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149 スコーピオ戦が終わった


 孵化後25日を迎えると、スコーピオの群れは海岸を目指す。たぶん本能がそうさせるのだろう。

 俺達の掃討戦は、メテオインパクトに助けられて、9割9分まで敵を削減出来たようだ。現在の残敵数はおよそ10万匹程度だ。

 このままでも問題はないのだが、産卵にまた戻ってくる筈だから出来る限り減らしておきたいのは理解出来る。

 今では、55mm砲は至近距離でなければ弾かれてしまうが、ヴィオラ騎士団の戦機は40mm長砲身砲を装備している。その砲弾はAPDS、そして炸薬は爆轟を使っている。

 2回目の脱皮を済ませたスコーピオの表皮の厚さは、装甲版50mmの強度を持っている。稀に見掛ける3回目を済ませた15mを超えるスコーピオは75mm装甲板に相当する。これはゼロ距離射撃でもなければ55m砲では不可能だ。

 

 軍の連中は軍艦に戦機を乗せて艦砲の直接照準と戦機の55mm砲で対応しているようだ。円盤機による爆撃は終了して、広大な荒地を徘徊するスコーピオの発見が現在の任務になっている。


 王都に迫るスコーピオは確実に軍が始末しているようだ。少なくとも王都の200km圏内に侵出したスコーピオは存在しない。

 それだけでも今回の戦は俺達の勝利と言ってよいだろう。

 現在のスコーピオ狩りの主体は俺達騎士団が担っていると言っても過言ではない。

 小口径艦砲の鉄鋼弾は現在の主力兵器だ。100隻を超えるラウンドクルーザーが東海岸に向かって掃討戦を行なっている。5日も進めば東の海を眺められるんじゃないかな?


「そろそろ終わりが見えてきたようじゃ」

「騎士団長が集まって協議をしているみたいよ」


 ローザの呟きにフレイヤが応えている。

 のんびりとソファーに腰を下ろして、暮れ行く荒野を見ながらのコーヒータイムは心休まる一時でもある。10日前までは見渡す限りの赤い海だったからねぇ……。

 まぁ、そんなワビ・サビの心を理解しているとは思えない連中だから、話題は必然的に互いの状況分析を確認する場になってしまうんだよな。

とは言え、1日中荒野を走っても100匹程度の戦果だ。近頃めっきり減っているから明日は50にも達しないんじゃないかな。

 

「残り3日と言うところじゃないか? 今日の数だって、円盤機の偵察でゼロが倒したのが殆どだったからね」

「我は2匹じゃった。明日はリンダ達に任せるのじゃ!」


 ガリナムが先行して、スコーピオを見付け次第倒してるし、おこぼれはカンザスとヴィオラの88mm砲で倒してしまうから、接近してくるスコーピオは殆どいない。俺なんか今日はゼロだったぞ!


「そろそろ引き上げ時かしらね。私達の拠点まで、15日以上も掛かるのよ」

 

 カテリナさんも退屈しているようだ。そろそろ何か興味を持たせないと犠牲者が出ないとも限らない。

 この状態で明日は休憩なんてしたら、犠牲者が俺になるような気もする。何とか新しいアイデアを考えないと……。


 2本目のタバコに火を点けようとしたところに、ドミニク達が帰ってきた。タイラム騎士団の中継点での打ち合わせは今まで時間が掛かったみたいだ。もっとも多目的円盤機で片道2時間は掛かったようだけどね。

 ソファーに座ったところで、ドミニクが内容を話し出す。


「……これが、現在の状況よ。南地区のスコーピオは殆ど駆逐されたみたい。軍は明日引き上げるらしいわ」


 スクリーンを大きく展開して大陸の東南部の地図を広げている。

 タイラム騎士団の中継所や新しく出来た隕石孔も描かれている。その地図上に騎士団と軍のラウンドクルーザーが緑で表示されている。残存スコーピオは赤で表示されているが、現在では内陸地区には殆どいないようだ。帯状に東岸地区に集まっているが、渚までは200kmはあるんじゃないかな。


