表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
177/300

177 艦長が足りない


「あら、いらっしゃい。ドロシー、お姉さんの隣が空いてるわよ」


 サンドラがドロシーを自分の隣に坐らせると、シレインもアレクの隣を離れてドロシーの隣に移動を始めた。アレクが苦笑いしながら俺の前にグラスを置く。


「珍しい取り合わせだな。ほら、グイっといけ!」


 なみなみと注がれたグラスを持って、とりあえず一口飲む。相変わらず強い酒を飲んでるな。ブランディーなんだろうけどね。


「カテリナさんに、手伝いを言い付かりまして、今終わったところです」

「今度は何ですか? この間の4本足の獣機は凄かったですね」


「ナイトと名付けたんだ。3つの王国が早速注文してきたよ。ところで、ベラスコの隣のお嬢さんは?」

「ジェリルと言います。ベラスコさんとペアを組んでいます」


 ジェリルか……。帰ったらフレイヤ達に教えておこう。

 そんな彼女の自己紹介を、タバコを咥えたベラスコが微笑んでみている。相変わらず、咥えたままのようだ。

 

「ジェリルも話すのは初めてか。コイツがこの騎士団領の当主、リオ公爵様だ。だが、公式の場以外はリオで良い。コイツも騎士の1人だ」

「スコーピオ戦でリオ様の戦姫を初めて見ました。王族だけが戦姫を操れると言うのは本当なんですね」


 その言葉にベラスコとジェリル以外の連中が笑い出す。


「コイツは元々王族なんかじゃない。荒野にあの戦姫と一緒にいたのをヴィオラ騎士団が保護したんだ。だが、今では俺達の仲間だ。だからそんなに気を使わなくて良いぞ」


 そうなんですか? とジェリルの顔に書いてある。

 ジェリルにあいそ笑いをすると、アレクの方に顔を向けた。


「いよいよ高緯度地方に足を出せますね」

「2年は掛かるか?」


「斬新過ぎますから、もう少し掛かるかと。アレクさん達が戦機を降りる時が即ち新型の完成になりそうです」

「ナイトだったな。あれなら文句ない。安心して次ぎの世代に戦鬼を譲れるよ」


 そう言って、自分のグラスに酒を注ぎ足す。

 ここなら、安心してタバコを楽しめるな。サンドラ達はドロシーを連れて待機所を出て行ったけど、食堂に行くのかな? ここのパフェは有名だからな。


「高緯度地方への進出ですよね。そうなると、このヴィオラはどうなるんでしょう?」

「その辺はドミニクが考えてるさ。だが、カンザスにヴィオラが既にあるんだ。3隻目の艦長を探しているのかも知れないな」


 アデルはベラドンナ騎士団を率いてやがて同盟を離れる事になるだろう。既に戦機は3機手に入れている。安心して中緯度の鉱石探索を行なえるだろう。クリスは現状のヴィオラの艦長だ。ガリナム騎士団は解散してヴィオラ騎士団に所属している。

 メイデンさんはガリナムの船首に30mm連装機関砲を装備してご機嫌だし、サンディはディアンティスをメイデンさん並みに過激に運用しているようだ。

 皆、自分の艦を気に入っているみたいだから、やはり艦長が足りないな。


「クリス並みなら良いんですが、メイデンさんのような艦長だと……」

「ハハハ、心配するな。メイデンは過激だがそれなりに信頼できる。乗りたいとは思わんが誰も悪く言う奴はいない。それだけ艦長としての実力を皆はかっているんだ」


 確かに、乗りたいとは思わないな。

 

「誰が艦長になっても俺は高緯度地方に出るつもりだ。誰も成功していない。ならば俺達が先駆者になっても良いと思ってる」

 

 タバコに火を点けると美味そうに煙らせている。

 母親も中継点に来年には来る事になるだろうし、少しは自分の将来を考え始めたという事だろうか? それならフレイヤ達も安心するんだろうけどね。

 だけど、冒険心を忘れないのは良い事だと思う。それがあるからサンドラ達もアレクに付いてくるんだろう。


「騎士団を2つに分けるなんてことになりませんよね。結構気に入っていますから、このままずっと皆と一緒にいたいです」

「それはだいじょうぶだ。だが、2つの騎士団に分かれるのではなく、2つに分かれて行動する事はありうるぞ。現状のラウンドクルーザーは高緯度地方では問題がある。ならば、高緯度すれすれの場所で採掘するグループと高緯度地方に出掛けるグループに分かれて活動することは十分に考えられる」


 ベラスコの疑問にアレクが答えている。あれだけ飲んでも酔わないんだからたいしたものだ。

 そんな話をしていると、ドロシー達が帰ってきた。

 俺は、アレクに別れを告げると、ドロシーを連れてカンザスに引き上げる事にした。ここに何時までもいると、どれだけ酒を飲まされるか分かったものじゃないからな。


 カンザスのリビングに戻ると、心配そうに待っていたローザにドロシーを返して、ソファーに座り込む。

 フレイヤ達がドロシーに起動試験の様子を聞いているんだけど、どうやって説明しようかとドロシーが悩んでるみたいだ。


 タバコに火を点けた俺にライムさんがマグカップでコーヒーを出してくれた。

 やはり、酒よりもこっちが良いよな。

 

「何とかなりそうなの?」

 

