201 バルゴ騎士団からの単独会談依頼
「ところで、白鯨を新たに作ることは可能ですか? また、ナイトを我等が手に入れるということは?」
「生憎と特殊な動力炉を使っています。カテリナさんが何とか形にはしましたが、制御を人が行うことは困難です。その為に高度な電脳を作ることになりました。
ナイトの有効性は伝説級で実証されていますが、搭載数の制約が出てきます。ナイトを4機搭載するためのカーゴ区画なら、戦機を8機は搭載できますよ」
「現在では、無理と言うことか……。だが、騎士でなくとも操れるというのは魅力ではあるな。その上、あの機動だ。明らかに戦機を越えている」
「ゼロと戦機の中間に位置する機体だと思っています。大型砲を使えるような形を模索した結果がナイトです」
広範囲に索敵して巨獣を狩るならゼロの方が優れているだろう。そもそも騎士団は戦闘集団ではない。マンガン団塊を採掘する途中で遭遇する、巨獣の脅威を振り払うために最低限の武装が許可されているのだ。
艦砲は口径100mmを越えないこと、搭載する爆弾は100kg以下とされている。俺達は貴族枠、さらには独立国となったことで制限がないが、慣れ親しんだ88mm砲を愛する連中は多いんだよな。
「伝説級との闘いを観戦に王都より急遽フェダーン様がいらっしゃいました。戦姫3機とナイトの連携をかなり評価し、1個小隊を作るよう依頼を頂いております。思惑は12騎士団の皆さんと同じに思えます」
「さすがはフェダー様。既に動いていたとは……。王国の動きは我等を越えているのか」
「となれば、我等の役目は広域監視を主にすれば良いであろう。戦機を持つ大型艦が周辺にいると知れば中規模騎士団にとっては嬉しいことに違いない」
若い団長の発言に、バルゴ騎士団長が言葉を連ねる。
やはり、王国と12騎士団は連動しているのだろう。軍を動かすのが躊躇われる事態には、12騎士団にその役目が下りていたんじゃないかな。
「それならば我等も協力できそうです。監視用円盤機の半重力装置が既存と尾内であるなら、カテリナさんが開発した新たな半重力装置に換装することで、行動半径と滞空時間を延ばすことができますよ」
「是非とも欲しいところだ。改造ではなく新造でも構わん。値段と仕様を我等に送って頂けると助かる」
商談が出来てしまった。
パンジーの量産機を作ることになりそうだな。
「最後に、1つお願いしたいのだが? この中継点に我等の事務所を構える許可を頂きたい」
「さすがに、事務所を12も作る場所はありませんし、そうなると専用の桟橋も必要になるんじゃありませんか? 中継点の西側に非常用の桟橋を作ってはいますが、これは緊急避難用ですから供与することは出来かねます」
まさか乗っ取ることを考えているとは思えないんだが……。
俺が急に厳しい表情になったことに、バルゴ騎士団長が驚いていたが、急に笑い出した。
「ワハハハ……。そうとったか。そうではないぞ。事務所は1つで良い。この会議室ほどで十分じゃろう。我等の連絡窓口ということじゃ」
「それなら、可能です。そうなると、12騎士団の西の活動拠点は?」
「我等テンペル騎士団の中継点に設けます」
南の中継点から西の中継点までは5千km近くありそうだ。
南部には零細騎士団もたくさんいるだろうから、12騎士団の監視はありがたい話に違いない。
「将来は南岸を西に移動するおつもりですね?」
「テンペル騎士団のように単独とはいかぬであろうが、近々に場所と担当する騎士団を決めるつもりじゃ」
南岸は12騎士団が担当するということか。中央を王国が担当するとなれば、北はどうするのだろう。
巨獣の危険性が半端じゃないからなぁ。サンドドラゴンのような奴が出てこないとも限らない。
西への躍進は南からということになりそうだ。
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会談を終えて、リビングでコーヒーを頂く。
いつものメンバーがソファーに集まって、思い思いの飲み物を飲んでいるんだけど、コーヒーは俺一人のようだ。
ドミニクとクリスは、ホッとした表情でブランディーをグラスに並々と注いで飲んでいる。将来、アレクのようにならないかと心配してしまう。
「結局は、今まで通りということなの?」
フレイヤには会談の裏が分からなかったようだ。竹を割った正確だからねぇ。
「俺達の協力を仰ぎたいということなんだろうな。12騎士団ではない俺達に目を掛けていると思われたくないのが13番目の星座の話だと思うよ。そう言う役目を作ったということなんだろうな」
「円盤機を新たに作るような話もしてたけど?」
「量産型のパンジーを作ることになる。運用時間が円盤機の倍以上だから、広範囲の索敵が可能だ。やはり2騎士団だけあって、他の騎士団の事は良く考えているね。ナイトの購入を打診していたけど、俺達以外に現状で運用ができるのは軍ぐらいだからね。機動は戦機を凌ぐけど、大きさが問題だ」
ナイトの運用を本格的に考えるなら白鯨の劣化版ということになるのだろうか?
