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157 忘れて欲しかった約束事


 マクシミリアンさん達がやって来たときにフェダーン様が同行していたことは知っていたけど、会議には同席しなかったんだよな。

 夕食後に皆でリビングでくつろいでいると、レイドラの報告が始まった。


「新たな騎士団の仲間としてナルビク王国から第2王女のオーロラ様とエルトラム王国第3王女のオデット様がやってきます。ウエリントン王国のヒルダ様の下で来訪の準備を整えていると連絡がありました」


 俺は飲んでいたワインを吹き出しそうになったし、アレクはサンドラ達と笑いこけている。ローザはニコニコとしているけど。何かよからぬことを考えているに違いない。

 エミー達は膨れるかと思ってたけど、仲間が増えるぐらいに思っているのか笑みを浮かべて頷いている。


 すっかり忘れてた。フェダーン様の来訪は様子見ということだったんだろう。

 何と言っても騎士団だからねぇ。貴族の肩書はあるんだけど、住処は貴族の邸宅とは段違いのカンザスの船室だからねぇ……。


「とりあえず、このフロアを全てリオ公爵の私室として改造します。会議室と客室を取り去ればお二方を迎えても暮らす場所を提供できます」

「我等はどうなるのじゃ?」


 撤去する客室にローザ達は住んでいるからねえ。確認するのも当然だろう。ちびっこ2人も不安な表情をしている。


「士官室が余っていますから、少し広げてお渡しします。会議室はブリッジの後方にあるもの1つになりますが、会議室をあまり使いませんからそれで十分かと」

「思い切ってブリッジそのものを船尾に広げたら? ローザ達も同じフロアがいいわよね」


 カテリナさんの提案に、ローザ達が頷いている。王族だからねぇ、やはり俺達のフロアの下階を使うのは抵抗があるようだ。

 方針が決まれば、後はベルッド爺さん達が動いてくれるだろう。


「ところで間に合うんでしょうか?」

「その時はヒルダに引き留めて貰いましょう。でもそんなに時間は掛からないはずよ」


 その根拠が知りたいところだ。

 仮にも大型のラウンドクルーザーを改造することになるんだから、1か月はかかりそうに思えるんだよな。


「そういえば、ナルビク王国の王女はあの時の約束ということになるんでしょうけど、エルトニア王国には何の手助けもしてないはずですが?」

「とんでもない。あの号令に誰もが感動してたわよ。あの時のリオ君の指令で3つの王国軍も動いているぐらいだから、国を挙げて何らかの対応ということになったんでしょうね。ナルビク王国の降嫁の話を聞いて直ぐに動いたということかしら」


 動くことも無かったんだけどなぁ。だけど、この場で断るという選択肢は無いんだろうな。既にエルトニア王国を去って、ウエリントン王国の第2離宮に来てるということだから、断ったりしたら軍を動かしかねない。

 

「兄様も諦めることじゃな。ところで、2人の王女の特技は?」

 

 ん? ローザの話だと、王族は何らかの特技を持つということなのかな。となると、エミーの特技は何だったんだろう? 別に何も無くても十分だけど後で聞いてみよう。


「特技は操船と射撃らしいわよ。とはいえ、どちらもアカデミーの経営学部を首席で卒業したと聞いているわ。中継点の経営に参加してもらえるんじゃないかしら」

「部門を任せられるというなら、ありがたい話だわ」


 最初から仕事をさせたら、帰られてしまいそうだ。……待てよ。本人達が、ここが嫌いだというなら、王国間に波風を立てずに帰って貰えるかもしれないな。


「嫌われないようにしなさいね。でないと王国間に微妙な問題が出てきそうだから」


 俺の考えを読んでるんだろうか? 