「引き上げる前にこの群れに高速艇で爆撃をするらしいわ。軍艦で砲撃するのが一番なんだけど、足が遅いから仕方が無いわね」


「この北の奴等はどうするのじゃ? それなりに数があるように思えるのじゃが」

 ローザがスクリーンの上部に、やはり帯状に連なる群れの存在を指摘した。

 「こっちは巨獣に任せましょう。たぶん3回目の脱皮を終えれば、海を目指すというのが大方の意見だったわ。この群れから数十kmの地点まで巨獣が侵出している、と偵察機からの報告よ」


 テリトリーを荒らす余所者ってところになるのかな。チラノクラスなら十分にスコーピオと渡り合えるだろう。


「それと、かなりの数のサンドワームも目撃されているわ。明日は、新型獣機、それに戦機の攻撃は装甲甲板からに変更よ。ゼロは飛べるから空中からの攻撃をしてもらうわ。そんな攻撃を3日続けて、今回の防衛戦の終了を宣言するみたい」


「3日すれば残存スコーピオは全て海に帰るわ。この北の群れも円盤機のデータを整理すると少しずつ東に移動してるの。本能に従えば移動速度は速まるでしょうね。こちらの群れは巨獣も相手にしてくれるでしょうけど、ガリナムとゼロに間引きを任せたいわ」

「ガリナムではゼロの母艦になりませんよ」


 俺が指摘すると、カテリナさんが笑みを浮かべている。

「そこで、ヴィオラ騎士団を2つに分けることにしたの。ガリナムとヴィオラで北を叩くわ。群れから50km離れてヴィオラが母艦の役割を果たせば問題はないはずよ。88mm砲を6門それに戦鬼と戦機がいればヴィオラを守る事も容易な筈よ」


「すると、我等はカンザスとこのまま東なのじゃな。ゼロの代わりを我等がすれば広範囲にスコーピオを狩れるぞ!」


 ローザが嬉しそうに確認している。ローザ達の移動速度は時速100km以上だ。カンザスを中心に20kmの範囲を掃討出来るだろう。アリスやムサシもいるから万全じゃないか。新型獣機はリンダ達の戦機とともに半数を装甲甲板に展開しておけばカンザスに接近するスコーピオは皆無だろう。40mm滑腔砲があるから至近距離の防御は十分だ。


「サンドラ達に40mm滑腔砲を2門預けてあるし、タイラム騎士団のダモス級ラウンドクルーザーがヴィオラに同行するわ。単装だけど88mm砲を4門積んでるそうよ」


 もう何隻か同行しそうだな。弾薬を運んでくれるだけでもありがたいと思う。

 だが、これで長い戦も終るんだな。……残り3日か……。

               ・

               ・

               ・

 3日間の掃討戦が終ると、広大な荒地で動いているのは俺達騎士団とサンドワームだけになった。

 荒地の掃除屋はさぞかし忙しいだろうな。最終的には数万匹のスコーピオが海に帰って行ったけど、半数は傷ついている。そんなスコーピオを海で待つ狩人もいるらしい。


「前回は100万以上が海に帰ったらしいわ。今回はその十分の一にも満たないし、手負いだから、次ぎの産卵に岸を目指すスコーピオを狩るのは容易になるわよ」


 こんな殲滅戦を数回やったら、スコーピオと言う種が根絶するんじゃないかな?

 だが、種を根絶させるのはどうかと思う。スコーピオにだって何らかの役割があるはずだ。生態系を十分に調査して、ある程度の数を許容することになるんじゃないかな?


「今夜はパーティなのよね……」

「タイラム騎士団も大変じゃのう。メテオインパクトの被害も受けておるようじゃ。工兵達が復旧していると聞いたが、エルトラム王国の援助があるとはいえ、1千人を超えるはずじゃ」


 いくら何でも中継点を動かすことはできない。

 クレーターからはかなり離れているらしいが、地上構築物に大きな損害を受けたそうだ。

 ラウンドクルーザーは戦機を乗せて後方に避難し、獣機や中継点の砲座にいた連中は地下に避難していたらしい。

 怪我人は多かったが死亡した団員がいなかったと聞いて胸をなでおろしたんだよな。

 多くの騎士団も俺と同じ思いだったに違いない。

 そんな中継点で戦勝パーティを開くと聞いた時は、思わず耳を疑ったほどだ。


 だが、裏を返せば12騎士団の1つであるタイラム騎士団を大きく大陸に示すことになるし、ビフォウ・アフターの画像を配信すればエントラム王国軍の存在も前面に現すこともできるだろう。

