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205 運行管理局との会談(2)


「おもしろいお考えですね。確かに、戦姫第4世代であれば宇宙空間での行動に支障はないでしょう。航路管理局でも2機の戦姫を持っています。ですが、3王国の戦姫は第3世代。生命維持装置すら設置されていない型式です。私達と対等に話し合う事は出来ないと思いますが?」


 ニコリと笑いながら俺に語りかけてきた。

 管理局でも戦姫を持っているのか……。しかも、王国の持つ戦姫よりバージョンが新しいという事だな。かつての戦で3王国の連合体が敗れたのは、戦姫のバージョンの違いという事になるんだろう。

 宇宙に飛び出せないなら、問題外の筈だ。


「戦姫にバージョンがあるのは知っていましたが、生憎と俺の乗る戦姫のバージョンは分かりませんでしたね。王国の戦姫とは明らかに動力源が異なります」

「たぶん、バージョン4の筈だわ。この宙域でそれ以上の戦姫は1万年以上の歴史の中で発見されていないもの。重力アシストを強化した核融合炉が動力源ではなくて?」


 それだと、デイジーの強化版になるぞ。そのうえ反重力飛行が行なえるなら、デイジー達は苦戦したに違いない。待てよ、ひょっとしたら過去にはもっと多くの戦姫がいたんじゃないか?


「気が付きましたか? 王国に戦姫は1機のみ。それも過去の条約の1つです。他の戦姫は全て恒星に落とし込みました」

「なるほど、少し理解してきましたよ。それを前例にしましょう。敵対した場合は、貴方達の戦姫を恒星に落とすということでよろしいですね」


 俺の言葉に、管理官の笑い顔が怒りに変化する。


「言っている事が理解出来ないのですか? バージョンの古い戦姫はそれ以後に作られた戦姫の敵ではないのですよ。私達がここに来たのは、貴方のような考え方で新たな争いが起きるのを抑止するためです。

 新たな宇宙船は惑星間の航路管理に多大な影響を与える事になります。っちょっとした事故やトラブルで武器を使えば、航宙巡洋艦を軌道に乗せなければなりません。それにより惑星間の資材流通が滞るのを私達は未然に防ぎたいのです」


 なるほどね。言っている意味は良く分かるが、俺達の技術力というか、能力を理解していないんだな。それに、あたかも自分達の仕事が正義って感じに言い切るのも問題があるんじゃないのか?


「どうも、議論が噛み合っていないようです。良いですか。俺達はあなた達のようにスラスターを使って宇宙を飛ぶわけではありません。推進燃料を節約するための航路を選ぶ必要が無いのです。先ずはここを理解して頂きたい」


 ドン! 右の補佐官がいきなりテーブルに握り拳を叩き付けた。


「ありえない話だ。王国の航宙機製造技術は全て5千年前に葬っている。定期的にライブラリを監視している状況で航宙機を、それも我々より進んだ推進方式を完成させるなど出来ないぞ!」


「この部屋で、怒鳴り声を上げる必要はありませんよ。俺はいたって耳が良い方ですからね。その答えは実に簡単な答えになります。発掘したんですよ。過去の宇宙船をね。しかも、俺達人類の作った物ではありません。解析して応用するのが大変でしたけど、ここにはウエリントン王国が誇る科学者がいたことが幸いでした」


「では、本当に……」

「俺達は最初から本音で交渉している」


「ならば、我等の戦姫で拿捕すればよい」

 補佐官が薄笑いを浮かべて俺を見つめた。


「これで、2回目の宣戦布告ですか……。責任が取れるんでしょうね。2度も俺に対してその言葉を吐くとは! 

