136 航空母艦を作ってみよう
「ドミニク。アデルはベラドンナをすでに売却したんだろうか?」
「まだみたい。かなり自分達で改造したようだから、売却するにしてもそれらをもとに戻すことになるの。王都の造船所は、新たな軍船の建造で大盛況よ」
「なら、この機動兵器の母艦に改造しないか? ベラドンナは大型船だから、思う存分改造ができそうだ。それにアデルにしても早く現金化したいんじゃないかな」
「ベラドンナを母艦にするの?」
「ああ、1個小隊16機は搭載できそうだし、支援機も何とかなりそうだ。ブリッジを撤去して上面を全て装甲甲板にして、小さな操船デッキを舷側から立ち上げれば良い。武装は2連装の40mm滑腔砲をブリッジの周辺に設ければ防衛もそれなりにできるだろう」
「ちょっと待って。今の話を形にすると……」
『このような船体になりそうですね』
アリスが俺達の前に仮想スクリーンを展開して3D画像を見せてくれた。ゆっくりと船体画像を回してくれたからおおよその形が理解できる。
頭の片隅に航空母艦という言葉が浮かんできたが、この世界ではまだ出現していない艦種なのだろう。
「これが、新型のラウンドクルーザーなの?」
『概略仕様では、巡航速度が時速40km。標準型核融合炉を2基搭載しますから、最大速度は時速50kmが可能です。半日程度なら最大速度を維持できるでしょう。基本構造がダモス級の大型艦ですから、船格構造の強化を施す必要があります。それを行ったとしても機動兵器なら2個小隊を格納できそうです』
アリスに説明をカテリナさんが真剣な表情で聞いている。
この船でマンガン団塊の採掘を行っても良いんじゃないかな? 中型巨獣なら群れで狩れそうに思える。
「呆れた。単艦運用が可能ということかしら。でも、随伴艦は必要になりそうね」
「念のため。ということですか? それなら、ガリナムが最適でしょうね。この艦は接近戦に弱いんです。護衛艦なら砲艦が一番ですよ」
俺の言葉にカテリナさんが頷いている。
本来なら、巡洋艦1隻に駆逐艦を複数随伴させたいところだ。それだけ機動兵器の母艦が脆弱であるということなんだけど……。
「ところで、この船と機動兵器の名前は付けないの?」
「そうね。いつまでも機動兵器では可哀そうだわ。それにこの新しい艦種の類別も考えないといけないわよ」
親子で俺に注目されても困ってしまう。
だけど、一応は考えておいた。カンザスだって俺の考えた名前だからねぇ。ドミニク達は命名が苦手なのかな?
「機動兵器は『ゼロ』。母艦となる艦の種別は『航空母艦』がわかりやすい。ベラドンナを改造した航空母艦の名は『ディアンティス』でどうかな」
俺の言葉にうなずいているから、これで採用ということかな?
カテリナさんが携帯で何やら検索しているのは、類似した名前がないことを確認しているみたいだ。
「なるほど、この花の名前なのね。古いライブラリーでのみ、画像があったわよ。可憐な花ねぇ……」
ナデシコを見つけたのかな?
遠い時代に地球から植民してきたらしいから、その時のライブラリーにあったのかもしれないな。
「あのプレートワームみたいな機体が『ゼロ』になるのね。中々良い名だわ」
「そうですか?」
まあ、喜んでくれるならそれで良しとしよう。
試作機はヒルダさんが資金を出してくれる筈だから、少しスペックを落として3つの王国に販売しても良さそうだ。
その資金で母艦の改造費とそれに搭載するゼロの製作費になるんじゃないかな?
「次々と新しい機体が出来ますね。騎士団が必ずしも戦機を必要としない時代がやってきそうです」
「でも、それを騎士団が歓迎するかしら? やはり戦機を持ってこそ騎士団と言う考えは騎士団の誰もが持っているわ」
フレイヤの話をカテリナさんが否定する。ドミニクも頷いているところを見ると、思いは同じってことだろう。
それも分かる気がするな。だが、それならそれで良いような気もする。
新型獣機とゼロで、バージターミナルの守護をさせれば良いのだ。巨獣の襲撃には有効に作用するだろう。
騎士団は昔どおりに採掘をすれば良い。
バージターミナルが彼らの退避所として機能することで、更なる西への進出を可能とする。
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何時ものようにエミーと一緒に穴掘りを続ける。
かなりホールが大きくなってきたな。ラウンドクルーザーの回頭用ホールだから直径500m以上は欲しい所だ。まだまだ頑張らねばなるまい。
エミーの方も、桟橋の北部に設けるラウンドクルーザーの回頭用ホールを作っている。
桟橋の前後で回頭できるなら、桟橋に接岸する順番を気にすることもないはずだ。それだけ、入港管理が容易になる。
アリスの足元では自走バージが忙しく動き回っている。獣機も4機が切り出した石材を自走バージへと積み込んでいた。
屋外の谷を利用してバージ用の桟橋を作っているけど、これは中継点内部の桟橋よりも大きなものだ。
いくら石を切り出しても、余るということはないんじゃないかな?
