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134 楽園からの帰還


 そこはまるで、海底の舞踏会のような雰囲気だ。

 青い光の中、観葉植物と大理石の彫刻が水底の光景を思い浮かべる。

 シャンデリアの下には、ひらひらと薄いドレスを纏った女性達の円舞がまるで魚の舞のように思えてしまう。

 これでもか! という感じのビキニに薄衣を纏った姿は、全く持って目の毒以外の何ものでもない。

 

 ドミニクとレイドラはお揃いの衣装だ。あまり動くと胸が零れてしまうんじゃないかと心配になってしまう。

 それより少しおとなしい感じの衣装がフレイヤとエミーなんだけど、こっちは上に羽織るドレスがあまりにもシースルー過ぎる。

 一応着てるんだけど、光のかげんではまるで纏っていないようにも見える。

 そんな彼女達と一曲ずつダンスをしたところで、壁際のソファーに腰を下ろしてワインを楽しむことにした。


「おや? はじめてお目に掛かる。バローズ騎士団の騎士、ライトンという。お見知りおきを……」

「ヴィオラ騎士団のリオです。こちらこそよろしく」


 慌てて立ち上がって、名乗りを上げると握手を交わす。

 どこで、どんな時に再会するか分らないからな。こうして、会う事があれば互いに名乗るのが騎士の務めでもある。


「ヴィオラ騎士団と言いますと、あの戦姫と双胴船を持った騎士団ですな。西の戦の話はタイラム騎士団よりうかがいました。我等は東におりましたので助けになれず残念です」

「第3軍が来てくれましたので、どうにかです」

「ご謙遜を……。後、1年です。我等が見張っていますから、それまでは安心してください」


 そう言って、ホールの中のダンスを楽しむ人達の中へと消えて行った。


 スコーピオの生み付けた卵を監視している騎士団なんだろうか?

 タイラム騎士団と付き合いがあるらしいから、12騎士団もしくは、大規模な騎士団の1つなんだろう。

 そんな任務を帯びても、この場所に来て楽しめるのだから、やはり団員が多いんだろうな。

 

 3時間程過ごしたところで、皆と一緒に部屋に戻ってきた。

 ドミニクにバローズ騎士団を尋ねてみると、やはり12騎士団の1つのようだ。

 

「そう。孵化の状態を観ているんでしょうね。見つけた卵は片っ端から始末していると思うわ。1匹のスコーピオは100個以上の卵を分散して産むし、その卵は地中3m以上の深い場所なのよ」

「1年ちょっと、と言ってたよ」

「新型獣機を連れて行けるわ。ガリナムだけでも先行させようかしら」


 孵化したばかりのスコーピオは精々3m程らしい。

 だが、1週間も経つと5m程に成長するのだが、その急激な成長を促がすために手当たり次第動く物を襲って食べるそうだ。

 スコーピオが10mに達しなければ、獣機の持つ30mm砲でも倒せるらしいのだが、それ以上になると、戦機の持つ50mm砲。もしくはラウンドクルーザーの75mm砲と言う事だ。


「作戦は必要だね。上手く行けば、機動兵器も使えそうだ」

「兆候が見えたら、エルトニア王国から知らせが届く筈だわ。その知らせでどれだけの騎士団が集まるかで被害が決まるとも言われているの」


 ドミニクの話では、前回もかなりの被害が出たようだな。親と子で両方とも被害が出るのは痛ましいものだ。

 皆疲れているらしく、今夜も1人で寝られそうだ。

 こんな夜もあるのだろう。そんな事を考えてキングサイズのベッドに横になる。

                 ・

                 ・

                 ・

 翌日。久しぶりの惰眠をむさぼる。

 最終的には、フレイヤに叩き起こされたけど、それでも9時まで寝ていられた。

 今日は休暇を終えた帰る日なんだよね。

 熱いシャワーを浴びて眠気を消し去り、1人で食堂に向かい簡単な朝食を取って帰って来た。

 皆がお土産を大きなバッグに詰め込んでいる。

 鞄よりも大きなぬいぐるみを詰め込もうと努力しているフレイヤを見た時には少し笑ってしまったけど、他の連中も似たようなものだ。


「売店で大きなバッグを買って来るよ。3つあれば良いのかな?」

「そうね……。それぐらいは必要だと思うわ。リオの私物も詰め込んでおくから早めに帰ってきてね」


 フレイヤが部屋の様子を見ながら答えてくれた。

 それにしても、どこに置こうというのだろう?

