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012 アレクの実家


「無人タクシーで向かうわ。連絡は入れてあるから、着く少し前にもう一度連絡しとけばだいじょうぶよ」

「迷惑じゃないのかな? すでに12時を過ぎてるよ」

 昼の12時なら問題はないだろう。だけど、今の時刻は日付が変わる12時、つまり0時なんだよね。

「だいじょうぶよ。農園の方は弟達が頑張ってるはずだから、お母さん達は深夜番組を遅くまで見てると思うわ」

 

 思わず、フレイヤに顔を向ける。

 深夜番組を遅くまで見ているのはよくある話だ。ドワーフの爺さんも遅くまで訳の分からない時代劇を見ていたものだ。

 だが、お母さん達というのが問題になる。お母さん以外誰かが一緒に住んでいるんだろうか? アレクからはそんな話は聞いてなかったぞ。

 頭に疑問符をふらふらさせながら、フレイヤを見失わないように後を追いかける。通りの人も増えて来たし、周囲の気温も上がったように思える。

 

 タクシー乗り場は大通りにある歩道の一角にあった。

 片側3車線もある通りなのだが、あまり自動車は通らないようだ。それだけ深夜だってことになるんだろう。

 タクシーをデフォルメした看板に付いているスイッチを押すと、直ぐに1台のタクシーが滑るように俺達の前に現れた。

 どこかで俺達を見張っていたような感じだな。スイッチを押して10秒も経っていない。


 後部ドアが開くと、フレイアが「荷物があるの!」と車内に声を掛ける。直ぐに後部のトランクがパカっと開いた。

 俺達の荷物を積込んだところで、後部座席に乗り込む。

「N52W64のヘイムダルにお願い」

 フレイヤの言葉を聞いて、無人タクシーはスイっと浮かぶ。滑空するように走るから相変わらず振動は皆無だ。


「距離があるから、2時間は掛かるかもね。連絡はしてあるから歓迎してくれるそうよ」

「俺が一緒で迷惑じゃないのかな?」

「だいじょうぶ。皆喜ぶわよ」


 俺達を乗せたタクシーは、陸港の歓楽街を過ぎるとトンネルに入る。合流や分岐があるんだが、他の車の間に上手く潜り込んで行くから、スピードがあまり変わらないのに驚くばかりだ。

 そんな殺風景なトンネルを1時間も進むと、突然に地上に出る。

 都市部を過ぎたようで、周囲の建物も10階建てに満たないビルだ。そんなビルも進むにつれて階高が減っていく。

 やがて、建物がまばらになると、今度は広い畑がどこまでも続いている。

 たまに農家の建物らしいログハウスのシルエットがモノトーンの景色の中に浮かんで見えた。


「後、20分は掛からない筈よ」

 懐かしそうな表情で景色を眺めていたフレイヤが呟いた。

 家の明かりがたまに暗闇に浮かぶ。月に照らされた大地を見ていると物悲しくなりそうだ。

 そんな感じに浸っていると、タクシーが突然速度を緩め道路端にゆっくりと停車した。

 表示器に現れた金額をフレイヤがトレイに投げ込むと、バッグを持ってタクシーを降りる。

 トランクから荷物を下ろして走り去るタクシーを眺めていたら、フレイヤに腕を掴まれた。

「あの家よ。ちょっと歩くけどね」


 俺の手を握ると、道路から続く広い石畳の道を歩き始めた。

 いつの間にか月が消えて星明りのだけが頼りだが、石畳の周囲は草が生い茂っているのだろう。白く浮き立った小道がずっと奥の明かりを灯した家まで続いているのが分る。


 10分ほど歩いたろうか? ログハウス風の建物の玄関は数段の階段が付いていた。

 明かりの灯る玄関に上がってチャイム鳴らす。


「何方ですか?」

「フレイヤよ。友人を連れて来たわ」

 フレイヤが答えると、玄関の扉が開いた。中から中学生位の男の子がフレイヤに飛びついてきた。

「お帰りなさい。みんな待ってるよ!」

「ただいま。……リオ、ここが私の家よ。さあ、入って頂戴」

 そんな感じでリビングに案内される。


 玄関の真正面に2階へ向かう階段がある。その右手がリビングのようだが、リビング兼ダイニングルームという感じだな。結構な広さがある。木造の大きなテーブルはちょっとしたパーティが出来そうだ。

 窓際にソファーを3つコの字型に並べたコーナーに1人の女性が立っている。笑顔で俺達を見ているのは、フレイヤのお姉さんなんだろうか?


