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204 運航管理局との会談(1)


「いよいよって訳ね」

「向こうから来るとは思わなかったわ」

「リオに交渉を任せるから、母さんと一緒に上手くやるのよ」


 フレイヤ達は色々言ってるけど、最後はドミニクから、カテリナさんをお土産に丸投げされてしまった。


「交渉次第では、実力行使もありそうな気がするんだけど……」

「望むところよ。その時はヴィオラ騎士団を2つに分けて、アレクに地上部隊を指揮して貰うわ」


 要するに強気で行け! って事だな。


 次ぎの鉱石採掘に向かおうと準備をしている時に、マリアンから連絡が入った。2日後に運航管理局がやってくるらしい。総勢5人と言う事だが、一応、肩書きと画像が添付されている。男性が2人に女性が3人だ。第二惑星管理官という肩書きは若い女性だけど、この世界の年齢は外見では分からないからな。副官が男性2人で残りの女性2人が護衛という事だが、フレイヤの方が強そうに見える。

 全体的に、線の細い連中だな。


「基本は小惑星での鉱石採掘とその販売で良いんだろう。値段はこの惑星の値段で良いよね」

「それで良いわ。うまみが無ければ撤退するのも視野の内よ。母さんも1度宇宙に上がれば満足でしょうからね。レイドラを残しておくわ。理性的だから交渉するには適任よ」


 満足するかなぁ。きっと、次ぎの目標を目指すんじゃないか。

 あの手の人物には満足という言葉はない筈だ。次から次へと高みを望むんだよな。


 そんな事で、俺は残る事になってしまったが、事前にカテリナさんとは打ち合わせが済んでいる。 

 会談はパレスを使えと言われたから、のんびりとリビングで休めるな。レイドラが用意してくれたコーヒーを飲みながら、虫の調べをしばし楽しむ。


「あら? 2人だけなの」

「一応、生業がありますからね。交渉を任されました。理性的という事でレイドラが残ってくれてます」


 カテリナさんがソファーに座ったところで、レイドラが席を立つと部屋の端に用意されたコーヒーセットから、コーヒーを持ってくるとカテリナさんの前に置く。


「あら、ありがとう。リオ君に交渉は任せるわよ」

「先ずは、来訪の目的を聴いてみましょう。俺達の基本スタンスは決まっていますから、相手次第でどうにでもできます」


「頼もしいわね。私もそれに賛成よ。でもね、ヒルダが忠告を寄こしたわ。かなり強気でやって来るみたい」


 と言うことは、一戦を辞さずという事になるな。

 思わずカテリナさんと顔をあわせてニヤリと笑みを交わす。


「2人とも、スクリーンで見た悪役の顔をしてますよ!」

 レイドラが注意してくれたけど、こればっかりはね。


「で、リバイアサンの武装は?」

「88mm長砲身砲塔が上下に1基ずつよ」


「小惑星破壊用の掘削機は改造したんでしょう?」

「1千倍にしたけど、あれは武器じゃないわ」

「……ですよねぇ。工具ですから、武器ではありません」


『マスター。あれを1千倍にしたら、荷電粒子砲そのものですよ』


 そんな忠告をアリスが教えてくれるけど、武器ではない。ちょっと出力が大きいだけの掘削用破砕機ってことで認識しておこう。

 さらにはコンテナ受け渡しのマスドライバーも使い道がありそうだ。


 交渉がおもしろくなってきたぞ。上下にある砲塔はフェイクって事だな。宇宙空間でそれ程役立つとは思えないしね。


 そんなことを俺達が考えているとは知らずに、明くる日の午後、5人の運航管理局の連中が、パレスにやってきた。

 パレスの会議室に彼らを通して、俺達はゆっくりと彼らの前に姿を現す。

 通常なら、席を立って俺達を向かえるのが流儀なのだが、彼女達は席を立とうともしない。一応対等という事になるんだろうか?


