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195 地中を進む巨獣


 カテリナさんが俺から腕を放してくれた。

 ぐっすりと寝てしまったけど、ちゃんと睡眠を取っているのだろうか?

 この際だから、眠れるだけ眠って貰おう。

 そっとベッドを抜け出して衣服を整えると、左端のソファーに座って飲みかけのブランディーを飲んだ。

 仮想スクリーンを開いて状況を確認すると、まだ戦闘開始には時間がありそうだ。

 アレク達もナイトのカーゴ区域で酒を飲んでるかもしれないな。


 ふと、テーブルを見ると、灰皿が置いてあった。上を見ると換気口がある。ここでタバコを楽しめるのかな?

 1本取り出して火を点けると、煙が竜巻のように渦を巻いて換気口に吸い込まれていく。


「あら? リオ1人なの」

「カテリナさんは仮眠室でお休みだからね。それで、そろそろ始めるのかい?」


 テーブル越しにクリスが腰を下ろして、ジュースを飲み始めた。


「0700時に状況開始よ。フレイヤにビデオ撮影を頼んでおいたわ」

「10分後になるのかな。その前にカテリナさんを起こしておくよ。後で恨まれそうだからね」


「ドミニクが隣にいた時には驚いたわ。でも、一応そう言うことになってたみたいね」

「レイドラとの関係があるみたいだからね。名目だけだと思ってたんだけど」

「昔と一緒に騒げそうね」


 そう言って残りのジュースを飲むと、クリスは艦長席に向かって歩いていった。

 さて、カテリナさんを起こすのは……、ギリギリでだいじょうぶだろう。

 

『マスター。少し気になる現象を捉えました。ギガントが地中の微振動を検知しています』

「グールイーターかな?」

『現状での解析では、グールイーターの確率が50%です』


 他の要因も考えられるということか……。

 となれば、調査範囲を広げたほうが良さそうだな。


「ギガントを移動して調査の制度を高められないか?」

『可能です。さらに、地中探査用の小型ボーリング装置で振動センサをいくつか展開すれば精度が上がります。ギガントの移動は……』


 現在の場所から東西に移動しながら振動センサを設置していき、最終的にギガントの両者の距離を30kmほど離すことになるな。

 ベルトの小さなバッグに入れた手帳にアリスの言われたギガントの移動をメモしたところで、艦長席に向かって歩きだした。


「忙しいところを申し訳ない。至急、ギガントを移動する。ギガントが微振動を捉えたようだが既存の振動とは異なるようだ」

「新たな巨獣ってこと! でも監視画面には何も映ってないわよ」

「地中を進む巨獣ということかしら? 軍の記録にもあるんだけど、姿を見たものはあまりいないみたい」


 俺の後ろからカテリナさんの声が聞こえてきた。

 新たな巨獣ということに勘が働いたのかな? それにしても……。

 頭は髪があちこち跳ねているし、白衣のボタンがズレてるんだよね。急いで跳び起きたのがよく分かる姿だ。


「これが、ギガントの移動指示書ね。私が渡しておくわ。おもしろくなってきたわね」

 

 俺の手からメモ書きを奪い取るようにして、ギガントの操縦コクピットに向かって走っていく。

 

「ギガントの方は、俺とカテリナさんで対処する。そろそろ攻撃じゃないのか?」

「4分前です。それではお願いしますね」


 あまり邪魔をしないでおこう。ソファーに向かったところで、2枚ほど仮想スクリーンを立ち上げた。


『ギガントの移動が開始されました。1時間も掛からずに予定の配置に着くはずです』

「案外、巨大化したグールイーター辺りじゃないかな? 移動方向が分かったところで教えてくれないか?」

『了解です』


 とりあえずはアリスに任せて、アレク達の連携を見てみようか。

 

「まだ始まらないの?」

「そろそろですね。アレク達は配置に着いてますし、フレイヤ達が群れの数km後ろを進んでます」


 群れの先にいた騎士団は、俺達の連絡を受けて指示通りに回頭してくれたようだ。少しヤードに到着する時間が遅れるかもしれないがモノラムの突撃を受けるよりはましだろう。


「状況開始!」


 艦長の指示が伝わる。

 真っ先に動いたのはフレイヤのパンジーだった。その姿を映しているのは後方のローラ達だろうな。

 パンジーの30mm機関砲弾を浴びせられ、群れの速度が速くなる。

 左右のナイトも群れと速度を合わせながら近づき始めた。


「やはり30mm砲弾は威力が無いわね」

「一応炸裂弾ですから、勢子としては十分ですよ。できれば40mm砲弾が欲しいところですけどね」

「昔のリオ君の役目ね。換装できるようにしておけば、色々と役立ちそうね」


 カテリナさんが自分の前に仮想スクリーンを開き、テーブルに自分の手を躍らせ始めた。ここで観戦しながら、改良点をメモしてるのかな?


