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166 頂いた島に行ってみよう


 3王国から独立と言っても、体制が整わないのはどうしようもない。

 一応、一年後に独立宣言を出すという事でザクレムさん達が奮闘することになった。貴族社会にはしないようにとの指示を出しておいたからだいじょうぶだろう。かなりの人材を3つの王国から集めるらしい。それに伴い移民も増やすとは言っているのだが、産業基盤が無いから働き口が足りないような気がする。その辺りは商会が2つの整備工場を誘致してくることで何とかしてくれるそうだ。

 フレイヤの母親も農場を手放してこの地に移ってくるらしい。


 中継点に爆弾を落として10日程過ぎた頃、マリアンからの状況報告を読んで驚いてしまった。

 俺達の国に、3つの王国からの移民が殺到しているとのことだ。

 各王国から数十人程度を見込んでいたのだが、蓋を開けると10倍以上の申し込みがあったらしい。


「3つの王国から王女が降嫁したということは、国王達と同列ということよ。それだけ、期待してるんでしょうね」


 カテリナさんは、完全に他人事だ。一応、公爵領の大臣ぐらいにはなるんじゃないかな? もう少し対策を真剣に考えて欲しいんだけどねぇ。


「犯罪歴が無いこと、技術を持っていることは必携よね。独身者と妻帯者はどうするの? それにベルッド爺さんみたいな人は?」


 学歴よりは、個人の技能を優先しよう。上手い具合にザクレルさんを中心とした官僚組織が生まれつつあるからね。国家としての運営は任せられるから、中継点の主力産業であるラウンドクルーザーの整備や、新型獣機の製作を任せられる人材が望ましい。


「その辺りを含めて、マリアンに伝えるよ。基本は一芸に秀でた人材だ。後は、犯罪歴が無ければ問題ないと思うな」


 ドミニクも頷いているところを見ると、俺の意見に同意してくれたんだろう。

 とはいえ、ザクレムさんのところも人材不足であるなら、優先的に対応するようマリアンに伝えるつもりだ。


「新たな国家を作るんだか、決め事も多いでしょう。次のマンガン団塊採掘には、リオとエミーを中継点に残した方が良さそうね」

「そうねぇ。ザクレム達も助かるんじゃないかしら。マリアンに伝えて、次の航行に間に重要案件を処理する様に伝えるべきでしょうね」


 俺達の同意も得ずに、計画が変更される。

 巨獣が出てきても、ローザ達やアレクがいるから安心ではあるんだけど……。


 翌日。カンザスはヴィオラと共に中継点を後にした。

 いつも通りに居住区のアパート暮らしになってしまったけど、エミーは嬉しそうだな。

 近所の小母さんや工事作業員の嫁さん達と、食事の後は何時もおしゃべりに興じている。

 第2離宮の暮らしからは想像もできなかっただろうけど、小母さん達に囲まれて笑い声を上げているぐらいだから、今の暮らしを楽しんでいるようだ。


 東は工兵部隊が工事をしてくれたけど、西の桟橋工事は中継点の商会が主体となっているから、今も工事が続いている。トンネル工事は仕上げ段階になっているから、俺とエミーは中継点の改修計画を基に桟橋を作るための岩盤掘削に仕事が移っている。


「だいぶ大きな桟橋になりましたね」

「全体が居住区になるらしい。閉鎖空間だけど公園を作るって言ってたよ。天井に穴を開けて太陽光をガラス繊維で導入するらしい。日光浴ができるとマリアンが喜んでたな」


 作業を終えると事務所の食堂で夕食を取る。

 賑やかな食堂は、作業を終えた連中で混んでるな。子供の声もするから家族連れの連中も多いようだ。

 今の状況では家族単位で料理を作るという事がまだできない状況だ。

 一括して作り、必要であれば配送することで対応している。それなりに商会がレストラン等を経営しだしたから、食堂の混雑は少しは緩和しているらしいが、何と言っても安くて量が多いからね。普段は食堂に人が流れてしまう。


「新しい居住区には簡単な調理が出来るみたいだ。計画では2千家族が入居できると言っていたけど、場合によっては更に増やさないとね」

「将来は外に建設したいですね」


 食事が終り、冷えたビールを頂きながらエミーが呟いた。

 それは理想だな。だけど何もしなければ夢で終ってしまう。安全性を考えて作ってみるのも良いかも知れないな。

 遠くの方で手を振るご婦人を見付けると、エミーが俺に軽く頭を下げて、ビール持参でご婦人の元へと歩いていく。

 屈託のないおしゃべりに興じるのかな?

