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168 設計コンペ


 

「どう? なんとかできそうかい」

「休暇中の数人をここに呼びます。それで何とかですね」


 俺の言葉にマリアンが頭を傾げながら答えてくれた。

 フレイヤ達にはちょっと無理がありそうだからな。申し訳ないが中継点の事務方には頑張って貰わねばなるまい。

 

「それにしても、この島を手に入れられたのは嬉しい限りです。安上がりなリゾート暮らしを経験できますからね。最終的には国民への解放でよろしいですね」

「ああ、そうだね。上手く計画してくれよ」


 咄嗟に言いつくろったものの、その考えは無かったな。確かにヴィオラ騎士団専用ではなく、ヴィオラ騎士団領の国民全体で利用出来るようにすべきだ。

 静かなリゾートも一部作ってくれれば良い。後は皆で楽しむ島にしてもらえれば言う事は無いな。


 マリアン達と分かれて、海辺に歩こうとしたら。カテリナさんから「待った!」が掛かった。

 別に遊ぶ当てはないから付き合ってあげても良いけど、ガネーシャも一緒なんだよね。

 取り合えず、掘るの片隅にあったソファーに腰を下ろすと、自販機の冷たいジュースを2人に手渡した。


「ありがとう。ガネーシャは知っているわね。彼女に高緯度用ラウンドクルーザーを設計して貰おうと思っているの。一月ほど前に彼女に伝えたんだけど、結構迷っているもたいなのよ。リオ君も考えているんでしょう?」


 なるほど、概念を1つにしたいという事だな。悩むよりも相談するのは良いことに違いない。

 

「俺も少し考えてみたんですが、ちょっと見た目がね……。アリス、この間のスケッチを出せるか?」

『端末のスクリーンを展開します。少しアレンジしてみましたが、やはり問題がありますね』


 端末が自動的に立ち上がり仮想スクリーンが展開するのをガネーシャがポカンと口を開けてみている。


「前に言ったでしょう。リオ君のお友達がバックアップしてくれてるの」

「アリスと言っていましたね。私はまだそのお嬢さんを見ていませんが?」

「見たはずよ。凄く美人だから知ってる人は多いんだけどね」

 

 カテリナさんの話を聞いて首を傾げているけど、アリスを戦姫だとは思っていないみたいだな。

 確かにアリスは戦姫の形態を取っているだけで、本当は別な存在なんじゃないかと思うときもあるけどね。それに、アリスだってフレイヤ達と同じ存在だと思われて悪い気はしないだろう。


『これが、前にマスターが描いたラウンドクルーザーです。少し、力学計算にあわせるために修正しましたが、私にも良い出来とは思えません』


 スクリーンに展開した画像を見て2人が溜息を漏らす。


「これではねぇ……」

「ナイトを考えた人物の作品とは……」


 かなりな言われようだけど、団子虫とゲジゲジだからな。


「それなりに考えたつもりなんですけどさすがにこれではね。現在検討中です」

「考え方は理解出来るわ。でも、美しさも必要よ」


 それは理解出来る。だが、ランドクルーザーの美はどこにあるのだろうか? 先ずはその辺りから考えていかねばなるまい。


「私が考えたのは……」

 

 ガネーシャがスクリーンに投影したのは、……蛇?


「多関節構造と多脚走行装置を使うところは同じです。ですが、足を長くする変わりに関節を多くしました。……これも、あまり好評は得られませんでした」


 美的センスは同じぐらいありそうだ。となると、全く新しい艦体を作らねば見た目が悪いものになりそうだな。


「どう?」

「どう? と言われても、今考えられる事は既存に捕らわれずに艦体を考えるべきだと思いますけど……」

 

 俺の話を聞いて、面白そうにカテリナさんがタバコに火を点けた。


「リオ君ならそうなるわね。ガネーシャ、それが答えよ。既存の枠に捕らわれているようではまだまだ科学者としては半人前よ。固定観念を持ったらお終いと思いなさい。常に世界は変わってゆくの」

「でも、ラウンドクルーザーは、1千年以上前に完成されています。改修はありますけれど基本は変化していません!」


「今のラウンドクルーザーは、荒地の鉱石採掘を前提に考えれれたものよ。斜度のある土地で、尚且つ深い谷があるような場所で鉱石を採掘する事を考えれば、既存のラウンドクルーザーの限界がやはり見えてくるわ」


 要するに既存の考えに囚われるなという事か? 確かにそうだな。高緯度地方の採掘に要求される用件をもう1度整理して考えてみるか。


「ガネーシャ達とリオ君でコンペをしたら? そうね。賞品は私が出してあげるわ。期間は10日間。この島で遊びながらゆっくりと考えれば良いでしょう?」


 賞品はいらないから干渉しないで欲しい、と思うのは俺だけだろうか?

 まあ、何にも無いよりはやる気が出るな。

 

 2人が帰ったところで、アリスと高緯度地方での採掘用件を1つ1つ確認していく。

 結構、色々あるな。未確認の大型巨獣にどう対処するか。集めた鉱石の運搬をどうするか……。必ずしもゲジゲジや蛇型では対処しきれるとは思えないな。

 いっそ、空を飛んでいくか?


