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203 ドロシーの妹達


 10日程掛けて白鯨の点検と整備、その上改修までもが行われ、再び白鯨の試験歩行が行われた。

 今回の試験飛行にはドミニクにレイドラ、それにクリスは同行していない。

 例の幕僚計画の為に副艦長や操舵手を艦長にすべく訓練を行うそうだ。

 冗談ではなく、本当にやるつもりなんだな。


 中継点を出て2日目。白鯨のマンガン団塊採掘試験は順調にこなされていく。当初、問題視してい採掘の時間も、回数を追って短くなってきた。やはり慣れは重要ということだろう。

 水タンクの増設は既に手配済みだそうだ。それでも、シャワーの量は1人1日5ℓに制限するらしい。


 今回も巨獣が出て来るのかと思ったりもしたが、最後まで何も起こらずに終わってしまった。

 それはそれで良いことには違いないのだが、ちょっと拍子抜けした感じだな。


中継点のコンテナ桟橋に鉱石を満載したコンテナを卸して、白鯨は隠匿工場の桟橋に無事横付けされた。

 俺達は桟橋に下りて、カンザスに向かう。


 やはり住み慣れた場所が一番だな。カンザスのリビングに到着すると、ライムさんの入れてくれたコーヒーを飲みながら、とりあえずタバコに火を点けた。


「もう、数回荒地で訓練すれば問題なさそうね。元ヨット部のキャプテンだけあって操船の指揮も中々だわ」

 「ルビナス艦長なら十分でしょう。輸送船のデンドロビウムの艦長のフレシアは今回同行しませんでしたが、王都との資材輸送で経験を積ませています」


 デンドロビウムは副部長らしい。ギガントの操縦はマネージャーとベンチウオーマーらしいけど、ちゃんと操艦してたから問題ないだろう。さすがはヨット部だ。


「ヴィオラの艦長のフィーネは艦長として十分に務まるわ。になるのね。カンザスはどうなの?」

「コロンも問題なしよ。筆頭のベラスコとの連携も十分ね」


 もう1つの問題を忘れてるぞ。ドロシーは1人だ。2人の妹を作るとカテリナさんは言っていたけど、中継点と白鯨の操艦をアシストをする事になる。レイドラに張り付いてるドロシーがカンザスに付くとなると、誰がリバイアサンをアシストするんだろう?


「リバイアサンは誰が艦長になるの?」

「そうね……。私とレイドラで行なうわ。問題はオルカだけど、トラ族の参加を打診してみようと思うの」


 どうにか編成ができたようだ。

 俺はこのままだと、リバイアサンになるのかな?

 骨組みができ始めた宇宙船の命名をカテリナさんに依頼された時、とっさに出た名前がリバイアサンだった。


「良い響きだけど、それも神話の中に出てくる名前じゃなかったかしら?」

「白鯨がとしたかったんですが、既に使われてました。大海原に住まうとてつもなく大きな神獣の名を頂くことにしました。オルカやドルファンもいるんですから海で統一です」

「海で統一? それも良いわね」


 それ以来、白鯨を遥かに超える大型宇宙船はリバイアサンと呼ばれることになったんだよね。

 名前が決まると、それに合わせるべく施工設計の見直しがアリスによって行われたが、極めて短時間だったから、どこが修正されたか誰も分からないんじゃないかな?

 アリスに聞いてみたら、それらしくと言ってたんだけど、完成図を見る限り歯クジラの特徴が際立っただけのように思える。

 確かリバイアサンは竜のような形だったと思うんだけど、それを知る者は惑星ライデンにはいないようだ。

                ・

                ・

                ・

 ヴィオラとカンザスが横に並んで荒野を進む。

 中継点で5日休養したカンザスは俺達を乗せてマンガン団塊採掘に出掛けた。アレク達は、白鯨の部分改造を行った後に、今度は長期の航行試験を行なうようだ。次に一緒になる時は、ビオランテでのバカンスになる。

 良く働き、良く遊ぶ……。それが俺達の望むものだ。中継点の人達も、俺達の出掛けている間を利用してビオランテの休日を楽しんでいるに違いない。


「やはり、ここはゆったりしてますね。ソファーのクッションも良い感じです」


 そんな事を言いながら、新しいマグカップでコーヒーを飲んでいる。どうやら、ベラスコ達にライムさんが新しく購入した物らしい。

 ベラスコの隣に座ったジェリルも嬉しそうだ。でもにこにこしているのは、ジェリルの隣にドロシーが座っているのが原因かも知れない。レイドラの傍にいるのだが、ドロシーの反対側にはフレイヤが坐ってるからね。


 扉が開いて、カテリナさんが入ってきた。

 アリスのメールを見て、先ほど慌ててリビングから飛び出して行ったんだけど、何をそんなに慌てていたんだろう?

 空いている席に坐ると、俺達に笑顔を見せる。こんな表情をするときは、ろくな事が起きないんだよな。


「ドロシー、妹が出来たわよ。今日からお姉さんなんだから、色々と教えてあげてね。さあ、入ってらっしゃい!」


 俺達が驚いてるのを気にせずに、扉に向かって声を掛けた。

 扉をあけたのはエミーだった。開けた扉からトコトコとリビングに入ってきたのは、3人の女の子だ。ドロシーよりちょっと幼い感じに見えるから、なるほど妹なんだろう。でも、3人の顔がまるで一緒だぞ。三つ子って感じなのかな。顔はどこと無くドロシーに似てるけど、ローザとはちょっと違う気がするな。