 管理官が中央で、左右に男性の副官、その両端に女性の護衛という並び方だ。

 宇宙から来たから、宇宙服なのかと思ってたけど、王都でよく見かける服装だ。髪型も変わっていないから、そのまま王都を歩いても誰も気が付かないだろう。

 俺達が席に付くと同時に、右側の副官が口を開いた。


「理由を説明願いたい。ヴィオラ騎士団は宇宙を目指そうとしていると聴いた。それは条約を無視する事になるのだぞ!」

「はて? 我等は運航管理局と条約を結んだ覚えは無いのですが? 我等ヴィオラ騎士団は他の3つの王国とは袂を分かつ者。条約にあるのは3つの王国ではありませんか?」


「とは言え、宇宙空間は我等の版図。他の侵入を許すものではありません」

 今度は左の副官か。それにしても領土と来たか!


「宇宙空間を領土とするのは、おもしろい考えですね。その版図がどれ位広いかわかりませんが、その外側はどこまで続くのですか? この恒星形系を版図とするのならば、他の恒星系との接点は微妙になりますね。その間の空間は広大なものです。それを管理できるとは思えませんが?」


 ムッとした右の男が口を開こうとした時、ジっと俺を見ていた女性が手で制止すると俺に微笑み掛ける。


「正論ですわね。確かに私達の版図は宇宙にありますが、それは航路にあります。航路を通る全ての航宙機は、悲惨な事故を防ぐ為常に運航状況を管理する必要性はご理解頂けると思います。ですから、航路に他の航宙機を航路に乗せる余裕はございません」


 ん? 少しおかしな話になってないか。

 それだと、あらかじめ決められた軌道でのみ、彼らは航宙機を飛ばしていることになる。少なくとも反重力装置は持っているはずだ。宇宙空間で使うならそれを使って容易に軌道を変えることが出来るんじゃないか?


『マスター、大質量の物体を軌道変更するなら、それに見合った出力が必要です。管理局は、大出力の反重力装置をもっていないのではないでしょうか?』


「確かに惑星間航行のコースは限られていますね。いくら宇宙船や航宙機の性能が良くても、運航数が多ければ事故になるでしょうね。スラスター用の燃料にも限りがあります」


 俺の言葉に、管理局の3人が軽く頷いた。なるほど、アリスの言う通りってことだな。

 隣のカテリナさんと軽く目を合わせる。ニヤリと笑いたいところを必死に押さえて、話を続ける。


「惑星間航路、特に第4惑星と第6惑星の間には、小惑星帯が2つもあります。管理局の運用する航宙機では、隕石との衝突コースを避ける為にスラスターを上手くさばかねばならないでしょうね」


「そうです。惑星間を航行する航宙機は数千を越えています。その航路に私達の管制が及ばない航宙機が出現すると混乱の元になります」

「航宙機は全長300m、6千tの大型が主流だ。マスドライバーで打ち上げるような宇宙船では衝突しても事故死するのはそっちだぞ!」


「一応、障害物破壊用に88mm砲を搭載しましたよ」

「何だと!」


 管理官の左隣の男にそう答えると、眉間に青筋を立てて俺を睨んできた。


「惑星間の低燃料航行コース、俗にボーマン軌道と呼ばれるコースには、航行を妨害する隕石は侵入してこないのですか? 俺なら障害物を除去しようと考えますが、運航管理局はそれを運命として受け入れると?」


「巡洋艦を運航させていますわ。数は極秘ですけど、荒っぽい人達ですよ」

 脅しなんだろうな。ちょっとおもしろくなってきたぞ。


「別に一緒に酒を飲むわけではありませんから、どうでもいいことです。俺達の希望は、採掘した鉱石をマスドライバーターミナルで、この地で採掘した鉱石価格と同一で取引して欲しいだけですが」


 俺の言葉を聴いた3人が顔を見合わせて小さく笑みを浮かべる。

 そんな中、バニィさん達がコーヒーを運んで来た。皆の前にカップを並べると、俺の前に灰皿を置く。


「失礼して、一服させて貰いますよ。使う方はメイドに言ってください」


 そう告げて、タバコに火を点ける。驚いた事に管理官達もタバコを嗜むようだ。宇宙でタバコが吸えるのか? これはカテリナさんに是非とも検討してもらおう。


「先程のお話ですが、取引の単位は500tが標準です。私達の航宙機はその単位で荷を運びますからね」

 無理だろうと顔に書いてあるな。


「そうでしょうね。それ位の単位でなければ運ぶのに利益は出ないでしょう。俺達が運ぶ鉱石の総量は3千tですから、少し改造して500tコンテナ単位でをお渡し出来るようにしましょう。マスドライバーのカプセルを荷役単位とすればよろしいですか?」


