138 頸木の外れる時
何故かしらカテリナさんに連れられて、ウエリントン王国の第2離宮にやってきた。
エミーとローザも一緒なんだけど、いったい何の用なのかを教えてkれないんだよね。
ヒルダ様の出迎えを受けると、エミーとローザを連れてリビングに入って行った。呆気にとられた俺に笑みを浮かべたカテリナさんが腕を絡ませる。
ネコ族のお姉さんに案内されて、1階の大きな会議室に通された。
どうやら密談らしいけど、こんな時にはヒルダ様がつきものじゃなかったか?
それにしても、何の飾りもないシンプルな部屋だ。部屋の真ん中に直径1mほどのテーブルがあり、テーブルを囲むように椅子が並べられている。
「ここで待つんですか?」
「そうよ。もう直ぐ来る頃ね……。ほら、来たみたい。立って頂戴」
立って待つということは……。
遠くから足音が聞こえてくる。2人ということは無さそうだ。数人ほどいるんじゃないかな?
扉が開き、屈強な戦士が現れた。
その後ろから部屋に入って来た3人の壮年の中の1人はウエリントン国王陛下その人だ。いつも一緒のトリスタンさんはまだ部屋の外にいる。
となると……、ナルビク王国の国王陛下なのか!
3人が小さなテーブル越しの席に腰を降ろすのを待った。
トリスタンさん達は扉近くの壁に立っているようだ。
「リオ、しばらくだな。……こちらは初めてだろう。エルトニアとナルビクの国王だ」
「初めましてリオと申します。中継点の建設には多大な援助を頂きありがたく思っております」
「まあ、座れ。話はそれからだ」
ウエリントン国王の言葉で俺達は席に着いた。
そんな俺達を興味深そうに他の2人が見ている。
「前に貰ったプレートワームとの戦いは、こちらの2人に見せている。この間の海賊騒ぎは我等の間でも思わぬ出来事だったが、上手く納められたようだな。
そんなことを単身で行えるリオに2人とも興味を持ったようだ。改めてリオに依頼をしたい。スコーピオの孵化が始まる。エルトニアに向かってくれ」
「分りました。何時、どこに向かえばよろしいでしょうか?」
「出来れば、3か月後に……。場所は、この地にあるタイラム騎士団の中継点で対応願いたい」
いよいよか……。タイラム騎士団には一度会っている。確かスコーピオの襲来を憂いていた騎士団だった。12騎士団の名を辱めない騎士団だったと思う。
「タイラム騎士団とは面識があります。問題はありませんが、今回は多勢を相手にします。出来れば、弾薬を先に送りたいのですが宜しいでしょうか?」
「手配しよう。だが、リオ殿の言う通り、問題は数が多いことだ」
どうやら、3人の国王がウエリントン王国にいたのは派遣軍の調整らしい。
ウエリントン王国の戦艦は現在建造中だから間に合わなくても、巡洋艦は出せるだろう。
そういえば、ナルビク王国の巡洋艦を1つ中破させているんだよな。保証金を要求されることはないと思うけど、軍船が1隻減ったことは間違いない。
「ところで、戦闘を効率的に進めるアイデアをリオ君が出してくれました。あの砲弾の制作は進んでいるのですか?」
「もちろんだ。カテリナ博士の推薦があれば、効果は保障されたも同然。戦艦の360mm砲弾から75mm砲弾まで作っている。一月後には配備出来よう。だが、孵化後10日までと言うのが問題だな」
榴散弾を作っているという事か?
それなら、少しは状況が変わるかも知れないな。
「リオに課した頚木を外す。兵器の種類、搭載量に制限を設けない。これで良いな」
「十分です」
俺の代わりにカテリナさんが答えてくれた。
いったい、何の為だろう?
