200 12騎士団がやってきた
かなり大きくなった中継点だが、さすがに12騎士団のランドクルーザーを全て停泊させることはできないし、そんなことをしたらこの中継点を利用する他の騎士団から顰蹙をかうことになるだろう。
騎士団の筆頭的な存在である12騎士団だけど、サーペント騎士団が壊滅してるから現在は11の騎士団なんだよな。その多くが黄道にある12の星座から名を取っているのもおもしろいところだ。かつての地球を思い出して付けたんだろうな。
「高速艇でやってくるから、1400時に会議を開くと伝えてあるわ。会場はパレスの会議室。中央桟橋のホテルに滞在の予定だから、ベラスコ達に案内を頼んであるの」
「あのベラスコが今では筆頭騎士だからね。緊張して無ければ良いんだけど」
俺の言葉にドミニクが笑みを浮かべる。たぶん緊張すると考えているんだろう。だけど、外には適任もいないから、ここはベラスコに頑張って貰おう。
「俺達は?」
「最後で良いわ。向こうから依頼されたのもあるけど、リオは一国の主でもあるのよ。騎士団としては向こうが上になるんでしょうけどね」
いつもの国会と同じで良いってことか。
出席者は俺の外にドミニクとクリスで変更なしだ。もっとも、会議の様子は皆がリビングで仮想スクリーン開いて見てるんだろうけどね。
「私達はコンバットスーツで良いけど、リオは騎士の制服を着てね。マントと剣も必要なんでしょうけど、ヴィオラ騎士団の中継点なんだから制服とネクタイ明けで良いわ。でも装備ベルトは着用して、拳銃も付けた方が良いでしょうね」
略式で良いということか。
そういえば、リボルバーをずっと整備してなかったな。
時間まで、分解整備でもしておくか。
寝室から装備ベルトと簡易修理キットを持ってくると、装備ベルトのホルスターからリボルバーを取り出して、シリンダーをスライドさせると中の弾丸を取り出す。
カートリッジに錆び等出ていたら、戦闘時にシリンダーと密着して外れないことだってあるからね。
丁寧にオイルを塗布した布で清掃しておく。
「それがリオの拳銃なの? 大きいのね。その弾丸だけで私の親指ほどもあるわよ」
クリスは初めて見たのかな? 44マグナム弾の大きさに驚いている。
「面倒を見てくれたドワーフの爺さんの形見なんだ。どうにか撃てるんだけど、片手では無理かな」
「荒野で1人と聞いて驚いたけど、それを持っていれば獣は怖くなかったでしょうね。私達は9mm弾だから、その弾丸の半分ほどの大きさよ」
「人間相手なら、9mm弾で十分だと思うよ。一度海賊相手に使ったけど、海賊のコンバットスーツを貫通して背中に大穴空けていたからね」
「あのときね。近くにマシンガンは無かったの?」
「ネコ族のお姉さんが渡してくれたんだけど、すぐにマガジンを使い切ってしまったんだ。ドワーフの若者とネコ族のお姉さんでこれからは拳銃で戦おうと誓ったのを覚えてるよ。これで応対している内に海賊が去って行った」
要所に武器庫を置いているんだけど、マガジンの数が問題だな。少しは改善してるのかな?
弾丸の清掃を終えると、リボルバーの可動部分に軽く油を差して丁寧に拭きとる。ゆっくりシリンダーを回して異常が無いことを確認したところで、再び弾丸を装填してシリンダーを閉じた。
「ドミニク達も銃の手入れをしてるんだろう?」
「ベルッド爺さんにお願いしてるわ。使わなくとも半年に1度はやって貰ってるわよ」
部品点数が多いし、半自動だからなぁ。試射も必要なんだろうな。
リボルバーをホルスターに戻して、タバコに火を点ける。
これでしばらくリボルバーの手入れは必要ないだろう。
リビングにエリー達が現れた、そろそろ昼食ということかな?
昼食の野菜サンドとポトフを頂いていると、笑みを浮かべたカテリナさんが現れた。
しばらく顔を見せなかったのはラボに入り浸っていたせいだろう。白衣も少しよごれているんだよね。
メープルさんが、ちょっと怖い目で見ているから、食事の前にジャグジーに向かった方が良さそうに思える。
俺の隣に腰を下ろすと、耳元で小さく囁いた。
「目途が立ちそうよ。15日を過ぎてもまだ生きているわ」
思わずカテリナさんに顔を向けた。
会心の笑みを浮かべてカテリナさんが頷いてくれた。
「本当ですか?」
「嘘じゃないわ。でも問題があるから生存は一か月までね」
どのような問題なのかは分からないけど、カテリナさんがそこで終えると断言するからには、医学と科学ではそれ以上の研究がこの世界の倫理あるいは教会の教えに背くということなのかもしれないな。
「1つ、大きな問題が出てきたの。これはレイトンの助力が必要になりそうだわ。でも大きな飛躍よ」
「あまり急がずに研究してください。時間はたっぷりあるんですから」
笑みを浮かべたままのカテリナさんだったが、俺の皿からサンドイッチを1つ摘まんで、席を立った。歩いて行った方向は……、ジャグジーだな。メープルさんが困ったような表情をしてるけど、後で俺にお小言を並べないかとちょっと心配になってきた。
食事が終わってコーヒーを飲んでいると、ドミニク達がさっさと自室に戻っていく。女性は時間が掛かるからねぇ。
コーヒーカップを持ってソファーに腰を下ろし、タバコを1本。
俺の準備は着替えるだけでいい。10分も掛からないんじゃないか?
