167 リゾート開発ができそうだ
何とも場違いなペントハウスのような住まいだ。
ベランダというよりは、庭そのものだし、大きなヤシの木が何本も植えられている。
木陰には東屋もあるし、デッキチェアの傍には大きなパラソルまであった。さすがにプールは無いけれど、直径3mほどのジャグジーが庭木に隠されて備えられている。
下手の間仕切りは藤製のラグのような物だけで扉すらない。それでもベッドの数は10個あるし、大きさはキングサイズなんだよねぇ。
食事用のテーブルがリビングの北の窓辺にあったけど、椅子の数は12もあった。
「プライベートルームなんでしょうけど、この中にプライバシーは無さそうね」
「リオ様と寵姫ということなんでしょうから、問題はないですよ」
フレイヤとエリーが冷たいワインを飲みながら話しているけど、エリーも表立っての妻であり、実際はフレイヤ達と同列であると自覚しているみたいだな。
そんな関係を複雑化しているドミニク達は早速ビキニに着替えてデッキチェアに向かって行った。
日光浴をするつもりなんだろうけど。紫外線対策はきちんとしたんだろうか。
ドミニク達は名目的な妻達だ。男性には興味がないと言っておきながら、俺の前を平気で裸で歩くんだから目のやり場に困ってしまうんだよね。
カテリナさんも似たところがあるから、案外遺伝してるのかもしれないな。
「凄い部屋ね。私はどこの部屋になるのかな?」
大きなバッグを持ってクリスが現れた。
フレイヤが席を立ってクリスに近付いてったから、部屋を適当に見つけてあげるんだろう。それでも余ってるぐらいだからね。
保養所を維持するための従業員は、年間契約の先払いらしく俺達が給与を払うのは来年からになるらしい。
俺達の提示す条件を飲んでくれるならありがたいんだけど、王族のプライベート保養所ともなると、職業上のステータスでもあるらしい。
どれぐらい残ってくれるかは、マリアン達の交渉能力ということになるのだろう。
「このまま従業員が残ってくれるのではないのか?」
大きな食堂での夕食は、バイキング形式で料理を提供してくれる。
ローザがトレイの上に乗せてきた料理を見てエミーが首を振ってるのは、野菜が少ないと思ってるんだろう。食後にたくさん果物を食べれば十分なんじゃないかな
「王国と同格ということを前に出して交渉するとマリアンが言ってたよ。あまり減るようだったら、ツアー会社に依頼しないといけないだろうな」
中々に面倒だ。
その辺りを調整したいがために、ドミニクがツアー会社を呼んだのだろう。交渉事は余り好きじゃないけど、困っている項目を整理しながら話せば上手く行くんじゃないか。
上手い具合に、アリスとマリアンが付いてくれる。
翌日は、朝から皆がそわそわしてる。早く遊びたいということなんだろう。
それでも、メイクはきちんと行ったようで、いつもよりも美人に見える。
軽くシャワーを浴びて着替えを終える。
サーフパンツに黒のTシャツを着ると麦藁帽子にサングラスを掛ける。小さなバッグには、拳銃と防水ケースに入ったタバコとライターを入れておく。コインケースも必要だろうな。
皆を連れて食堂へと降りていく。
ローザとドロシーはお揃いのインディアンルックに弓矢を持っている。後ろのリンダ達も似たような服装だ。その弓矢で野生の豚を狩るつもりなのだろうか? 返り討ちに合いそうな感じがするけど、リンダ達が拳銃を持っているから何とかなるのかな?
簡単な朝食を頂いたところで、皆が島に散って行った。
フレイヤ達は網とバールのようなものを持っていたから、湾内で真珠貝でも探すんだろうか?
時間を聞いてなかったけど、ここにいれば時間になれば教えてくれるだろう。
その間に、纏めなきゃいけないものがあるんだよね。
タバコを楽しんでいるとベラスコが通り掛った。お互いに片手を上げて挨拶したのだが、水着姿は納得できるが、水中銃を担いで一服る。足ヒレはまだ履かなくても良さそうだが、ペタペタと歩いている。疲れると思うんだけどねぇ……。
アレクは俺と同じような格好だが大きな竿ケースを担いでいるし、サンドラ達はビキニで大きなクーラーを担いでいた。
皆、直ぐに始めるつもりのようだ。
「ここで待っていれば、マリアンがやって来るわ。交渉はリオが行うのよ」
「いいけど、それが終ったら適当に暇を潰すよ」
「でも、夕暮れには浜辺に来るのよ。今日はバーベキューだからね」
フレイヤ達が手を振っているから、ドミニクは慌てて外へと駆けて行った。そんなに慌てなくても良いと思うけどね。
ライムさん達も、いつの間にかビキニ姿だ。足にナイフケースが付けてあるのがちょっとだけど、エミーやローザの護衛だからかな。
俺に手を振ると、2人とも浜辺とむかったようだ。
自販機のコーヒーを飲んでゆっくりとホールを見渡すと、あれほどいた騎士団員が誰もいなくなってる。
南国だから日差しが強い。ローザ達はちゃんと帽子を持って行ったのかな?
まだマリアンは来ていないようだ。ロビーのソファーに腰を降ろして、砂浜を見ながら一服を楽しむ。
保養所は浜辺に隣接しているが10m程標高が高いようだ。ロビーから砂浜全体を眺める事が出来る。
100人以上が浜辺や小船で楽しんでるな。フレイヤ達もあの中にいるに違いない。
「お待たせしました!」
マリアンはビキニにTシャツだ。肩から小型の防水ケースを担いでいる。
「ドミニクから言われて来たんだけど、お客は何時ごろ来るの?」
「もうすぐの筈です。ほら、あのクルーザーがそうだと思いますよ」
腕を伸ばした先には確かに2隻のクルーザーがこちらに向かっている。
「大きい方がツアー会社のものでしょう。小型の双胴船が私達のクルーザーです。ヨットも購入していますが、まだ製作中のようですね」
そんなお金があったんだな。マリアン達のことだから無駄遣いはしないと思うんだけど、クルーザーって安くはないんじゃないか?