たぶん、条件をカテリナさんが提示したんだろうな。
「しかし、オデットを動かす事が出来るとは……」
「リーゼルもだ。孵化20日後には戦姫が無ければ勝ち目は無い」
よくよく話を聞いてみると、スコーピオの食性に問題があるのが分った。
奴等は共食いをするらしい。
俺達が倒した連中を共食いする事で体が大きくなるってことだな。
更に、巨獣にさえも数で倒すらしいから、確かに困った連中だ。
倒したスコーピオを、どんどん穴を掘って埋めるか、それとも焼却するかで対応する他に手は無さそうだ。
それで20日後には手に負えなくなるってことなんだろう。
となると、別の対策を考える必要があるな。
素早く深い穴を掘る方法、もしくは焼却する方法だ。
「問題はどれだけ効率よく倒せるかだな。それと、倒したスコーピオに別のスコーピオを近付けぬ方法だ」
「前回はどうなされたのですか?」
「王都の壁を破られた。戦艦と巡洋艦を壁にしてどうにか侵入したスコーピオを十数匹におさえたのだが、損害は大きかった」
亡くなった者だけでも1万に近い数字だったようだ。重傷者を含めれば災厄以外の何者でもない。
やはり、効率的に焼却する外に手は無さそうだな。
となれば、気化爆弾やナパーム弾が有効なんだが、今から一月程で何個作れるのだろうか?
待てよ、コンテナに油を混ぜて爆発させれば結構効果が期待出来そうだな。
それに火炎放射器も必要かも知れない。
とにかく、倒した後に肉片を残さなければ良い筈だ。
「少なくとも1か月以上はエルトニアに滞在することになるだろう。正式な依頼文書はヒルダを通して発行するが、契約金は中継点への我等の投資金額で問題なかろう。そして更に国土を広げよう。半径50kmで良いだろう。これは我等3人の了解は済んでいる」
「少し多すぎませんか? ちょっと貰いすぎです」
「いや、コンテナの製造で王都は潤っている。そして専用の荷役用重機の製造も盛んだ。我等の政策を越えているよ。十分な経済効果を生んでいる。それと第2王女の降嫁は妻達が準備を進めているよ」
ウエリントン国王よりも少し温和な顔立ちをしているのがナルビク国王陛下らしい。
ジッと俺を見据えたいる、少し強面の男性がエルトニア国王陛下ということになるのかな?
俺の力量を計っているようにも思えるんだよな。
俺達に伝えるだけ伝えたところで、3人の国王陛下が部屋を出て行った。
ヒルダ様のところに来ると度々顔を合わせるけど、やはり忙しい身の上なんだろう。
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「会議は終りましたね。これが、依頼書になります。全く、国王達は先走りすぎます。何時も私達がこうやって手続きをするのですよ」
ヒルダ様がリビングで俺達にお茶をごちそうしてくれた。
ヒルダ様もいろいろと忙しいのだろう。
エミー達には悪いけれど、早めに帰った方が良いんじゃないかな?
「ありがとう。これで、私のラボも大きく出来るわ」
「相変わらずね。でも、少しは夢に近づけたかしら?」
そんな会話をしてカテリナさんとヒルダさんが笑顔を交わす。
俺達はそんな光景をキョトンとした表情で見ていた。
「その夢って?」
「それは私達の秘密……。たぶんリオ君が叶えてくれるわ」
何なんだろう?
エミーとローザが俺を見てるけど、俺にだって分らない。
俺のやっていることが、カテリナさん達の夢にからんでいるって事なんだろうか?
