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176 コンペの結果


 カンザスに戻ってきたところで、全員がソファーにドカリと腰を下ろした。

 歩き疲れたこともあるんだけど、あのパレスをどのように使うのかについて途方に暮れている感じもするな。

 元々騎士団員と言えば、ラウンドクルーザーの小さな部屋を貰って喜んでいる人種でもあるのだ。

 ハムスターに、人間並みの部屋を与えたら、彼は喜ぶのかな?

 俺達に起こったことは、ほとんどこれに近い話なんだよなぁ。


「広すぎるってこと?」

 

 呆れたような表情でカテリナさんが王女達以外の女性を見ている。


「ドミニクも、自分の部屋を間仕切りしてたのよねぇ。パーテーションで区切れば少しは落ち着くかもね」

「「パーテーション?」」


 要するに間仕切りってことだ。

 ベッドルームの隣に趣味の部屋でも作ることになるのかな?

 俺は、寝るだけだからあまり気にはならないんだけどね。

 個人の部屋は個人で改装することで何とか合意できたんだけど、改装費用は俺の口座ということになってしまった。

 丁度品の購入も行うんだけど、だいじょうぶなのかな?


「エミー達も、リオ君の口座の残高を確認しながら買い物をするのよ。直ぐに増えると思うけど」

「だいじょうぶです。大物は王宮の倉庫から頂けることを、お母様に再度確認しましたから」


 大物というと、プレートアーマーが槍を持った像みたいな奴かな? エミーの美的感覚を信じるしかなさそうだ。


「そうそう、今夜はちょっとしたイベントがあるわよ。北に向かう新たなラウンドクルーザーのアイデアをリオ君とガネーシャ達で競っているの。そのどちらを選ぶか、皆の意見が欲しいわ」

「山裾でマンガン団塊を?」

「そういうこと。西に向かって中継点が次々と作られるから、騎士団の多くは西を目指すはず。ヴィオラとカンザスはその流れに乗りたいけど、それ以外に多くのマンガン団塊を手に入れる方法を模索するということになるわ」


 皆の顔が急に真顔に変わる。

 新たにやって来た2人の王女は、ちょっと首を傾げているけど、すぐにエミーと同じように俺達と同じような思考を持つことになるのだろう。


「できるかしら?」

「ナイトとゼロ、それに新型獣機があるのよ。それに見合ったラウンドクルーザーを作れば、北への道を作ることもできるんじゃなくて?」


「俺達は騎士団だ。騎士団なら、目指すものはマンガン団塊の採掘と、新たな戦機の発掘になるんだろう? 誰も成功していない地域の採掘なら、俺達が満足できるものもあるんじゃないかな?」


 カテリナさんの話しに続けて、俺の思いを告げる。

 ドミニクやレイドラが頷いているところを見ると、思いは同じということかな?


「宝探しみたいね」

「まさしくその通り。そこに、宝が無いようなら西を目指すのもありかな。だけど、今なら何とかなりそうだ。ヴィオラ騎士団の団員が充実していて、かつ士気も高いんだからね。これを逃せば、次の世代に北を任せることになりそうだ」


 いつの間にか、パレスの事は忘れて新たな鉱石採掘に話題が変わって行った。

 パレスはゆっくりと自分に合ったものに仕上げれば良いだろう。その間は、カンザスで十分に間に合うんだからね。


「アレク達も呼んだ方が良いのかしら?」

「主役ですよ。呼ばないと文句を言われそうです」


ドミニクの素朴な疑問に応えておく。それに、騎士筆頭なんだからね。

                 ・

                 ・

                 ・

 夕食が済むと、ソファーセットに皆が移動して、アレク達やガネーシャ達がやって来るのを待つことになった。

 早々とやって来たアレク達は床に座ってライムさん達が用意してくれたワインを飲み始めたようだ。


「ここに来ると、良い酒が飲めるな。ところで、まだ始まらないのか?」


 俺を横に呼び寄せてくれたのは嬉しいんだけど、あまりワインを注がないで欲しいな。これだと、俺のプレゼンテーションはほろ酔い気分で行ってしまいそうだ。


「遅れてすみません!」

 ガネーシャが2人の男女を引き連れてリビングに入って来た。最後までプレゼンテーションの準備をしていたんだろう。案外真面目なところがあるからね。


「だいじょうぶよ。それでは、リオ君とガネーシャの考案した、高緯度地帯用のラウンドクルーザーの発表を始めるわ。最初は、ガネーシャからね」


 リビングの一角に大きな仮想スクリーンが作られた。

 カテリナさんの指示で、ガネーシャが仮想スクリーンの前に立つと、一緒にやって来た2人が小さな仮想スクリーンを開いて資料の展開の準備を始めた。


「それでは、私達の考案した新たなラウンドクルーザーを紹介します……」


 さすがカテリナさんの薫陶を受けた連中の提案したラウンドクルーザーは凄い。形がトリケラとは思い切った姿だな。

 ガネーシャさんが得意げに概要を伝えてくれるのだが、それを見ているドミニクやアレク達はポカンと口を開けて聞いている。

 他の連中も同じような表情だ。現状とあまりにも異なるラウンドクルーザーの姿に質問さえ出ない始末だ。


「なるほど、考えたわね。これも将来的には販売が出来ると思うわ。課題は最大時速が40kmとなるところね。バージを放棄することも考えにはあるんでしょうけど……。次ぎは、リオ君の番よ!」