「まだ準備をしないの?」
「1400時だから、40分も余裕があるよ。でも、そろそろ着替えてこようかな」
フレイヤのお小言が始まりそうだから、タバコを携帯灰皿に入れて、残ったコーヒーを喉に流し込んだ。
寝室に向かうと、ベッドの上に礼服が並べてある。エミーが準備してくれたのかな。
着替えを終えたところで、壁に埋め込まれたクローゼットを開き、大きな鏡に姿を映した。
ネクタイもちゃんとしてるな。メープルさんに直されずに済みそうだ。
寝室を出て、再びソファーに戻ったが、まだ時間が30分近くある。
タバコだけで我慢するか。
ゆっくりと味わっているとドミニク達が現れた。
体の線がそのまま浮き出るようなコンバットスーツ姿に装備ベルトを付けただけだ。強いて言えば左胸と背中に、ヴィオラ騎士団のロゴマークが付いているぐらいなんだよな。
念入りにメイクをしたのかと思ってたけど、案外軽い感じがする。素が美人は得する典型だな。
「まだ時間がありそうね。既に何組か会議室に入ったそうよ」
「人数制限をしてるの?」
「向こうから、各騎士団とも2名と告げてきたわ」
団長と副団長という感じかな。
しばらく世間話をして時間を過ごし、10分前になったところで1階の会議室に向かった。エレベータを使えば5分も掛からないけど、1400時の10分前には12騎士団が勢ぞろいしたようだ。
ノックを2回すると会議室の中で席を立つ音が聞こえてきた。
一呼吸おいて扉を開けて室内に足を踏み入れる。そのままヴィオラ騎士団の旗が壁に下がった場所に向かう。
席に座る前に集まった連中の顔を眺めると見知った顔もいるようだ。
軽く頭を下げると、騎士団の連中が一斉に頭を下げた。
「先ずは座って頂きたい。公爵の称号は得ているけど、今でも騎士の1人を自負している。同じ騎士団であれば対等で話をすべきだと思う」
俺を真ん中にして左右にドミニクとクリスが座る。
俺達が腰を落ち着けたところで、騎士団の面々が腰を下ろした。
そのタイミングを見計らったかのようにメープルさん達がワインのグラスを配り始めたんだけど、いつの間に入ってきたんだろう?
皆にワインが配られたところで、グラスを取って立ち上がる。
ある意味儀式的なところがあるけど、「騎士団の活躍を祈って、乾杯!」と言いながらワインを一口飲んだ。
今度は一斉に腰を下ろす。
さあ、これで会議を始められる。
「12騎士団の皆さんから会談の申し入れがありました。現在のところ大きな異変は無いように思えますが?」
「スコーピオ以後は静かなものじゃ。だが、リオ殿達は伝説級のサンドドラゴンを討伐したと聞いたぞ。よくも倒せたものじゃな」
この御仁は、スコーピオの戦勝パーティで俺達を12騎士団に迎えようと言ってくれた人物だな。バルゴ騎士団の団長だったはずだ。
「白鯨の試験航海で見つけました。コンテナターミナルに向かっていましたので、戦姫3機を出動頂いて何とか倒した次第です」
「リオ殿は出撃なさらなかったと聞き及んだが?」
「今回は状況を見ておりました。やはり3王国の戦姫が揃うと敵は少ないものと」
「その白鯨じゃが、リオ殿の感想はいかに?」
「まだまだ訓練が不足しているようです。サンドドラゴンを倒したことで、クルーの結束は確かなものとなりましたが、しばらくは訓練を続けることになるでしょう」
「西には向かわんのか?」
「最初に大陸の西岸に到達できた騎士団は、長く騎士団の間で評価されるに違いありません。いずれは西岸を見てみたいと思っていますが、現在は高緯度地方に目を向けています」
「西岸到達の一大偉業は、他の騎士団に任せると?」
「白鯨を使えば明日にでもできそうなものだが……」
そういうことか。確かに白鯨なら可能だろう。
だけど、多くの騎士団と王国が協力して、少しずつ西を目指していたに違いない。
その流れをいとも簡単に断ち切ると、どんな支障が出てくるか分からない。
せっかく北緯55度近辺に中継点を見付けたんだから、俺達はこの中継点を拠点に活動していた方が、多くの人達にとって都合が良さそうだ。
「西への進出は3つの王家が騎士団を保護するべく動いています。現在建設中の西の中継点が完成すれば、3王国の戦姫は西の中継点に移動するでしょう。コンテナターミナルには、3王国の機動艦隊が移動するのではないかと」
「ふむ。その話はエルトラム国王陛下の話しに通じるものがある。ヴィオラ騎士団がおらずとも、西の中継点は盤石であると言っておられた。
今回、我等が出向いたのは、12騎士団が回り番で西へ進出する騎士団の護衛をするというもの。できればヴィオラ騎士団に12騎士団に加わり、一緒に行動して貰いたいと思っておったのじゃ」
それが本音なのかな。
とはいっても、俺達が12騎士団に加わるには色々と問題もありそうだ。騎士団設立が王国の建国に関わるような騎士団ばかりだからなぁ。
その後の騎士団の乱立を憂いて、それなりに騎士団を導いてきたはずだ。
俺達が安易に加われるものではないんじゃないか?
