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143/300

143 まるで津波のようだ


 俺達が指定地に着いた翌日。

 4時間おきに円盤機が北東方向に向かって飛び立つ。

 既に距離は250kmほどに迫っているらしい。各騎士団の円盤機も編隊を組んで爆撃に向かっているようだ。

 夜になると、焼夷弾の炎がかなり広がってきたようにも思える。パンジーが高度を上げると、南北に赤い線が伸びているのが分る。

東に見える赤い線はかなり太いな。たぶん高速艇による爆撃の成果だろう。


「次の爆撃で今夜は中断よ。明日もあるから休ませないとね」

「現在距離は230kmまで接近しています。およそ11時間後には接触します」


 現在の時刻は22時を過ぎたところだ。俺達との接触は昼直前というところなんだろう。今夜はゆっくりと寝られそうだし、朝食ぐらいは取れるだろう。食事が終れば果てしない戦いが始まることになる。


 寝る前にライムさんがワインのグラスを配ってくれた。

 スクリーンに映し出される衛星からの画像を見ながら、俺達は無言でワインを飲む。

 集まった戦機はおよそ300機だ。獣機が500機、それに円盤機が30機足らずというところだ。3王国の連合軍に比べるとあまりにも少ない。


 本来なら逃げ出すところだな。

 だが、誰も避難しようとは言わない。イザとなればラウンドクルーザーの装甲甲板に獣機や戦機を搭載して、ラウンドクルーザーによる機動戦ができるのだ。統制された部隊ではないが、巨獣相手の戦いには騎士団の方が慣れているからね。

 その自負があるからこそ、騎士団は王国の危機に集まって来たのだ。

 グラスを空にしたところで、それぞれの部屋に戻る。明日は朝が早いのだ。

 

 次ぎの朝。胸騒ぎのような違和感で目が覚めた。直ぐに起きてジャグジーに入り、戦闘服に着替える。

 リビングに向かうと、既に皆が同じように戦闘服姿でコーヒーを飲んでいた。既に準備は出来てるって事だな。

 

「遅かったわね。皆食事が済んでるわよ。そして、これが現状になるわ」

 

 リビングの窓の外をドミニクが指差す。普段なら地平線が見えるのだが、遠くに霞みが掛かって地平線が見えないな。あれがスコーピオの上げる砂煙だとすると、少し恐ろしくもなる光景だ。

 あの違和感がこれなのか? だが、俺の中の何かがそれを否定する。


「凄いな。それで作戦は?」

「接触まで3時間とドロシーが言っているわ。30分前に戦機と獣機を降ろして、迎撃態勢を取る手筈よ。ゼロは獣機の援護をして、円盤機は数十km先を爆撃させるわ。既に円盤機の本日第1回目の爆撃は終了してるの」


 ライムさんが運んでくれたサンドイッチを食べながら、フレイヤの話を聞いている。

 円盤機も大変だな。そんな事を考えながらマグカップのコーヒーを飲んだ。


「我等はベラスコの隊を援護しながら救援要請に応えるつもりじゃ」

「リオはヴィオラとカンザスの間に陣取るアレクの隊を援護して欲しいの。その左右に獣機が展開し、その後ろにゼロがいるわ。3kmほど後方になるけど、すり抜けたスコーピオを狩るには良い場所よ」


「砲撃主体ってことになるね。ヴィオラは2連装砲等が4つ。そしてカンザスも片舷だから一緒だ。合計16門の88mm砲になるね」

「ちょっと、違うわ。ヴィオラの装甲甲板でムサシが75mm砲を使うし、カンザスのもう片舷の砲塔4つも、直接照準でなく奥を狙えば十分使えるわよ。アレクも75mm砲を使うだろうしね」


 88mmが24門に75mm砲が2門で対応するのか。継続射撃が何処まで可能かだな。6発毎に砲身の冷却をするのだが、そのタイミングが難しいぞ。

 タバコを取り出して火を点ける。次に吸えるのは何時になるかだ。

 

「軍の高速艇の爆撃はこっちにも対応してるんだろうか?」

「向うは向うで手一杯って所でしょうね。爆撃ポイントが100km程奥だから、少しはこちらに来るスコーピオが減るかも知れないけど……」

 