 それなら俺も……、離れた場所にポツンと置かれたテーブル席に座ると、タバコに火を点ける。

               ・

               ・

               ・

 カンザスが鉱石採掘から戻って来ると、俺達の工事のお手伝いも終わりになる。

 事前の話しでは、マリアン達から色々と相談事を持ち込まれると覚悟してたんだけど、ザクレムさんが方向性をきちんと出しているようだ。

 10日間の間で持ち込まれた相談事は、新たな下水処理をどうするかだけだった。

 今までは、洞窟の奥にある地底の溶岩流に、ゴミと一緒に投げ込んでいたらしいんだけど、さすがに人口が多くなればそうもいかないだろう。

 レイトン博士に相談するよう伝えただけなんだけど、2日後にレイトン博士から御礼の通信が入った。

 どうやら、『閉鎖空間における廃物利用』という研究予算がウエリントン王国から下りたらしい。

 案外、宇宙船にも取り入れることができるんじゃないかな?


 カンザスのリビングでくつろいでいると、ドミニクが俺達に視線を移す。人数でも確認しているのかな?


「カンザスの改修を休暇期間で行うわ。客室と会議室の改装が終わったから、このリビングと繋ぐ工事をするらしいの。これで、工事中のパレスができるまでは何とかなるから、リオに降嫁する王女を迎えに行くわよ」

「休暇じゃないの?」


 ドミニクの話を聞いて、フレイヤが不満そうに呟いている。


「その休暇だけど、ウエリントン王国が高速艇を用意してくれるみたい。頂いた島で、ゆっくりと過ごせるわ。小さな保養所が既にあるみたいね。連絡用の円盤機もあるみたいだから、必要な品は隣の保養所で手に入ると聞いてるわ」

「なら、俺達は一緒に行くぞ。ベラスコにも釣りを教えたいからな」


 筆頭騎士が賛成ならば、俺が反対しても意味が無さそうだ。

 ローザが直ぐにリビングを飛び出して行ったのは、ちびっ子達と何をして遊ぶか相談に行ったんだろう。リンダとドロシーが慌てて後を追いかけて行った。

 まだ何もない筈だから、今度こそ椰子の木にハンモックを吊って昼寝が出来そうだ。


 2日後にやって来た、高速艇は4機だった。数十人が搭乗できるから、ヴィオラの乗員も参加できるらしい。

 アデルが残念そうな表情をしていたけど、俺達が帰ってきたら今度はアデル達とメイデンさん一味が休暇を取ることになっている。


 高速艇に乗り込むと、大きな荷物を抱えてる連中ばかりだ。荷物室だけでは収容しきれなかったらしい。

 今回は、王都に寄る事も無く島に直行する。15時間ほどの旅だから、一眠りすれば俺達の島ってことだ。


「今回は海で魚を取りますよ。水中銃も用意しました」

「まあ、期待はしとくぞ。おれはのんびりと釣りを楽しむつもりだ」


 ベラスコは釣りを早々に諦めたようだけど、さて軍配はどちらに上がるんだろう?

 ライムさん達がにこにこしてるのは、どっちが勝っても美味しく頂けると考えているんだろうな。

 

「我らは、島のジャングルを探検するのじゃ! 野生の豚がおるらしい。何とか捕まえて浜で丸焼きを作るのじゃ」


 ローザの話に柄を輝かせているのは、戦姫の2人とそのお付の騎士達だ。やはり野生の獣を追うというのは心惹かれるものがあるらしい。

 フレイヤ達は前回の真珠に味をしめたらしく、真珠貝を狙うということだ。これなら俺はのんびり昼寝が出来そうだな。

 

