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130 カテリナさんの自宅


 書類にサインをして、互いの書類を交換して再びサインをする。

 最後に、両王国の文書とサインが同一であることを確認して、俺とポメラニアン騎士団の副団長がサインをする。

 ちょっと面倒ではあったが、これで一段落だ。

 既に15時を回っているが、十分夕食には間に合いそうだ。


「これで、一段落と考えてよろしいでしょうか?」

「ええ、ご苦労様でした。これからもよろしくお願いしますね」


 ヒルダ様が笑みを浮かべて礼を言ってくれたけど、後で何かありそうでちょっと不安になってしまう。


「さすが戦姫を駆る騎士ということでしょうね。本来であればナルビク王宮にお招きしないといけないのでしょうが、今回はここでお別れとなります。国王陛下に代りお礼を申し上げます。今回の騒動に御力を御貸頂きありがとうございました」

「こちらこそ、本来であればナルビク王宮に連絡しなければいませんでした。申し訳ございませんとお伝えください」


 俺の返事に、ナルビク王国のお妃様も、笑みを浮かべて頷いているんだよな。やはり裏でヒルダ様と何か企んでいるとしか思えない。

 とはいえ、これで一件落着となるんだろう。


 2人のお妃様が同じタイミングで席を立ち互いに深々と頭を下げる。

 慌てて、俺も立ち上がろうとするとカテリナさんが俺のベルトを引いて座れせてしまった。


「先ずは使者同士の挨拶よ。次にこちらに体を向けるから、その時に立ち上がれば良いわ」

 カテリナさんが作法を小声で教えてくれたので、同じように小声で礼を言った。

 2人のお妃様が俺達に体を向けたところで、隣の副団長を促しながら席を立つ。3者が軽く頭を下げたところで今回の会議は終了となった。

 部屋を去っていく2つの王国の使者を見送ったところで再び席につくと、ネコ族のお姉さんがコーヒーを運んできてくれた。


「まさかあのような厚遇を受けるとは思いませんでした」

「大事にはしたくなかったのでしょう。俺と海賊、それに巡洋艦の3つにすれば、ナルビク王国としても都合が良かったんだと思いますよ」

「でしょうね。仮にも隣国の公爵を拘禁したことは確かだし、巡洋艦の乗員もそれを知っている以上なかったことにはならないわ」


 ポメラニアン騎士団は海賊に襲われたことになるのか……。となれば、格段の対応をナルビク王国が施した理由が問題になりそうだな。


「ところで、ポメラニアン騎士団はギルドの保険に入っていたかしら?」

「小さな額ですが入っておりますよ」

「たぶん、補償額が何十倍にもなっているはずよ。騎士団員や他の連中にはそれで対応できたことにしなさい」


 保険ってこの世界にもあるんだ。

 だけど、保険は損害の一部を補填するためじゃなかったのか? 最も、掛け金が大口だったらそんな理由もできそうだけどね。


「カテリナさんはヒルダ様と一緒に帰らないんですか?」

「リオ君に乗せてってもらうつもりだから心配ないでしょう」


 アリスなら一瞬で帰れるから問題はないんだけど、例の機動兵器はどうなったんだろう?


 カテリナさんを連れてカーゴ区域に向かうと、騎士団の連中がアリスを見上げている。

 女性型の戦機と思っているようだが、武装をしていないことに少し驚いているようだ。


「ヴィオラ騎士団の活躍をお祈りします。ナルビク方面においでの際は、ぜひとも我らポメラニアン騎士団に一声おかけください。我ら一同で歓待いたします」

「ありがとう。ウエリントン王国の北部にはマンガン団塊がゴロゴロしている。中継点を使って採掘することも考えてみてくれ」


 互いに両手で握手をしたところで、カテリナさんと一緒にアリスのコクピットに収まった。

 長い1日だったけど、結果良しということで納得しておこう。

 早く、ホテルに帰ってひと眠りしたいところだ。

                ・

                ・

                ・

 ウエリントン王国の工廟に停泊しているカンザスのカーゴ区域へと、一瞬でアリスが転移する。

 戦機の整備をしていたベルッド爺さんに挨拶したところで、ホテルに帰ろうと無人のタクシーを拾おうとしたら、カテリナさんに止められた。


「ちょっと付き合ってくれない? ドリナムランドも面白いかもしれないけど、退屈はさせないわよ」


 笑みを浮かべてカテリナさんが話しかけてきたけど、その表情はネズミを前にしたネコそのものだ。

 思わず駆け出そうとした俺の腕をがっしりとカテリナさんが握っている。

 あきらめるしかなさそうだ。1日一緒にいれば開放してくれるかな?