2時間働いたところで、ホールに作った作業員の仮設詰所で休息を取る。コーヒーを飲み、タバコが吸えることがありがたい。
「だいぶ広がったな。兄ちゃんのおかげでだいぶ捗るよ」
先客の獣機士達も機嫌が良い。
「でも、まだまだですよ。ここから3方向に伸びるトンネルはまだ未拡張ですし、桟橋だってまだまだ先です」
「だが、形にはなってきたぞ。この間は西の桟橋に進出しようとする商会が見学に来てたからな。俺達にも酒を差し入れてくれた」
「そうだったな。結構、差し入れが多くて嬉しい限りだ。家族もここに呼ぶことが出来たし、ここで仕事が続けばありがたい話だ」
工事用獣機の獣機士は親父さん達ばかりだけど、カンザスのリビングでは味わえない現場の声がここでは聞く事が出来る。
「また、鉱石採掘から帰って来たら手伝いますよ。俺も、それなりに稼がなくちゃなりませんし……」
「あの姉ちゃんか? 中々の美人じゃねえか。確かに色々と入用だろうな。監督もその辺りは色を付けてやらねえと可哀相だぞ」
「それは考えてるさ。上の方も気を使ってるようだ。なんて言っても戦機で工事をするなんて聞いた事がねえからな」
少し年かさの男性が彼らの責任者みたいだ。獣機士達にそんな事を言って、酒を注いでいる。まだ15時でこれから一仕事なんだけどだいじょうぶなのか?
まるでアレクみたいなの見方だけど、酒を飲める連中は酒で仕事の失敗をすることがないと聞いたことがるからね。
今のところは、文句を言うこともないだろう。でも、俺には勧めないでほしいところだ。
まあ、そんな感じで俺なりに楽しんで仕事をしている。仕事をしただけどれだけ進んだか分かるのも何となく嬉しく思う。
穴掘りから帰って、ソファーにのんびりと横になっていると、ローザがリビングに入ってきた。
子供達に操縦を教えているらしいが、どれ位動くようになったんだろう?
「どんな具合なの?」
「あの2人ならどうにか戦機の初心者程にはなったのじゃ。今日はグランボードの乗り方を教えて来たぞ。時速20kmでリミッターを掛けておるから、暴走しても安心じゃ。一応念のためにバージターミナル近くの谷間で練習しておる」
予想した以上に操縦出来るようだな。
各国の国王も喜んでいるだろう。
ローザ並みに巨獣に接近せずとも、レールガンの遠距離攻撃が可能なら万々歳だ。
「おもしろいのは、1人で操縦するより、2人で一緒に動く方が動きが滑らかじゃ。れいのテレパスとか言うもののせいなのかも知れぬ」
「なら、常に2人で行動させれば良いだろう。巨獣の前でグランボードから落ちるのだけは願い下げだ」
「十分承知しておる。カテリナさんが固定治具を作ってくれたのじゃ。あれなら安心できるが、我には必要ないぞ」
スキーのビンディングみたいなものだろう。俺は着けておいた方が良いと思うけどね。
「そうなると、カンザスに搭載することになるのかしら?」
「ローザの時と同じで、グランボードに乗った状態で、レールガンを使えなければ載せるわけには行かないだろうな」
「我もそう思う。まだまだ練習せねばなるまい。それよりカンザスから護衛騎士の戦機を降ろしておいた方が良いぞ。我等が出掛けても戦機がいるなら安心して練習ができるじゃろう」
そんな訳で、俺達が鉱石採取の航行に行っている間は、子供達は自習って事になった。
継続は力だから、10日も過ぎて戻ってくる頃には更に動きに磨きが掛かっているだろう。
次ぎの航行から帰って来た時。
俺達を出迎える2機の戦姫がグランボードで出迎えてくれた。リミッターの設定を上げたのだろう。時速50km以上は出ているようだ。
次には設定を時速100km程に上げねばなるまい。
更に一月が過ぎると、グランボードの最大速度でもレールガンを扱えるようになった。
カンザスに2人の戦姫を載せて、護衛騎士の戦機も載せる。
かなりの戦力上昇だな。これでレイトンさんの手伝いをしている新型獣機が搭載されたら、ちょっとした巨獣の群れならカンザスだけで対応出来そうな気がするぞ。
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中継点の緯度は北緯50度を超えている。
山脈から伸びた尾根の1つにあるようなものだから、厳冬期の気温は、平均で-15℃前後。たまに-20℃を下回る時もある。
そんな環境の中だけど、中継点は山腹の中にあるから、核融合炉の廃熱を使った暖房によりホールの内部気温は20℃を上回っている。
「高緯度に近いと厳冬期の活動は厳しくなるわね」
「吹雪の中の採掘は、周囲に気を使うからな。それでも、動体センサーで周囲3kmは何とか監視が出来るが、巨獣なら数分も掛からずに襲撃出来る距離だ」
鉱石を見つけたら、東西南北にラウンドクルーザーを配置して、その中で採掘をすることになる。
一応、偵察用円盤機を周回させてはいるが、直径100kmの範囲での監視を2機で行なうから、その監視を抜けて接近するものもいないとは限らない。
