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210 3者による共同事業


 翌日。第2離宮の昼食会には3カ国のお后様と俺にエミー。招待された各国の運送業の代表者が夫婦揃って列席した。

 運送業の代表者という立場でさえ、お后様の招待を受けるなどと言うのは特別らしく、戸惑いを見せながらもお妃様と昼食を共にできることに笑みを浮かべている。

 気さくなお后様達が、たまに平民の代表者を招いて会食するということを聞いていたのかも知れない。


 昼食と言っても、かなり豪華な食事だ。

 少しばかり高級なレストランでは、この味は出せないだろうな。

 味には満足してるんだが、相変わらず少しずつ出てくる料理は食べた気がしない。ワインを飲みながら、ある程度料理がまとまるのを待ってから手を付ける。

 そんな豪華な食事が終ったところで、食後のコーヒーや紅茶が出される。昼食会はこれから民と王族の語らいの場になる。

 食事を堪能した運送業者達は、笑みを浮かべながらヒルダ様の質問を待っているようだ。

 仕事の苦労話を聞いてくると予想してるのかもしれないな。

 紅茶のカップをテーブルに戻したヒルダ様が運送業の代表者に向かって声を掛けた。


「ところで、空飛ぶ鯨の話を聞きましたわ。今までよりも早く大量にかつ安全に荷を運ぶ事が出来るとか」


 まさか、王族であるお妃様からその話が出るとは思わなかったのだろう。

 慌てて咳き込んでいるところを見ると、コーヒーを気管支にでも入れたのかな?

 グラスの水を飲み込んで落ち着きを取り戻した代表者が、ヒルダ様に顔を向けた。


「既に噂を聞いておりましたか。まったくその通りでございます。我等の仕事が奪われぬかと心配しております。聞く話では、北に拠点を持つ騎士団の持ちものとか……。騎士団であればマンガン団塊の採掘が仕事であるはずですのに、我等の仕事に版図を広げるとは困ったものです」


 どうやら、俺がその張本人とは思っていないようだな。王宮に居合わせたお后様達と懇意の貴族に思われているようだ。一応騎士の正装で来たんだけどなぁ。あまり騎士を見たことが無いのかもしれない。


「その騎士団が貴方達と共同経営を私達に打診してきたのです。彼等独自に始めても良さそうですが、一応貴方達の返答を聞かねば返答できませんからね」

 

 そんなお后様の言葉にに運送業者の代表達は互いの顔を見合わせている。

 乗るか、乗らぬか……、彼らの将来性がこの場で決まる事になりそうだ。


「鯨を使った運送を手がけたのは、ウエリントンの西に4つの中継点を作りあげた中心的な騎士団です。貴方達も使っている王国印のある標準型コンテナによる物流を考えたのもその騎士団です。その騎士団が貴方達と共同経営をしたいと言っているのですが?」


「まさか、戦姫を持つヴィオレ騎士団!」

「今では、王国の束縛を離れて独立国家として認知されていると聞きましたぞ!」

 思わず席を立った代表が、周囲に頭を下げて席に坐る。


「知っているようですね。今では管理局とも対等に対話が出来る存在です。我等王国をその点では越えていますわ」

 

「何故3カ国の国王は、その騎士団を放って置くのでしょう? 王国の戦姫が動くようになったと聞いております。いくら戦姫を持っていても3機で掛かれば倒す事も出来ましょうに?」

「あの子達は、ヴィオラ騎士団に出向することで戦姫を動かせるようになったようなものです。敵対はしないでしょう。そんな命令を国王がした場合は、相手側に立って戦うかも知れません。戦姫4機の前にはどんな軍隊を派遣しても無意味ですわ」

 

「なら、管理局に賄賂を送って、あの戦姫を送って貰うのも……」

「管理局はヴィオラ騎士団と対立して方位衛星を1つ失っています。衛星ターミナルの破壊を示唆した段階で、管理局はヴィオラ騎士団と新たな条約を結びました。ヴィオラ騎士団は宇宙での活動が可能です」


 運送業の代表者の顔色が青くなってきた。左右の代表者達と小声でぼそぼそと話をしている。

 そんな様子をタバコを楽しみながら見ているのだが、さて、次ぎはどう出てくるんだ?