「これ、ありがとうございます。ラズリーも喜んでました。こんな高価なアクセサリーは私達には手が出ませんから」
そう言って髪を少し上げると耳もとに黒真珠のピアスが輝いてる。
見た瞬間に笑みが浮かんだ。似合っているな。あげた方だって喜んでもらえるなら嬉しい限りだ。
クルーザーが近付いてくると、海中からボコンっと桟橋が現れた。浮体を使った桟橋らしい。砂浜から100mほど沖に一直線に浮かんでいる。
「保養所で制御するのだそうです。普段は沈めておくと聞きました」
桟橋の両側にクルーザーが停止すると、数人の男女が下りてきた。そのまま、この保養所にやってくるらしい。
「会議室の準備が出来たにゃ。案内するにゃ」
ネコ族の娘さんの後に付いて会議室に移動する。教室より2回りほど広い部屋だ。20人程の会議が行なえるようだが、今日は小さくまとめられているから10人程がすわれるようになっている。
上座に坐って、タバコを楽しんでいると、数人の男女が入ってくる。最後に入ってきたのは、カテリナさんとガネーシャさんだな。女性が全員ビキニだけど男性はサーフパンツ姿だから俺の服装もこれで良かったに違いない。
とはいえ、ここにカテリナさんがやって来る理由を考えてしまうな。
自分達の研究施設ぐらいを言い出しかねないぞ。
軽く互いの紹介をすると、早速商談が始まる。
「カテリナ博士の紹介が得られたので私共がやってきました。元プライベートアイランドであれば来客効果は極めて高いものとなります。毎日の来島者数を限定する形で運用を我々に任せて頂きたいのですが……」
アレクと同い歳に見える青年が俺達に告げた。
限定という事に意義はない。だが、それで採算が取れるのか?
「俺達の領土は北の果てにあります。たまにこのような地でのんびりと休暇を過ごしたい事は確かです。それを加味した限定利用という事なら、商談を進めましょう」
俺の言葉に相手方がホッとした表情になる。
これからが大変なんだけど、マリアンの手腕に任せようかな。
商談の落としどころは、この島の施設の維持と従業員の給料というところで良いだろう。
ネコ族のお姉さんが運んでくれたグラスを手に取り、1口飲んでみると少しアルコールがきつい。まあ、商談には丁度良いか……。
「大きな島ですし、保養施設の客室が100室と聞いています。出来れば私達の方で、もう少し簡易な宿泊施設を作りたいと思っています」
規模は同じ位の部屋数を確保したいらしい。2つの宿泊施設を使えば200家族はこの島に滞在できる。
「150室を私共に使わせてください。この保養所の半分の部屋になります。50室はヴィオラ騎士団専用としてキープします。10日前に利用が無ければ私共で、キャンセル待ちの人達に提供したいと思います」
2つの保養所をフルに使うつもりのようだ。だけど、それだけの集客効果があるのかな?
「あまり景観を変えないようにお願いする。桟橋はちゃんとした物を作った方がいいだろうな」
「それでは、我々にこの島のリゾート開発を任せて頂けると?」
「こちらこそお願いしたい。細かな契約内容はこちらのマリアンと詰めて欲しい。こちらから望むのは、施設の維持と従業員の雇用だ」
「分かっております。利用料に着きましては十分納得出来る額を提示させていただきます」
後は、マリアンに任せよう。
マリアンの背中を軽く叩いて交渉を引継ぐ。
すると、バッグから小さな端末を取り出して具体的な商談に入っていく。
相手方と話しながらスクリーンの数字が変わっているから、ドロシーがバックアップしてるのかな?
ドロシーは、ローザ達と狩りに向かったけど、だいじょうぶかな? ちょっと心配になってきた。
マリアン達は、互いに端末を使って表計算をしているみたいだな。
それでも、30分も経たずに互いに笑みを浮かべて握手を交わした。
「大枠は,これで良いでしょう。但し、新規施設等をこの島に設置する際は事前審議を要するという事は納得いただけましたか?」
「計画段階で説明いたします。では、アトラクション用に島の川とジャングルを使わせて頂くことも了承していただけますね?」
まだ少し残ってるのか? 再度話し合いを始めたぞ。
「後は、小さなことばかりね。今日、決められ無かった事項は後日協議として纏めたらどうかしら。基本的な事項は合意が出来てるんでしょう?」
カテリナさんの言葉に商談中の皆が渋々頷いている。
このまま進むとどれだけ時間が掛かるか分かったものじゃない。基本契約を交わして詳細は別途でも問題は無いだろう。俺達としてはこの島の維持管理で十分なくらいだ。
「ところで、この島の警備はどのように?」
「いちおう、ギルドに声を掛けているわ。この保養所に拠点を置くでしょうから、うまくやってちょうだい」
ギルドって、トリスタンさんのところから人を出して貰うのだろうか?
カテリナさんが直ぐに返答してるところをみると、既に裏取引が終了してるんだろうな。
「それでは、3日後に再度打ち合わせるという事で、基本合意が出来ましたので、互いに細目を明日の夕刻に交換しましょう。それを元に3日後に打ち合わせて契約を結びたいものです」
「よろしく」
簡単に挨拶をして彼らが退室するのを見送った。




