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175 カンザスとパレス


 10日間の休日最後の日は、北へ向かう高速艇で帰路に着く。

 少し遅めの朝食の準備をメープルさんが指揮していたのには驚いたけど、あのスレンダーな容姿ではなく、最初に逢った時のふくよかな体形に戻っていたのにはもっと驚いてしまった。

 やはり着ぐるみみたいな感じで、メイド服を着てるんだろうな。


「カンザスの改修も終わったようだし、パレスの方もベルッドのダメ出しを終えたそうよ。内装はエミー達に任せるとして、リオ君の方は進んでるの?」


 俺の隣の席をちゃっかりと確保したカテリナさんは、フレイヤ達からの冷たい視線など気にならないようだ。

 

「例のラウンドクルーザーですね? ある程度は出来てますよ」

「ガネーシャ達も、プレゼンテーション用のCGを作り始めてるようだから、数日後にはコンペが出来そうね」


 ガネーシャ達はどんな陸上艦を考えたんだろう? アリスが気にしてるんだけど、見に行くことは止めるように言ってあるんだよね。

 やはり、コンペ当日に堂々と比較をしたいところだ。


 夜遅くに中継点に到着した俺達は、それぞれのラウンドクルーザーへと帰っていく。

 クリスは本来ならヴィオラに向かうはずなんだけど、出航まではカンザスで暮らすみたいだな。

 夜遅くの到着ということで、マンガン団塊の採掘には、明後日の出発とするようだ。その知らせを聞いて歓声を上げるんだから、まだまだ遊び足りないんだろうか?


「あら? エレベータホールが無くなってる!」


 カンザスのプライベートエリアは、エレベータを出ると小さなホールがあり左右に通路があったのだが、今は小さな小部屋になっていた。

 艦首方向に大きな扉があり、左手に小さな扉が付いている。


「大きくしたと言ったでしょう? さあ、さあ、前の扉を開いて頂戴!」


 俺が先に立って、扉を開く。 既に照明が点いているのはライムさん達が先に着いていたんだろう。

 

「あまり変わりは無いように思えるんですが?」

「基本は変えてないからかな? それでも、テーブル席は4席増やしてるし、ソファーセットも1回り大きくしてるのよ。リオ君の執務室は潰して、メイドルームを拡張してるし、ミニバーセットも、一回り大きくなってるわ」


 要するに、全体的に大きくしただけということなのかな?


「皆の個室は前と同じよ。リオ君の執務室は潰したけど、寝室は船尾に側に設けたわ。リオ君の執務姿は見たことが無いから、カンザスではいらないわよねぇ。パレスでは誰が来るか予想もできないから、それなりに作ったと聞いてるわ」


 それなりというのが曲者だな。カンザスでの暮らしは寝るか、リビングでコーヒーを飲んでるかだからそれでも良いだろう。


「我等の部屋はこの下になるのか?」

「そうよ。士官室を改造したから以前の大きさよ。リンダ達は以前のままに士官室を使って頂戴」


「士官室の数はだいじょうぶなんですか?」

「倉庫を2つ潰しただけよ。あまり利用しなかった倉庫だから丁度良いわ」


 要するに、カンザスの空き部屋が全て潰れたということになるのかな? それも問題だと思っていると、直ぐに新たな動力炉の開発が塗りに浮かんできた。

 地下の湖で見つけた宇宙船の動力炉を模した新たな動力炉に換装すれば、潰した倉庫の容積以上の空間を確保できるはずだ。

 それを見越して倉庫を潰したんだろう。


 フレイヤ達が王女を誘ってジャグジーに向かう。プラネタリウム付きだからなぁ。きっとビックリするんじゃないかな。


「あら? 一緒に入ってるのかと思ってたけど」

「たまにはゆっくりと手足を伸ばしたいですね」


 俺の隣にコーヒーカップを持ってカテリナさんが座る。

 大勢いるから、カテリナさんもおとなしいな。いつもこうだと良いんだけどねぇ。


「明日の夕食後に、コンペの結果を発表してくれないかしら? ガネーシャ達がかなり自信を持ってるんだけど、リオ君の方はどうなの?」

『こちらも、自信作です。皆様の意表を突くプレゼンテーションになるかと……』


「アリスの監修も済んだということね。それじゃあ、楽しみにしてるわ」


 小さく手を振って、ジャグジーに向かって行った。フレイヤ達と一緒に騒ぐつもりなんだろうか?