「騎士団の円盤機が我々の頼みの綱です。50kg爆弾ですが、1度に20個以上落としていますから、その戦果も期待出来るでしょう」

 

 通常弾だから、どれだけ期待できるかだな。250kg爆弾を50個ほど持ってきた筈だが、限られてるから使い場所が難しいかもしれない。それでもパンジーには2個積んでいく筈だ。

 

「さて、時間よ。健闘を祈るわ。そして、ドロシーの通信をちゃんと聞いてね」

 

 ドミニクの言葉に頷くと、俺達は一斉に席を立った。

 壁を開いてカプセルに乗り込むと、カンザスの左舷先端部にあるハンガー区域に向かう。アリスのコクピットに急いで乗り込むと昇降装置で装甲甲板へと向かう。


「武器は?」

『55mm砲とレールガンです。55mm砲は炸裂弾装備ですが、5発入りマガジンが10個ありますよ』


 最初は炸裂弾を使うか……。アレクの後ろで適当に撃っても当たるぐらいに群れは濃いようだ。

 装甲甲板から飛び降りて、北西に向かって移動する。

 直ぐに、アレク達が見えてきた。100tコンテナ3個を並べた盾を中心に戦機を5機配置していた。

 

 

「援護は後ろからで良いですか?」

「リオか? ああ、それでいい。ここは俺達の拠点だからあまり邪魔をするなよ。だが期待はさせてもらうぞ」


 そう言って、胸に片手を移動させてコクピットを開く。俺もアリスを戦鬼の隣に移動させて同じようにコクピットを開いた。

 片手に飛び乗って双眼鏡で様子を見る。

 

「まだ見えませんね。10kmは先じゃないでしょうか?」

「と言う事だ。お前達も、銃を置いてコクピットを開いてのんびりしていろ。後30分もたたずに始まるんだ。今から気を張っていると持たんぞ!」


 そう言って腰のバッグから小さなフラスコを取り出して一口飲んだ。俺にポイって投げて寄越す。一口飲んでみると……、ウイスキーじゃないか!

 ありがとう!と言葉を添えてアレクに投げ返す。

 俺には、やはりこれだな。そんな事を考えながらタバコに火を点ける。

 やがて鈍い音が聞こえてくる。遠くで聞く打ち上げ花火のようだな。

 

「近付いてきたな。円盤機もがんばっているようだ」

「ヴィオラ騎士団だけで8機はいますからね。他の騎士団と合わせて波状攻撃を仕掛けてるんでしょう。そろそろ主砲の出番ですよ」


 そんな話をしているうちにカンザスの砲撃が始まった。88mmの最大射程は15km。右舷の8門を使っているようだ。

 

「全門でないとすると、間引きだな。ヴィオラが撃った様子も無さそうだ」


 フラスコを傾けていたアレクが、最後の一口を飲み終えると、タバコに火を点ける。

 まだまだ、俺達からはスコーピオの姿が見えない。

 

 2本目のタバコを終えて吸殻を携帯灰皿に入れてバッグにしまいこんだ時、1機の戦機が前方に腕を振る。その先にはピンクがかった壁のようなものが見える。まるで津波のようだ。その波頭が少しずつ俺達に近付いてくる。


「リオ! 来たぞ。その55mmで適当に俺達の前方を間引いてくれ!」

「了解です。無理はしないでくださいよ」


 俺の言葉に手を振って答えると、アレクが急いでコクピットに潜り込む。俺もコクピットに移ると、アリスが直ぐにコクピットを閉鎖した。


『10kmを切りました。8kmで全門攻撃に移るようです』

「88mmは利いてるのか?」

『20mの範囲でスコーピオを刈り取っています。ですが……』

 

 相手が多いって事だな。

 1分程の砲身冷却が終ると、再び8発の砲弾が6回発射される。それが終了すると、一斉射撃に備えて、砲撃が中断した。ベレッド爺さん達はシリンダーへの弾丸装填に忙しく働いてるに違いない。