「三つ子なの?」

「そうよ。ナンナにネンネ、それにノンノという名にしたわ。カンザスにナンナ、白鯨にネンネ、中継点にノンノを置くわ。これで、ドロシーをリバイアサンに乗せられるわよ」


 フレイヤとクリスが立ち上がると、ドロシーとドロシーの妹達を連れてリビングを出て行った。その後をジェリルとエミー達が追い掛けていく。たぶん食堂に行ったんだろうな。


「3人とは、カテリナさんの発案ですか?」

「アリスよ。リバイアサンの操艦はドロシーに任せるべきだと言ってたわ」


 能力的にはそれ程差が無いんだろうけど、ドロシーには感情があるからな。あの三つ子もいつかはドロシーのように感情が育つのだろうが、それには時間が掛かりそうだ。ローザのように常に面倒を見てあげる者がいれば良いんだけどね。


 カンザスが進行方向を変える。どうやら鉱石を見つけたようだ。


「周辺に巨獣はいないようですね。アレクさんからサンドドラゴンの話を聞きました。まだまだこの辺りにも大きいのがいたんですね」

「ああ、俺も驚いたよ。油断は出来ないな」


「それ程多くは無いけど、目撃例はあるわね。西に向かえば更に増えるかも知れないわよ」


 俺達の会話に、カテリナさんが教えてくれた。

 そうなると、類別した図鑑が欲しくなるな。今度レイトンさんに相談してみるかな。


 鉱石採掘が終ったのはその日の夕方近くだった。食堂から帰ってきたフレイヤ達はドロシー達と一緒にスゴロクで遊んでいる。

 今回の鉱石採掘の航行は巨獣に邪魔されずに8日で終える事が出来た。いつもこうなら良いんだけどね。

 中継点の外でコンテナを降ろすと、専用桟橋に2隻が停泊する。

 これで、5日間の休養が取れる。


 休養と言っても、やる事は多い。

 国政の殆どは宰相に任せているとは言え、俺の承認が必要な書類もあるようだ。事前にドロシーが受け取って、アリスが仕分けてくれているから、殆どがサインするだけで済むのがありがたい。


 ひたすら自室でサインを続けて半日が過ぎる。

 昼食にリビングのテーブルに着いたのは俺だけだった。

 ライムさんに聞いてみたら、やっと完成した大型プールに出掛けたらしい。

 ようやく出来たんだな。

 あれから、3年は過ぎてるんじゃないか? 娯楽は生活よりは後回しになってたが、やっと出来たという事は、それなりに拠点経営が上手く運んでいる証だと思う。

 ザクレムさんを紹介してくれたヒルダさんには感謝のしようがないな。


 とは言え、誘ってくれたって良いんじゃないか?

 少し腹が立ってきたところで、食後のコーヒーを飲んで心を落着かせる。


 そんな所に、リビングの扉が開いてカテリナさんがやってきた。

 カウンターにいたライムさんからコーヒーを受け取ると、俺の隣に腰を下ろす。


「皆は、早速出掛けたみたいね。明日、リオ君に会って欲しい人が王都からやってくるのよ。私も同席するけど、会って交渉して貰えない?」

「はあ、とりあえずの書類は片付けましたから良いですけど……、何方ですか?」


 俺の言葉をコーヒーを飲みながら聞いている。そんなカテリナさんを見て、俺はタバコに火を点けた。


「運航管理局よ。私達の話を王族から聞いたみたいね。どんな条件を出してくるか楽しみだわ」


 いよいよなのか? こっちから出向かねばならないと思っていたが、向こうから来てくれるなら丁度良い。

 条件と言うよりは、難癖を付けて来るに違いないけど、これはちょっと作戦を考えないといけないな。


「もしも禁止するようなことがあれば?」

「宇宙は広いはずよ。一部の人間が独占なんてできるのかしら?」


「そうですよね。なら、星間貿易から締め出すと言ってきたら、俺達で新たな管理局を作りますか」

「そうねぇ。ライデン恒星系から締め出されたなら近くの恒星系にマンガン団塊を売ることも出来そうね。かなり高圧的な態度で来るわよ。かつて王国が星間貿易に食指を伸ばそうとして戦になったのは知っているわよね」


 タバコの火を点けながらカテリナさんに頷いた。

 国王陛下に聞いた話だと、それで王国の保有する戦姫が各国1機を残して破壊されたということだ。


「場合によっては、先手を打つこともできます。人的被害が出ない範囲なら、こちらから攻撃してみますか?」

「できるの? ……そうね。アリスならどこにでも行けるし、攻撃ができるわ。相手の出方次第で構わないわ」


 互いに顔を見合わせてニヤリと笑みを浮かべる。

 こっちもかなり高飛車な態度を示せるということだ。

 

「落としどころは、私達の航跡採掘を邪魔しないこと。今まで通りにマンガン団塊を購入し、我等の必要な製品を他の恒星系から手に入れること……。これで良いですね」

「新たな点は、最初のところだけね。かなり望みが小さいけれど、それで良いのかしら?」


「ライデンの現状を考えればこれで十分でしょう。資源が枯渇した時には、再度見直せば済むことです」

「条約期間は100年単位とすべきでしょうね。その時に改めて条約を見直せば良いわ。向こうが見直しを拒否すれば、私達で新たな航路管理局を作れば良いわけね」

「まあ、そんなところです。とはいえ、明日の会議でいきなり発砲されないとも限りません。俺の方は何とでもなりますが、カテリナさんは白衣の下にコンバットスーツを着用してくださいよ」


「そうね。あり得る話だわ。でもその時には彼等も帰れないし、航路管理局が無くなってしまいそうね」


 かつて、恒星系ライデンには航路管理局があった、ということになるんだろう。俺が手を出さなくとも、アリスが勝手に動きそうだ。


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