「我等の出来る最後の手段は、物流の停止になりますな。いかに騎士団の戦力が強大でも物資の輸送を停止させられては、日干しになるほかにありますまい」

「問題はそこです。私には2つの方法があると考えています。対立するか、協調するか……。対立した場合は騎士団独自に運送業を始めるやも知れません。さらに貨物コンテナは騎士団のパテントです」


「現在の物流単位はコンテナで行なわれています。そのコンテナの使用制限を掛けられたら、世界中で物流が混乱します。我等は2度と運送業を始められない……」


 完全に蒼白の顔になったな。

 お后様も少し脅かし過ぎなんじゃないか?


「もう一つの選択肢に協調があります。ヴィオラ騎士団から、飛行船を借り受け貴方達で利用するということも考えられますね」

「私供は、それが一番だと考えております。かの騎士団に何度か飛行船を我等に提供して貰えるように頼んだのですが……。断わられました」


 残念そうに運送業者の代表が首を振っているが、それはお前達の態度が高圧的だったからだと思う。


「どうでしょうか 私達3カ国の王妃が仲立ちをします。1度、彼らと話し合う事は可能ですか?」

「願ってもないお言葉。ですが、ヴィオラ騎士団の公爵は我等と話し会う機会を持ってくれるでしょうか?」


「持ってくれるも何も、公爵殿のご依頼で貴方達を呼んだのです。こちらが、ヴィオラ騎士団公爵のリオ殿と奥方ですよ」


 ヒルダさんの言葉に運送業者の代表がその場で直立して俺に頭を下げる。確かに色々と言ってくれたからな。

 そんな彼らに坐るように言葉を掛けると、先ずはコーヒーを飲む。

 ここまではお后様達がお膳立てしてくれたが、この先は俺と運送業者の代表達との駆け引きになる。


「俺達のデンドロビウムを欲しいとのことだが、あれを渡しすることは出来ない。我等は高緯度地方の鉱石採掘に取り掛かった。知っているとは思うが高緯度地方の採掘はかなりの危険を伴う。ラウンドクルーザーが採掘した鉱石を安全に運搬する船として開発したものが、あのデンドロビウムなのだ」

 

「その話は聞きました。ですが、その輸送量は100tコンテナで10基分以上。我等の高速輸送艇の数倍以上の荷を半分以下の時間で安全に運べるとなれば……」

「おかげで予約が舞い込んでいる。これは少し問題だ。俺達の鉱石運搬に支障が出てくる可能性がある。だが、デンドロビウムの2番艦を作るのも実は問題があるんだ。

 あの船の動力系は重力アシスト核融合エンジン。ほぼ戦姫と同じと言ってよい。その制御技術を確立はしたのだが、かなり高度の電脳を必要とする。電脳自体が感情を持つぐらいでないと無理だな」


「人間には出来ないのですか?」

「臨界点までの到達時間が0.1秒にも満たない。そんな時間を俺達が制御出来るとは思えないね。俺達にはナノマシンで構成した電脳がある。その電脳に起動を委ねて動かしているんだ」


「では、我らがデンドロビウムを手にしても、動かす事は出来ないと?」

「動かせるかも知れないが、起動を失敗した場合を考えるとちょっとね」

「広範囲な核汚染……。それは我等でも責任を負いかねます」


 部屋の中が静まった。

 運送業者としても、動かす事が自分達で出来ないと判れば、諦めもつくのだろう。だが、それでは今まで通り、彼らの仕事の一部が失われることになる。


「デンドロビウムによる運送依頼を受けぬと約束出来ませんか?」

「現状の権益を守るという事か。それで貴方達はこれからの時代に対応できるのか?

 大陸の西に中継点、コンテナターミナルが次々と作られていく。その物流は膨大な量になるはずだ。商会のニーズに合わせた物流を行なうとなれば、現在のコンテナを高速艇で運ぶには自ずと限度が出て来ると考えているのだが?」


「騎士団で運送業を始めようとする話を聞いております。あのデンドロビウムが2隻あれば、十分に可能でしょう」


 新たな運送業社が出来ると考えてその対応に頭を捻っている感じだな。

 妨害した場合は自分達が破滅するし、デンドロビウムを取り上げても自分達で制御出来ない。座して、結果を待つ事になると考えているのかな?


