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184 人材不足らしい


 55mm短砲身砲のカートリッジを交換すると直ぐに西南西に移動し始める。

 加速して時速100kmを超えようとしたときだ。


『マスター、スタッグの群れが移動方向を変えました。真直ぐカンザス方向に全速力で移動しています。後ろをチラノタイプ20頭以上が追跡しています』

「何だと! カンザスに送信『巨獣約数十が突進している。俺達は間引きを開始!』以上だ」


『了解。……送信中。……受信確認! さて、レールガンに換装します。群れに平行して先頭から狩れば良いでしょう』

「そうだな。行くか!」


 アリスは殆ど上半身を地に付けるようにしてUターンをすると最初の巨獣に向かって疾走する。

 問題はもう1方のチラノタイプだが、ローザ達とアレクがいれば問題は無いだろう。ちびっ子達の戦姫の扱いもスコーピオでだいぶ自分のものにしたはずだ。


『カンザス手前2kmで群れから離脱せよと連絡がありました』

「88mm砲は強力だからな。6発の連続射撃で最後は殲滅させるつもりなんじゃないか?」


 新型獣機は、もう一方の群れの方に向けているのだろう。ゼロは温存するつもりのようだ。それとも西のチラノタイプを牽制しているのだろうか?

 

『スタッグの群れから500mで速度を合わせました。照準とトリガーはマスターに委ねます!』

「了解。手前から倒していく!」


 トリガーを引くと軽い衝撃がジョイスティックに伝わってくる。

 全周スクリーンには土煙を上げて転倒したスタッグが映し出されている。既にターゲットマークは次ぎの獲物にロックされている。俺はゆっくりとトリガーを引いた。

 

 10分も掛からずにスタッグの群れを刈り取ったが、数頭のレグナスが後方からやってきた。チラノタイプはレグナスだったらしい。

 

『残り1kmで2km地点に到達します!』

「分かった、2kmて前で左に針路変更。でないと、88mmの徹甲弾が飛んでくるぞ!」


 レグナスを拡大してターゲットマークを合わせるとロックを掛ける。これで、もうどんなに方向を変えてもアリスはレールガンの照準を追従させる。

 直ぐにトリガーを引いて、狙った獲物が転倒したことを確認する。次ぎの獲物にトリガーを合わせようとすると、全身に強いGを感じると同時に視界が左に流れる。

 2kmラインギリギリまで来てしまったようだ。


『88mmの射撃圏内に入ったので進路変更を行ないました。カンザスには離脱を連絡済みです』


 アリスの言葉が終って直ぐに、走り去ったレグナスの周囲に砲弾が炸裂する。12発の砲弾が4回炸裂した後には、レグナスの亡骸が横たわっているだけだ。

 

「ローザの方は?」

『3機で連携して倒しています。ラウンドクルーザーの手前3kmで全て狩ったようですね』


 こりゃ、帰ったら一言ありそうだな。

 そんな事を考えながら、俺達はカンザスへ向かって速度を上げる。


「まったく、レグナス10頭に時間を掛けて、尚且つ、艦砲に助けられるなど我等戦姫の筆頭たるリオ公爵の名が泣くぞ!」

 

 カンザスのリビングに戻ってきた俺に浴びせられた、ローザの言葉が耳に痛い。

 まあ、事実ではあるんだが……。ここで弁明しようものなら、倍になって戻ってきそうだ。


「ああ、ちょっと油断したな。なるべく戦闘を避けようとしたんだが、群れの移動方向を変えられなかった」

「大方、そんな事じゃろうと思っておったが、兄様は優しいからのう……。心を鬼にすることはできんかったか」


「それがローザの兄様なのです。同じ荒野に生きる者。出来れば互いに戦う事を避けようとするのがリオ殿なのですよ」

 

