表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
139/300

139 出発までが忙しい


 スコーピオ相手の防衛戦まで3カ月。

 ベルッド爺さんとカテリナさんが榴散弾や終息爆弾を作ってくれてはいるんだけど、それだけで足りるものではない。

 商会に頼んで、5個の100tコンテナにたっぷりと弾薬を調達して貰った。


「念の為に、100tコンテナ2個分を先行して送って貰ったから、弾薬はこんなところで十分じゃないかしら? 食料も2カ月分を既に確保したとクロネル部長が言ってたわよ」

「母さん達の製作分は、カンザスの曳くバージに搭載するわ。100tコンテナを2個積めるからバージ1台分を確保しておけば十分でしょう。出発後に出来上がった砲弾は高速艇で軍が運んでくれるわ」


 フレイヤとドミニクの報告に俺達は頷いた。

 カンザスのリビングに主だった連中が集まって、準備状況を確認し合っている。

 王都から帰って、数回のマンガン団塊採掘を行ったが、出発10日前ともなれば、俺達の仕事は一段落を付けて、大規模作戦の準備に入らなければならない。

 

「新型獣機用の30mm砲は何とか間に合ったのかい?」

「艦載用の30mm機関砲を単発にしたような感じね。弾丸が共通できるし、修理も簡単なの。でも重さがあるから、旧型では三脚を付けて固定することになるわ」


 ちょっと嬉しそうなフレイヤの報告だけど、最初の脱皮後にも戦えそうだ。旧型でもそれなりに使えるなら十分だ。

 それに40mm滑空砲があるからね。2回目の脱皮後に使えるんじゃないかな。


「俺達は75mm砲ということなんだが、ヴィオラ騎士団では使うのは俺達だけだ。砲弾の準備はだいじょうぶなんだろうな?」

「ヴィオラの船倉にケース単位で積み込んであるわ。曳いていくバージのコンテナにもあるし、騎士団の多くが75mm砲を使っているから向こうでの調達も可能よ」

 

 珍しく発言したアレクなんだけど、クリスの答えを聞いて安心したようにグラスの酒を飲み始めた。

 砲弾がたっぷりということを聞いて安心したのだろう。


「明日にやって来る高速艇の積み荷が最後になりそうね。母さんとベルッド爺さんは出発の前日に艦に乗って貰いましょう。後は、各自の準備ということで次ぎの打ち合わせは出発の前日夕食後とするわ」


 ドミニクも準備状況を確認して少しは安心できたのだろう。いつも通りの口調で俺達に解散を告げた。


 翌日。目が覚めたら寝室には俺一人だった。

 さては、寝坊したかと時計を見るとまだ8時にもなっていない。いったいどうしたんだろう?

 着替えを済ませてリビングに向かうと、ライムさんが簡単な朝食を運んでくれた。


「誰もいないようなんですけど?」

「商会に向かったにゃ。個人的な準備を忘れてたみたいにゃ」

「個人的な……、ですか?」


 俺の問いにうんうんと頷いている。

 まさか、新しいドレスを買いに行ったんじゃないだろうな? 俺達は戦に向かうんだし、戦闘時ならコンバットスーツで十分だと思うんだけどねぇ。


「リオ様には理解できないにゃ。でも、必要な事にゃ」

「それなら、俺も商会を覗いてこようかな。ライムさんは何かないの?」

「一応揃えてあるにゃ。でもお菓子はいくらあっても足りないにゃ」


 思わず笑みを浮かべてしまった。

 元王国の暗部にいた存在なんだけどねぇ。意外なところで俺達以上に砕けたところがあるんだよね。


「タップリ買いこんでくるよ」

「お願いするにゃ」


 そう言って、ササーとカウンターの後ろに行ってしまった。

 恥ずかしかったのかな?

