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131 さらにややこしくなる


「50mm砲弾を尾栓の無い砲身から撃ちだすですって!」


 砲身内部の炸薬が炸裂する圧力を考えると、驚くのも理解できる。

 だけど、その圧力が尾栓の無い砲身の後部から噴出することは直ぐに分かるんじゃないかな?


「反作用で砲弾が飛び出すということかしら。初速は余りなさそうね」

「でも前には飛び出しますよね。さらに、炸薬の燃焼時間が長ければどうなりますか?」

「う~ん、多分加速するでしょうね。初速が低くても少しは上げられるということかしら?」


 ついでに、砲弾の構造を少し変えて、ノイマン効果が表れるようにしておく。これで着弾時に、高熱のジェットで着弾個所に穴を開けることができるだろうし、炸裂した破片で周辺にも被害を与えられそうだ。

 俺の説明に合わせてアリスが構造を示してくれるから、カテリナさんは仮想スクリーンを見つめたままだ。


「使えそうね。作る価値は十分にあるわ。獣機がトリケラの突進を阻止できるかもしれないわよ」

「ついでに榴散弾についても検討してくれませんか? プレートワームみたいな巨獣には効果がありそうに思えるんです」


 着弾前に炸裂して小弾を広範囲にばら撒くという構造に、目を皿にしてみてるんだよなぁ。


「スコーピオに使えそうね。今からでも遅くはないわ。試作して効果試験を重ねれば、スコーピオ戦の前までに大量に配備できるわ」

「200万でしたっけ。本当にやって来るのでしょうか?」

「過去は全てそうなったわよ。エルトニア王国の発展を阻害する最大の原因がスコーピオの襲来なの」


 話を聞くとナルビクにも被害が及ぶことがあるらしい。さすがにウエリントンは距離があるから、心配はいらないらしいけど、必要な援助は惜しむことなく与え続けているとのことだ。


「さて、食事にしましょうか? 一応、コースなんだけど、全部揃えてあるから好きに食べて良いわよ」


 一瞬ドキリとしたが、話の最後で笑みを浮かべてしまった。

 テーブルに向かうと、隙間なく皿が並んでいる。アレクもこれなら満足できるんじゃないかな。


「やはり、リオ君をいつもそばに置きたいわ。そのアイデアが尽きないところが興味を引くのよねぇ」

「そうですか?」と軽く流しておこう。

 

 食事が終わり、ワインを再び味わう。

 話題は海賊船の母艦である潜砂艦をいかにいて発見するかについてだ。ヴィオラ騎士団では1度やったことがあるんだけど、カテリナさんはその時のことを覚えていたみたいだな。


「基本はマンガン団塊と同じく金属探知機を使うんでしょう? それだと大型化するし、あまり深く探知できないわ」


 潜砂艦の最大深度は50mほどにまで達するらしい。騎士団の反跳中性子を使う探査装置ではせいぜい10mほどだからね。

 だけど、少し方向性が違ってないか?


「潜砂艦の船殻の材質を調査するわけではないですから、そこにいるいないの区別ができれば十分でしょう? 場合によっては重力変異のある場所を広域に探って金属探知機で当たりをつけることもできそうです」

「それが移動してたり、小さな振動を伴っていれば確定できるってことね」


 段階を踏んで見つけることになりそうだ。潜砂艦の存在は、見つけにくいことで意義あるものだから、そう簡単に見つけることはできないのだろう。


「その後の攻撃手段は、あの爆弾を使うのね。貫通型の150㎏爆弾の設計は済んでいるようなものだし……」

「あの時は急造でしたからね。できれば20m以上の深さに達する爆弾が欲しいところです」


 うんうんと頷きながら、仮想スクリーンに展開された爆弾の要点を確認している。

 

『可能であればさらに炸薬量の大きな爆弾とすべきでしょう。最初の投下で潜砂艦が移動すればその後の攻撃が容易になります』


 アリスの提案する爆弾の大きさは300㎏級なんだよな。さすがにそれを投下できる円盤期機は限られているぞ。

 ん? 待てよ。大口径の艦砲ならそれぐらいの徹甲弾を放てるんじゃないのか。


『マスターのお考えではこうなります』

「これを駆逐艦に積むの! 臼砲は考えなかったわ。低速で短距離、しかも弾道が高いから、ある意味爆弾そのものね」


 アリスが臼砲の概略設計を始める。強度計算が含まれるから、このまま詳細設計を飛ばしても十分な出来栄えだ。


「駆逐艦の船尾に1門搭載できるのね。小型核融合炉が直下にあるから、船体強度的には問題なさそうね。それにしても口径400mmは戦艦を超えるわね」

「飛距離は3kmにも達しませんし、砲弾の数は10発ですからねぇ。潜砂艦狩りに特化した駆逐艦になりそうです。アリス、口径を300mmにすると炸薬量はどれぐらいになるんだ?」