 エミーが俺に代わってローザを諭してくれる。

 その通りだと俺も思うな。明確に俺達に敵対しない限り彼らを狩らないようにしたいものだ。

 特に巨獣の生態は分からない事が多すぎる。レイトン博士がカテリナさんの誘いに乗ったのも、そんな巨獣の生態に興味を持ったからなんだろうと思うな。


 ライムさんが運んでくれたマグカップのコーヒーを飲んでいると、大きな窓から見える荒野の風景が少しずつ右に移動し始めた。

 鉱石の採掘が終了して再び鉱石探査の旅が始まるのだ。


 順調に鉱石を採掘して中継点に戻ってきたのは10日後の事だ。

 3日間の休養を取って、次ぎの鉱石採掘に向かう。


 そんな鉱石採掘は3回続けて10日前後の休暇を取るのが俺達のサイクルだ。

 3回目の鉱石採掘の旅は例によって、休暇の過ごし方が話題に上る。まあ、俺がツアーを選べる分けではなく、フレイヤ達が中心になって企画を話し合っているようなのだが……。


「リオには雑用をして貰うわ。エミー達を残していくから、交渉は上手くやってね。母さんにも頼んであるから力になってくれるでしょう」


 要するに、10日間は中継点にいろってことか?

 まあ、裏の仕事があるから退屈はしないだろうけど……。


「万が一の時は、裏技で飛んでくればだいじょうぶだと思うけど、少し南を探すから、そんな事はないと思う」

「どんな場所にも危険はあるさ。だが呼んでくれれば飛んでいくよ」


 そんな言葉を交わして俺達はカンザスを見送った。

 

「パレスを使えと言われました。パレス専属の侍女はライムの妹と聞いてます」

 

 エミーの話を聞きながら、桟橋を歩く。

 北に向かって結構な距離なんだが、何かここに作りたかったな。大型プールは民生用として西の桟橋内に製作中らしい。屋内だから温度管理が楽になるだろうと、商会の連中が話してくれた。

 少し大きな空間が余ってしまったから、花の咲く散策道でも作ってみようか?

 中継点には緑が少ないからねぇ。西の桟橋にも花壇ぐらいは欲しいところだ。


 パレスの前に着いたところで足を止める。

 どう見ても俺達にはそぐわない、神殿のような外観が岩に刻まれている。

 数段の階段を上がると、大きな金属製の扉がある。王宮の倉庫から頂いた古の勇者像が左右に並んでいるから前にもまして神殿に見えてしまうんだよねぇ。

 石段を上って開けと言葉を発すると、金属製の扉が内側に開いた。

 扉の先は直径30mほどのホールだ。

 最初は何もない空間だったんだけど、今は丸い絨毯が中央に敷いてある。奥に延びる回廊にも絨毯が長く伸びていた。

 色は緑が基調のようだ。やはり、中継点では緑は貴重だからだろう。


「プライベートに向かいますよ」

「飾り付けが終わったのかな?」

「個室はまだですけど、リオ様の寝室と執務室は終了してますよ」


 俺に一言も相談が無かったのが心配なんだよな。

 エミー達の美的センスを期待したいところだけどね。


 ホールから2階に続く階段を上ると客室や、会議室が並ぶ。その一角に俺の執務室がある。

「リオ」とだけ書かれた銀のプレートが取り付けられた重厚な扉を開くと、体育館並みの部屋がある。奥にあるのが執務机ということなんだろうか? シングルベッド並の大きさがある。

 近づいてゆったりとした椅子に腰を下ろしたけど、こんな椅子だと直ぐに眠ってしまいそうだな。


「後ろの壁は全て書類を納められるキャビネットです。執務机の右にボタンがありますが、それを操作することで、ソファーセットと20人が打ち合わせを行えるテーブルが出てきます」


 殺風景な理由はそんな訳か……。とはいえ、観葉植物や、花の鉢がいくつか欲しいな。


 回廊に出て、奥へと歩いていく。

 食堂は30人程が一度に食事を楽しめそうだし、大きな会議室ではダンスパーティも開けるらしい。


「公用での来客は1階で対処できますから、2階へ来る来客は騎士団の関係者ぐらいでしょう。客室も1階よりは少しクラスを上げています」

「中継点の運営に関わる会議は1階で十分です。ザクレム代官の個室も1階に設けてあります。普段は政庁で執務をするのでしょうが、たまにはじっくりと考えたいこともあるでしょう」


 ローラとオデットの考えかな?