 ひょっとして、普段は主のいないベッドに寝かしておくつもりなのかな?

 まさかと思うけど、一緒に持ってきたりしないか心配になってきたぞ。俺の寝る場所がなくなってしまいそうだ。


 ホテルの1階にある売店は、かなり規模が大きなものだった。奥行きだけで20mはありそうだし、横幅は50mを越えてるんじゃないかな?

 2フロアを使った商品の品数は専門店以上であることは間違いないな。


「すみません、お土産を入れるようなバッグはありませんか?」


 近づいてきたネコ族のお姉さんに聞いてみた。


「それなら、こっちにゃ。色々あるけど、多分大きなぬいぐるみを狩ったに違いないにゃ。それだとこれが一番にゃ!」


 俺と同じように困った人が多いんだろう、慣れた感じで場所まで案内してくれた。勧められるままに3つ買い込もうとした時、近くに寛容植物の鉢植えが並んでいた。

 商品説明をよく読んでみると、空気中の水分を派から吸収して育つ植物らしい。葉の形や大きさが色々とあっておもしろそうだ。

 若葉色をした葉をツンと伸ばしたものと、丸い葉を花びらのように広げたものを購入することにした。


 近くにあった積み上げられたカゴに選んだ鉢植えとお土産運搬用のバッグを購入する。全部で銀貨3枚近かったけど、中々良い買い物をしたかもしれないな。

 部屋に戻ってくると、フレイヤ達がさっそくバッグに荷物を詰め込み始めた。たちまち膨らんでいくバッグを見ると、もう1個買い込んだほうが良かったのかもしれない。


「ふう、何とかなったかな? ドミニク達も大丈夫よね?」

「どうにかね。次に来るときには鉱石運搬用のコンテナを用意しましょう」


 ドミニクの言葉に、ローザまで頷いてる。

 さすがに100tコンテナは大きいからね。でも、その前に荷物を少なくしようとは考えないんだろうか?


 トランクを連結させて、俺が引いていく。まるで採掘の帰りのようだな。俺がラウンドクルーザーでトランクがバージという感じがするんだよね。

 荷物が多いから、1つ遅らせてエレベーターに乗り込み、エントランスホールに向かう。

 すでに無人のタクシーが玄関口に停車しているようだ。2台用意してあるのは荷物が多いということなんだろう。


「ほらほら、そんなところで立ってないで、荷物を運んで頂戴!」

 フレイヤの声に、ガラガラとトランクの列を従えて外に出た。

 

 トラ族の若者が次々とトランクを車の荷台に収納してくれる。これで俺の役目は終わりになるのかな? エミーの手招きに応じて隣の席に乗り込んだ。すぐにフレイヤが乗り込んできたから、ちょっと窮屈な感じなんだけど2台に全員が乗れるのかな?

 そんな心配をしているのは俺だけのようだ。

 ドミニクとレイドラが前席に乗り込んだところで、無人タクシーはドリナムランドを後にする。


「王都の工廟に向かうわ。カンザスの点検は昨日に終了したそうよ。工廟から桟橋に移動して停泊させたそうよ。今頃は、カーゴ区域の人達が王都に繰り出してるかもしれないわ」

「きっとお酒の買い出しよねぇ。中継点でも手に入るそうなんだけど、新たなお酒の発見が目的なんじゃないかしら?」


 俺もフレイヤの意見に賛成するな。ドワーフ族の連中は酒に目がないからねぇ。ネコ族のお姉さん達は王都でウインドショッピングとうわさ話を求めてあちこちで歩いているに違いない。

 じっとしているネコ族の人なんていないんじゃないかな?