 フレイヤ達がジャグジーを出たところで、のんびりとお湯に浸かる。

 疲れが手足の先から抜けていくのが分かるようだ。

 ジャグジーを出ると、リビングに誰の姿も見えない。既に3時を回っているからねぇ。睡眠不足は、お肌の大敵ということかな?

 

 さて、俺の寝室は……。

 リビングから時計周りに個室が続いている。ほとんどリビングの反対側に俺の名の付いた扉があった。

 扉を開けると、凝った意匠の衝立が行く手を阻んでいる。ついたてを回り込むと、大きなベッドがあった。 

 縦ではなく、横に寝ても大丈夫そうなベッドだから、寝相が悪くても落ちる心配はなさそうだ。

 奥にも扉がある。開いて見ると、シャワー室とトイレが付いている。反対側にはメイク用の大きな鏡と化粧台が付いていた。

 さらに、奥に扉がある。開けて見ると、奥行き3mほどのバルコニーが付いていた。小さなテーブルにデッキチェアが2つも置いてある。

 巨獣が近くにいない時には、コーヒーを美味しく飲めそうだな。


 衣服を脱いでベッドに入ろうとしたら、不自然にベッドが膨らんでいた。

 シーツをめくってみると、クリスとフレイヤがいきなり抱き着いてきた。そのままベッドに倒れてしまったけど、これだと絶対睡眠不足になってしまうんじゃないか?


 翌朝目が覚めたのは9時過ぎだった。

 フレイヤ達が先に起きてシャワーを浴びている。ついでにメイクをするとなれば、俺はもう少し寝ていられそうだ……。


「ほら、いい加減に起きる! 10時過ぎてるんだからね」


 フレイヤとクリスに無理やりベッドから起こされて、シャワールームに閉じ込められた。冷たいシャワーが一気に俺を覚醒させる。


「まったく、もう少し優しく起こして欲しいな」

「やさしくしてたら、いつまでも寝てるでしょう? 今日は特に予定は無いんだけど、明日は朝早くに出発するとドミニクから連絡があったわよ」


 ということは、短パンにTシャツということで良いんじゃないかな。さすがにマンガン団塊を採掘に向かう時にはツナギを着ることになる。中継点の中は安全だ。各自の好みの服装をしても何の問題もない。


「寝坊助にゃ。もうちょっと早く起こさないとダメにゃ」


 メープルさんがフレイヤに小言を言っている。すみませんと謝っているけど、直ぐに錨の矛先が俺にやってきそうだ。


「怒られたじゃないの! 今度は、もっと早くに起こすからね」

「早く寝ないからだよ。次はほどほどにしようね」

「それはそれ。で、これはこれよ!」


 ゴチンと頭に衝撃が来た。まったく手が早いんだからなぁ。

 

「石頭なんだから、手が痺れちゃったわよ。これが朝食。昼食はどうする?」

「さすがに続けては食べられないよ。コーヒーを頼んでおいてくれないかな」


 手は早いけど、世話好きな性格は変わっていない。いつの間にか関係する女性が増えてしまったけど、フレイヤが彼女達を上手く調整してくれてるんだよな。そう言う意味では、俺には過ぎた存在だと思わずにはいられない。


 俺が起きたという話を聞いたのだろう。リビングに次々と女性達が現れる。

 さすがにカンザスではビキニとはいかないようで、俺と同じような姿をしてるから、これからスポーツでも始めるような雰囲気だな。


「ようやく起きたのね。リオが起きたらパレスに行ってみようということになってたの。内装は3王国の王女様にお願いしたいんだけど、自分の個室は自分達でが原則になるわ」


 テーブル越しの席に腰を下ろしたのは、ドミニクとレイドラだった。名目上は俺を取り巻く女性の1人ということだから、当然ドミニク達の部屋もあるってことなんだろうな。


「俺の部屋もあるんだよね?」

「寝室に、執務室があるわよ。貴族趣味だから、とにかく大きく作らせたとベルッド爺さんが言ってたわ」


 部屋が大きければ貴族ってことになるのかな? まぁ、やって来る人物は限られているだろうからそれで良いんだろうな。

 それなら早く食べなければ……。

 サンドイッチにコーヒーだから直ぐに終わってしまった。残ったコーヒーで、カテリナさん謹製のカプセルを2個、口に放り込む。


 直ぐに出掛けるかと思ってたら、レイドラが誰かに連絡している。このメンツで後1人と言ったら、カテリナさんってことかな?