「リオにお願いがあるの。明日、クルーザーが届くわ。その船を回航してくる時に旅行代理店の人がくるみたい。リオと話をしたいらしいわ」


 ドミニクが自分の席から離れて、俺のところに歩いてくるとそんな話を持ち出した。


「この島の利用について話をしたいそうよ。交渉次第ではこの島の運営を任せられそうね」


 昼寝はそれが済んでからだな。10日もあるんだから、1日ぐらいは、がまんしよう。

 

「マリアンが付き合うわ。でも手を出しちゃダメよ」

 

 これ以上増やしてどうするんだ? 俺はハーレムを作りたいわけじゃないぞ。

 

「制服じゃなくていいんだよね?」

「サーフパンツにTシャツで十分よ。私達は休養に来てるんだから」


 俺だけ休養じゃないような気がするんだけどなぁ。

 それに、この場にカテリナさんがいないのも何となく気にはなる。

 明日には到着する島の話をしながら、皆はワインを飲んでいる。俺もいつの間にかマグカップからワイングラスに変わっていた。

 

「後、1時間で島に到着です。皆さん準備は良いですか?」


 機内放送で俺達は目を覚ました。

 冷たいおしぼりで顔を拭うと、高速艇の窓から下を眺める。

 どうやら、王都の上空らしい。大きな建物が見えないのは、中心からかなり外れた位置を飛んでいるためだろう。進行方向にきらりと光っているのは海に違いない。


 機内放送の予定通り、1時間程で俺達を乗せた高速艇は大きな島の広場に着陸した。

 広場と言っても200m四方は無いようだから、乗員と荷物を下ろした高速艇は直ぐに飛び立ち、次の高速艇が下りてくる。


「1号機の乗員はこっちに集まって頂戴!」


 フレイヤの大声が聞こえてきた。俺達が乗って来たのが1号機なんだろうか? 最初に着陸したんだから1号機かもしれないけど。

 自分のバッグを持ってフレイヤのところに向かうと、皆がフレイヤの話を熱心に聞いている。


「……島での注意はこれぐらいかな? ジャングルに入ってもGPSの座標を連絡してくれれば、円盤機で救出できるわ。それじゃあ、あの保養所に歩て頂戴。カウンターで部屋のカギを受け取れるわ」


 重要な部分は聞いてないような気がするけど、ヤシの木陰で昼寝をするなら危険はないんじゃないかな? 食事の時間と寝る場所さえ分かれば問題はない。

 皆の後に付いて、保養所に歩くのだが、ともすれば遅れがちだ。200mほど先の木立の向こうなんだけど、何で皆は急いでいるんだろう?


 どうにか保養所の前に突いたので、汗を拭いながら建物を見上げた。

 5階建ての宿舎が3棟、海に面して建てられている。その後ろにも小さな建物があるんだけど、大きな浴場があるのかもしれないな。


「ほらほら、そんなところに立ってないで受付を済ませる! 2号機の乗員がもう直ぐやって来るんだから」

「ああ、済まない。それで、部屋は?」


 俺に声を掛けてきたということは、フレイヤが俺の受付を済ませてくれたに違いない。

 なら、早めに部屋に荷物を置いて、渚でも散歩するのも良さそうだ。


「皆は先に向かったから、後は私達だけよ。最上階の一番大きな部屋だと聞いたんだけど……」

「あまり上等なのもねぇ……。アレク達は?」

「4階にあるテラスルームよ。士官は全て4階に押し込んだとレイドラが言ってたわ」


 あの少し張り出したテラスのある部屋なのかな? おかげで5階がよく見えなかったんだけどね。


 玄関ホールの奥にあるエレベータに乗ろうとしたら、フレイヤにいきなり腕を掴まれた。


「こっちのエレベータなの。他のエレベータは4階止まりで、これだけが5階への直通なのよ」

「何か嫌な予感がしてるんだけど」

「今更でしょう? せっかく貰ったんだから楽しまないとね」


 エレベータを下りると、絨毯張りの空間が広がっていた。

 どう考えても体育館並みの広さがある。遠くにエリー達が座っているソファーセットが小さく見えるな。

 やはり、5階全体が1つの部屋ということになるんだろう。

 王族のプライベートな島だと言っていたからねぇ。さすがは王族ということになるんだろうけど、俺には無駄使いにしか思えないんだよな。


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