 少し分かる気がするな。たまには1人で考えることも必要だろう。かなり忙しい人だから、ある意味逃避場所にもなるんじゃないかな。


 回廊の突き当りに扉が出来ていた。取っ手の無い扉の左右には、プレートメイルが置かれている。


「ローラです!」

 

 ローラが自分の名をプレートメイルに呼び掛けると、扉が自動的に開いた。

 ここも音声認識をさせてるのか……。


「プレートメイルのヘルメットの中に小型のカメラがありますから、声と容姿が同じでないと開くことはありません」


 かなりセキュリティのレベルは高そうだ。

 扉のすぐ奥に階段がある。階段を上りながら、ふと考えてしまった。こんなことならエレベータを取り付けるべきじゃないかな?


 階段を上ると踊り場がある。5m四方だけれど、階段の反対側に扉が1つだけだから、この踊り場の意味も良く分からないな。


 扉を開けると、見覚えのあるリビングに出ることができた。

 とりあえず、ソファーに腰を下ろす。ちょっと疲れた感じだな。

 そんな俺達のところに、若そうなネコ族の娘さんがお茶を運んできてくれた。


「バニイにゃ。もう1人、タニイがここでお世話をするにゃ」

「ライムさん達の妹さんだと聞いたよ。ライムさんには世話になってるから、こっちこそよろしく頼む」


 俺達にペコリと頭を下げて、リビングから出て行った。

 小さな厨房とバニイさん達の部屋もこの階にあるらしい。


「ある意味、セキュリティ対策と言っていました。このパレスが2人の仕事場となるようです。来客が多いときには姉さん達が手伝うと言ってました」

 

 ライムさんはかなりの使い手らしい。その妹さんもそうなのか? ひょっとして、ライムさん達の家系はそんな仕事を稼業としているのだろうか?


「それで、俺達の予定は?」

「建国の状況報告と課題。それに今後の計画ということになります。やはり、いろいろと問題が出てくるようですね。一番の問題は人ですね」

「人材不足か……。それで、ドミニクはこの問題にどうしろと?」

「公爵様に任せると言ってましたわ」


 そう言って微笑まれても俺は困るんだけどね。

 丸無げされたか……。となれば、俺の一存でどうにでも出来るってことだよな。

 優秀な人材なら王都の学園を毎年卒業している筈だ。中継点の立ち上げ時にもかなりの人を回して貰ったけど、ザクレムさんの話ではかなり有能だと話してくれた。

 となれば、人材不足は3つの王国の卒業生をあつめれば良いんじゃないかな?

 警備には、王国の軍を退役した人物を雇う事も可能だろう。

 

「ちょっと、エミー達の伝手を使って調べてみてくれないか? 来年の王立学園の卒業生で貴族の長男長女以外の人物だ」

「雇うという事ですか? 稼業を継げない人物にとっては嬉しいことでしょう。どれ位集めるのですか?」


「ザクレムさんと相談だけど、50人は必要になるんじゃないかな? 各国から20人というのはどうだろう?」

「卒業生は学部ごとに100名はいるでしょう。全体で3千人を越えます。新しい国作りにそんな求職依頼を王立学園に送れば、とんでもない騒ぎが起こりますよ」


 それは希望でもあるんだろうな。

 後は部署ごとの人材必要性をどうやって決めるかがもんだになりそうだ。どの部署も人手不足を訴えるだろうし、雇える人数にも限りがあるだろうし……。


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