 ドミニクの質問は、宇宙船の方なのか、それとも高緯度地方用のラウンドクルーザーなのか分からないぞ。

 だが、宇宙船は遙か将来の話だ。たぶんツエッペリンの方だろう。


「動力炉の開発に目途が立ったようだ。アレクが新しい艦長を心配してたよ」

「さすがね。探してはいるんだけど、まだ見付からないのよ。それで何時頃出来そうなの?」


 早くて2年と答えると、溜息をついている。でも、2年あれば良い艦長が見付かるんじゃないかな。

                 ・

                 ・

                 ・

「いや~、あの島を手に入れられたのは嬉しい限りですよ。ラボを1つ作ってよろしいでしょうか?」


 カンザスのリビングでのんびりとくつろいでいたら、いきなり扉が開いてレイトンさんが入ってきた。


「それはかまいませんが、俺達の保養所にしようと思っています。それとガチンコになりませんか?」

「う~ん、困りましたね。私はあの森をそのままにして欲しかったのですが、貴重種が数種類確認出来ました。開発で彼らの聖域が無くなるのはかわいそうです」


 何となく理解出来る話だな。それに、そんな貴重種の研究もしたいんだろう。大きい島だから周辺だけの開発にしても良さそうだ。

 

「たぶん島の一部を保護区域として入域制限を掛けることは可能だと思います。それは開発業者と調整して貰えませんか? たぶんあのギガントを養殖するためだと言えば彼らも納得すると思いますよ」

「確かに金貨数枚ですからね。かなりの生息数ですよ。概略の生息地域は分かってますから、それを中心に保護区域の設定を図ってみます。年間10匹程度なら、生息数に変化はないと思います」


 そう言って部屋を出て行った。あとはウエリントンさんの交渉能力次第だな。だめなら俺から言えばいいか。

 それにしても、ちょっとした収入源になりそうだな。


 一服しながらにこにこしているところに、ローザとドロシーがやってきた。頭の上に相変わらずギガントが乗っているけど、戦姫に乗るときは誰かに預けておいた方が良いだろうな。


「どうしたのじゃ。イヤに機嫌が良さそうじゃが?」

「ああ、ローザ達のおかげで毎年の収入源が1つ増えたようだ。その頭のギガントだよ」


「これか?」なんて言いながら、ギガントを触っている。

 俺にはどこがかわいいのか分からないけど、まだまだ子供だからな。昆虫が好きなのも理解出来る。


「ところで、次ぎの休暇はどうするのじゃ?」

「まだ決めていないけど、フレイヤ達がそろそろ決めるんじゃないかな。ひょっとしたら、またドロシーに決めさせようと考えてるかも知れない」


 ローザの隣にいるドロシーにそう言うと、目をパチクリさせている。

 

「それなのじゃが、我等は次ぎは別行動じゃ! まだまだドリナムランドを制覇したとは言えぬからのう」

 

 ちびっ子達で出掛けるのか? それもおもしろそうだな。だけどちょっと危険かもしれないから誰かを連れて行って欲しいな。

 その辺は、エミーから諭して貰おう。ライムさん達が一緒なら安心なんだけどね。


「それじゃあ」と言ってリビングを出て行ってしまった。

 全く行動的だな。俺もあんな時代があったんだろうか? 自分を振り返って考えてしまう。


 端末を立ち上げて仮想スクリーンにコンテナターミナルの工事状況を映し出す。

 そこには形が見え出したターミナルの姿があった。

 さすがは3カ国の工兵師団の工事は早い。来年には開業出来るんじゃないかな。ターミナルが出来ればいよいよ西の拠点作りが始まる。それが出来るのは早くて3年後になりそうだ。

 ローザもお年頃になるな。姉さんと別れても寂しくないとは思うんだけどね。

 

 待てよ……。ローザ達が西に向かうとなれば、専用のラウンドクルーザーを欲しがるかもしれないな。

 戦姫と戦機が3機ずつ。周辺偵察用の円盤機が3機あれば十分だろう。獣機は必要ないだろうな。

 ラウンドクルーザーのコンセプトとしては、保守が容易で壊れにくい艦体となるんだろうな。散々、カンザスに乗っていたから通常艦よりも速度を要求してくるに違いない。

 そうなると、軽巡洋艦辺りになるのか?

 動力炉は、ゴブリンを使えば有り余るほどの電力を取り出せるから、多脚式走行装置も強化できそうだし、何より数を増やせるだろう。

 艦砲は随伴する駆逐艦に合わせるとしても、連装砲塔は欲しいところだな。


「アリス。こんな仕様を形にすると、どんな概要になるかな?」

『こんな、形ですね。艦砲が88mmですから、遠くからなら大型駆逐艦に見えるかもしれません。ゴブリンを搭載するなら、巡航時は時速45kmを出せそうですね。ガリナムと同じようにガルナバン鋼で多脚を作るなら、最大船速は時速50kmを越えると推測します』


「カーゴ区画や生活空間に問題は?」

『獣機を搭載しなければカーゴ区域を広く取れます。動力室も小さくできますから、巡洋艦としての生活空間よりも少し広がると思います』


「随伴艦は駆逐艦だろうな」

『案外、戦闘空母かも知れませんよ。軽巡洋艦より速度が出ませんが、120mm連装砲塔2基に搭載するゼロ8機を持ちますから、2隻ですがかなり攻撃的な機動艦隊になるでしょう』


 2隻とは言え艦隊指揮を学ぶことで、将来のフェダーン様になりそうだな。

 巨獣相手の実戦経験を一番多く持ちそうだから、ウエリントン王国内での発言力も増すことになりそうだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