 後は、なるようにしかならないってことらしい。

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                 ・

 カンザスの改造が急ピッチで行われている。その間、俺達の仕事がないから俺とエミーは西の桟橋の工事に駆り出され、ドミニク達はザクレムさんやラズリー達都一緒に中継点の管理に新たな2人を組み込むための調整をしているようだ。

 王女様だからねぇ……。本人達のやる気も問題なんだよなぁ。あまり気を回さずに、先ずは本人達の望みを聞いてからでも良さそうに思えるのだが。


 10日程が過ぎたころだった。穴掘りに精を出している時、ガリナムから緊急連絡が入ったとアリスが教えてくれた。


『「新たな巨獣発見。チラノタイプ至急応援請う!」との暗号通信です』

「その暗号だと?」

『戦機発見。現在発掘中になります。ガリナムからの連絡ですから見付けたのはベラドンナ騎士団になるのでしょう』

「戦機狙いの騎士団が来ても、ヴィオラとディアンティスがいる。とりあえずは安心して発掘してるに違いないね」


 穴掘りを終えてカンザスに帰ってきても、ガリナムからの第2報はまだらしい。

 思ったより作業が進んでいないのかな?


「戦鬼じゃと良いのじゃが……」

「そんなに見付からないよ。戦機でも十分だ。これでベラドンナ騎士団の戦機が増える」

「順番じゃったな。これでベラドンナは3機目と言うことじゃな」


 ソファーに座りながら、夕食の準備が終わるのを待つ。

 ドミニク達はまだ帰らないから、ライムさん達もゆっくりと織機を並べているようだ。


「ところで、軍から艦隊が派遣されてくるんしょう?」

「あぁ、でも直ぐじゃないよ。母艦の改造の最中らしい。カテリナさんが中型航空母艦と航空巡洋艦の設計をパテント込みで渡しているから、それが出来てからになるんじゃないかな」

「小規模騎士団が中緯度まで進出出来るのじゃな。それは喜ばれるじゃろう」

 

 ローザが笑みを浮かべる。ウエリントン王国の王女様だから、西への進出はウエリントンの発展に結びつくと考えているのだろう。だけど、他の王国だって中継点作りに乗り出すだろう。俺達に戦姫を預けたのもそんな将来構想を持っていたからに違いない。


「今夜もカテリナ博士がいないのよね?」

「ラボに閉じ篭っているんじゃないか? また何か始めたということだろうね。この間の宝探しツアーで何か閃いたみたいだよ。皆に教えていないのは、騎士団に直接的には係わらない研究ということじゃないかな」

「そこが博士という訳じゃな。次ぎは何じゃろうな?」


 俺の話に、ローザが頷ている。でも笑みを浮かべているところを見ると楽しみなようだ。

 だけど、完成した場合には微妙な問題が生じる恐れがある。

 カテリナさんの言葉をそのまま取るなら、3王国と同等の関係を保つ王国を作ることで対応出来そうだ。幸いにも3つの王国から離れた場所に領土を持っている。現在はウエリントン国王に賜った称号と領土を各国が追認していることになるが、これだとウエリントン王国の一部とみなされる可能性も無くはない。

 3つの王国から王女を降嫁してもらうことで、ウエリントンに偏った活動とならないようにしたいという思惑もあるのだろう。

 一度公爵の称号を返却して新に騎士団領とするか……。それなら、独立勢力として3カ国に係わらないと言い切れるだろう。

 少なくとも恒宙艦の試験飛行をする時期には独立国家体制になる事が望ましいだろうな。

               ・

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 100tコンテナ2個を乗せたバージを3台ずつ曳いてヴィオラとベラドンナが中継点に帰って来たのは、戦機発見から3日目の事だった。

 切り離されたバージの内、戦機を乗せたバージが中継点のヴィオラ騎士団専用桟橋に入って来ると獣機達が戦機を修理工場に運んで行く。一月もすれば動かせるようになるだろう。


 そんな光景を仮想スクリーンで眺めていると、リビングにカテリナさんが入ってきた。静かだな。上手く行かなかったのかな?


