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128 2人のお妃様


 ポメラニアンの騎士団長は病で長期入院しているらしい。

 指揮は長女であるグリーズさんが行っているそうだが、ドミニクとフレイヤを足して割ったような姿と性格をしている。

 使用している艦は、ダモス級輸送船を改造したものだ。100tバージを3台曳いて、マンガン団塊を採取していると話してくれた。


「それでは、全てシナリオが出来ていた罠だったと?」

「そういうことになるね。ポメラニアンの騎士団は今朝方壊滅する予定だったようだ」


 テーブルの反対側に着いた3人が目を見開いた。

 筆頭騎士と副団長なんだろう。どちらも男性だが、臨時の団長を盛り上げてたんだろうな。


「道理で、俺達よりも獣機を狙ってたわけだな。戦機は無傷でということかな?」

「とはいえ、仮にも相手は王国軍。こちらの言い分がすんなり聞き入れてくれるとは思えんな。場合によっては、損害賠償を言いつけられそうだ」

「一応、言葉質は取ってありますし、証拠の品も手に入れました。俺に任せてくれませんか? 少なくとも損害の補償ぐらいはできそうに思えるんです」


 グリーズさんが俺に目を向ける。どうするのかと考えてるんだろうな。


「ところで、タバコはダメでしょうか? ヘビーなもので、落ち着かないんです」

「ははは、あまり嗜むと癖になりますよ。ですが、ここなら問題ありません。私も嗜む方ですからね」


 副団長が席を立って、部屋の片隅のテーブルから灰皿を運んできた。直ぐに低い音が聞こえてきたから、部屋の換気量を増やしたんだろう。

 タバコに火を点けたところで、最初に出てきたワインの残りをあおる。


「現在も電波妨害が続いています。通信ができる状態ではありませんが?」

「もう少し、この状態を続けます。先ずはウエリントン王国の言い分を聞いてからになぇります」

「まさか、リオ殿が電波妨害をしていると?」

「そのまさかです。アリスを通しての通信は確保されてますよ」


 う~んと唸っている。

 あまりやりたくはないんだけど、この状況ではねぇ。ポメラニアンと同盟を組む騎士団が近づいて来るまでは続けた方が良さそうだ。


「先ほど証拠があると言ってましたが、言葉に記録は買い残が可能と聞いております。証拠としてどこまで使えるかは……」

「証拠は、巡洋艦艦長の腕です。切り取って保管してあるます。その映像を付けてこの艦に来る前にウエリントン王国のヒルダお妃様に送りました。判断が楽しみです」


 国王自らが、自分の指から引き抜いた指輪を奪ったんだからな。王国間の仲が悪ければ戦争に発展する可能性だってありそうだ。

 扉が小さく叩かれ、ネコ族のお姉さんが今度はコーヒーを運んできてくれた。

 何よりの御馳走だ。大きなカップにたっぷりと入ってるのも良いな。


『ヒルダ様より通信が入りました。メール文です。会議室に仮想スクリーンを開けるなら、開いていて頂けませんか? こちらでシステムの介入して文面を表示します』

『了解だ。確認してみる』


 コーヒーカップを置いて、グリーズさんに顔を向ける。


「どうやら、ウエリントン王国の王族から返信が届いたようです。この部屋に仮想スクリーンを開けますか? アリスがシステム介入を行うことで文面を表示してくれます」

「それって、犯罪になるんじゃありませんか?」

「黙ってやるなら犯罪でしょうね。ですから許可を求めてます」


「グレーと言うことになるんでしょね。ですが、私もその文面を読みたいと思っております。ここは、グリーズ嬢の判断で……」

「良いでしょう。許可します。リュード、仮想スクリーンを開いてください」


 筆頭騎士がバッグから小さな装置を取り出した。何やら操作をすると壁の横一面に仮想スクリーンが現れる。

 直ぐに画像が動き出し、手書きの文面が現れる。


「あえて自ら書いたということでしょうな。それだけ信用があります。これによると……。なんですと!」


 俺もびっくりした内容だ。