 良いだろう。アリス、適当な攻撃目標を探せ。出来るなら、コイツに責任が取れる範囲が望ましいが、無ければ航路管理局の施設ならどれでも良いぞ!」


『了解しました。方位衛星B-328が適当でしょう。スラスター加速用の方位信号を出していますが、無くとも燃料消費が1割程度増えるだけです』

「破壊しろ!」


『了解しました。……破壊完了。動力源を破壊しました。爆発なし。動力源の放射性物質の漏洩確認。方位衛星の修理は困難です』


 部屋に聞こえるアリスの声を呆然として5人が聞いている。少し遅れて、補佐官の1人の端末に連絡が入った。小さく開いた仮想スクリーンの内容を見て驚いていたが、管理官の前にそれをそっと押し出して確認をさせている。


 そんな様子をタバコに火を点けて様子を見ていたが、管理官が深い溜息を付くと俺に顔を向けた。


「方位衛星の1つが破壊されました。確かに嘘は言っていませんね」

「最初から、そう言っている。信じさせるのは犠牲がいるようだな。これで交渉が出来ると良いのだが」


「貴様、何をしたのか分かってるのか! これはとんでもない損失だぞ。これはライデンからの鉱石代金で支払いをして貰うからな」

「なるほど、次ぎの破壊を望むという事か。アリス、次ぎはどこを狙う」


『第5惑星のターミナルを破壊します。同様に動力源を破壊すれば良いでしょう。居住者はおよそ2千人。ドッグに4隻が入っていますから、全員の退避は可能な筈です』


「待ってください!」

 管理官が身を乗り出して訴えてきた。


「私達は交渉に入ったはずです。破壊をするには及びません」

「だが、補佐官殿は俺達と戦をしたくてしょうがないようだ」


「交渉の責任者は私です。彼は1人の補佐官に過ぎません」

「管理官! 私は管理局の発展を思って……」


 ドタリ、と煩い補佐官が席から崩れ落ちた。

 護衛の1人が何かをしたようだが、良く分からなかったな。


「彼の処分は私達の責任範囲です。帰りに回収しますからそのままで良いでしょう」

「了解した。それでは交渉を続けましょうか」


 改めて、宇宙空間の自由航行と採掘した鉱石の引き取り及びその価格について話を繰り返す。


「航路に影響を与える事が無いように配慮する事は考えよう。たぶん鉱石を納品する場合に問題が起こると推察する。優先は管理局配下の宇宙船になるのは仕方が無いだろう。だが、理不尽な要求をする場合は、俺達で新たな航路管理局を探すつもりだ」


「出来るとお考えなんですか?」


「重力傾斜を応用した宇宙船なら、スラスター用の燃料を積み込む必要がない。航路は自由に設定できる。航路管理局よりも早く、安く、大量に鉱石を運べると思うが?」

「その技術は、やはり公開出来ませんか?」


「先程の話の通り、制御が難しい。俺達は専用のAIを開発したが、あなた達にそれが出来るとは考えられない。俺達はカンザスの制御システムを構築する過程で、電脳に感情をもたせることが出来た。少なくともそれ位の能力が無ければ、制御する事は困難だろうな」


「それでは、私の権限において条約を結ぶ事にします。基本的な私達の権益は侵さないという事であれば揉める話ではありません」

「1つ追加して欲しい。先程の補佐官のような人物が現れぬとも限らない。敵対行動は条約の破棄として欲しい。それと、ライデンから30万km以内にそちらの巡洋艦が入った場合は、これを敵対行動とみなす」


「良いでしょう。巡洋艦は小惑星帯が主たる行動区域です。そちらも小惑星帯で活動するなら距離を10万km以上離れて下さるとありがたいですね」

「相手が座標上で停止しているなら、それに従おう。互いに無用な争いはしない方が良いだろうからな」


「納品はマスドライブ用のカプセル単位で、同一鉱石。捕獲ターミナルではこちらの管制に従ってください。鉱石価格は本来であればマスドライブ手数料がいらないだけ上がりますが、地上引渡し価格でよろしいのですか?」