ラウンドクルーザーに搭載するとなれば巡洋艦でも4機が良いところだ。ナイト8機を緊急展開できる飛行船は、フェダーン様も欲しがるかもしれないな。
「12騎士団の事務所は商業区域の空きテナントでも問題なさそうだけど、マリアンに場所の確保を頼んでくれないかな? 1部屋でも良いようなことを言ってたけど、少なくとも2部屋は必要だろう」
「私が伝えとくわ。パンジーの方はガネーシャで良いでしょう? カテリナさんは中々捕まらないのよ」
フレイヤの言葉に頷いておく。これでとりあえず課題は無くなったのかな?
俺がタバコを取り出したのを見て、メープルさんが灰皿を運んできてくれた。俺の耳元に顔を寄せてくる。
「バルゴ騎士団が、単独で面会を求めているにゃ」
「あの場で言えなかったということかな? 場所は2階の会議室で良いだろう。人数は言ってなかった?」
「2人と伝えてきたにゃ。私的な会見とも言ってたにゃ。夕食後ということだから2000時で良いかにゃ?」
「それで良いよ。ありがとう」
皆が俺とメープルさんの話しに聞き耳を立てていた。
今度は誰を連れて行こうかな?
「私達が同行しましょう。リオ様お1人というのも公爵としての矜持を疑われます」
エミーに言葉にフレイヤが頷いている。
「この普段着で良いんでしょう? それともビキニ?」
「ツナギで良いんじゃないか? 俺達の準戦闘服だからね」
パレスでは似合わないだろうけど、制服で暮らしたいとは思わない。
騎士団は自由が尊ばれるからね。
「単独会見の目的は何かしら?」
「12騎士団が揃ったところでは言えなかったとなれば、1つだけ考えられるな。北の中継点を作るつもりだろう」
場合によっては壊滅しかねない。北に中継点を作ることが可能かどうかを確かめるつもりなんだろう。
12騎士団の同意を得ることが難しいと判断して、わざわざ昼の会談を申し込んできたに違いない。
あれは出来レースだったからね。俺達の立場を考えて落としどころまで用意していた。
12騎士団がやって来た本当の目的は、多分これからの会議にあるんだろうな。
「可能なのかしら? 王国でさえ北緯40度付近に中継点を作っているのよ」
「その防衛を考えたからナイトを打診したんだろう。かなり無茶な話に思えるけど、出来ないことはないんじゃないかな。ちょっと頭を冷やしてくるよ」
のんびり岩風呂にでも浸かりながら考えを纏めておこう。
メープルさんにクラッシュアイスをたっぷり入れた大きなマグカップにブランディーを注いで貰った。これで長湯できそうだな。
大きな岩風呂だけど、お湯の温度はぬるいぐらいだ。お湯の温度を上げることはできるんだが、長湯には丁度良い。
仮想スクリーンをアリスに頼んで開いてもらい。会話を楽しみながら中継点として持つべき機能と、巨獣が跋扈する場所にそれを作る場合の課題を纏めていく。
「やはり地下施設が一番ということになるね」
「タイラム騎士団の中継点が参考になります。地上施設は桟橋とガントリークレーンだけでした」
「周囲の頑丈そうな壁もあったな。あれを破壊されたことがあるらしいよ」
厚さ3mを越える石壁も巨獣の前には破壊されてしまうらしい。ましてや北に位置した中継点ともなればその危険性はかなり高くなる。