 ん……、 空を飛ぶ? 地上を離れるってことだよな……。

 

「アリス。ヴィオラの巨体を硬式気球と反重力装置の併用で浮かせる事は出来るか? 出来る場合はどんな形態になりそうだ?」


 マグカップにコーヒーを注いで戻ってきても、まだスクリーンに画像は現れない。一服しながら待っていると、スクリーンに画像が映し出された。


『これが、完成予想図になります。収納コンテナは200t標準型を6台。搭載する戦機は6機、獣機は16機になります。全長250m、最大部は直径60m。重量3万トン。飛行速度最大時速150km。航続距離3万km。上空へ離脱出来ますから武器は装備しておりません』


 ツエッペリン型の硬式飛行船そのままだな。

 これは美しいと言えるだろう。これを元にアリスと考えていくか。


 携帯の時計を見ると16時前だ。そろそろ海岸でバーベキューが始まるころだな。

 

「アリス。ナイトとゼロの搭載が可能か検討してくれないか? それにゼロの大型化は可能だろうか? 出来れば50mm滑腔砲も考えておきたい。高緯度では何が出てくるか分からないからね」

『了解です。ガネーシャ達の様子も偵察しておきますね』


 そこまで必要はないと思うけど、アリスが気になるのかな?

 その辺りは任せておいて、次々と現れる飛行船の概念図を眺めることにした。

 それにしても飛行船はどれもが判で押したように葉巻型なのはどんな理由があるんだろう?

 俺達が作る飛行船は、着陸も容易にしておきたい。その上で、緊急時には直ぐに上空へと離脱しなければならない。

 色々と形にはなるけど、これだ! というインパクトに乏しい感じがするな。どれも葉巻型だから余計にそんな感じに囚われるのかもしれない。


「アリス。設計に追加してくれ。搭乗人員は100名以下、活動期間は1か月。地上での探索は無人機が行うとして、無人機の仕様も検討して欲しい。これで、俺達の勝ちだとおもうんだけど?」

「ガネーシャ達は、いまだにコンセプトが纏まらないようです。やはり私達の勝ちと判断しても良さそうです。でも油断はできませんよ」


 カテリナさんの薫陶著しいガネーシャだからなぁ。確かに油断はできないし、ひょっとして俺達と同じアイデアを出さないとも限らない。


 ゴンドラの位置を変えてみたり、武装を強化してみたりと色々な飛行船が仮想スクリーンに浮んでは消えていく。

 やはり形は葉巻型だが、初期には球形もあったみたいだ。


「葉巻型から形を変えたいんだけど、あまり良い形にならないみたいだね」

『空力特性もそれなりです。マスターが変えようとする意味が理解できません』


「たぶんアリスが正しいんだと思う。でも、もう少し形を変えたいという思いが沸き上がって来るんだ。俺の我儘なんだろうけど、形になるまで付き合ってくれるとありがたい」

『私は、何時もマスターと一緒ですよ。我儘を調査するのもおもしろそうです』


 そんな調査を行うことで、新たな感情を持つことになるのだろう。

 再び、ラフスケッチのような飛行船の姿を仮想スクリーンで確認していく。


 ちょっと疲れたところで、ホールのコーナーから足を踏み出して大きく伸びをした。


「ああ、いたいた。まったく探してたのよ!

「まだ遊んでたんじゃないの?」

「もう、まだのんきなことを言ってるのね。18時を過ぎてるわよ。まだ夕焼にはならないけど、皆、渚に出て待ってるわよ」


 相変わらずのフレイヤだ。たぶん俺がいないのに気が付いてずっと探してたんだろう。


「ほら! さっさと出掛ける。兄さん達は獲物を取り出していたかr、早く行かないと無くなっちゃうわよ」

「身一つだから、このままでじゅうぶんだ。フレイヤの後に付いてくよ」


 バーベキューの会場に向って歩き出す。浜辺全体が、いくつもの篝火を作ってのお祭り騒ぎだ。

 保養所から20mも歩くと足元はレンガ状の敷石から砂地に代わる。サンダルに履き替えてるから砂も気にはならない。

 フレイヤに手を引かれながら、渚を歩く。たまに波が足元をくすぐるのが面白いのだろう。ネコ族のお姉さん達がおおぜいで遊んでいた。


「ほら!」

 誰かの声に、皆が一斉に西をみた。

 夕暮れの太陽が今まさに海に落ちようとしている。

 砂の海の夕暮れも綺麗だけど、やはり夕暮れは海が一番じゃないかな。

 完全に太陽が海に没したと同時に歓声と拍手が巻き起こる。同じ感動を覚えた人間同士の魂の共感ともとれるだろう。


 一番大きな焚き火に向かって歩いているようだ。

 周囲には、簡単なテントと大きな焚き火、それにバーベキューのコンロがいくつも横に伸びている。

 早速炭火に乗っているものがあるのを見ると、大漁だったのかな? さぞかしライムさん達が喜んでいるに違いない。


「リオ! こっちだ!!」


 大声で手を振りながら俺を呼んでいるのはアレク達だ。片手を上げて了承を伝えると、フレイヤと一緒に砂浜を走る。

 大きなコンロの金網の上に、沢山の魚や貝、それに海老が乗っている。アレクとベラスコが忙しそうにトングで獲物をひっくり返している。


 先に来ていたエミーの隣に座ると、直ぐに缶ビールが渡された。

 先ずは一杯飲んでおけってことか? 冷たい缶ビールを飲み干すと、アレクとベラスコの自慢話が始まった。



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