「ほら出番だぞ! 行ってこい」

 アレクの言葉に、カップに残ったワインを一気飲みして、仮想スクリーンの前に立った。


「さすがにガネーシャさんですね。既存の形にとらわれないで発想を展開した結果に、俺も驚いています。

 さて、俺も同じように発想を変えてマンガン団塊の探索と採掘を考えてみました。高緯度地方の巨獣はまだ見ぬものも多いはず、となればその脅威も数値化できないということになります。そんな場所で安全に調査と採掘を行う方法として考えたのが、このラウンドクルーザーになります……」


 仮想スクリーンにアリスがCGを映し始める。内容が分かるにつれて、今度はカテリナさんまでポカンと口を開けたままだ。


「……こんな形で探索、採掘を行うことで比較的安全に高緯度地方へ足を延ばしたいと考えております」


「どこがラウンドクルーザーなの! これって殆ど上空に浮かんでいる事になるじゃない!」


 フレイヤが立ち上がって仮想スクリーンにまだ映っている飛行船を指差している。その指摘は正しいと俺も思ってるんだけどね。


「ラウンドクルーザーが地面に足を付いていなければならないという制約はない筈だ。地上での鉱石探索はギガントが行い、採掘はツエッペリンが降下して新型獣機を下ろして行なう。コンテナはゴンドラに収納している200tコンテナ6台だ」


「正に発想の転換ね。いいわ。これでいきましょう。概念設計はアリスが終えているのよね。ガネーシャこの設計を引継いで完成させなさい」

「私でよろしいのですか?」


「トリケラですら現在の常識を超えているわ。貴方なら、リオ君の考えた高緯度地方の探索船を完成させることができるわ」


 カテリナさんの言葉にガネーシャさんが感極まってハンカチで涙を拭いているけど、カテリナさんは自分が作るのが面倒なだけじゃないのかな?

 それとも、宇宙船の開発で手一杯と言うところなんだろうか? だとすれば、しばらくは俺達の邪魔はしないだろう。


 そんなコンペの発表が終って、カンザスのリビングでくつろいでいるとカテリナさんが小さな箱を持ってやってきた。

 

「やはり、リオ君の発想は素晴らしいわ。これが約束のものよ」

 

 受け取った小箱の中に入っていたものは、腕時計?


「ガネーシャとはお揃いになるけど、機にしないで良いわよ。通信機能をたかめてあるから、アリスを経由しないでも携帯と通信が出来るわ」

 

 俺には無用のようにも思えるが、貰える物は貰っておこう。


「ありがとうございます。ところで、例のカブト虫はどうなったんですか?」

「早速、出かけたみたい。ドロシーの頭を見たとたんに飛び上がって騒いでたわ。数匹と引換えに、島の生物相を調査してくるとラボの連中を率いて出掛けたから、1か月は帰ってこないと思うわよ」


 生物学者って言ってたからな。やはり貴重種の呪縛は凄いということだろうか?

 

「それで、彼のいう事では飼い方は難しくないそうよ。ドロシー達のマスコットになりそうね」


 話を聞いてみると、昆虫ではあるのだが、知性があるのだそうだ。飼い主を見極めるし、簡単な言い付けを理解出来ると教えてくれた。

 なら、ローザ達も満足だろうな。子犬を飼うよりも安心できる。


「それで、リオ君にお願いなんだけど、例の動力炉の起動試験を行ないたいのよ。明日、アリスを貸してくれないかしら?」

「アリス、だいじょうぶかな?」


『問題ありません。ですが、起動制御はドロシーに任せてください。私はバックアップします』

「了解よ。ドロシーには、ぬいぐるみで協力を取り付けてあるわ」


 あまり甘やかすと、カンザスの運用に報酬を要求してくるかもしれないぞ。

 だけど、見かけが幼女だからかな。皆、色々と与えて手なずけているような気がする。

                ・

                ・

                ・

 マンガン団塊の採掘を終えて中継点に戻ったところで、カテリナさん達が隠匿工場の一角で動力炉の試運転を行なおうとしている。

 目の前の一辺が10mほどの立方体を前に、俺とカテリナさんそしてカテリナさんの一味、さらにドロシーが立っていた。


 マイクロブラックホールを利用した動力炉なんてかなり胡散臭いものだし、取外すために一旦動力を停止しているから、既に内部にはブラックホールはなくなっているはずだ。再起動なんて出来るんだろうか?


