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147 最初の脱皮が始まった


 戦が永遠に繰り返される地獄があると聞いたことがある。

 その教えを伝えた者は、スコーピオとの防衛戦を見たのかもしれないな。

 いくら叩いても叩いても、翌日の朝にリビングの窓から見える光景は、スコーピオの赤い群れだ。

 

 肉体的な傷を受けることはないが、ローザ達の心は平常心を保てるのだろうか?

 騎士団の連中は日頃から巨獣との闘いを経験しているが、兵士の中には精神を病む連中も出てきたらしい。

 変化のない戦は、それだけ心を消耗してしまう。


『マスター、カンザスから入電です。「機動戦に移行する。カンザスに帰投せよ」以上です』

「分った。他の連中は引き上げてるのか?」

『私達が最後になります!』


 それなら、急いで戻った方が良さそうだ。

 残りの砲弾を適当にばら撒くと、装甲甲板に跳び乗った。昇降装置でカーゴ区域に移動すると、アリスを降りて俺達の部屋に向かった。


「遅かったわね。リオ君が最後よ!」


 リビングの扉を開けるとテーブルに皆が揃っている。空いた席に座ると、直ぐにコーヒーのマグカップが渡された。

 今日は殆ど休みなしだったからね。タバコに火を点けてマグカップのコーヒーを頂く。


「偵察用円盤機によって、最初の脱皮が確認されたわ。明日は動きが少し鈍るかも知れない。ある意味チャンスではあるんだけど」


 チャンスではあるが、脱皮して1日もすれば表皮の厚さは倍になる。獣機の持つ30mm砲ではかなり接近しないと表皮を貫通出来なくなりそうだ。それに榴散弾の効き目も気になるところだ。

 

「ガリナムと円盤機は、パンジーを除いて全て東の脱皮している個体を狙うことになるわ。騎士団の円盤機や王国軍の爆撃機達も連動する手筈よ」

「そうなると、回りこんでくるスコーピオの対応は?」

「ゼロを使います。半数を後方に回して、半数をコンテナ拠点の支援に回すわ」

 

 戦機は昨日通りにコンテナ拠点に展開して、ラウンドクルーザーの後方に回りこもうとするスコーピオを俺達戦姫が広範囲に狩ることになるようだ。

 ちょっとした陣形の変化なんだけど、ローザ達は動き回れることが嬉しいのか目が輝いている。


「作戦開始時間は?」

「今日と同じで0900時開始よ。それまではカンザスを西に走らせてする抜けたスコーピオを狩るわ。艦砲で対応するから、ゆっくり休んで頂戴」


 会議が終ったとみて、ライムさん達が食事を運んでくる。まだ18時過ぎだから、だいぶ早い夕食になる。

 数種の料理が載った皿がテーブルに並ぶと、テーブルマナーを無視して皆が食べ始めた。相当、お腹が減っていたみたいだな。


 食事が済むとローザ達は客室に戻り、俺達はソファーでワインを楽しむ。

 本来ならばタバコは厳禁なんだろうが、発泡ワインにタバコが合うと俺は思っている。カテリナさんはブランディ―にタバコなんだけどね。


「カテリナさん。まだ原因が分りませんか?」

「アカデミーが手を尽くしているわ。何かあるはずなんだけど、まだそれが分らないでいるわ。リオ君の方もまだ続いているの?」

「段々頻度的に高まってきたように思えます」


 俺の答えにカテリナさんが首を傾けた。もう少しヒント的なものがあれば良いんだろうが、生憎といやな予感というか悪寒でしかない。

 

「スコーピオに関係しているのかしら?」

「それなら、既にリオ君の悪寒は納まっているわ。リオ君の場合は前兆を察知するみたいね。既に現れているなら終っているはずよ」


 フレイヤの質問にカテリナさんが答えている。答えたところで俺に向かってウインクなんかするから、ドミニクが睨んでる。親子関係が逆転しているようだ。

 