「タイラム騎士団の中継点でお話ししたように、我等ヴィオラ騎士団が安易に12騎士団に加わることはできません。それは、騎士団設立以来の歴史があまりにも異なります。
大変うれしい申し出ではありますが、12騎士団は我等騎士団の目標とするところ。荒野の掟に従い、騎士団同士の義を重んじる歴史ある騎士団に我等が加わることはできないと思います。
とはいえ、12騎士団を我等の手本とする以上、その動きに連動することは可能だと思います。我等に手伝いができることなら喜んで従いましょう」
12騎士団の筆頭は、既に老境にあるバルゴ騎士団の団長だ。
俺の言葉に頷きながら、ワインを美味そうに飲んでいる。つられて何人かがグラスを手にしているようだ。
「さても頭が固い御仁じゃな。2度断られてしもうた。だが、その心意気は我等に同じとみたぞ。落としどころは難しくなるが、無いことも無い。
リオ殿が、我等12騎士団を高く評価してくれるのが嬉しく思う。
そこでじゃ。老い先短い爺の冥途の土産として、1つお願いしたい。12騎士団に連なる存在、13番目の星座になるのはどうじゃ? 12騎士団ではないのならリオ殿の言い分にも合致すると思うがのう」
「オヒューカス……。復活ですか」
「ほう。知っておるのか? 今では神官でさえ、その神話を知る者は余りいないのじゃが」
黄道12宮が12と定義されたのは、1年を12か月としたからなんじゃないかな?
ヘビ使い座が入ってるんだけど、それを知る人は少ないだろう。
占星術では13の星座で占う場合もあるらしいけどね。
だけどバルゴ騎士団長の提案は検討に値するんじゃないかな?
世間的には12騎士団はそのままだ。13番目の騎士団というなら、ある意味名誉騎士団と捉える連中が多いだろう。「なんだそれは?」と疑問を持つ騎士団には12騎士団に成りたくても成れない騎士団ということで憐れみを持つかもしれない。
俺達は世間的な評判をあまり気にしてはいないから、それはどうにでもなることだ。
ドミニクに顔を向けると、視線が重なった。
小さく頷いてくれた言うことは、賛意とみて良いのだろう。
「12騎士団を支える騎士団として、その称号であればお受けいたします」
「そうか! 受けてくれるか。我等12騎士団には加わらず、必要に応じて協力頂ける存在となって頂けると?」
「もとより、騎士団は義を重んじます。助けなければならない存在を見て見ぬ振りは未だかつてなかったことです」
「いくつもの活躍を聞いておる。救援を求める声に答えるのは難しいことではあるな」
ランドクルーザーの速度、戦機の機動力、円盤機の行動時間と武装……。色々と問題があるんだよな。
助けを求める通信を傍受しても、その距離を知って机に拳を叩きつけることが何度もあったに違いない。
「カンザスの移動速度、リオ殿の戦姫の機動については眉に唾を付けたくなるが、助けられた騎士団はその恩を一生忘れまい。とはいえ、軍との争いも起こしておるようじゃな。国王陛下よりその話を聞いた時には耳を疑ったぞ」
豪快に、ワハハハと笑っている。
何のことだ? という視線を筆頭騎士団長に向けているけど、ある程度は知っておくべきだという国王陛下の配慮なのだろう。
「だが、それはリオ殿だから出来た事。我等ではそこまでの行動は出来ぬであろうな。それに単独で軍艦に乗り込み艦長の腕を切り落としたとはなぁ……」
「義に反する行動を取るなら、たとえ全軍を相手にしようとも荒野の掟で対処するつもりです」
我が意を得たりという表情で俺に頷いてくれた。
12騎士団としては、王国とのつながりが色々とあるのだろう。当然のごとく軍ともかなり深いところで繋がっているはずだ。
自分達で動くには問題がありすぎるということになれば、俺に話がまわってくるんだろうな。