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172 サービスのつもりだったんだけど


 2人の王女様達がエッドを離れたのは昼近くになっていた。

 フレイヤ達は最後の休日を楽しもうと、朝食もそこそこに飛び出して行った。何をして遊ぶのかちょっと疑問なんだけど、ネコ族のお姉さん達がスイカをたくさん運んで行ったから、浜辺でスイカ割をして楽しむつもりなんだろう。

 準備が出来たころには、ローザ達が疲れ果てて海から上がってくる頃の筈だ。


「あら? 2人はまだ寝てるのかしら」

「はあ、緊張が解けたのかもしれませんね。でも、そろそろということでメイドさん達が起こしに行きましたよ」


 カテリナさんは、俺の言葉にちょっと残念そうな表情をしている。

 いくらプライベートな島だとは言え、少し布地が少なすぎるんじゃないかな? 俺を挑発してるのが見え見えなんだけど、ここはちゃんとしておこう。


「それで、例の件は順調なのかしら?」

「やはり、休暇は必要ですね。斬新なアイデアが浮かびました」


 ほう? という感じで俺の顎に手を掛けるんだから困ったものだ。こんな母親だからドミニクがあんな感じになってるのかな?


「ガネーシャの方も、どうやらまとめ段階に入ったみたい。今夜にでも披露しない?」

「俺の方は、問題ありませんけど……」

「ガネーシャ1人ということではないから、十分に間に合うはずよ。ちゃんと賞品も用意したから期待してて良いわよ」


 商品は良いから、あまり構わないでほしいと言いたいところだけどねぇ。


「それと、ドミニク達は食堂で昼食を取るそうよ。でも昼食前にヒルダ達が来るでしょうから、昼食は簡単なものを用意してもらうことにしたわ」


 それって、俺には初耳なんだけど……。

 まあ、御妃様達だからねぇ。追い返すこともできないんだよな。ここはジッと話を聞いているしかなさそうだ。


 ようやく2人の王女様達のメイクが終わったようだ。

 2人とも真っ赤なビキニだけど少ない布地に騎士団のエンブレムが入っている。


「レイドラ様に揃えて頂きました。今日は全員がこの色だと」

 

 日に焼けていない肌は真っ白だ。少しずつ小麦色に変わるのだろう。


「急に日焼けをすると後が大変だよ」

「一応、UVカットはしていますよ」


 ようやく起きてきた王女様に、ライムさんが朝食を運んでいる。テーブルに用意しているみたいだから、俺達に頭を下げると朝食を取りにソファーを離れて行った。


「最初だからあまり気にしないにゃ。直ぐに早起きになるにゃ」

「あの2人ですか? 皆そんなものですよ。俺だって、何時もはのんびりしてる方ですから。そうだ。どうです。今日の夕暮れ時、砂浜で……」

「受けて立つにゃ! でも、怪我をさせたら大変だから、これで良いかにゃ?」


 メープルさんが俺より数段細い腕を見せてくれた。

 徒手空拳ってことかな?


「勉強させてもらいます」

「夜食も作っておくにゃ!」


 嬉しそうな表情で手を叩きながら喜んでいる。

 本当に強いのかな? ちらりとカテリナさんを見たら呆れた表情をしている。

 無謀というより呆れるほど……、なのか?


「おもしろそうだから、放送局を呼びましょう。トリスタンに連絡したら飛び付いてくるわよ」

「本当に、メープルさんって強いんですか? あまり信じられないんですけど」

「本当よ。接近戦で勝てた人はここ10年間でいなかったんじゃないかしら」


 背筋に冷たい汗が流れる。

 これは、ズルする外に手は無さそうだ。


 昼近くにやって来たお妃様達もビキニ姿だから、皆でジャグジーに浸かりながらワインを頂く。

 王女達と小声で話してるんだけど、時々俺に視線を投げて来るんだよな。悪い噂でないことを祈るばかりだ。


「それで、どうだったの?」

「健康で素直なお嬢さん達だと思いますけど?」


 俺の隣にヒルダ様を連れたやって来たカテリナさんの問いに答えたら、ヒルダ様と顔を見合わせて、ムフフ……と笑っている。

 俺の答えにおかしなところがあったのかな?


「後で、王女達の母親に聞かせてあげましょう。ところで、中継点の工事は順調ですの?」

「軍より工兵部隊を貸していただきましたから、思いのほかに計画が進んでいます」


「あら? そうなりますと、砦の建設を急ぎませんといけませんねぇ。ウエリントン王国の北と西の海岸地帯、王都の北西に設ける新たな中継点。中継点というよりは砦に近い物になりそうですが、そろそろ建設を始めても良さそうですね」


 俺達の中継点より緯度は低いけど、西に大きく突出した中継点は、ヒルダ様の言う通り砦と呼ぶ方が適切かもしれない。

 巨獣に追われた騎士団が駆けこめる場所でもあるし、砦を中心として数百kmの範囲を機動艦隊が遊弋すれば、中規模騎士団も西を目指せるだろう。


「再来年は大躍進になるのでしょうね」

「1つ、教えてください。西への足場ができたなら、騎士団は西に向かうでしょう。あまり探索がなされていないでしょうから、大量のマンガン団塊が手に入ると思います。マンガン団塊の多くはマスドライバーを使って星間貿易に使われているようですが、あまりに大量に手に入れることで、価格の暴落の危険性は無いんでしょうか?」