「150kgほどです。400mmなら200kgを越えるのですが……」

「なら360mmにすれば? 戦艦の艦砲と同じにすれば砲弾の調達も容易よ。装薬量を変えるだけだからカートリッジだけの変更で済むんじゃないかしら。2隻で組めば大型のチラノさえ倒せそうだわ」


 上手く当たればねぇ。臼砲の命中率はかなり低い。たぶん散布界は円盤機の爆撃と同じぐらいだろう。2km先の直径100m以内に砲弾が落ちれば十分じゃないかな。


「ヒルダに伝えてみるわ。利益は半分で良いでしょう?」


 ワインんもカップを置いて俺の手を握りながらソファーから立ち上がる。

 次は何を見せてくれるのかな?

 通路に出ずに、リビングの片隅にある扉を開けて次の部屋に入った。

 

 何と! 一面の花畑だ。

 地下に温室を作ったんだろうか? 真ん中にベンチがあって傍に街灯が1つ取り付けられている。

 天井が高いから、街灯だけの明かりでは夜の公園にいると錯覚するんじゃないか?

 これも、カテリナさんのストレスを軽減するための物なんだろうけど、維持が大変な気もするな。

 ベンチで一休みと思っていたら、カテリナさんが更に先へと歩いて行った。どうやら次の部屋へと続く扉があるみたいだ。

 扉の手前で立ち止まり、俺に顔を向ける。


「さて、今夜は独占できるわね」

 笑みを浮かべて扉を開けると、そこは浴室だった。

 カンザスのジャグジーも大きかったけど、この部屋の浴室にあるジャグジーは更に大きい。

 大家族じゃないんだから、こんなに大きくしなくても良いんじゃないか? どう見ても直径5mはありそうだ。


「お風呂は大きくなくちゃねぇ」

「限度があるんじゃないですか? もったいないように思えるんですが」

「そこは貴族の矜持ということになりそうね。でも私は貴族ではないけど、リオ君ならこれぐらいのお風呂に入ってほしいわ」

 

 無駄遣いをするのが貴族ということなんだろうか?

 それで周辺にお金がばら撒かれ、結果的に周囲の人達の収入が増えることになるのだとすれば必要悪にも思えてしまう。

 まぁ、それは王都の貴族であって、荒野の中継点を領地に持つ俺達は、余分なお金は工事費で飛んでいきそうだ。

 最後まで辺境の貴族に徹していよう。


 互いに服を脱ぎ、ジャグジーに飛び込む。

 ワインを飲んだ後だけど、風呂の温度はそれほど高くないからのぼせることはないはずだ。


「どうにか2日目を越えたわ。そこで壁があるみたいね。10分割の壁は薬品で乗り越えられたけど、次の壁は違うみたい。先が長いけど、色々と成果も上がってるのよ」


 広いジャグジーなんだけど俺に体を預けて、独り言のように呟いている。


「不妊治療薬が2つ出来たわ。感謝の手紙があちこちから来てるの」

「神に挑むような研究ですけど、その結果を喜んでくれる人達もいるということですか」

「たぶん、壁は更に続くのでしょうね。でも、諦めないわよ。彼女達もその成果を待ってるはずだから」


 待つだけの価値はある。この世界はバイオテクノロジーの発達である程度不老を達成している。

 たった2年ほどで、カテリナさんの研究がそこまで進んでいるとは思わなかったな。


 このまま眠りそうになったところで、風呂を抜け出しさらに隣の部屋へと移動した。

 思った通りの寝室だが、大きなベッドは横に5人は寝られるんじゃないかな?