「よくお出でくださいました。フレイヤの母のイゾルデです。こちらが妹のソフィー、それに弟のレイバンです。アレクからも連絡があったので何時来るかとずっと待ってましたのよ」

 唖然とした俺の表情に、笑みを浮かべて握手をしてきたフレイヤのお母さんは、まるでフレイヤのお姉さんに見える。

「リオといいます。荒地でヴィオラ騎士団に保護されてから、アレクさんとフレイヤさんにはずっとお世話になってます」

 挨拶はしたけれど、いまだに驚きが納まらない。高度に発展したバイオテクノロジーの恩恵で、寿命は200年、任意の年代に姿を変えられるとは聞いていたが、これ程とはね。


「さあ、座って。ソフィー、とりあえず冷たい物をお願い!」

 姉の言葉にソフィーが飲み物を用意してくれた。

「リオさんには、こっちの方が良いかも知れませんね」

 イゾルデさんがジュースではなく、氷の入ったグラスに近くの棚から酒のビンを持ってきて注いでくれた。

 自分の分も作ると互いにグラスを合わせる。

 グイっと飲んだが結構強いぞ。


「ランドシップを変えなくちゃならないわ。リオが戦鬼を見つけたんで、今のダモス級だと乗せられないみたいなの。一か月は掛かるみたいだから、ここで厄介になるわね。兄さんは、来ないと言ってた」

「アレクは仕方ないわ。貴方達は乗船までここでのんびりしていなさい。ところで、お腹はすいてないの?」

 俺達は思わず顔を見合わせた。そういえば昼から食べていなかった。

 そんな俺達を見て、イゾルデさんが簡単なサンドイッチを作ってくれた。

 

「ところで、リオさんの出身地は?」

「それが、よく思い出せないんです。荒地で長く彷徨っていたせいだろうと船医は言っていたのですが」

「荒地のど真ん中で戦機に乗っていたから、最初は皆が驚いてたわ。戦機を見捨てるような騎士団はいないし、乗ってた戦機もちょっと小さめなの」

「私も、昔は戦機を操っていました。確かに、戦機と騎士は貴重ですからね」


 どうやら、フレイヤの母親も騎士団の一員だったらしい。しかも騎士とはね。アレクが騎士なのは血筋なんだろうな。


「でも、どの騎士団にも属さない戦機と騎士を同時に得られたなら、騎士団長は喜んだ筈ね。しかも、その騎士が戦鬼を見つけたなら、ドミニクは嬉しかったでしょうね」

 そう言ってフレイヤに笑い掛けている。

「そうだ! ソフィーとレイバンにお土産があるのよ。こっちがソフィーで、これがレイバンね。お母さんにはこれにしたわ」

 

 フレイヤがバッグの中から取り出して渡したものは、ソフィーにはビキニの水着だし、レイバンにはハンティングナイフだった。お母さんにはドレスだけど、それってシースルーじゃないか! 母親へのお土産にはどうかと思うな。

 それでも、家族は喜んでいるところを見ると、俺の感性が普通の人達と上手くマッチしていないのだろうか? ヤード暮らしをしていた俺としては、ちょっと考えてしまうな。

「ありがとう! 今度のパーティに着ていけるわ」

 そんな恐ろしいことをイゾルデさんが言っていた。


 あまり長く起きていると、夜明けになりそうだ。グラスの酒を飲み終えたところで、ソフィーが部屋に案内してくれた。

 どうやら、アレクの部屋らしい。グラビアアイドルのポスターぐらい張ってありそうな気もしてたんだけど、期待外れなことに、壁に貼ってあったのは帆船のジグソーパズルだった。3000ピースはありそうだ。意外と集中力があるのかもしれない。

 それにしても、ベッドがクイーンサイズとはどんな寝相だったんだ?


 次の日は、朝早く目が覚めた。

 窓から外を眺めると、ずっと先まで続いた畑が朝露に輝いて緑の絨毯のように見える。

 栽培してるのは、たまにサラダに乗ってくる野菜のようだ。かなり大きな農園らしいから、他にも色々と作っているんだろう。


 昨日買い込んだ、グルカショーツにTシャツを着て、ホルスターの付いたベルトを腰に付ける。小さな革のバッグも付いているからウェストポーチ代わりにも使える優れものだ。

 サングラスを帽子の中に入れて手に持つと、首にタオルを巻いて部屋を出た。サンダルを履いたから、素足が気持ち良い。そのまま階段を降りると、フレイヤが教えてくれた通りに、裏口を出て水場で顔を洗う。

 