「ところで、このデモを見てくれないか?」

 端末を操作してテーブルの上にスクリーンを展開すると、10分程度の短いデモを披露した。

 

「あの飛行船よりも少し小型ですな。これが騎士団の新たな輸送船になるのですかな?」







「積載量は100tコンテナが10個。高度500mで巡航速度は時速200kmだ。点検頻度は飛行距離3万kmで点検を行う予定だ。これを3隻建造する。

 どうだ、これを我等と一緒に運用しないか? 運用と言っても、我等が関与するのは点検のみ。船長と運航クルーは王国から出して貰おうと考えている。運送会社には荷役に係わる獣機とその獣機士、それに荷役の管理になると考えているが?」

 

「騎士団は人を出さぬと!」

 輸送業者の代表の1人が驚いたように声を上げた。


「俺達の艦隊自体が人材不足、これ以上はとても無理だ。とは言え、動力炉と反重力装置はブラックボックス化するから、その点検は俺達でなければ出来ないだろう。大型船であれば、退役軍人を操船クルーに当てれば良いと思っている」


「荷役の管理、運航計画は我等で行なっても構わないと!」

「一切、口出しはしない。だが、タダではないぞ。1隻は無料にしようと考えているが、もう2隻については1隻当たり1年間のレンタル料を200万Lとしたい。新たな共同事業になるから、運送会社と王国それに俺達の騎士団の3つで初期の株を買い込む事になるだろう。比率は当分としたいところだが、出来れば俺達の出資額は2割に押さえたい」

「我等と王国に経営を委ねると!」

 

「俺達は宇宙への進出を計画している。あまり地上にかまけている暇は無いんだ」

「我等の考えで騎士団を計っていたのが問題でしたか。ですが、これには将来性があります。最初は3隻でも、将来は10隻ほど欲しくなりますね。その辺りの建造計画はどうなりますか?」


 ガネーシャに任せれば何とかなりそうだな。

 最初の2年は3隻でも、3年目以降に毎年1隻程度は作れるだろう。


「ニーズを調査して将来の運航数をどうするか決めれば良いだろう。建造は1年に1隻程度なら何とかなりそうだ」

「3万kmごとに点検と言うのは少し短くありませんか?」

「初期不良がどこに出るか分からない。その辺りのデーターが蓄積されれば点検頻度を伸ばせるだろう。あれの元になった白鯨は1回の鉱石採掘航行ごとに点検を行なっている。安全は金で買えるんだ。俺達はそんな費用を出し惜しみする者ではない」


 お后様達も俺の意見に頷いている。ちょっとした手抜き、部品更新を惜しんだことで被害を大きくした事は過去にたくさんの事例がある筈だからな。

 

「分かりました。基本的に我等も賛成できます。たぶん出資金と経営については王国側と調整する事になるでしょう。早々にヒルダ様にご連絡するという事でよろしいでしょうか?」

「ええ、それで良いですよ。王国としては貴族ではなく王族から幹部を送ろうと考えています。まだ国王には知らせていませんが、反対はないでしょう」

 

 王族から幹部を出すと聞いて、運送業者の代表の顔色が少し変わったようだ。何もかも自分達で思うようにと思っていたのだろうが、現実はそんなに甘くないぞ。

 運送業者達は席を立って俺達に丁寧に頭を下げると部屋を出て行った。


「どうでした?」

「ありがとうございます。どうやら、俺達の臨んだ方向に向かったようです。でも、ヒルダ様達のお手を煩わせるのが心苦しい限りです」


 リビングに移動して、他のお妃様を交えてのお茶会だ。

 

 ヒルダ様以外のお妃様2人が、俺の話をおもしろそうに聞きながらタバコに火を点けている。


「国王達に比べればリオ殿のお手伝いは楽しいし、それなりの見返りがあるわ。私はそんな義理の息子を持つヒルダが羨ましいわ」


 何処のお后様なんだろう? 俺を見て微笑んでるぞ。

 まさか、更に王女を降嫁させようなんて考えてないだろうな?


「でも、ヒルダと一緒にいれば、私達も楽しめることは確かね。国王達は例の会見録を見ながら何度も酒を酌み交わしているわ。いったい、何を褒美にするんでしょうね?」


 あれは、こっちとしても要求を出してるから変な話にはなら無いだろう。

 でも、エミーを通して確認しておいた方が良いのかもしれないな。

 


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