                 ・

                 ・

                 ・

 小さなチャイムが俺を眠りから目覚めさせた。

 何度もチャイムが鳴るから、隣で俺に抱き着いているカテリナさんを起こすと不機嫌そうな表情で俺を見ている。


「チャイムがさっきから鳴り続けてるんですが?」

「来客かしら? 彼女達なら断ってくれるはずなんだけど、断れない相手ということになるわね」


 裸でベッドを抜け出すと、壁の一角を大きく叩いた。すると、壁が開いてクローゼットが現れる。

 その場で着替えるんだから、目のやり場に困ってしまう。

 下着の上に白衣を着ると、小さなスポーツバッグを手にベッドに戻ってくる。


「ドミニクが用意してくれたわ。レイドラも用意してくれたけど、夜遅くなら、こっちが良いでしょうね」


 着替えってことか? バッグを開けると下着と一緒に騎士団の騎士の制服が入っていた。

 出来ればTシャツに短パンで良かったんだけどねぇ。

 俺の着替えを見ながら、カテリナさんが携帯でどこかに連絡をしているようだ。


「そう、分かったわ。客室にいるのね。5分ほどで向かえると伝えて頂戴」


 やはり、夜半過ぎに訪ねてくる人物は顔見知りらしい。リビングを使わないということはそれなりの地位を持った相手ということになりそうだ。


「リオ君にも関係がありそうよ。ドミニク達には伝えてあるし、向こうもエリーのことがあったから、あまり驚いてはいないようだったわ」


 カテリナさんの話しに、思わず首を捻ってしまった。

 あの会見では、俺には特に何も無かったはずだ。強いて言うなら指揮官の右腕1本なんだけどねぇ。


「待たせるのも、問題だわ。さて、出掛けましょう」


 俺の左腕に自分の右腕を絡ませて歩き出した。とりあえずは、このままで行くしかなさそうだな。

 先ほど通って来た部屋を通らずに、寝室から直接通路に出た。右手に向かって進んでいくと、小さなランプが灯っている扉があった。どうやらそこが目的地らしい。


 カテリナさんが小さく扉をノックすると、中からの返事も待たずに扉を開く。

 部屋に入ると同時に腕を放してくれたから、来客に変な考えを持たれずに済みそうだ。


「夜分に申し訳ない。使者に同行することが許されなかったのでな。あらましをマクシミリアンに聞いたのだが、ヒルダと会う前に少し話をしたかったのだ。リオ殿が一緒であれば好都合」


 確か、フェダーン様だったよな。ナルビク王国から輿入れしたお妃様であり、王国軍の指揮官の1人でもある。マクシミリアンさんの配下になるのだが、実際の指揮はフェダーン様が取っているとも言われている。


「隣は貴方の副官なのかしら?」

「ナルビクから一緒に来たものだ。十分に信頼を置けるぞ」

「なら結構。それで、貴方は賛成なの?」


 ん? 既にカテリナさんはフェダーン様の来訪目的が分かっているということなのか。


「賛成だ。そうなるとエルトニアも参戦することになりそうだ」

「スコーピオ戦は良い取引材料になるでしょうね」


 2人で笑いあっているけど、いったい何のことだ? 参戦ということは、俺達が去った後で交渉がこじれてしまったのだろうか?

 せっかく2組のお妃様が交渉したんだけどなぁ……。


「リオ殿。これがナルビク王国が提示した南の島だ。東西南北とも5kmに満たない島だが、誰も立ち入りを許さなかった島でもある」


 俺に見せてもしょうがないように思うんだけどね。横目でカテリナさんを見ると、俺の直ぐ横に顔を寄せて地図を眺めていた。


「そうね。これぐらいならリオ君の別荘に丁度良さそうだわ。この休火山も魅力的よ」


 そんなことを言ってるけど、実験で失敗したら噴火しそうだ。いや、そうじゃなくて、この島が俺の別荘ということが理解できないぞ。


「あのう……。どういうことでしょうか?」

「ウエリントン王国とナルビク王国間の停戦条約を読まなかったのか? ナルビク王国第2王女の輿入れと南方の島1つの譲渡と書かれているはずだ」


「それって、王都の王子への輿入れじゃないんですか? 島1つはその持参金では」

「ウエリントン国王陛下については、明確に島1つを別に贈ると書かれていた。となればリオ殿も理解できるはずだ。エミー様より王位継承権の上位である第2王女としている以上、ウエリントン国王陛下も頷くことになるだろう」


 肝心の2人の意見はどうなるんだろう。周りが良ければ全て良しとは限らないんじゃないか!


「先ほどエルトニアの参戦を匂わせていましたが?」

「うむ。ナルビク、ウエリントンの王家からそれぞれ王女を降嫁させることになれば、エルトニアを無視するわけにもいけまい? 妻が増えるのだ、男子たるもの喜ぶべきではないのか?」


 現状でも色々と苦労してるんだから、これ以上困らせないでほしい。

 ところで、断ったらどうなるんだろう?

 恐る恐るカテリナさんに顔を向けると、いきなり両手で顔を押さえられぐりぐりとゆすられた。


「頑張りなさい。皆美人なんだから」

「国王陛下も中々先を見ている。リオ殿を公爵としているからには、リオ殿の反対はないはずだからな」


 要するに逆らえないってことなのか?

 渋々貰った称号なんだけど、そんな使い道があるとは思わなかった。今更返上は出来そうもないし、困ったことになったものだ。


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