 そんな会話を聞きながらウエリントン王国第2陸港に到着した。

 陸港の無人タクシー乗車口から、カンザスを留めてある桟橋までトランクの列を再び引いていくことになるんだろうな。


 どうにかカンザスのリビングに戻ると、皆が自分の荷物を部屋に運び始めた。

 ソファーにどかりと腰を据えたところで、一服を始める。

 俺の荷物は、着替えが少々だからね。着替えに戻るときにでも持っていこう。

                 ・

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                 ・

 王都から中継点まではカンザスの空中巡航速度で約1日だ。

 陸港を出発したのが昨日の昼過ぎだったから、今日の昼前には中継点に到着できるだろう。

 のんびりできるのは残り2時間もなさそうだ。

 ドミニク達はブリッジに出かけているが、出番のない俺達はソファーでコーヒーを楽しんでいる。


 カンザスのリビングには、ランドで購入した訳の分からないインテリアがあちこちに置いてある。

 俺も手に入れた観葉植物をリビングの窓際に飾ることにした。周囲が荒れ地だから緑は見栄えがするな。急回頭しても、ひっくり返らないようにベルッドじいさんに対策を考えて貰おう。


「ヒルダの話では、2人程中継点にやって来るらしいわよ。戦姫を持ってね」

「2つの王国には戦姫を動かせる者がいないと聞いたのじゃが?」

 

 カテリナさんの言葉に、ちょっと驚いたような表情のローザが確認している。

 フレイヤ達も同じ思いらしく、頷きながらカテリナさんに顔を向けた。


「ヒルダさんに聞いた話では、ようやく指を動かせる程度の人間がいるらしい。ローザの例もあるから、藁にもすがる思いなんだろうね」

「確かに、カテリナ博士の薬は利いたのじゃ。たぶん動かせるようになるのじゃろう」


 ウエリントンは、他国より1歩先んじているからな。

 他の国の戦姫が動くとなれば、ローザの立場も少し微妙な位置になりそうだ。


「上手く行けば機動砲台にはなるじゃろう。戦機並みに動かせれば、巨獣に脅える事も少なくなる筈じゃ」

 

 ローザは自分の事を振り返ってるようだな。

 ぎごちない動きで動かしていたが、今ではベラスコよりも上手く戦姫を操っている。

 だが、裏を返せばローザはそれなりに戦姫を動かすことが出来たのだ。殆ど戦姫を動かせない2人はどこまで動かせるようになるのか?

 ローザが見せてくれた初期の戦姫の動きでも大成功ってことになるんだろうな。

 機動砲台的な運用は案外その通りかもしれない。


「また賑やかになるのかしら?」

「それも、またおもしろいかもしれないな。ローザと年代が同じならローザも一緒に遊べるだろうしね」

「我よりも幼い事も考えられるぞ。たぶん、王族の子供達全員を試したに違いない。本来なら、13歳で初めて戦姫のコクピットに納まるはずなのじゃ」

 

 まさか、10歳以下って事は無いだろうな。ちょっと心配になってきた。

 それに、お付きの騎士もやって来るに違いない。この間の一件で王国軍の中には問題児もいるということが分かったけど、まさかそんな人物を伴ってくることは無いだろう。


「ある意味、王国連合軍になるかもしれないな」

「ん? なるほどのう。確かに3王国の戦姫と戦機が揃うなら、そうなるのであろう」

「だいじょうぶなの?」


 フレイヤの心配も理解できるけど、基本的にはドミニクの指揮に従ってくれるんじゃないかな。


「フェダーンは随行騎士を増やしたいようだったけど、断っておいたわ。カンザスに全員収容できなくなりそうだもの」

「獣機は必要ですよ?」

「獣機1個分隊は確保してあるから心配ないわ。私のラボを取り壊してスペースを確保しただけだから」


 最初からラウンドクルーザーに、ラボなんて付けなければ良かったのにねぇ。

 となるとカテリナさんの拠点は、あの『カティの部屋』になるということなんだろうな。待てよ……、ひょっとしてあれから部屋を広げてるんじゃないか?

 そうでもしてないと、カンザスから簡単にラボを撤去するのは考えもしないはずだ。

 ちらりとカテリナさんに顔を向けると、笑みを浮かべて俺を見ていた。


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