「しばらくね。理論と初期実験は成功よ。半重力場の大きさをかなり大きく出来るわ。同じ大きさの装置であれば優に50倍の出力差を得られるわよ」

「問題は、重力場の傾斜方向の制御です。それは?」

 

 俺の問いに微笑みながらソファーに座ると、タバコに火を点ける。


「円盤機でも重力傾斜制御は取り入れているわ。それを拡張する事で対処できると思うの。次ぎのモックアップで試してみるけど……、希望はあるかしら?」


 自信があるって事だな。なら簡単な物を頼んでみるか。


「パンジーが大きすぎます。それなら小さく出来るじゃないですか?」

「そうね……。今のままでは収容が面倒だわね。でも、パンジーのコンセプトは武装と滞空時間よ。『パンジーが出来れば』には次があるわね?」

「3次元の機動が出来れば宇宙での機動戦が出来ます。それに、この世界では大型の兵器が搭載出来るでしょう。俺達には兵器制限事項が無くなりました。大型巨獣にはゼロでは少し非力です。大型巨獣を狩る武器を載せませんか?」


 端末を操作してスクリーンに簡単な絵を描く。描いたのは、装甲板を貫通させる徹甲弾ではない。もう1つの装甲板を貫く方法……、ノイマン効果弾だ。

 速度は重視しなくていい。装甲版の面に垂直に当れば良いだけだ。


「爆発時の衝撃波がこのライナーを一瞬で蒸発させると、この方向に絞られて放出されます……」

「衝撃波を制御するのね。それが高温のジェットになって1点に集まる……。これはラボの連中の宿題に使えるわ。特許料は半分で良いわね?」


 使えると判断してくれたのかな?

 確か数十cmの装甲板も貫くと聞いた事がある。低速で打ち出せるから、円盤機からでも発射出来るだろう。

 

 おもしろいアイデアを貰ったから、パンジー2型はタダでも良いわ」

 そう言って俺の手を取った。ジャグジーで汗を流そうか……。

 ジャグジーの天井ドームに移る星空を2人で眺める。

 たぶん、このプラネタリウムはカテリナさんの見果てぬ夢を忘れない為に付けたんだろうな。

 ベッドで体を重ねながらもカテリナさんの夢を考える。夢が実現できれば良いけどね。

               ・

               ・

               ・

 やっと待ち望んだ工兵部隊が、中継点にやってきた。東の尾根の反対側に工作船を2隻停泊させて作業を開始したようだ。

 5日ごとにカンザスへ状況報告にジゼルさんが副官を連れてやってくる。状況報告だから、ドミニクと俺が同席することになっている。

 さすがに工兵部隊の仕事は速い。それなりに重機が整っていることもあるのだろうが、兵隊の仕事に無駄は無い。

 先行トンネルを5kmほど掘り抜いて、今はトンネルの拡張工事を何箇所かで行なっているようだ。

 

「1つ問題が出てきました。第4工区で予定外の地下水漏洩が続いています」


 ジゼルさんの言葉に、俺とドミニクは一瞬我を忘れて宙を見詰めた。

 あちこち掘ればそのうち地下水に当ったんだな……。努力が足りなかったんだろうか?

 地下水調査はしたんだけど、精々30mほどの探査機での調査だ。尾根から横に掘り進めば地表から優に500m程地表から掘り下げた事と同じになる。西と東の谷底を数十m掘ってはみたんだが水脈には当たらなかった。それだから、水はこの地に無いものと決め付けていたんだよな。


「……かなり悪い状況ですか?」

「現在は時間当たり1㎥ほどですが、第3工区の岩の亀裂に流れ込んでいますから、止水壁を設けながら工事を進めています。このため、全体の工事に影響が出てきました。漏洩が続けば全体工程を見直さねばなりません」

「管理事務所に地質学者のレイトン博士がいます。彼に調査をお願いしましょう。場合によっては工事全体を見直す必要もありますね」


 ジゼルさんは「よろしく」と言ってカンザスを去っていった。

 改めて、ドミニクと顔を合わせる。

 

「私達の苦労は何だったのかしら?」

「漏洩量が微妙だね。それに岩の割目に吸い込まれてると言うのも気になるところだ。中継点の奥底には溶岩の流れがある。単なる水脈ならいいけど、地底湖だったら工事の影響いかんで、水蒸気爆発の可能性だってある」