「予言にもならないのよね。でも、かなり重大な事を前もって教えてくれるのは確かだわ」

「ですが、地上と海洋それに空に異変が無いとすれば、俺の気のせいかもしれません」


 俺の言葉にカテリナさんはしっかりと首を振った。

 やはり、何かがあると確信してる感じだな。

 

「何としても、原因は探る必要があるわ。このスコーピオの孵化以上の災厄が発生する可能性がある以上、アカデミーは全力を注ぐ必要がある。それに他国のアカデミーも協力してくれるみたいだから、もう少しで分るかも知れないわよ」


「地殻変動ということは?」

「それも、調べているわ。竜人族の伝承には大規模地殻変動の脅威が残されているわね」


 レイドラの質問に即答で答えている。考えられる限りの調査を行なっているようだ。それでもいまだにその原因が判らないという事はいったい何なんだろう?

 まあ、カテリナさんに任せておく以外に俺達に出来る事は無い。俺達は目の前の脅威に立ち向かっていれば良いのだろう。


「話は変わりますが、最初の脱皮を終えた第2段階のスコーピオに注意することがありますか?」

 

 俺の質問にカテリナさんがスクリーンを展開する。そのスクリーンに皆の視線が移った事を確認したカテリナさんが口を開いた。


「孵化の開始から、今日で9日目。スコーピオの広がりはこんな感じで広がったわ……」


 直径100kmほどの範囲が四方に拡散していく。地図に赤く彩りされているがスコーピオの単位面積当りの個体数で数段階に色分けされていた。

 半径200km程は真っ赤だが、300kmも離れると淡いピンク色に変わっている。

 画像で極端に色が変化している場所が俺達の作った阻止線ということになる。エルトニア王国軍と2つの王国の派遣軍もしっかりと踏ん張っているようだ。

 2重の阻止線と士官候補生達の最終阻止線があるようだが、今のところは王都の城壁まで到達できたスコーピオはいないようだ。


「ドロシーの推定では孵化個体数600万に対して現状の数は400万に減っているわ。9日間で200万を葬ったことに、王都は大喜びなんだけど、問題はこの後ね。脱皮後のスコーピオの表皮が安定するまでに約1日。この間の表皮は柔らかく共食いの対象にもなりかねない。だから動かずにジッとしてるのよ……」


 次に現れた画像には、脱皮したスコーピオの推定分布が表示されていた。

 中心部だけだと思っていたが、かなり広範囲に脱皮した連中がいるらしい。


「こんな状況だから、今までの半数もこちらに向かってこないでしょうね。後ろに展開している騎士団もラウンドクルーザーで移動しながら機関砲で狩ることになると思うわ。しいて問題点をあげるなら、王国の爆撃機に搭載する爆弾の数が逼迫しているぐらいかしら」


「それって、問題ですよ。数を減らす為には不可避ですから!」

 俺の言葉にカテリナさんが溜息を漏らす。

 「そうなんだけどね……。あれ程派手にばら撒くとは思ってなかったらしいわ。ともあれ、明日の爆撃分は確保したらしいから何とかなるでしょう。逼迫してるのは集束爆弾と焼夷弾らしいから、2回目の脱皮以降では使えないわ」


 とは言え、現状では一番効果のある爆弾だ。少なくとも3日分位は早急に入手する必要があるだろうな。

 ひょっとして、俺達の砲弾や爆弾もそうなのだろうか?

 

「騎士団の弾薬は別調達だから心配しないで大丈夫よ!」

 俺達の視線の意味を悟ったカテリナさんが問われる前に答えてくれた。


 阻止線上に展開する騎士団が持つ円盤機の数は数十機程度だろう。一度の攻撃で落とす爆弾の数は50kg爆弾が100個程度。2時間おきに発進するとしてもそれほど広範囲にばら撒くことは出来ないだろうな。ガリナムの強襲も同じように思える。