 小さく頷いた俺を引きずるようにしてカテリナさんが工廟を後にする。目的地は俺と同じ無人タクシーの発着場らしい。

 乗り場近くにある腰ほどの高さのポールに付いたスイッチを押すと、すぐに1台がやってきた。


「サファイヤ地区のA00番へお願い」

 乗り込んだところで、カテリナさんが告げた番号はアレクが貴族街と呼んだ場所じゃなかったか?


「一応自宅を持ってるの。ドミニクがいたころはそれなりに賑やかだったんだけど、今は3人の侍女が住んでいるだけなのよね」

「もったいないですねぇ。中継点のラボをこちらに移しては?」

「2回ほど、家を吹き飛ばしているから周辺の反対に会いそうね。その点、中継点は大きいし対爆性も十分に持たせることができたわ」


 慰めにもなってないぞ。一度ライムさんに調査してもらおう。中継点の中で大爆発など起こした日には、全てがパーになりそうだ。

 ひょっとして、鋼鉄製の家なんだろうか? 貴族街に似合うとは思えないんだけどね。


 20分も掛からずに、無人タクシーが停車した。

 道幅も広く、通りには鉄柵や高い石塀で囲まれた貴族の邸宅が並んでいるのだが、カテリナさんが向かった場所は、芝生に数本の太い木が枝を伸ばしている場所だった。

 まるで公園だな。ブランコや滑り台が無いのが不思議に思えるほどだ。

 ポカンとして広場を見ている俺の腕を取って、カテリナさんが広場の奥に向かって歩いていく。


「あれが我が家なんだけど……」

 

 ログハウス風の小さな家があった。

 確か次女が3人いると聞いたけど、1時間も掛からずに掃除が終わるんじゃないか?

 どう見ても2部屋があるとは思えない。1辺が5mほどの正方形だからね。


「ほらほら、ゆっくりと機動兵器のお話をしましょう!」

「かなり古風な作りですけど……。1間だけなんですよね」

「この雰囲気が大事なのよ。周りが色々と凝っているでしょう? 付き合いはまるでないけど、変に思われたくないものね」


 林の中にたたずむログハウスは絵になるんだろうけど、周囲とは確実に浮いている。やはり近所付き合いをして、周囲にも合わせることが大事じゃないのかな?


 現実離れした光景に首を捻っていた俺を、カテリナさんが再び腕を絡ませて引いていく。

 とりあえず入ってみるしかなさそうだ。遅くにホテルに帰っても泊めてはくれるんじゃないかな。


 カテリナさんが扉に向かって腕をかざすと、扉が自動的に開いた。部屋の中には古びたランプが1つだけ。床は木の板だ。

 手製の木のテーブルぐらいはあるんじゃないかと思っていたけど、床に座るのかな?

 部屋の中央まで歩くと、カテリナさんが「オープン・セサミ!」と声を上げる。

 その声に反応したのだろう、床下から小さな機械音が聞こえてきた。

 

 床が沈んでる!

 思わずカテリナさんに顔を向けると、いたずらが成功したというような笑みを浮かべている。


「地下に住居を構えたんですか!」

「周囲の貴族連中の連名での嘆願なの。あまり好きなことをしてると、ヒルダに睨まれそうだしね」


 まあ、危険な実験なんかもしていたはずだから、地上構築物よりは周囲に住む連中も安心できるだろう。

 床が停止すると、目の前に広い通路が現れた。

 上を見ると、四角い明かりが見えるから、かなり潜ったんだろうな。


「ここでドミニク達も学生時代は過ごしてたんだけど、卒業したらすぐに出て行っちゃたのよね」


 危機管理がそれなりに出来ていたに違いない。

 ドミニクやレイドラの勘が良いのは、この家で育ったからじゃないかな?