「リオ君。アリスはスタンバイしてるのよね」

「だいじょうぶです。この試験を見守っている筈です」


 そんな俺達の会話にガネーシャさん達はキョロキョロと辺りを見渡している。

 まだ、アリスが戦姫だと分からないみたいだな。カテリナさんも教えてはいないようだ。


「それじゃあ、ドロシー始めてくれる。アイドリング状態で出力を安定して欲しいわ」

「了解しました。制御用プログラムは理解しています。起動、5秒前、4……3

……2……1……起動!」


 ドロシーの高い声が工場に響いた途端に、立方体が淡く光り始めた。


「カテリナ博士。アイドリング状態です」

「……そう? ガネーシャ、データは取れた?」


 あっけない起動だった。それと、淡い光を出してるんだけど、有害な光じゃないよな?


『シンクロトロン軸射光が漏れているようです。この光自体は有害ではありません』

 

 アリスの言葉に仮想スクリーンを見ていたカテリナさんが微笑んでいる。ガネーシャ達は周囲を見渡してるばかりなんだよね。

 

「意外と簡単みたいね。この大きさで核融合炉10基分の出力が得られそうよ」

「ですが、一旦マイクロブラックホールは消滅している筈です。そんなに簡単にブラックホールが出来るのですか?」


「可能なようね。重ロデニウム1tが転化したみたいよ。あの時間でね。これで、動力炉の目途が立ったわ。アリスもありがとう!」


「もちろん貴方もよ」と言いながらドロシーの頭を撫でている。

 でも、これだとドロシーがカンザスから切り離されてしまう事にならないか?

 再度、カンザスの電脳を整備するんだろうか。だとしたらそっちも同様に進める必要がありそうだ。


『カテリナ博士。この動力炉を簡易化することが可能ではありませんか?』

「この動力炉の構造をアリスは理解出来るのね。それで、どの程度の出力が得られそうなの?」


『既存の核融合炉の5倍程度を目の前の大きさに収めることは可能です。起動シーケンスのクロックを100分の1に落として、通常の電脳で制御が出来ることをシミュレーションで確認しました』


 その話を聞いて、ガネーシャさんがますます周囲を気にしだした。


「待ってください。それが可能なら私に資料を頂けないでしょうか?」


 そう言って、周囲を見渡している。

 そろそろ教えてあげた方がいいのかも知れないぞ。


「そうね。ガネーシャの試作艦で試してみるのも良いかも知れないわ。アリス、設計情報をラボに送ってくれない?」

『了解です。……「ゴブリン」のコードネームで転送してあります』


「博士。私に彼女を紹介してくれませんか? できれば直に合って話が聞きたいです!」

「でも前に言ったとおり、貴方も彼女を見たことがあるのよ。でも、直接話は出来ないかも知れないわね。メールを送りなさい。文章で会話を行なうなら、リオ君も許してくれるわ。リオ君が承知しないとアリスは見向きもしないわよ」


 確かにそうだろうけど、それだと俺がアリスをどこかの部屋に閉じ込めているような印象を与えるぞ。俺を見るガネーシャさんの目がちょっときつくなっているんだが……。


「どうしても合いたいというなら、後でベレッドのところに行ってみれば案内してくれるわ」

 

 そんな事を言うから、ガネーシャさんが走っていった。

 たぶん驚くだろうな。イタズラが成功したようにカテリナさんが微笑んでいる。


「さて、私はこの動力炉の複製を作るわ。やはり1基では足りないし、冗長性も持たせたいしね」

「出来るんですか?」


 俺の言葉にカテリナさんは小さく頷いた。

 

「動力炉を構成するパーツの部材と寸法の根拠を調べたわ。全く同じであればそれ程苦労しないわよ。でも、制御が問題ね。アリス専用の制御システムを設計できる?」

『可能ですが、人間の知覚速度を制御速度が上回りますよ。それをどのように伝えるかが課題です」


「人間を無視してかまわないわ。結果が得られれば問題は無いでしょう。入力と結果。それが分かれば、途中の制御はシステムに委ねても問題はないと思うけど?」

『それなら、可能です。後ほどラボの電脳に転送しておきます』


 そんな会話が終ったところで、動力炉を止める。

 これで、カテリナさんのお役目は終わった。たまにはアレク達を訪ねてみるか。目の前のヴィオラに乗り込むと、ドロシーの手を引いて久しぶりにヴィオラの待機所を目指す。


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