 溶岩流と水脈の接触の可能性を調査して貰わねばなるまい。

 直ぐに、カテリナさん経由でレイトン博士に状況を教えて調査の依頼を行なった。

 

 時間10㎥ほどの水量なら、遥々大河まで水を汲みに出掛ける必要が無くなる。仮に続けたとしても、それによって農業を行なう下地を作ることが出来る。レイトン博士は肥料を必要としないほどの土地だと言い切っているぐらいだ。

 上手く行けば、この地で自給できる体制を組む事が出来るかも知れない。それは、3つの王国と距離を保つ言い訳にも使えるだろう。


「レイトン達は明日にも向かうそうよ。それにしても、おもしろいわね」

 夕食後にソファーで皆とビールを飲んでいた俺に、カテリナさんが教えてくれた。


「上手く行けば架台が1つ無くなります」

「でも、火山と水脈って危険じゃないの?」

「出会えば極めて危険だわ。でも、今までそんな兆候はまるで無し。レイトンの調査もどちらかと言えば水脈の調査が主目的よ」


 温泉でも見付かればいいんだけどね。まぁ、1日20㎥の水であっても貴重には違いない。

 

「ところで、例の兵器だけど、標準装甲版の300mmを貫いたわ。いけるわよ!」

「後は発射装置ですね。軍の装備にも無かったんですが……」


 スクリーンを展開してロケット兵器の概念をカテリナさんに伝える。大砲はあるんだけど、ロケットが無いのが不思議なんだよな。かなり科学が偏って発達している感じがする。


「なるほど、爆発力で一気に砲弾を撃ち出すのではなく、緩やかな爆発を維持する事で推力とするのね」

「ダメな場合は、このようにカウンターマス方式にします。飛距離は砲弾より落ちますが、発射筒を保持する部分に反作用が生じません」


 2つの方式を提案しておけば、後はカテリナさんが引き受けてくれるだろう。

 タバコを咥えて火を点けるのを待ちかねたようにフレイヤが俺に聞いて来た。


「何の話なの?」

「あぁ、パンジー2型を作ろうと計画してるんだ。ちょっと小さくなるけど、戦鬼を超える武装を考えてる」


「爆弾でしょう? 250kgを用意したとベレッドじいさんが話してたわよ」

「ちょっと、違うんだ。でも、威力は保障するよ」

  

 そんな俺達の話にローザが入り込む。

 

「戦機ではなくて戦鬼なのじゃな? それだと戦姫と遜色が無くなるではないか?」

「戦姫を超えるのは難しいよ。今のところはレールガンを小型化することは不可能だ。1発だけなら、40mm爆轟で打ち出すAPDS弾よりも貫徹能力が高い。標準装甲版30cmを貫くぞ」


 俺の言葉に一瞬皆が静かになった。直ぐに全員の視線がカテリナさんに移る。


「本当よ。それをどうやって飛ばすかを先程リオ君が教えてくれたの。いよいよ山麓地帯の鉱石探索が出来るようになるわよ」


 山麓部は北緯55度以北になる。北緯70度付近の山岳地帯からなだらかに広がる斜面ではあるが長年の侵食で谷が多い。

 たぶん本格的な探索は、ラウンドクルーザーそのものを改良しないといけないかも知れないが、今までよりも緯度の高い地方を探索できる事は確かだ。大型巨獣の住処でもあるから、武装は今まで以上に充実させなければ簡単に巨獣の襲撃を受けかねない。


「冒険好きな騎士団が北緯60度まで進出できたと聞いたぞ。じゃが、通信が送られてきただけで、帰っては来なかったとも聞いておる」


 明日にでも出掛けたいような言い振りだな。だが、そう簡単にはドミニクは行動を起こさない筈だ。冒険は暴挙とは違うのだ。入念な準備をして、自分が始めて納得できた状態で行動を起こすに違いない。


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