 

 そんなことがあって、俺達の私室にも足の踏み場もないくらいに荷物が積み上げられている。どう考えても戦に必要ない気もするけどね。だいたい、砲弾や銃弾なら寝室にまで運んでこないと思うんだ。

 だけど、自走台車で運んできたくらいだから、安心することはできないんだよね。


 カンザスの艦内を歩いてみても、会議室までが倉庫のように非常食が積み上げられていたし、トイレの棚までも使って天井まで積み上げられている始末だ。

 カーゴ区域は武装の予備や弾薬で足の踏み場もない。並べた箱の上に足場を作って通路にしているとベルッド爺さんが呟いていたが、決して嫌な素振りではない。

 どちらかというと、これから始まる戦を間近で見られるのが楽しみな様子だ。休憩所の片隅には、天井まで酒の入った箱が積み上げられてた。

 このまま、数日が過ぎると艦内を歩くことも出来なくなるんじゃないか?


 いよいよ出発という夜に主だった連中が再びリビングに集まった。

 ワインを飲みながら最終確認を行い、それが終わるとフリータイムだ。


「いよいよ明日ね。パンジー専用の爆弾も10発を用意したわ。武器制限の撤廃がもう少し早ければもっと積めるのに残念だわ」

「仕方が無いと思うな。貴族枠で他の騎士団よりは大型化出来たんだからね」

 フレイヤがワインを飲みながらボヤいている。

 

「フレイヤとエミーには全体を見て貰いたいわ。科学衛星の画像では時間遅れ出てしまう」

「パンジーの稼動時間は6時間。偵察用円盤機の2倍だから都合が良いわ」


 ドミニクとカテリナさんがパンジーの仕事を決めたようだ。

 エミーがムサシを可動させることになるから、あまり飛び回らない方が良さそうだ。


 大まかな役割分担と、編成を皆で考える。

 と言っても、アリスは単独行動だし、ムサシはローザ達戦姫部隊の護衛を行なう。

 アレクとベラスコは戦機3機を率いる。

 獣機はヴィオラの装甲甲板で援護部隊となり、新型獣機は攻撃部隊となる。ゼロは新型獣機の護衛機になる。

 

「メイデンさんは単独行動ってことになりますね」

「たぶん、好きにやらせた方が効果的よ」


 クリスが諦め顔で呟いた。妹としても姉を庇う気はないようだ。

 前回のプレートワームの一件で、メイデンさんの事は皆も良く分かったみたいだ。

 実に効果的にガリナムを運用する。たぶん部下達もかなり感化されてるんじゃないかな。

 ガリナムの多脚も強化してあるし、またやるんじゃないかな?


「だけど、流れ弾が当らないように全体の状況は良く見ておかないといけないぞ!」

「ドロシーに状況を常に把握させます。だいじょうぶです」

 レイドラが俺を見て答えてくれた。ここはドロシーに任せるのが一番なんだろうな。


「ドロシー、だいじょうぶか?」

『問題ありません。パンジーを経由して各機に状況を伝えられます』

 

 後は、出掛けるだけか。

 カリオンがベラドンナの2人とヴィオラの新人の面倒を見てくれるだろう。

 それに汎用駆逐艦が1隻いる。ローザの部隊用ではあるが、本来の任務は中継点の防衛にウエリントン王国が出してくれたものだ。

 俺達がいない間は中継点の工事に参加するとアデルが言ってくれたから、安心して後ろを任せられる。


「本当に、もう不足は無いよね。エルトニア王国軍が高速艇で日用品を運んでくれるとは言っていたけど、なるべく持って行きましょう」


 確かに高速艇は便利だが積載量が少ないんだよな。

 酒とタバコを部屋に箱買いしてあるから俺は特に必要ないぞ。

               ・

               ・

               ・

 あくる日。朝食を済ませたところで、俺達は中継点を出発する。

 コースは一旦2千km程南下して、東へと向かう感じだ。

 巡航速度は、時速40km程で走る事ができるカンザスに他の艦も合わせている。

 

