベーターで降りると、専用通路を使って会場に向かう。途中、何組かのトリスタンさんの部下が警備している。彼らに軽く頭を下げてねぎらいながら、会場へと到着した。

 

 既に、テーブル席も埋まっている。俺達の登場で会場が拍手に包まれるが、あまりそんな行為になれていないから、少し顔を赤らめて軽く会場に片手を上げて席に着いた。


「中々良いわよ。結構威厳があったわ」

 そんなフレイヤの言葉を聞いてもあまり嬉しくは無いんだよね。


 再び会場に拍手が沸く。お妃様達の登場だ。俺達も席を立ってお妃様の来場に敬意を表す。

 全員が席に着くと、会場が鎮まる。軽い飲み物がテーブルに運ばれ、タバコを楽しむ客も出始めた。

 いよいよオークションの始まりだ。


 カシムが3人の男と共に、中央奥の扉から会場に入ってきた。

 一人が競売の担当でもう2人は補佐って感じかな。カシムは会場警備の責任者として後ろに控えているようだ。この会場にも数人の警備員が目を光らせているのだろう。


 インカムを装備して小さな木槌を手に、オークション用の特設台の前に立ったのは理事の1人だろう。

 会場の全員が各自のタブレットを手にした。俺達も自分専用のタブレットを取り出して、エントリー番号順に並んだ原石とその品質、評価額と偏差値を眺める。


「エントリー番号、V-001番、サファイヤ原石。評価額の半値から開始します」


 その声と共に競り人の頭上高く。最初の金額が提示される。その下にその金額での購入希望者数が表示された。

 警備員がうやうやしくワゴンに乗せて、最初の原石を運んできた。




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[気になる点] 前回の215話で、オークション当日朝は早々に帰ってに宝石ギルドとあった話だったのに、 216話でまたオークション当日の朝の描写が来てまた宝石ギルドと会っている。
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