 俺も、55mm短砲身砲の装填ボルトを引く。カートリッジからバレルに初弾を装填されたことを確認したところで前方を見据えた。


 コンテナの後ろに5機の戦機が並び、アレクの戦鬼は一番右端だ。そのやや後ろに俺が位置する。

 予備の50mm砲や、カートリッジを並べているのは感心するけど上手く連携しないと、カートリッジの交換すらできなくなってしまいそうだ。


 獣機の姿が全く見えなかったのだが、どうやら塹壕を作ってその中に潜んでいるらしい。

 塹壕の上には鋼板やバージを並べているらしいから、その間から狙うんだろう。孵化したばかりのスコーピオはまだまだ小さいからね。取り付かれても、獣機のパワーなら足をもぎ取れるんじゃないか?


 落雷の酔う轟く砲声が響くと、それが連続する。

 全周スクリーンの上部を双眼鏡モードに変えて弾着を観測した。

 地上20mほどで砲弾が炸裂し、散弾を弾着地点周囲に散布するのが分る。

 パンジーからの画像では、88mm砲弾1発で30m以上の範囲に弾が降り注いでいるようだ。


「結構利いてるな。榴散弾は正解だったな」

『ムサシも攻撃に参加してます。75mm砲は直径20m程の範囲で効果が見られます』


 それなりって感じだな。アレクも俺の前で砲撃を始めた。

 俺の55mm砲は砲身を切り詰めているから、精々3km程度の飛距離だろう。アリスがまだ射撃の用意を言いつけてこないから、距離は数km以上離れているに違いない。


 戦機の連中を見ると、コンテナの屋根に手榴弾を並べている。手榴弾は軍からの横流しなんだろうか?


「あれか? あれは半分は軍からの供与で、もう半分は手作りだ。火薬の周囲を20ℓの油脂で包んである。即席の焼夷弾さ」

「火ですか……。使えると良いですね」


 大型ではないから、威力は期待できないまでも、相手を怯ませるぐらいの効果はあるんじゃないかな。カートリッジ交換の時間稼ぎが出来るんなら都合がいい。


 ガシャンっとアレクが音を立てて、カートリッジの交換を行なう。5発のカートリッジでは直ぐに尽きてしまう。

 ついに戦機の50mm砲が発砲を始めた。5kmを切ったようだ。5機の発射は同時ではない。1発毎に数が増えていく。同時にカートリッジ交換を行なわないように時間差を作っているようだ。


『あと3分で3kmを切ります。45度の角度で発射してください。狙いよりも方向を優先願います』

「了解。2,800で射撃を始める」

『距離3.2……3.0……2.9、2.8射撃!』

 

 1発目を合図と同時に放つ。自動装填が行なわれ、ターゲットスコープに緑にランプが点灯したところで次を放つ。軽いショックを感じながら5発を撃ちつくすと、素早くカートリッジを交換した。

 55mm砲は炸裂弾だから、離れたところに申し訳ない程の炸裂煙が上がる。まぁ、スコーピオの群れの中だから少しは数を減らせたんじゃないかな。

 カートリッジ3個を撃ちつくしたところで、距離は500m程に接近している。

 

「レールガンを使います。少し左にずれますよ」

「そうしてくれ。いくら戦鬼でもレールガンを受けては貫通するからな。俺はコンテナの左隅に移動する」


 アレクはカートリッジを交換しながらコンテナに移動する。今度の弾丸は榴散弾ではなく散弾だ。75mm砲のバレルを潰すのは覚悟の上って感じなんだろうな。


『ライフル交換終了です。40mmレールガンは20発カートリッジですから、注意してください。カートリッジを30個保管しています』


 レールガンの出力を最大に設定する。秒速6kmの速度だ。この速度では空気の圧縮熱で弾丸が気化するから長射程は望めない。直線距離で3kmが有効射程になるが、弾丸の周囲50ccm程は衝撃波で刻まれるだろう。


 アレクから20mほど離れて膝撃ちの姿勢で初弾を放った。スコーピオの群れが射線に沿って浮かび上がる。

 空掘りに突入したところに、戦機が一斉に手榴弾を投擲すると空掘りから炎が上がった。


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