113 艦の分配
拠点に戻って数日が過ぎた。
かえって来て早々に、ガリナムはベラドンナを護衛艦として、マンガン団塊の採取に同行していった。
カンザスだけがポツンと俺達の専用桟橋に接岸しているのだが、その理由は暴走した軍の潜砂艦の被害補償として渡された巡洋艦とヴィオラⅡをどうするかについての話し合いをするためのようだ。
両艦ともに王都の工房で、改修と破損部の修理を継続中らしいのだが、そろそろ対応を考えなければならないらしい。
その上で、今回のドレスダンサーの騒ぎもある。
マクシミリアンさんからの口止め料は、戦機1体ずつだというから驚きだ。
あまり高価な品を渡されると後々が心配になるんだが、ドミニク達はいたって平然としている。
俺が心配性なだけなんだろうか?
「供与された巡洋艦は最新型よ。基本武装はヴィオラⅡと変わりないけど、舷側の30mm機関砲は2連装が左右共に2門に増加しているわ」
「走破性能はヴィオラⅡより1割程度向上していますが、鉱石探索用の探査機は逆に低下しています」
ドミニク達がカンザスのリビングで俺達に2艦の性能を比較してくれた。
これでヴィオラは陸上艦を3隻持つことになるのだが……、その運用にかかわる騎士団員を簡単に見つけられる物でもない。
「そこで、ヴィオラⅡと頂いた戦機をアデルに譲ろうと思うの。もちろんタダではないわよ。金貨1000枚……。半分は即日入金できるらしいけど、残りは20年掛けて支払ってもらうことで内諾を取ったんだけど……。どうかしら?」
銀貨1枚が100Dで、銀貨100枚が金貨1枚価値だ。ということは、1千万Dということになる。かつてのヴィオラ騎士団の1年間分の稼ぎになるんじゃないか?
それにしても金貨500枚をその場柄支払えるなんて、ベラドンナ騎士団は新たな陸上艦の購入資金を貯めていたってことだろう。
ヴィオラⅡは中古とは言えども、そんなに古い艦ではないし、既存の艦と比べれば格段に武装が向上している。
戦機が一緒だということは、ムサシの負い目を考えてるんだろうな。
だが、そうなると……。
「ガリナムには何も渡さないのか?」
アレクが問いただす。
たぶん想定していた問いなのだろう。ドミニクが笑みを浮かべた。ん? クリスも笑みを浮かべている。
ガリナム騎士団とも何らかの合意がなされたということか?
「ガリナム騎士団は解散して、私達ヴィオラ騎士団に編入することにしたの。新たなヴィオラⅢの艦長はクリスよ」
「アデルと違って歴史が無いのも幸いね。元々零細騎士団も良いところだから、編入して貰えるのは騎士団員にとってもありがたい話ではあるわね」
ガリナム騎士団は、王都で開催されている宝くじの当選金を元手に作ったらしい。当選金が金貨200枚とはねぇ……。元手はいくらだったんだろう?
そんなことなら、クリス達の入団はヴィオラ騎士団にとってもありがたいんじゃないかな?
何と言っても、現役の騎士団員を丸々手に入れることが出来るんだから。
「戦機の配置はこのままにするのか?」
「カリオンが移籍するわ。給与2割増しで納得したみたいね。カリオン一家の実情を考えると、良い条件じゃないかしら」
「となると、ベラスコを移動することになるな。戦鬼のパイロットに丁度良い」
「男女のパイロットが王都から移動してきます。男性パイロットはベラドンナに、女性パイロットはヴィオラ騎士団で活躍してくれるはずです」
カリオンが新人を育てることになるんだろうな。
立場的にはアレクと同じ筆頭岸になるんだろう。2機だけだけど、円盤機を搭載できるし、アデルは慎重派だ。バージターミナル周辺でマンガン団塊を探すなら、それほど危険はないだろう。
「アレクの体調はどうなのかしら?」
「俺か? 至って健康だぞ。カテリナ博士が最後の診断をしてくれたなら無罪放免という感じだな」
ドミニクの問いに答えたアレクだけど、いつの間にか車椅子を止めていたんだよね。近頃は遅れを取り戻そうと、訓練施設を使って戦鬼の訓練をしているようだ。
「なら、ヴィオラⅢをお願いするわ。ベラスコを3年で一人前にして頂戴」
「理由は……、そういうことか。俺達の後継はきちんと育てるよ」
戦機のパイロットは30歳を超えるものがいない。
アレクも数年で戦機を下りることになるんだろうが、その後の暮らしを考えているのだろうか? 酒ばっかり飲んでないで少しは貯金をしといた方が良いんじゃないのかなぁ?