まあ、その内話してくれるだろう。その時まで待ってれば良い。
「ところで、先程の俺の頚木がどうとか言ってましたが……」
「それは、艦砲の口径と爆弾の炸薬量に制限を掛けないと言う事よ。事実上、国軍と同じように無制限の兵器開発が可能だわ」
「なら、3つ急いで着くりましょう。子爆弾を束にした集束爆弾とコンテナを使った大型焼夷弾です」
「でも、それを運ぶ手段が無いわよ」
「多目的円盤機を使います。軍内部には大型機があるんじゃありませんか?」
「10人を乗せる事が出来る物があるわ」
「出来たら数機を貸与して欲しいのですが……」
「爆撃機に改造するの?」
「ええ、3機もあれば役立ちますよ。そして獣機の補給と負傷者救出用にもう数台欲しいところです」
ベレッドじいさんが作ってる集束爆弾は250kgだ。少なくとも2個は積める。
ウエリントンの兵器工場でも作って貰えるなら助かる話だ。
それに、倒したスコーピオは素早く焼夷弾で焼き尽くせば、共食いをある程度抑える事も出来るだろう。
「欲しい物をリストにしなさい。マクシミリアンに何とかさせます」
ヒルダさんに俺は頭を下げた。これで、少しは楽が出来るかもしれないな。
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中継点に帰ると、騎士団の主だった連中を会議室に集めて国王からの依頼書を見せる。
手元の端末を使って拡大された、国王の依頼書の内容に皆が驚いていた。
「中継点の建設費用捻出の株を全てヴィオラ騎士団に譲渡するの!」
「領土も広がるし、武器使用の制限が無くなるのね」
「問題は3か月後……。今日から85日後に、タイラム騎士団の中継点への集結だ。距離は1万km近い。ヴィオラで10日と言う所だろうが、余裕を持って50日後には出発と言うことになるだろう。一応先遣隊として弾薬のコンテナを何個か送っておきたい」
たちまち艦長達が意見を言い始める。
俺達には4隻のラウンドクルーザーがあるからな。ゼロの母艦は残念ながら間に合いそうも無い。
ゼロは、ヴィオラの装甲甲板に乗せて行く外に手は無いだろう。出発前に完成するゼロは4機のようだ。装甲甲板にワイヤーで固定すれば問題ないだろう。
「獣機も戦力になるのよね?」
「孵化後10日は獣機で対応出来るそうだ。それ以降も、王国軍の獣機士達は立ち向かいそうだが、俺達は10日以降の出撃は新型獣機のみとしたい」
騎士団の獣機が持つのは短銃身の30mm砲だ。初速が低いから、200mで装甲版1cmを撃ちぬける程度でしかない。
50mなら2cmは抜けるみたいだが、元々は採掘要員だからそこまで対応させるのは気の毒だ。
地上に下りずに装甲甲板からなら、獣機士達も安心して戦えるだろう。
「獣機士達には10日以降は、補給を担当して貰おうと思っている」
「なら、ベラドンナが同行しても役立つわね」
戦機が9機に戦鬼が2機、そして戦姫が4機だ。新型獣機は10機で従来型が20機は持って行ける。
それにゼロが4機と偵察用円盤機が3機、それにパンジーもある。
俺達が出掛けた後の中継点の防衛も問題だ。
自走式バージに、ガリナムから外した75m長砲身砲を仮設して守りを固めるか……。
アイデアは色々あるが、短期に作れるものは限られている。
「やはり、戦機を何機か残しておく方が良さそうね」
「ベラドンナの戦機3機を残しておくわ。戦機の2人が新人よ」
「ヴィオラの新人も置いていったほうが良さそうね」
アデルとクリスは新人をカリオンに任せて中継点を守るつもりのようだ。
確かにそれなら安心できる。
戦機に代わるであろうゼロと新型獣機を持っていくのだ。更に、パンジーもある。戦機4機に十分匹敵する筈だ。
ドミニクが俺に視線を送っているのに気が付くと、小さく頷き返した。
「カリオンに新人を鍛えて貰いましょう。後は、食料と弾薬を乗せられるだけ艦内に積み込んで頂戴。曳くバージは200tバージを3台ずつ。ガリナムも100tバージを3台曳いて貰います」
弾薬と食料は必要だからな。コンテナの1つは飲料水ってことだろう。
当初は高速艇で先行させようと思ったけど、4隻で向かうなら曳いていけばいい。
決戦まで、3か月を切っているのか……。
タイラム騎士団の連中は日夜卵を観察し、そして破壊しているに違いない。
3つの王国の巡洋艦も6隻揃う。艦砲は20cmだから遠距離で支援攻撃をしてくれるのだろう。
全体を指揮する者が必要だけど、俺達はタイラム騎士団の傘下に入っていよう。