「1日で900km程じゃな。まる2日は南下という事になるのう」

「タイラム騎士団の中継点まで、残り13日で行けば良いんだからこれでも十分な速度だよ」


 巡航速度は無理の無い速度だ。その状態でバージを曳いている。バージは全てコンテナ仕様だから、こんな時には意外と役に立つ。

 100tコンテナを2個積んだバージを3台カンザスとヴィオラが曳いて、ガリナムは100tコンテナ専用バージを3台だ。

 ガリナムが曳く100tコンテナ2個には、50tの大型焼夷弾が2個収納しているのだがこれの炸裂は良い見ものになりそうだな。


「ところで、ガリナムが曳いてる大型爆弾は役に立つのじゃろうな?」

「たぶんね。広範囲に火の付いた油脂が飛び散るからね。焼き殺せばそれだけ共食いする奴を減らせると思うんだ」

「まあ、期待はしておるぞ」


 そんな事を言ってローザが姉さんを誘ってリビングを出て行った。

 新たに、王都でDVDのクリスタルを仕入れてきたらしい。前のも沢山あるから、毎日食堂が映画館に変わるらしい。

 荷物を積み上げて観客席まで作ったらしいから、俺も一度は行ってみるべきかもしれないな。陳腐な映画ほどおもしろいとフレイヤも言っていたぐらいだ。


 そんな所に、ドミニクが帰ってきた。

 レイドラとブリッジを交替してきたらしい。


「あら、皆は?」

「映画鑑賞に出掛けたよ。皆でワイワイ騒ぎながら見るのが良いんだってフレイヤが言っていた」

「そう。……ところで、これを見て頂戴。偵察用円盤機が撮影したものよ」

 

 スクリーンが展開されると、十数頭のトリケラがゆっくりと移動しているのが映し出された。


「デイジー、トリケラの進行方向と速度でシュミレーションしてくれ。俺達に再接近する時にどれ位の距離になるんだ?」

『3時間後に距離12kmです。巡航速度を保っていれば追いつかれる事はありません』


 現在の速度ってところがミソだな。

 ヴィオラ艦隊の速度でもあるし、トリケラの速度でもある。どちらかの速度に変化が生じるとトリケラに横を突かれることもありえるわけだ。


「だいじょうぶじゃないか? 場合によってはアリスで直ぐに飛びだせるぞ」

「先が長いわ。場合によってはお願いね」


 艦隊を預かる身では、些細な事も気になるんだろうな。

 俺は席を立つと、ミニバーに行ってコーヒーを2つ入れて戻ってきた。

 ドミニクにカップを渡して、俺はタバコに火を点ける。


「確かにちょっと、心配しすぎね。先も長いし、その後には長い戦闘よ。皆無事に帰れれば良いんだけど……」

「帰れるさ。新型兵器が目白押しだ。それに他の騎士団だってやって来るんだしね」


 とは言っても、どれだけ役に立つかは分らない。

 だが、既存の兵器よりは役に立つだろう。今まではラウンドクルーザーの大砲は徹甲弾か炸裂弾だけだったのが、今回は榴散弾を発射出来る。爆弾も集束爆弾と焼夷弾を持ってきた。


 タバコを灰皿で揉み消すと、コーヒーを飲む。丁度飲み頃だな。

 ドミニクはコーヒーを飲み終えるとジャグジーに向かった。疲れを取って寝室で休むのだろう。


 エミー達が帰って来たのは昼過ぎだった。

 俺達の食事がかなり不定期なのを知っているライムさん達が、サンドイッチを運んできてくれた。


「兄様だけなのか?」

「ドミニクが帰ったよ。そろそろ昼食だね。それと、これが来たら出撃だ」


 食べながら質問するのは王女様としてはどうかと思うけど、スクリーンに艦隊に接近するトリケラを映し出してあげた。

 

「距離はどれ程じゃ?」

「まだ30kmも先だ。最接近で10km程になるとドロシーが言ってたぞ」

 