「一応、そんな感じに艦を配置するけど、同盟の期間は後1年近くあるわ。それに同盟を解除しても、拠点の桟橋はヴィオラ騎士団専用桟橋を使うことを許可するつもりよ」
「拠点の立ち上げには色々手伝って貰ったからなあ。恩は報いなければ他の騎士団の笑い者だ。それぐらいは当然として、勘の点検ぐらいは無償にしたいところだ」
「俺からも1つよろしいですか? ベラドンナとの同盟を解除する必要もないように思えるんですが……。今までは、共同で動いてましたけど、次は離れて仕事をするだけに思えます。何かあれば互いに駆けつけるのであれば、それは同盟と呼ぶ関係に思えるんですが」
「そうね。それが同盟という関係じゃないかしら? たまたま今までは同盟の名のもとに共同で仕事をしていただけですものね」
カテリナさんが同意してくれた。
ドミニクは首を傾けてるし、アレクは笑みを浮かべてワインを飲んでいる。
「今すぐ拠点を出て行くわけではないから、少し3人で話し合ってみるわ。名ばかりの同盟ではないということね」
「それだけの見返りを渡しても、同じ拠点で暮らした仲間だからな。俺も、リオに賛成だ」
少なくとも、何らかの繋がりは維持できるということになるんだろう。
荒野で頼れるのは、そんな同盟関係の騎士団だけなのかもしれない。
「それで、フレイヤの愛機はどうなってるんだい?」
「フレームが完成した所よ。桟橋の下の整備工場で製作してるわ。偵察用より大型になるからカンザスの方も少し改造しなければいけないの」
話を聞くと、直径だけで8mにもなるらしい。
稼働時間を延ばす為の燃料と、大型の機材を積み込む事からそうなったらしいのだが、2人乗りでそんなに大きくなるのか?
嬉々としてカテリナさんが説明を始めたんだけど、どうやら円盤というよりも4つの角を持つ座布団のような機体になるようだ。
「無理は承知で色々と詰め込んだのよ。武装だって40mm滑腔砲を2つ積んでるし、爆弾は250kgを積めるの」
たぶん、積載重量の関係で大きくなったんだろう。それでも、巨獣に接近しないで長時間活動が出来るなら製作する価値は十分にある。
会議が終わると、皆が部屋を出て行った。
カンザスは桟橋に投錨しているけど、各々やるべきことがあるらしい。
さて、コーヒーをもう1杯頂いたところで、俺も拠点の様子を見に出掛けようかな。
「リオ君は、暇みたいね」
立ち上がろうとしたところに、後ろから声を掛けられた。
俺が一瞬身を固くしたのを見て、いたずらが成功した子供のような表情をしたカテリナさんが俺の隣の腰を下ろした。
「コーヒーより、これにしなさい」
カップが2つテーブルに並ぶ。ワインらしいけど、色が薄いな。ロゼとかいう奴かな?
カテリナさんとグラスを合わせて、先ずは一口。
まだ若いワインのようだ。酸味が強い。
「レイトンから話を聞いてきたわ。全くこの領地は退屈しないって言ってたわよ。それで、試験的に植物を栽培したいと言っていたから、資金を渡しておいたわ」
「後で、お支払います。おいくらですか?」
「気にしないで良いわ。例の薬のパテントが入ったの。リオ君で実証されたから、もう凄い人気よ」
例の薬って、あれか?
最初は真っ赤だったし、今飲んでいるのはピンクなんだよな。アリスは無害だと言ってたけど、あの1%に秘密があったのか!
「一応、半分はリオ君にあげるわ。口座に振り込んでおいたわよ」
「どうも、ありがとうございます」
礼は言ったけど、心からではないぞ。
他の人の為にもなったのだろうか? ちょっと気にはなるが、無害であると信じよう。
「でも、何を栽培すんるんでしょう?」
「一応、果物をリクエストしておいたわよ。でも、この地で作れるなら何でも良いと思うわ。私達が自立出来る第1歩ですもの」
いきなり扉が開いてドミニク達が戻ってきた。
あれから10分も経ってないんじゃないか? 誰かに仕事を押し付けてきたのかな。
「果樹園じゃと!」
「そうよ。拠点で育てようとしているみたいなの」
「そうなると……、柑橘系じゃろうか? メロンと言うのも良いのう……。トマトは果物だったか?」
トマトは果物だ。そしてメロンは野菜じゃなかったか?
ローザは自分の好きな果物を栽培して欲しいみたいだな。エミーもローザの言葉に笑みを浮かべたところを見ると、やはり拠点での生鮮食品のニーズは高いということになるんだろう。
そんな談笑の中、ドミニクが気になる話を始めた。
どうやら、忍び込んだテロリストを4人始末したらしい。
逮捕ではなく始末と言うところが問題だが、そんな考えではテロリストに対処出来ないらしい。目には目を……、が対テロリスト戦の実態と言う事だ。
「ガレオンさんの所に4人の手首を持ってきたらしいわ。手首を偽装する人はいないし、DNA鑑定で全て相手を特定出来たそうよ。すべて、かつてのサーペント騎士団と関係のあった連中みたい。1年このまま過ごして何も起きなければ帰るって言ってたわ」
やはり、裏の世界で戦っているんだな。
それにしても、この中継点に忍び込んでくるとはね……。
「でも、何でこんなに揃ってるんだ? まだ夕食には間があるはずだけど」
「兄様、例の放送じゃ。皆早く見たくてやって来たのじゃ」
それって、確か20時からじゃなかったか?
今はまだ16時だぞ。
いろいろと言ってるけど、それでも楽しみなんだろうな。
2つのスクリーンを展開して2手に分かれてゲームを始めたようだが、終る頃にはちょうど放送が始まるだろう。
カテリナさんとワインを楽しみながら、エミーとリンダそれにローザとフレイヤのスゴロクゲームを観戦する。
ドミニクとレイドラはチェスを始めたみたいだ。
こんな平和な時が、何時までも続くと良いんだけどねぇ。