 ウエリントン王国軍、2個軍団がナルビク国境に向けて移動を始めたらしい。騎士団にも傭兵としての打診を始めたようだ。


「それほどのことなんですか! 私達は一介の騎士団、それも中の下に位置する者達ですよ」

「たぶん私共のためではなく、リオ殿の為に動いたということでしょうな。単なる騎士とも思えません。貴族? ということですかな」

「王族より妻を降嫁して頂きました。公爵の身分を得ていますが、これは建前です。俺個人としてはヴィオラ騎士団の騎士として動いているつもりなんですが」


 さっきよりも大きく目を見開いている。

 救助に単機駆けつけてくれたのが王族に繋がるものだと知ったからなんだろうけど、それはエリー出会って俺は平民根性が抜けない男だからねぇ。


「失礼をお許しください。なるほど、王族を軟禁したとなればウエリントン王国も動かざるをえないでしょうな」

「落としどころは、先ほどの内容でよろしいでしょうか? 失った命は戻りませんが、残された者の助けにはなるでしょう」

「十分です。でも、そんな交渉が出来るんでしょうか?」


 たぶん別途に動きがあるはずだ。

 アリスは電波妨害を続けながらも、2つの王国の動きを監視しているに違いない。


『やはり動きました。2つの王都より高速艇がこちらに向かってきます。この艦で2王国間の秘密会議が行われることになろうかと推測します』

「到着予定時刻は?」

『ナルビク王国からは2時間後、ウエリントン王国からは3時間後になろうかと。両艇とも、かなり速度を上げてますよ』


「王国軍の司令官と随行者ということでしょうな。第一会議室に準備をしておきましょう」

「20人を越えそうね。第2は使えないのかしら?」

「負傷者を動かさねばなりません。この艦の大きさと戦闘による破損を理由に人数を制限して頂きましょう」


 何とも迷惑な話だけど、2つの王国の代表者がやって来るなら都合が良い。早いところ帰らないと、皆に何を言われるか分からないからね。


 互いの騎士団の話をしながら時を過ごす。

 破損部位の修理は継続中らしいけど、目の前の3人が修理に役立つとは思えない。マンガン団塊の分布や、採取の苦労話は各騎士団とも色々とあるようだ。

 食事やコーヒーを頂きながら、退屈することなく過ごすことができた。


 最初にやってきたのは、ナルビク王国の高速艇だった。お妃様の1人と王国軍の総司令、それに副官を連れた10人連れらしい。ウエリントン王国の高速艇がやって来るまで艇内で待つとのことらしい。


「リオ殿を恐れているのでしょうか?」

「俺はいたって普通の男ですよ。たまたま思い通りに戦姫を動かせるだけです」


 それだけではないはずと、目が言ってるけど口に出さなければ問題はない。


「とはいえ、王族が一緒とは……。我等にとっては雲上人ですからね。やはり、リオ殿がここにおられることからなんでしょうな」


『ウエリントンの高速艇が間もなくやってきます。ヒルダ様にマクシミリアン様、カテリナ様も一緒ですよ』


 思わず、ウェ! と小さな声を漏らしたのは仕方のないことだろう。

 カテリナさんは、おもしろそうだということでやって来るのかな? だけどヒルダ様が直々とはねぇ。交渉はウエリントンが主導しそうだな。


ラウンドクルーザーを真ん中にして、両側にそれぞれの高速艇が並ぶ。直ぐに騎士団の騎士が案内に駆り出されていったけど、俺と同じような騎士だったら任務の重さに体が硬直してしまうんじゃないか?


「では私達もまいりましょう。会議の準備はできております」

「良かれと思ってやったことで、とんだ騒ぎになってしまいました。申し訳ありませんが、我慢してお付き合いください」


 俺の弁解に、副団長が笑みを浮かべてくれた。グリーズさんと筆頭騎士は顔を青白くさせて緊張に耐えているようだ。

 なるようにしかならないと思って、早く場に馴染んでほしいんだけどねぇ。


先ほどの会議室の2倍以上あるようだ。普段は娯楽室として使っているそうだが、全てきれいに片付けられ、テーブルは白い布で覆われている。誰かのシーツを剥がしてきたんじゃないだろうな。