 水場というからどんなものかと思ってたけど、農耕機械の洗車をする場所らしい。水道の蛇口が3つにバケツが数個置いてある。

 冷たい水で顔を洗うと寝ぼけた頭が少しマシになって来た。タオルで顔を拭きながらリビングに向かう。


「おはようございます」

「あら? もうお目覚めなの。自分の家だと思ってのんびりして欲しかったんだけど……」

 キッチンから振り返ったイゾルデさんが、慣れた手つきでポットからコーヒーをマグカップに注ぐとテーブルに置いてくれた。

 俺と同じような短パンにTシャツだけど、体の線が出てるからちょっと目の毒だ。


「座って、待ってて頂戴。まだ、誰も起きないのよ。ホントに困ってしまうわ」

 コーヒーにたっぷりと砂糖を入れると、一口飲んでみる。

 中々良い豆を使ってる。インスタントじゃないから香りも良い。

 そんな事を考えてる俺の前に、同じようなマグカップと灰皿をもってイゾルデさんが座った。

 短パンのベルトに付けたポーチからタバコとライターを取り出し、タバコに火を点ける。


「ここでは遠慮はいらないわ。夫のレイトスも大のタバコ好きだったのよ。10年程前に巨獣にやられてしまったけどね」

「それでは、遠慮なく」

 バッグからタバコを取り出した。朝の一服は格別だからな。

「アレクは男の子だから行ったきりになりそうだけど、女の子はちゃんと家に戻ってくるわね。でも、男の子を連れて来たのは初めてよ」


 俺の顔をおもしろそうに覗き込んで話してくれたけど、ちょっと年上のお姉さんにしか見えないのが問題ではある。そこに、もう1人の女性が入ってきた。


「おはよう……。あら、お客様?」

「フレイヤが連れてきたの。リオと言う名の騎士よ」

 自分の家のようにマグカップにコーヒーを注ぐとイゾルデさんの隣に座って、俺に軽く頭を下げたので、同じように頭をちょこんと下げると、おもしろいものでも見たような表情で微笑んでいる。


「始めまして。シエラインよ。シエラと呼んで頂戴!」

 どんな関係なんだ? ひょっとして、イゾルデさんのお母さんって事じゃないだろうな?

 いくら、バイオテクノロジーが発達した世界でも、これは問題だぞ。2人ともどう見たって20代中ばにしか見えないからね。

 

「そういえば古い記憶が定かでないって言ってたわね。私とシエラは共にレイトスの妻なのよ。上の3人が私の子供で、レイバンはシエラが生んだ子なの」

 一夫多妻なのか?

 それはまた良い話を聞いた気がするけど、そうなると養うのも大変なんだろうな。

「レイトスさんが亡くなって苦労したんでしょうね?」


「騎士の収入3人分で農場を手に入れ、騎士団稼業から足を洗おうとした矢先の事だったわ」

「あの時はショックだったわね。私達の目の前で2機の戦機ナイトが大破したんだもの」

「ええ、どうにかランドシップは無事だったけど、獣機コングも8機が破壊されたわ」

「でもそれは過ぎた話。私達の騎士団は解散して、残った騎士達は他の騎士団に移ったの」

 

 テーブル越しに座った2人が、昔を思い出すように遠い目をしながら話をしている。

 まだ巨獣とやりあった事は無いが、かなりヤバイ相手だという事なんだろうな。

 

「貴方も、巨獣と遣り合おうなんて考えないでね。牽制しながら逃げなさい。50mmライフル砲なんて、数発同じところに当てても倒れないんだから」

 シエラさんの言葉にイゾルデさんも頷いている。

 結構ゴツイライフルだと思って見ていたんだけどな。だとしたら、獣機が腰に下げている短銃身の30mm砲は全く意味をなさないってことになるんじゃないか?


「まだ、巨獣自体を見たことが無いのでなんとも言えませんが、ご忠告は肝に刻んでおきます」

 俺の言葉に2人は満足したような顔で頷いている。

 一応心配してくれるんだな。

 

 そんな所に、フレイヤの兄弟が起きてきた。

 ハムエッグをパンに挟み、5人で簡単な朝食を頂いていると、ようやくフレイヤが起きて来る。

 俺の隣に座ると、イゾルデさんが用意してくれた朝食を早速口にしながら俺に話し掛けて来る。

 

「今日は、家の農園を案内してあげるわ」

 まるで、自分で農園を経営しているような口ぶりだ。 

「ああ、農園ってのは始めてみるからね。でも、外は暑くなりそうだぞ」

「だいじょうぶよ。帽子を被っていればね。日差しは強いけど湿度が少ないの」


 雨が少ないって事なんだろう。

 もっとも、この世界の科学力なら人工降雨ぐらいはあるんじゃないかな?



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