冬季に活動する巨獣は殆どが肉食獣だ。チラノ系統だから、危険この上ないという事で、2時間おきに俺達は交替でカンザスの走行甲板上で待機することになった。
獣機達がバージに鉱石を積み込んでいるのを高いところで見るのはちょっと心苦しいところもあるが、この状況では仕方ないだろうな。
『視程500mです。円盤機もこれでは巨獣を確認するのが困難でしょうね』
「吹雪だからな……。一応、動体センサーが稼動しているけど、検知と同時に対応しないと間に合わないと思うぞ」
そんな会話をアリスとしながら周囲を見渡す。
白の世界だ。これで体色が白い巨獣だと、絶対に見分けが付かないだろうな。
「兄様、交代じゃ!」
元気な声がコクピットの中に聞こえてきた。デイジーが俺と交替するようだ。
まあ、何かあれば艦内で待機しているムサシが直ぐにやってくるから任せておいてもだいじょうぶだろう。
「じゃあ、後を頼んだぞ!」
デイジーの片手を軽く叩いて交替した。
アリスをハンガーに固定すると、長い通路を歩いてリビングへと戻る。
ソファーに体を投出して、早速タバコに火を点けた。
そんな俺に、ライムさんが温かなコーヒーをいれてくれた。
コクピットは暖房されているが、周囲の荒地は氷点下だ。そんな光景を見ていると、何故か体も凍えて来るんだよな。
熱いコーヒーは何よりもそんな気持ちを癒してくれる。
「やはり、この季節は中緯度付近で鉱石を探した方が良いわね」
「全くだ。中緯度に鉱石が無いわけじゃない。鉱石を採掘するたびに厳戒態勢では、ちょっと辛いな」
そんな言葉をフレイヤに返す。
フレイヤとエミーもここで待機状態だ。
イザとなればすぐさまここからブリッジ下部にある円盤機に移動して出撃出来る。
カテリナさん謹製の円盤機だ。まだ戦闘経験は無いが、イザとなれば頼らせて貰おう。
「でも、結構あるのよね。やはり山に近い分鉱石が多いのかしら?」
「とは言え、量は数十t前後ですよ。もう少し、集積されていても良いような気がします」
まあ、それがこの大陸の不思議なところだ。
同じ組成のマンガン団塊が数km離れて同じ位の量が埋蔵されているかと思えば、1kmも距離が無い状態で全く別な組成のマンガン団塊もあるのだ。
だが、これでバージも満載だろう。
後は中継点に帰るだけだ。
『円盤機より入電です。北西80kmに巨獣の群れが移動しています。南東方向に移動中。シュミレーションでは3時間後に距離5kmまで接近します』
突然、ドロシーからの艦内通報が巨獣の接近を知らせてくる。
まだ時間はあるな。
それまでには、採掘が終るだろう。
予想通りに巨獣の最接近前にヴィオラ艦隊は回頭を始める。
今回はバージをカンザスは曳いていないが、冬が終ればコンテナバージを引くこと荷なりそうだ。
核融合炉が4つは伊達ではない。
かなり動力には余裕があるから、専用のバージを製作中だ。
俺達が、バージを切り離して救援に向かう場合はヴィオラに任せることになりそうだが、ヴィオラの巡航速度を落とせば対応出来るとカテリナさんが言っていた。
「最大のラウンドクルーザーが、バージを曳いていないのは問題よね」
「春が来る頃には新型バージが出来上がるらしい。それにコンテナの製作も順調らしいから、南のバージターミナルは4つある桟橋の半数をコンテナ用にすると商会の連中が言っていた」
「中継点の野外桟橋もそうなるの?」
「西側をコンテナ専用にすると言っていた。更に西に桟橋を作るのも視野に入れているらしい」
利便性を彼らなりに理解したらしい。
ウエリントン王国の基準に合わせて、自分達の工場でも製作を始めたと言っていた。
流通用にするにはウエリントン王国の刻印がいるから、その時に僅かな税金と特許料を納めるらしい。
「莫大な特許料がリオ公爵に流れてきます」
自分の事のように興奮して商会の連中が教えてくれた。
だが、それらは中継点の維持費の補填と新型獣機や機動兵器のゼロを製作するために使われてしまいそうだ。
あまり、自分に還元されないのも考えてしまうが、やはり儲けは有意義に使ってこそ意味が出るだろう。
「コンテナってリオが考えたのよね……。そんなに便利なのかな?」
「便利だよ。それに携わらなければ分らないと思うけどね。例えば、今回運んで来た鉱石だって、コンテナにそのまま入れて保管出来るんだ。ニーズに合わせて中継点から出荷できるから、積み換えの手間が要らないし、コンテナを積むクレーンの治具も共通化出来るから、沢山の荷役用重機が必要じゃなくなるんだ」
「その辺りに目を付けられるリオ様の先眼には驚くばかりです」
「おかげで中継点の施設が充実するんだから、感謝してるわよ」
あまり、コンテナ流通を理解はしていないようだ。
物流のお垂らす経済効果は計り知れないものとなるだろう。税収の増加にヒルダ様が驚くんじゃないか?