 微妙な顔をしてるな。それも食べながらだからパンくずが口から少しこぼれてるぞ。エミーがそれを見て目をしかめている。

 確かに積極的に狩る必要は無い。それを知ってるからそんな顔をするんだろう。

 

 フレイヤ達もリビングにやって来た。ライムさんが運んでくれたサンドイッチはお皿に山盛りだからそのままコーヒーをカップに入れて食事ができる。

 とはいえ、ずっと船内で暮らす感じだからねぇ。いつも通り食べてると太りそうだ。その辺りの事も考えての昼食なんだろうか?

 今後の事も考えると、会議室にルームトレーニング用の機材を揃えておくのも考えた方が良さそうだぞ。


『トリケラとの最接近箇所を通過しました。群れはそのまま南西に移動しています』

 

 ドロシーの艦内放送が入る。

 いつの間にか起きてテーブルに着いていたドミニクが、ホッと胸を撫で下ろしているようだ。

 まだまだ先があるから、こんなところで道草を食いたくないからな。


「いたの?」

「偵察機が見つけたみたいだ。最接近で10kmって言っていたから、特に警報は出さなかったみたいだね」


 俺の言葉にフレイヤが納得している。

 思いは同じようだな。あのパンジーを実戦で使いたかったのかも知れない。ちょっと残念そうな顔をしてる。


「現在艦隊は巡航速度の時速40kmで南に向かっているわ。直接接触しない限り巨獣を振り切ることは可能よ」


 カテリナさんがテーブルを囲んだ連中にそう言って安心させる。

 確かに、そう考えれば俺達の今回の航行で巨獣と戦う可能性は殆どない筈だ。

 ライムさんからコーヒーのマグカップを受取り、ソファーに移動して荒野を眺めながら味わうことにした。

 俺が移動すると、次々と皆が集まってくる。


 コーヒー、紅茶、ローザはジュースだな。小さなテーブルに飲み物が並んでいく。


「明日も南に進むのよね」

「その後はずっと東よ。途中の大河の渡河地点を先行偵察しなくちゃならないわ。多目的円盤機でお願いするわ」


 ドミニクがフレイヤに確認している。

 フレイヤもちょっとした変化が嬉しいのか、微笑みながら頷いている。

 多目的円盤機は数人が乗れる連絡用の乗り物だが、大型だから偵察用円盤機よりも長距離飛行が可能だ。

 プレートワームの一件で大型爆弾も積めるし、30mmの短銃身機関砲だって2門付いている。

 渡河地点の状況偵察だから、戦闘にはならないだろうし、パンジーを飛ばすのはちょっと大げさだしな。


 食後の休憩が済むと、ぞろぞろと部屋を出て行く。今度はドミニクも一緒のようだ。

 また映画を見に行くのかな?

 

 1人残った俺はのんびりとタバコに火を点けた。

 ライムさんが俺のマグカップにコーヒーを注ぐと、砂糖を素早くスプーン2杯程入れて掻き混ぜる。


「私達も出掛けるにゃ。留守番は頼んだにゃ!」

 そう言ってレイムさんと一緒に部屋を出て行った。

 俺って、公爵なんだよな? 何か自信が無くなってきたぞ。


 そんな感じで俺達の艦隊は進んでいく。

 1日で約900km。

 それでも、俺達が向かう場所は遥かに遠くの地だ。

 果たして、どれ位のラウンドクルーザーが集まってくるのだろう。

 12騎士団が全て揃ってるんじゃないかな? 騎士団のトップに立つ存在っだから頼りになる存在に違いない。

 それに王国軍の連合艦隊も集まる筈だから、かなりのラウンドクルーザーが集まるに違いない。

 そんな中に戦姫を4機積んで乗り込むんだから、かなり目立つ存在になるのは確かだろう。

 無様な姿を見せないように注意しないといけないな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