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174 俺に似た体


 脳裏の陽気な音楽のピッチが上がっていく。

 これって、2拍子のダンス音楽だと思ってたけど、とんでもない勘違いだ。倍数的な音符が間に入っている。

 16ビートまでもが混じってるんじゃないか?

 

 体を低くして両手を開きながらメープルさんの側面に回りこもうとするんだけど、足を組み替えるだけでメープルさんが体の向きを変えてしまう。


「不思議な動きにゃ。それってダンスかにゃ?」

「一応、武道の一種と教えられましたが」


 じりじりと近付くんだけど、2m以内に入ると後ろにピョンと離れてしまう。

 メープルさんが仕掛けてくるのを待つしかないのかな?


「少し動きが読めてきたにゃ……。いくにゃ!」


 メープルさんが体を横にしたかと思ったら、側転をして俺に一気に迫る。着地と同時に回し蹴りを俺の顔面に放ってきた。

 ステップで後ろに下がったところに、後ろ蹴りが襲ってくる。


 再び顔を俺の向けたその姿は、俺と同じ構えじゃないか!


「俺の武技を知っていたんですか?」

「うにゃ? ちょっと違うにゃ。リオ様から流れてくるリズムに合わせると体が自然ぬ動くにゃ」


 カポエラって、そんなに簡単に覚えられるものじゃないと思うんだけどなぁ。


『困りましたねぇ。メープル様はマスターの脳内に流れる音が聞こえるようです。ひょっとして、相手の脳波を感じ取れるのかもしれませんね』

『俺の動きが全て読まれるってことかな?』

『その通りです』


 サトリとかいう妖怪にそんな能力があると聞いたことがあるけど、メープルさんは獣人族のお婆さんだから妖怪ではないはずだ。

 となると、何らかの先天的な能力なんだろうな。本人がそれを望むかどうかは分からないけどね。


「リオ様と、もう1人? 中々難しい御人のようにゃ」

「先を読まれるとなると、ちょっと手が出せなくなりますねぇ」

「気が付いたかにゃ? あまり良い能力とは言えないにゃ」


 そんな会話をしながら、回し蹴りを連続で放ち、2段蹴りや延髄切りまでも繰り出して互いに攻撃と回避を繰り返している。


 試合開始から5分は経過しているはずなんだけどメープルさんの息が上がった様子もない。訓練を今も続けているってことなんだろうけど、このまま試合を続けたら俺の体に疑問を持たれるかもしれないな。

 早めに試合を終えたいんだが、タイミングが取れないのが問題だ。


 後方にバク転を繰り返してメープルさんとの距離を取る。

 体を低くして左右に移動しながらゆっくりとメープルさんに近付く。

 メープルさんも、俺の動きに合わせて同じように側面を取ろうと近づいてきた。

 

 距離が3mを切ろうとした時、前転しながら体を回す、と同時にジャンプしてメープルさんの側面に出た。

 うなりを上げて蹴りこもうとした足に、メープルさんの蹴り脚が向かう。

 ジャンプ!

 反対側に回ったところで、回展速度が落ちていない足を無理やり地面に押し付けて、そのエネルギーで体を回転させながら、もう片方の足で水平蹴りを放った。


「うにゃ!」

 かなりの衝撃を受けたんだろう、叫び声を上げながらメープルさんが回転しながら砂地に叩きつけられた。


「だいじょうぶですか?」

「あまり、だいじょうぶじゃないにゃ。でも、また試合をするにゃ」


 ガクっと顔が横になったけど、死んだわけじゃないよな。膝付近を横なぎにしたような感じだからね。


「カテリナさん!」

 俺の大声に、カテリナさんと衛生兵が走って来た。

 その場で軽く診察をして担架に乗せて運んでいく。


「ちょっと当たり所が悪かったみたいだけど、明日になれば元に戻るはずよ。いつも私達の想像を超えてくれるわねぇ。今頃王都はとんでもない騒ぎになってるんじゃないかしら」

 

 俺の体に着いた砂をポンポンと払いながら話してくれたけど、俺に責任は無いからね。


「勝者、リオ公爵殿!」


 審判の判定に片手を上げて勝利をアピールしていると、国王陛下がやって来た。


「今回はトントンじゃったな。とはいえ、これぐらいは稼がしてもらったぞ」


 商品は、宝石がちりばめられた金のブレスレットだった。いったいいくらぐらいの値段なんだろう?

 パレスにでも飾っておこうかな。


「さて、この島はヴィオラ騎士団のプライベートアイランドになっている。普段は我等が来ることも出来んが、今回のような催しがあるなら、ワシの責任で参加するのも構わんだろう。続く宴会は全てワシが持つ。好きなだけ飲んで食べるが良い」