しばらくタナトス騎士団の中継点の構造図を眺めていたが、西の中継点を思い出した。
あれは、土砂で土台を高く作っているんだよな。それで良いのかもしれない。
『西の中継点の土台の高さは20mほどですが、さらに高くすべきでしょうね。土砂の硬化についても考えるべきでしょう』
「できれば金属製にしたいところだけど、そうはいかないだろうな。だけど50mmほどの金属壁で取り囲みたいところだ。その内側は硬化剤で対処できるだろう10mほどを硬化するなら、その内側は土砂を突き固めるだけで済みそうだ」
『その上の壁となれば、緊急展開ができるような回廊を作るべきかもしれません』
「騎士を集めることもできるか……。ん? 別に騎士でなくとも良いな。自走車にノイマン効果弾を発射できる砲を乗せても良いかもしれない」
ゼロ用に実用化したノイマン効果弾はロケット推進だから、自走車への負担も減るはずだ。偵察車でも十分じゃないかな?
『偵察車のフレームを使えば頭上に3発は搭載できます。戦車よりも使いでが良いのではと推測します』
簡単な概念図が仮想スクリーンに表示された。
「これは?」
いきなり俺の隣に体を寄せてきたのはカテリナさんだった。髪があちこち跳ねているから、風呂に入るのは正しい選択なんだろうけど、それならジャグジーに行って欲しかった。
『マスターが考えた拠点防衛用の車です。1個分隊で防衛に当たればかなり効果があると推測します』
「呆れた……。ちょっと目を離すと、こんなことをしてたのね。でもこれならチラノにも使えそうね。それに値段もそこそこになるわ」
腕に付けた形態端末を使って画像を取り込んでいるけど、その端末は防水なんだろうな。俺が貰った端末に似てるから、俺の腕時計型端末も防水なのかもしれない。
「こっちは西の中継点ね。少し形が変わってるけど」
『新たな中継点です。コンセプトは巨獣の突進でも壁を抜かれないことです』
カテリナさんがちょっと首を傾げて、俺に顔を向けてくる。
「ヴィオラ騎士団の新たな中継点ということかしら? 衛星都市のようなことを考えてたということね」
「俺達にはこの中継点で十分でしょう。白鯨や宇宙船を使えば新たな中継点の必要はありません」
「輸送量が桁違いということかしら。ドミニク達の指揮所を2つの艦に設けている最中よ。完成すれば4つの艦隊指揮がその場で出来るわ」
俺のブランディーを美味しそうに飲みながら話している。
少しは残して欲しいな。一口飲んだだけなんだからね。
「そうなると、これは? 西の中継点の更に西へ作るのかしら?」
「西ではなく北にです。バルゴ騎士団が単独会見を申し込んできました。午後の会議の流れからすれば、この概念設計が役立つはずです」
仮想スクリーンを、カテリナさんはジッと見つめたままだ。
チャンスだから、今の内に……。そっと風呂から出ようとすると、片足をカテリナさんに掴まれてしまった。
「まだ出るのは早いんじゃないの? それとも、お湯の中は嫌と言うことかしら?」
しばらくは静かだったんだけどなぁ……。
カテリナさんを風呂から抱き上げて板の間にそっと下ろした。