 良く気が付いたという目で、俺に顔を向ける。カテリナさんも一緒だから、その答えを知っているということなんだろうな。


「約定なの。鉱石の品質と値段は変わりがないし、量によって変更は無いのよ。このおかげで星間貿易が成り立っているようなものだわ」


 難しそうな話があるようだけど、それなら頑張って探さねばなるまい。

 

 暑くなってきたけど、水風呂に長居するのも問題だ。

 一端リビングに上がって、暑いコーヒーを頂くことにした。

 ソファーに座った俺の両側に王女達が座り、小さなテーブルを挟んでお妃様達とカテリナさんが座る。


「国王陛下がやって来るにゃ!」

「まぁ、何でしょう? とりあえずお出迎えをしなければ……」


 ここって、俺達の島の筈なんだけどねぇ。ヒルダ様達が滞在してるから、ちょっと休息ということかな?


 エレベータが止まり、扉が開くと屈強なトラ族の兵士とトリスタンさん、それにフェダーン様と国王陛下がリビングに入って来た。


「出迎えなど無用だ。少なくともワシとリオは同格なのだ」

「まだ慣れぬ王様ですからねぇ。でも、昨夜めでたく2つの王国から王女に降嫁して頂きました。新たな王国ですから、降嫁というのもおかしな話ですけど……」

「構わぬ。世間体などどのようにでもなる。これで、我が王国を交えて3つの王国それにヴィオラ騎士団領党首であるリオ公爵との絆が深くなれば幸いだ」


 客が増えたからソファーを追加しなければなるまいと思ってたんだけど、いつの間にかソファーが増えていた。真ん中のテーブルもかなり大きなものになっているんだけど、メープルさん達が直してくれたのかな?


 国王陛下やお妃様をソファーに案内したところで、2人の王女様を隣にして改めてソファーに座った。


「それにしても、王宮に一嵐がやって来たような騒ぎだったぞ。士官学校の教官達も拾行を止めてこっちに向かっているだろう。まぁ、前座には丁度良いが、自信はあるのか?」


 ひょっとして、俺とメープルさんの試合を見に来たのだろうか?

 王宮の政治はだいじょうぶなのかと心配になって来るけど、実質はお妃様が運営しているようなものだからなぁ。国王陛下はその責任を執るだけの存在のようだ。


「トリスタン殿とは棒で打ち合いましたが、今度は武器を使いません。体でぶつかっていく所存です」

「うむ。気概は認めたいものだが、メープル殿はマジルアットの達人だ。昔、拳で壁をぶち抜いたのを目にしている。油断はするなよ」


 マジルアット? どんな武術なんだろう?


『マスター。たぶん、マーシャルアーツの言葉が変異したのではないでしょうか? 古代の格闘術の事です』

『殴り合いってことじゃないんだな?』

『一撃必殺。手だけではなく、肘、膝、足までもが武器となりえます。上級者の腕は先ほどトリスタン殿の言われる通り、壁を破壊することなど造作もないとの記録があります』


「俺も奥義を使わなければいけないんでしょうね。しばらく使っていませんでしたから体がどこまで持つかは分かりませんが」

「そうなるだろうな。だから、皆が興味を持つ。王都でも名のある胴元が早速オッズを出したほどだ」


 前の決闘騒ぎと一緒ってことか?

 だけど、俺達は一緒に体を動かすだけなんだけどなぁ。それだけじゃ面白くないから試合形式を取ろうということなんだけどねぇ。


「勝ち負けは2の次だ。半ば伝説となっているメープル殿の動きを一目見たいという連中が集まるんだろうな」

「でも、プライベートアイランドなんですけどねぇ」

「そこを笑って済ますのが度量ということだな。まぁ、タダでは上陸しないだろうから、中継点への土産代ぐらいに考えておけば良い」


 こんな騒ぎになったのは……、カテリナさんに視線を向けると、ヒルダさんと掛け率のチェックに余念がない。

 しばらくはお妃様やトリスタン殿の話し相手になっていたんだが、2時間程過ごしたところでヨットに帰って行った。

 

 待てよ……。

 国王陛下御一行を見送った後、急いでペントハウスの外に出た。南の擁壁に体を預けて浜辺を見ると、工兵隊の一団が何やら砂地を造成している。

 その周りを、紅白の幕で囲い始めているし、パイプ椅子まで並べてるんだよなぁ。


「我が殿には、勝算はおありですの?」

「今回はメープルさんの胸を借りるだけだから、最初から勝とうなんて考えてないよ。でも、どこまで迫れるかは確認してみるつもりだ」


「さすがは我が殿!」


 2人が俺の左右の腕に腕を絡ませると、ペントハウスに向かった。

 まだ昼を少し過ぎたばかり、夕暮れまでは3人で楽しもうか。


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