 群れに数百mほど近づいたナイトが、50mm砲弾をモノラムに浴びせ始めた。

 1頭ずつ確実にが信条みたいだな。バルト達の方が少し命中率が低いようだ。こればっかりは慣れも必要なんだろう。


『群れが広がっていきます。他方向に暴走する個体も出てきました』

「ローラ達の出番かな? ん、画像が変わったようだ」

「これからはフレイヤ達が記録を撮るみたいね。高度を上げてくれたから全体像が見えてきたわ」


 パンジーの狙撃特化型はかなり有効だ。目標距離が1kmほどでも確実に倒している。バタバタと倒せるならパンジーだけでも良さそうだが、搭載した砲弾の数が少ないからな。

 集団戦ならゼロの投入も考えられるけど、どちらかと言えば固定射撃が基本だ。素早く移動を繰り返しながら待ち伏せを行うのに適していることがようやく分かってきた。


『マスター、至急アンゴルモアとガリナムに戦闘準備を連絡してください!』

「どうした? モノラムの移動方向は南だけど」

『ギガントの捉えた異常振動解析を終了しました。かなり巨大な物体がコンテナターミナル方向に移動しています』


 アリスの話しに、思わずカテリナさんと顔を見合わせてしまった。

 

「移動方向と速度を教えて頂戴。それと推定でも良いから巨獣の大きさもね!」

『移動方向は西北西です。現在の位置はコンテナターミナルの東南東約630km。移動速度は時速40kmです。推定した巨獣の大きさは、直径20m、長さ300m。形状はグールイーターに類似していると推測します』


 空いた口が塞がらない。またしてもカテリナさんと顔を見合わせる始末だ。


「コンテナターミナルを直撃しかねませんね。それにしても巡洋艦を2つくっつけたような大きさだとは……」

「伝説級で間違いなさそうね。もちろん動くんでしょう?」

「当然です。ですが少し時間もありますね。先ずはアリスの言う通りに、アンゴルモアとガリナムを動かしましょう。進行方向に騎士団がいないとも限りません」


「ドミニク達には私が伝えるわ。リオ君はここで状況を見ててね」

 

 カテリナさんが腰を上げたところで、急いで白衣のボタンを直してあげた。

 俺がボタンを外そうとしてると思ったのか、カテリナさんが「こらこら」と言いながら頭をコツンとする。

 

「ありがとう。ちゃんと着てきたはずなんだけど、一段落したらサービスしてあげるわね」


 俺に手を振って去って行ったけど、サービスは良いから、俺で遊ばないで欲しいんだよね。


「「エエェ!!」」


 艦長席の方から大声が聞こえてきた。

 バタバタと慌ただしく動き出したけど、とりあえずは連絡するだけで良いと思うんだけどねぇ。


 さて、アレク達の方はどうなったんだろう?

 30頭近くいたモノラムは10頭以下になっている。速度も落ちてるんじゃないかな?

 このまま殲滅されるのは時間の問題かもしれない。

 となると、次は伝説級をどうするかということか。


 10分も経たずに艦長が状況終了の指示を出した。

 ナイトに向かって白鯨が移動する。途中で飛行中の白鯨にパンジーが次々と着艦してきた。


「余裕だったわよ。数が2倍になっても行けるんじゃないかしら?」

 

 ブリッジに入って来たフレイヤが大声で感想を述べてくれた。

 遅れて入って来たローラ達も、自分達の働きに満足した表情を見せてくれる。

 

「ご苦労様。アレク達が帰ってきたら重大発表をするから、展望室で待機してくれない? 今度は少し本気を出す必要がありそうよ」

「次の群れが出てきたの? でも私達があまり動くのもねぇ」


 フレイヤが、ちょっと不満げな口調でドミニクに告げている。確かに俺達は一介の騎士団でもあるんだよな。

 これから対応する相手は、軍が基本と考えても良いのかもしれない。


「ローザ達のところに向かってるんだ。ドロシーの手前、頑張らないとね」

 見知らぬ場所ではあまり動かないから、航路地図盤の近くでドミニク達のサポートしてるに違いない。


 さて、俺も展望室に移動するかな。ブリッジのクルーに「ご苦労様」と挨拶をしてブリッジを後にした。


 展望室にはゼロのパイロット達が、残念そうな表情で仮想スクリーンに映し出されたナイトの戦いを見てる。


「リオ殿。次は俺達に出番を下さいよ!」

「今回は、申し訳なかった。だが、案外出番は早くやってきそうだ。ここで待機しててくれないか?」


 トラ族の連中が、飲んでいた酒のグラスをテーブルに置いて俺に視線を向けた。


「次が来たと?」

「今度は、俺達だ!」

「「オオォォ!」」


 案外乗りの良い連中が揃ったみたいだ。一緒になって騒げる連中だったら問題ない。


 アレク達がいつも座っているソファーに腰を下ろして、タバコに火を点ける。

 フレイヤがコーヒーを運んできてくれた。その後ろには大皿に乗ったサンドイッチが用意されている。アレク達が戻ったら食べようということかな?


「勝ち目はあるのかしら?」


 ドミニクがレイドラを伴ってやってきた。ドロシーがレイドラの裾をしっかりと握っているのは、艦内の不安な雰囲気を察し他ということなんだろうか?


「直径20m、長さ300mのグールイーターに似た形状。アリスが告げたのはそんな巨獣です。上空の監視衛星の画像には、そのような存在が映し出されていませんから、地中を進む巨獣なんでしょうけどね。進行方向が問題です」


 勝てないなら、コンテナターミナルの連中が避難できるまでの時間を稼がねばなるまい。


「サンドドラゴン……。そう呼ばれた存在です」


 レイドラが小さく呟いた。

 ドラゴンねぇ……。となれば、勇者も必要だろう。アレクにバルト、ローザもいるし俺だっているからね。


「こっちにいたのね。フェダーンと話してみたんだけど、軍の方に少し情報があったわ。分類名はサンドドラゴン。地中を時速30km以上で進み、地表での速度はおよぞ時速50km。巡洋艦なら最初の攻撃で破壊されるそうよ」


 かなり危険な相手になるな。

 そうなると、作戦は少し考えないといけないようだ。ここは正攻法で、敵の能力を確認しながらということになるんだろうな。


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