「皆、揃ってるわね。リオ君も起きてるから問題なし! さて、出掛けるわよ」


 リビングにやって来たカテリナさんが俺達に視線を向けると、そう言ってエレベータに向かう。

 とりあえず、付いて行かないと……。

 ツアーの客と同じように、カテリナさんの後に付いていく。


 エレベータで桟橋へ下りるローディングブリッジに向かい、そのまま桟橋へと降りる。今度はホールの奥に向かって桟橋を歩き始めた。

 全長800mを越える桟橋だから、カンザスとヴィオラが横付けしていても、奥はかなり開いている。

 将来はプールでも作ろうかと考えていた場所を通り過ぎてしばらく歩くと、ほとんど桟橋の終点近くの岩壁にパレスが作られていた。


 岩をくり貫いて、ギリシャ風の列柱を浮き彫りにし、1枚岩を削って石壇を作っている。

 見た目は神殿そのものだな。数段の石壇を上り、10mほど奥まった場所に青銅の扉があった。

 両扉を開けば、偵察車がそのまま入っていけそうな大きさだ。これだけでも良い値段なんじゃないのか?


「この扉は音声で開くの。全員の声紋が登録してあるから、貴方達の誰でもが開けるわよ。その他には、メイド達を登録してあるわ」

「開くにはどんな言葉を?」


「何でも良いわよ」

 

 それなら……。


「オープン・セサミ!」

 

 俺の言葉に反応して、青銅の扉が内側に開いた。


「さあ、入って!」


 入った途端、驚いてしまった。床が全て大理石だ。

 入り口ホールも20m四方はあるんじゃないか? 2階に向かう階段が左右に付けられている。真っ直ぐに伸びた回廊は縦横共に5m近い。


「一応、3階建てになってるの。1階は来客用ね。2階は客室とリビングに執務室。3階は完全なプライベートよ」


「貴族の館はこんな感じなんですか?」

 恐る恐るカテリナさんに聞いてみた。


「もっと無駄な空間が多いわね。基本は似た感じかな。来客はほとんど1階で用が済むから、1階をデコルのもおもしろそうね」


 絶対に、落ち着かない場所になりそうだ。執務室だけはシンプルにしよう。

 

「それじゃあ、片っ端から見て行くわよ」


 1階は、大小の会議室が3つに、客室が5つ。客室には風呂まで付いていた。貴族であれば、これで十分とのことだけど、2階の客室は王族専用ということになるんだろうな。

 各階の部屋はドーナツ状に配置されている。中央が直径30mほど空いているのだが、その空間を使って小さな庭園が造られていた。

 これは中々だな。ひょっとしてと耳を傾けると、虫の音が聞こえてくる。庭園は岩と緑のコントラストだから、この辺りの飾り付けは担当者の美意識が要求されることだろう。だれが担当するのか楽しみだな。


「小さな厨房まで付いているから、メープルに任せればコース料理も出すことができるわ。次は2階ね」


 2階の客室は予想通り1階の客室の3倍ほどある。小さな部屋が2つ付いているのはメイド用と教えてくれた。

 四分の一が客室で、残った空間が共用区画となるらしい。早い話がリビングに俺の執務室、それとプライベートな談話室になる。大きなお風呂は中心の庭園を飲み込んだように作られているから、野趣あふれた岩風呂になっている。

 ジャグジーやシャワーは無いのかと思っていたら、3階にカンザスのジャグジーを2周りも大きくしたようなものが作られていた。

 個人の部屋も、カンザスより5割増しが標準らしい。俺の寝室にはカンザスにあったベッドより大きなものがど真ん中に置いてあった。左右にメイク用のテーブルがあるのが気になるところだ。


「どう。気に入った?」

「「もちろん!」」


 彼女達は気に入ったと言ってるけど、ここでどんな暮らしが始まるんだろう。中継点に戻った時以外は使い道が無いんだけど、動かな部屋を持つということは騎士団の団員にとって一つのステータスなのかもしれないな。


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