「私達はこの席です。左右が王国からの使者の席になります」


 副団長の説明に小さく頷いた。

 机の配置は三角形になっている。使者の席は5人が前のテーブル、その後ろに並んだテーブルに5人となる。随行の連中は後ろで良いだろうからね。会議はなるべく少人数で行う方が纏まるらしい。


 最初にやってきたのはナルビクの使者たちだった。部屋に入るなり俺に笑みを浮かべたご婦人は、第二離宮であったことがある。

 席に着くなり、制服姿の老人が俺に目を向ける。値踏みをしている感じだな。さて交渉ではどう出てくるんだろう。

 次にヒルダ様達が入ってきたんだけど、カテリナさんの姿が見えない。

 案内してきた騎士がヒルダさんの椅子を引いている。俺より礼儀を知ってる感じだけど、それが終わると副団長の耳に何かを告げている。

 ちょっと驚いて聞いていたようだが、やがて安心したように顔に笑みが差す。


「カテリナ殿に負傷者の手当てをして頂けるとは思いませんでした。音に聞こえた名医ですからね。本来ならこちらから土下座をして頼まねばなりません」

「適材適所という感じですね。この場にいらぬ波紋を立てぬとも限りませんから」


 カテリナさんが名医かどうかは疑わしいところだ。案外噂が先行してるだけなんじゃないか?


「さて、関係者が揃ったようですね。ウエリントン国王陛下に、会議中であろうとも目通りを許すと言って手渡した指輪をナルビク王国軍の艦長が手に付けていた理由を教えて頂きたい。その理由によっては、不義をなす王国としてナルビク王国を滅ぼすとまで陛下は言っておりました」


 いきなりの啖呵だ! ケンカは最初の一言が大事だと爺様が言ってたことと同じなのかな?

 ヒルダ様の剣幕に、どうやらただ事ではないと王国軍の連中が目を見開いている。

 それに比べると、ナルビク王国のお妃様は涼しい顔をしている。やはりお妃様ともなると度胸が無いとできない職業なのかもしれないな。


「何かの間違い……、とナルビクは思っております。その証拠は当然見せて頂けるのでしょうね?」

 

 ヒルダさんが俺に目を向けてきた。これは見せるしかないのかな? あまりご婦人に見せるようなものではないと思うんだけど。


「拘束を破ってブリッジに行った時に艦長が身に着けていました。拘束前に対戦車ライフルの銃弾を受けましたのでその衝撃で意識を失いましたが、カテリナ博士謹製の今場とスーツで何とか無事だったようです。元は私の物ですし、他人に渡す品でもありませんから、私から奪ったものと推定します。ブリッジでの会話と戦況図は後程開示しますが、先ずは証拠の品ということで……」


 席を立って、ナルビク王国の総司令官の前に歩いていくと、亜空間から包を取り出して総司令官の前に置いた。


「ご確認ください。これが証拠になります」


 副官が恐る恐る包を開いた。

 ヒィ! と声が漏れたのは仕方のないことだろう。

 巡洋艦の艦長の右腕だからな。


「指輪が2つあるが?」


 会議室の扉が開いて、つかつかと総司令の前に足を運んだのは、カテリナさんだった。


「こちらがリオ君の騎士の指輪ね。こっちの大きな宝石はウエリントン国王が最近まで付けていたものだけど、なぜこの腕が着けてるのかしら?」

「本物だと?」

「本物よ。国王陛下のお気に入りを対戦車ライフルで狙撃したですって! ハン、火炙りでも生ぬるいわ。スコーピオの羽化が迫ってる状況下で、良くもやってくれたわねぇ」


 何で俺より怒ってるのだろう? まさかお気に入りのおもちゃを壊されそうになったと思ってるんじゃないだろうな?


「巡洋艦の乗員を全て引き渡しますか?」

「落としどころとしては軽いですわ。そんな王国軍を持っているというナルビク国王の罪はどのように判断するおつもりですの?」


 ナルビクのお妃様が大きく目を見開いた。

 同時に俺の隣にいたグリーズさんがバタリと椅子から倒れてしまう。ちょっと緊張しすぎたみたいだな。筆頭騎士にお願いして、私室に運んでもらうことにする。俺の左手にいる副団長はこの会議を楽しんでるみたいだから、一応名目は立つんじゃないかな。


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