 そういえば、今夜は宴会だったんだよね。その前にメープルさんと体を動かそうとしてたんだけど、とんでもない目に会ってしまった気がするなぁ。


「リオ、こっちに来て少し解説せんか。トリスタン達も興味深く見ていたのだが、あの武技は見たことが無いといっておったからのう」


 今夜は長くなりそうだな。

 でも、皆で楽しめるならそれで良いのかもしれない。


 酒を飲まされながら試合の説明をしている間に、試合会場が片付けられ次々とバーベキューグリルが運ばれてくる。

 酒を飲みながらアレク達が肉や魚を焼き始めると、テーブルセットがいくつも渚に作られ始めた。


「さて、そろそろ場所を変えねばならんな。王女達はお妃と一緒で良いのか? ワシはリオを連れて士官学校の連中と楽しむつもりだが?」

「リオ殿に王女が降嫁したのは昨日なのですよ。あまり長くリオ殿を囲うと、私が皆に叱られるのですからね」

「分かった、分かった。せいぜい1時間で王女達に返すとしよう。ライデンで一番の武技を誇る男だ。誇れる夫を持つ妻は幸せ者だ」


 それなら、早くに開放して欲しいところだけど、ヒルダ様の注意を聞いてくれたみたいだからそれほど長くは掛からないだろう。


 数人程が座れるテーブルに、国王陛下とトリスタンさんと俺が座った。少し間をおいて俺達の前に座ったのは士官候補生の教官らしき3人の男女だった。

 ネコ族のお姉さんが持って来てくれたワインを飲みながら、士官学校の様子を国王陛下が聞いている。


「各兵科の来年の卒業生については、先のスコーピオ戦で戦の経験を積んでおりますから、配属先で問題を起こすとも思われません」

「ふむ。ところで、現在の兵科なのだが……、来年度より潜砂艦を止めて空戦課を作ろうと思う。既に航空母艦が出来ており、その運用をヴィオラ騎士団に任せているところだ。そろそろ機動艦隊を編成して西に向かわせることになるが、その兵員の訓練をせねばならん」


 空母を主体とする機動艦隊に必要な士官となると、かなり異なった士官を必要とするんじゃないだろうか? 潜砂艦を止めるのは何となく納得できるんだけどね。


「ちょっと待ってください。潜砂艦の運用はかなり難しいことは認めますが、その存在意義は戦艦よりも高いと私は思っております」

「それは、リオが現れる前ならばだ。リオならば潜砂艦狩りをそれほど苦も無くやれるだろう。現に、海賊の母艦さえ沈めているのだからな」

「何ですと……」


 3人の中で一番年上に見える男性が俺に目を向けた。

 軽く頷いて、その通りだと答えておく。


「リオのアイデアを元に、我等の軍でも潜砂艦を見付けて、それを砂に潜った状態で破壊できることを確認している。案外簡単なようだ。そうなると、潜砂艦の優位性が失われる」

「ウエリントン王国は潜砂艦の運用を止めると?」

「他の2王国もそうなるだろうな。我等が運用を止めれば、潜砂艦の運用は海賊だけになる。狩るのがもっと容易くなるだろうな」


「北の中継点に新たな兵科の担当者を送れば、リオ殿がある程度陛下の授業について教えてくれるだろう。学校には戦闘空母を1隻貸与する。運用を学ぶのも必要だろな」


 太っ腹だなぁ。巡洋艦を改造した空母を貸与するのか。

 いや、ひょっとしたら訓練と中継点の防衛を両立させようなんて考えてるのかもしれないな。


「それなら、こちらの2人、アベルとリンジーを送りましょう。新たな兵科なら、老いた教官よりも新人の方が良いと考えます」

「ということだ。よろしく頼むぞ」

「コンサルティングということでよろしいですね。どのような知識と組織をどうするかについては相談に応じられますが、カリキュラムは無理ですよ」


 色々と良いように使われている気はするけど、俺達だって仕事がある。その仕事の亜合間である、マンガン団塊の採掘航海の休養期間であれば何とかなりそうだ。

 たっぷり酒を飲まされたところで、国王陛下の席を辞して、仲間の待つテーブルに向かう。

 ふらふらしながらテーブルを見て回るんだけど、フレイヤ達はどこにもいないんだよな。

 アレクなら知っているかと思って近づいたら、サンドラにビールをジョッキで飲まされてしまった。

 まだ肉を焼いてるみたいだけど、アレク達はひたすら飲んでいるだけみたいだ。


「フレイヤ達なら、東の端にいるはずよ。夜の海で泳ぐんだなんて言ってたけど」

「ありがとうございます」


 飲み終えたジョッキを返すと、思い出したようにサンドラが教えてくれた。

 先に教えてくれた方が良かったんだけど、礼を言って東に歩いていく。


 テーブルではなく、砂地にシートを敷いて数人が寝転んでいる。

 傍にあるランプの明かりで顔を確かめると、エミーだった。


「ここにいたの! 散々探したよ」

「お父様達のお話を邪魔するわけにはいきませんわ。食事は?」

「たっぷり食べさせられたし、たっぷりと飲まされたよ。しばらく酒は控えたいぐらいだね」


 俺の話が面白かったのか、口を押えて笑っている。


「あら、解放されたのね? 王女達は皆で泳いでいるわ。遠浅だし波も無いから溺れる心配はないわよ」

「ところでメープルさんは?」


「既に起きて部屋の掃除をしてるみたい。次が楽しみだと言ってたわよ」


 思わずゾッとしてしまった。かなりの痛手の筈なんだけど、治ってるのか?


「リオ君に似ているのよ。かなりの数のナノマシンがメープル嬢の体に入っているの。仕事柄、身体能力を極限まで上げたかったんでしょうねぇ」


 そういうことか。だから老人の域に達しても、身体能力が俺に迫れるってことなんだろう。


「しばらくは、帰ってこないみたいね。エミー、一緒にリオ君と楽しみましょうか?」

 

 カテリナさんの言葉に、エミーがちらりと海に目を向けた。


「そうですね。荷物番の必要もなさそうですし」


 カテリナさんと顔を合わせると互いに小さく頷く。2人が俺の手を取ると少し離れた場所にある東屋へと歩きだした。

 


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