 

 戦勝パーティは、タイラム騎士団の地下大型倉庫を使って行うらしいけど、騎士団や騎士達の数が半端ではないからね。騎士団長や副官、それに船長や騎士……、招待状を貰ったんだけど、全て手書きの招待状だった。これを書くだけでも大変な労力だと思うな。

 

「一応私達は全員参加よ。ドレスは持って来たんでしょう?」

「持って来たというか、部屋にあるからそれで良いんだけど、本当に1千人も集まるの?」

「最低でも、1千人と考えた方が良さそうね。軍だって指揮官はやってくるでしょうし、指揮官が1人とは思えないわ。それと、そろそろ準備しなくちゃならないわよ」


 スクリーンに表示した時計をカテリナさんが気にしている。

 パーティは1800だと言っていたから、後3時間も無い。フレイヤ達がカテリナさんの言葉に慌ててジャグジーに向かって行った。


「さて、我もそろそろ準備じゃ。兄様もちゃんと礼服に換えるのじゃぞ!」

 そんな事を言いながらローザ達がリビングを出て行く。


 ところで、ローザの場合は俺と同じような礼服になるんだろうか? それともフレイヤのようなビキニになるのか? 何となく気になってきた。


 一服しながら考えている俺の後をフレイヤ達が自室に急ぐ。今度は衣装替えとメイクになるんだろうな。

 タバコを灰皿で消して、ジャグジーに向かった。

 軽く汗を流して、礼服に着替える。ネクタイをちゃんと結べば、俺の準備は完了だ。

正式にはマントに長剣が必要になるだろうけど、腰のリボルバーで十分だろう。


「馬子にも衣装にゃ!」

 そんな感想をライムさんが言ってくれた。思わず苦笑いを浮かべてしまった。世間にはそう見えるってことなんだろう。

 

「そうだ。ライムさん。ちょっと頼まれてくれないかな?」

 急いで自室に取って返すと数本の酒瓶を持ってきた。

 

「これを、獣機の連中に渡してくれないかな。俺達は向こうで飲めるけど、獣機士達は飲め無いからね」

「わかったにゃ。ヴィオラにもちゃんととどけるにゃ!」


 結構高い酒だったけど、それ位はしても良いだろう。俺達と同じように頑張ってくれたんだからね。たぶんドミニク達も差し入れをしているに違いないが、皆で飲むならたくさんあった方が良いに決まってる。


 ソファーに座ってタバコを楽しむ。

 まだフレイヤ達の準備には時間が掛かるだろう。

 明日は俺達も領地に帰る。向こうはアデル達に任せたきりだけど、どうなったか心配でもある。トラブル発生ならば連絡があるだろうけど、知らせが無かったという事はそれなりに対処できたという事だろうけどね。


 そんな事を考えてると、フライヤ達の仕度が出来たようだ。

 やはり、ビキニにシースルーのドレス、それにハイヒールだ。小さなバッグを持っているけど、中に何が入ってるんだろう?


「あら、30分前なのね。リオもちゃんとしているから問題なし! 10分前に迎えが来る筈だわ」

「姫様を呼んでくるにゃ!」


 ドミニクの言葉にライムさんがリビングを出て行った。

 直ぐに、ローザ達がリビングに現れる。リンダはフレイヤ達と一緒の格好だが、ローザ達戦姫組と男性は騎士の礼服姿だ。ちょっと安心したけど、この正装も何とかならないものかな。あまりにもフレイヤ達と乖離しているし、暑苦しいんだよね。

 

「辺境の中継点じゃが、料理の材料は王都から空輸しているに違いない。楽しみじゃな」

 

 そんな事を戦姫仲間と笑みを浮かべて話している。

 ローザはちょっと緊張気味だな。同じように緊張しているのはシリルの護衛をしている女性の騎士だ。護衛対象が子供だからねぇ。気苦労しているに違いない。


「装甲甲板に円盤機が2機やってきたにゃ!」

 レイムさんが俺達に迎えが来た事を知らせてくれた。


「さあ、出かけましょう。リオ、威厳を持って歩くのよ!」

 フレイヤが先頭になって俺達は部屋を出る。でも威厳なんて注文されてもなぁ……。


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