 俺の言葉に3人の口がポカンと開いた。 

「マスドライバーのカプセルをいくら繋いでも宇宙は飛べないぞ。いくら騎士団が学が無いと言ってもそれ位は分かるだろう!」

「今の言葉は、この国の党首に対する暴言と取ってもよろしいですか? 一応騎士の資格を得ています。いつでもその男にこのブレスレットを投げ付ける事は出来るんですよ!」


 今度は両端の女性が俺をジッと見つめる。いつでも銃を抜こうとしているのが丸分かりだ。


「銃を抜いた瞬間に全員を抹殺しますよ。それぐらいは簡単なことです。それで、そっちの男はどうするんだ? 自分の口にした事の責任も取れない連中がこの俺に会いに来たのか?」


 拳をブルブルと震わせて顔は真っ赤になっている。

 もう一押しして、暴発させてみるのもおもしろそうだ。


「先程の言葉は忘れていただく訳には行きませんか? 私達にも交渉権かあります」

「交渉次第としたいですね」


 どうにか収めたな。中々の人物らしい。女性だと思っていると大やけどを負いそうだ。


「1つ教えてください。3千tもの鉱石をどうやって集めるおつもりだったのですか?」


 管理官の言葉に素早くカテリナさんに目配せすると、小さく頷いてくれた。

 そろそろ俺達の宇宙船を教えるべきだな。

 腕の端末を操作してテーブルの上に仮想スクリーンを展開すると、リバイアサンを表示した。


「これが、私達の宇宙船『リバイアサン』です。全長約900m、総重量は80万t以上。設計仕様では、船倉に3千tの鉱石を収めることが出来艦内余裕がかなり大きいですから、将来は5千tに拡大することも可能でしょう。鉱石採掘の手順はおよそこのような方法で……」


 カテリナさんが、リバイアサンとオルカ、それにドルファンの簡単な説明をしてくれた。その説明に管理局の連中は唖然とするばかりだ。


「1つ教えてください。全ての航宙機がスラスターを持っていませんが?」

「あら、良く気がついたわねぇ。私達の宇宙船は全て重力傾斜を応用して推進するの。スラスターは必要ないわ。それに、貴方達の航路を進もうとも思わないわ。スラスターの燃料を気にしないで済むから最短コースで鉱石を採掘するつもりよ」


「現在の科学では重力推進システムは不可能です!」

「戦姫の一部には使われているわよ。私がその可能性を研究して形にしてみたの。それでも、動力炉は6つ搭載することになってしまったわ」


 今度はカテリナさんを睨みつけてる。その位ではカテリナさんは動じないぞ。


「不可能ですわ。私達もその理論を長年追求してきました。ですが重力加速度を低減することが出来ただけです。少なくとも10倍は必要ですし、反重力装置に給電する電力は核融合炉では低すぎます」

「重力アシストブラックホールエンジン……。核融合炉数基分の出力を得られるわよ」


「その2つの技術の開示を条件とするのは?」

「開示しても良いけど、制御できるかしら? 簡単に暴走するわよ。私達は完全に……。良い、完全によ、制御出来るわ。でも貴方達の技術では不可能なのよ」


「話は終わりだ。そんな馬鹿な話に付き合う必要は無い。ハリボテの航宙機で我等と対等の交渉を望んでいたのだろうが、そうはいかん。万が一宇宙に上がることが出来たとしても、巡洋艦で拿捕すれば済むことだ」


 先程の男がついに切れたようだ。これで、十分に弁明出来そうだな。


「よろしい。今の言葉はしっかりと記録させて貰った。別に貴方達に媚びる必要も無い。他の惑星系の管理局と話し合えば済む話だ。

 巡洋艦で拿捕する時は気を付ける事だ。俺達には宇宙空間で活動可能な戦姫がある。戦姫のレールガンに堪えられる巡洋艦を派遣するのだな。……レイドラ、衛兵を呼べ。会談は終わりだ。この惑星を管轄する航路管理局は俺達に宣戦を布告した」


 俯いていた管理官が突然顔を上げると笑い出した。

 芝居だと思っているのかな? 

 


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