「それで、十分だ。小惑星帯で鉱石採掘が上手く行かなければ、直ぐにでも撤退するつもりだ。観光業という手もあるが、それは俺達騎士団の仕事ではない」


 そんなやり取りがあって、もう1人の補佐官が金属製のケースを机に置くと端末を操作しはじめた。

 たぶん条約文でも書いてるんだろうな。


 少し、間が空いたところに、新しいコーヒーが運ばれてくる。

 一応条約を締結出来るところまで来たんだから、後は世間話で良いだろう。


「それにしても、あらかじめ宇宙に戦姫を上げなくても良かったでしょうに?」

「そんな事はしないさ。交渉過程で宇宙に送ったんだ。俺達騎士団は信義には厚い。常に誠実であれ、が信念だからな」


「でも、方位衛星を破壊するには……。まさか!」

「たぶんその通りだと思う。俺達の持つ戦姫のバージョンはわからなけど、第4と言うことは無さそうだ。遥かに上だと思うよ」


 最終バージョンだと言っていたけど、いくつだかは聞いて無い。

 いや、先行試作型のようなことを言ってたんじゃないか? 戦姫計画が終わったのは、アリスが作られたことによるのかもしれない。

 自意識を持ち、無限ともいえる動力源を持った戦姫を人間が管理することができないと判断したのだろうか?

 アリスのパイロットである俺も、当然お役御免になったはずだ。

 それが原因でアリスと共に星の海を旅していたんじゃないだろうか? 戦姫が活躍した星々を訪ねる遥かな旅を……。


「最初から、交渉だけにして置けば良かったのですね」

「俺達の方から出向かないといけなかったんだが、そちらから来てくれたんで助かったよ」


 管理官の言葉に、現実に戻された。俺の答えを敗北感をたたえた表情で聞いている。


 やがて、補佐官がプリントした条約書を互いに、確認して互いにサインを入れる。

 握手をしながら条約書を交換すれば会議は終了だ。

 これで、俺達は大手を振って宇宙に出掛けられる。カテリナさんをちらりと見たら、嬉しさで少女のように目を輝かせてる。

 

 レイドラが席を立ち、今度は紅茶を運んでくれた。

 床に1人倒れたままだから、歩きにくそうだな。

 

「それにしても、小惑星帯で鉱石採掘が本当に行われるなら、その可能性は星間交易史に大きな文字で記載されるでしょうね」

「貴方の名前も一緒にではないですか? 俺達の名は埋もれてしまうでしょう。まあ、騎士団の名前ぐらいは残るかもしれませんね」


 宇宙空間で小惑星の資源を回収する。言葉で言えば簡単な話だけど、高度な重力場制御が可能でない限り、現実化は困難だ。

 カテリナさんの夢はこれで達成ということになるんだろうけど、宇宙で次の夢を見るんじゃないかな?


 条約締結後の歓談が終わると、テーブルの下に倒れた補佐官を回収して、管理局の連中が部屋を出て行った。

 俺達はほっとした表情で互いを見る。


「中々の出来栄えよ。ヒルダに教えてあげなくちゃ!」

「まあ、これで宇宙に上がれるって事ですね。でも、まだまだ先ですよ」

「分かってるわ。でも、もう直ぐなのよね」


 完全に舞い上がってる。途中で階段でも踏み外しかねないな。

 そんなカテリナさんをレイドラに頼んで部屋に送ってもらう。フレイヤ達が帰るのはもう4、5日先だ。それまではのんびり出来そうだな。


 リビングに戻ってビールを飲みながら、のんびりとタバコを楽しむ。

 交渉はてこずったけど、まあ、何とかって感じだな。問題があるとすれば管理局の巡洋艦だ。飛立つ前にある程度の情報を仕入れておく必要があるだろう。

 俺達が危険な存在であると分かった以上、向こうだって何らかの手を打つ事は容易に想像できる。


 「アリス……」

 『管理局の情報分析ですね。ちょっと楽しみです!』


 どんな電脳を使っているのか分らないが、アリス相手に情報隠匿は不可能だ。どの程度でロックを解除出来るかがアリスのお楽しみということになるんだろう。



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