「ここよ。我が家のリビングなの」

 鋼鉄製の扉の前に立ってカテリナさんが立ち止まった。

 今度も呪文で開くのかな? そう思って見つめてたら、扉のノブを回して中に入って行った。腕を取られたままだから、そのまま俺も部屋に入っていく。


 部屋の中は、カンザスのリビングよりも少し小さいぐらいに思える。

 数人がゆったり座れる木製のテーブルセットがあり、壁に近い奥には半円形のソファーがある。

 案外カンザスのリビングはこの部屋を模したのかもしれないな。

 そのままソファーに座ると、カテリナさんが飲み物と食事をどこかに頼んでいる。侍女さん達もここで暮らしているのだろう。


「ここまでは設計を進めたのよ。アリスとリオ君のイメージとは合うかしら?」

 

 小さなバッグから携帯端末を取り出して操作すると、目の前の壁一面に機動兵器の姿が現れた。

 ここでリラックスしながら思考実験を行うのかな?

 カテリナさんがタバコを取り出して火を点ける。目の前にあったガラスの器は、部屋のアクセントではなく灰皿だったのか!


 俺もタバコを取り出していると、部屋の扉が開きワインをネコ族のお姉さんが運んできた。

 俺の顔を見てニコリ笑みを浮かべると、カテリナさんに「お帰りなさい」と挨拶している。あの笑みは何だったんだろう?

 そんな俺の思いを知ってか知らずか、グラスに並々とワインを注ぎ、1つを俺に手渡してくれた。


「とりあえず、飲みましょう。食事は少し時間が掛かるかもしれないけど、たっぷり用意してもらうから」


 まるで水晶で作られたようなグラスを持って、カテリナさんとグラスを合わせる。一口飲んでみると、普段飲んでるワインより数段上の物らしい。

 口当たりも良く、甘みをかんじるんだよな。良いワインは甘いワインが俺の主義だから、これは称賛に値するワインだ。


「リオ君にアイデアを貰って組み合わせたんだけど、少し武装が貧弱じゃなくて?」

「40mm滑空砲に30mm機関砲、それに爆弾の懸架装置も付けたんでしょう? 一撃離脱に最適に思えますよ」


 ん? 急に真顔になって俺に顔を向けてきた。

 何か気になることがあるのかな?


「その場で戦うんじゃないの?」

「戦機でさえ移動しながらの攻撃ですよ。装甲は持ってますけど、戦機に比べれば脆弱です。獣機よりは格段上ですけどね」


「セラミックチタンとウラネル合金を傾斜結合させた装甲板なんだけど、やはり戦機には到達できないのよね」

「それでも、空の巨獣に対しては円盤機を凌ぎますよ。あまり見かけませんがアレクは用心するように言ってました」

「20mm機関砲でも倒せるんだけど、爪は強力なの。そうね、確かに空は安心できるわ」


 空の巨獣は翼竜そのものだ。牛を狙うらしく牧畜業の天敵となっているらしい。

 

「速度重視であれば、地上の巨獣の追跡もかわせるでしょう。近寄って一撃、直ぐに飛び去って、次の機体が攻撃に移るという戦法になろうかと」

「装弾を考えると貧弱に思えたんだけど、そんな運用なら十分でしょうね。爆弾は50kgと100kgを選択できるわよ。機内懸架だから目立たないでしょう?」


 見た目が大事なのは分かるけど、武骨でも良い時もあるんじゃないかな?


「両翼に追加できませんか?」

「外部懸架ってこと? ……う~ん、そうねぇ。左右に50kg爆弾を2個ずつかな?」


 思わずカテリナさんに顔を向けた。いったいどれぐらいの搭載能力があるんだろう?


『乗員2名で、標準装弾数は、40mm砲弾が5発、30mm機関砲弾が20発。爆弾の機内最大装荷重量は150kg級、翼下懸架装置に50kg級を左右に2発というところです』

「機内搭載の爆弾を減らせば翼の下に大物を吊れるかな?」

『翼が厚くて翼長が短いですから、200kg程度なら余裕でしょう』


 それならもう1つ、武器のバリエーションを増やせそうだ。

 この世界ではまだ見ぬ兵器なんだけど、ロケット弾なら炸薬量の大きなものを作れるんじゃないか?


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