 そんな事を考えながら残りのワインを飲んだ。

 俺達が相手にする数が少ないだろうとはいうけど、元の数が多いからそれ程変わらないんじゃないかな。

 ベッドに入ると、カンザスの走行する心地よい振動が伝わってくる。

 スコーピオを踏みつぶしながら西に向かっているはずだが、重量比が極端だから、ショックが伝わることはない。

 一定リズムで繰り返される砲撃音を聞きながら俺はいつの間にか眠ったようだ。


 あくる朝、俺達は太陽に挑むように東進んでいる。

 補給をかねてかなり西に移動していたようだ。コンテナまであと3時間は掛かるんじゃないかな。


 朝食を終えてソファーで皆とコーヒーを飲む。

 周囲のスコーピオはまだ疎らだ。その動きも昨日より緩慢に見えるのは気のせいだろうか?


「カテリナ博士の言うとおり、昨日と比べて動きが鈍いのじゃ。今日は楽勝じゃのう!」

「私達の任務は後方で補給の護衛ですよ。遠くに行っては作戦全体に支障がおきます!」


 エミーがローザに注意しているけど、状況次第じゃないかな。倒せる時は倒せるだけ倒すというのがこの戦いには必要なんだろう。

 東に進むに連れて周囲のスコーピオの数が増すのは今まで通りだ。

 目的地到着1時間前に円盤機が発進していく。ヴィオラ騎士団の円盤機8機が一列に並んで前方に去っていった。

 少し遅れてパンジーが飛んでいく。200kg爆弾2個は円盤機数機に匹敵する。もう2機ほど欲しいところだが、大きいからなぁ。


『出撃40分前です。獣機はゼロの支援の下コンテナに展開してください。カンザス装甲甲板には第2分隊が残って円盤機の補給対応。戦機は後方及び左右の侵入に対応してください……』


 ドロシーの艦内放送がリビングに聞こえてくる。


「我等は予定通りで良いのじゃな?」

「ああ、それでいいよ。まだまだ主役は獣機の連中だ。それが戦機に移り、最後が俺達になる」


 俺の言葉にローザが笑みを浮かべる。

 大変そうに見えても、俺達以外の連中で何とかなるのも確かなのだ。彼らの対応が困難になって初めて俺達の出番が来る。


 出撃30分前にタバコに火を点ける。2時間は戻れないからね。愛煙家には厳しい試練だ。

 外を眺めていると、円盤機が戻ってきた。

 急いで焼夷弾を積み込んでコンテナ周辺を爆撃して貰わねばなるまい。

 一服を終えた時にパンジーが出撃するのが見えた。フレイヤも頑張ってるうようだな。

 ソファーから腰を上げると、壁の中のカプセルに乗り込んだ。


 カンザスの装甲甲板に上がると、既にローザ達が待機している。

 まだ10分前なんだが、士気は高そうで一安心。3機の戦機も55mm砲を抱えている。行動は別になるが彼らは王女達の護衛の立場なんだよな。まあ、この場合はあきらめて貰わねばなるまい。

 後続のヴィオラの状況は分らないけど、円盤機が今出撃したところを見ると、戦機の待機はこれからになるのだろう。それでもまだ間がありそうだ。


『マスター。スコーピオの活動が4割ほど低下しています。これが脱皮による一時的な活動低下なのでしょうか?』

「たぶんな。3日ほど脱皮が続くんじゃないか?そうなると動きの早い奴と遅い奴で2つのグループに分かれそうだ。どんな事態になるかは予想できないな」


 共食いが始まるのだろう。

 それは次ぎの脱皮の布石になる。この状態で何とかしたいものだ。

 前方に細長い塊が見えてきた。だいぶ100tコンテナを運んできたから、今では数個並んでいるし、真ん中付近は2段重ねだ。


 カンザスの速度が急速に低下する。

 前方に大きな火炎が広がった。パンジーの大型焼夷弾が炸裂したに違いない。

 これで一時的にコンテナ周囲のスコーピオが無力化される。


「行くぞ!」

 全方向通信で俺の声が伝達される。

 同時に、カンザスから次々と戦機が跳び降り始めた。

 今日の狩りが始まったのだ。


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