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011 上陸したら買物だ


 王都の外壁を目にしたのは、2日後の事だった。

 高さは30mを越えてるんじゃないか? そんな外壁の一部にさらに高い構造物が作られたいる。陸上艦はどうやらそこに向かって進んでいるらしい。


「あれが王都の第2ゲートになる。ゲートを越えれば王都になるんだが、王都は広大だからな。第2陸港に着くのは明日の昼になるんじゃないかな」


 ジッと窓を見ていた俺にアレクが教えてくれたけど、まだ10km以上先にも思える防壁の端が大地に溶け込んでいるように見える。

 東西200kmを越えると聞いたことがあるから、その大きさをあまり実感できないことも確かだ。

 朝食を終えて展望室に来た時には、周囲に緑が見えてきた。外壁の外側の農業には殆ど税金が掛からない。だが小型の肉食獣や腹を減らした草食獣がやって来ることがあるようだから、かなりリスクのある農業になるんだろう。

 たまに農家の人が乗ったバギーが見えるけど、アングルの上部に大型の機関銃が乗っていた。

 自衛手段が半端じゃない。命懸けの農業ということになるだろうか?

 アレクの実家はこの防壁内に農場を持っているらしいから、裕福な農家なのかもしれない。防壁の内と外では農業のやり方がかなり変わっているだろう。少なくとも危機管理の方法が異なることは確かだ。


 翌日、王都の外壁を潜る。

 高さもさることながら、奥行きもかなりのものだ。少なくとも10m以上はある。アレクの話では、この防壁ですら巨獣に破られることがあるそうだ。

 巨獣とはそれほど凄い存在なんだろうか? 


「この速度だからな。第2陸港に着くのは夜になりそうだ」

「それほど遠くになるんですか?」

「第2ゲートから150kmほどになるわ。この速度では10時間は掛かりそうよ」


 俺の疑問に答えてくれたのはサンドラだった。展望室の窓から周囲を眺めている俺をガラスを片手におもしろそうに眺めている。


 陸上艦2艦が余裕ですれ違えそうな大通りだが、不思議なことに車を見掛けない。何とももったいないように思えてきたが、アレクの話では陸港の出入りを考慮して通りが作られているらしい。周囲は一面の農場だ。1区画が1km四方はあるんじゃないかな。そこで作られているのは、果物や野菜が主だ。穀物は別な区域で作られているのかもしれない。


 昼食を終えて戻ってくると、窓の外に、たまに建造物が見える時がある。殆どが2階建てぐらいだが、どうやら農家の集合住宅らしい。

 さらに2時間ほど経つと、少しずつ建築物が多くなってきたのが分かる。5階建ての建物もちらほらと見えてきた。

 近くに見える大きな建物は、食品加工工場なんだろう。建物から出た大型トレーラーが、王都中心に向かって陸上艦を追い抜いていく。


 王都内の区画は、行政区、レジャー区、商業区域で3割、工業区域が2割、残りの5割が農業区域になっているとアレクが教えてくれた。

 大通りを南に向かうにつれてビルが高く伸びていくのが分かる。

 コーヒーをソファーで飲み終えた時には、陸上艦よりも高い建物が乱立していた。それでもたまに緑の林が見えるのは、計画的な緑地帯が整備されているのだろうな。


「ほらほら、窓に張り付いてないで座ってなさい。ビルから見てる人に笑われるわよ!」

 俺のお尻をペチン! と叩いて、振り返った俺を手を引いたのはフレイヤだった。

 引かれるままにソファーに腰を下ろすと、アレク達が笑っている。余程田舎者に見えたに違いない。


「まったく……。兄さんも少しは騎士の礼儀を教えてあげなさい! 酒の飲み方を教えるだけじゃダメなんだからね」

「オイオイ、俺はちゃんと指導してるぞ。それよりも家に着くのが深夜になるが、連絡はしてあるんだろうな?」

「ちゃんとしたわよ。若い騎士を連れて行くと言ったら、喜んでたけど……」

 思わず首を傾げてしまった。

 アレクをみると、微笑みながらグラスに酒を注いでいる。


「まあ、お袋達ならそうなるだろうな。リオも気楽に過ごして来い」

「よろしくお願いします」

「陸港に着いたら、ここに迎えに来るわ。陸港も初めてなんでしょうから、港の予定も知らないでしょうからね」

「まったく、その通り。それで、お母さん達の好きな物って何かある?」


 俺の言葉に、フレイヤがアレクに視線を移す。

 何か、変な事を言ったかな?

「お土産なら気にしなくてもいいぞ。ヤード暮らしで一般常識が無いのかもしれないが、土産を用意するのは近親者だけだからな」

「そうなんですか……。注意します」


 お土産がいらないというのもおかしな風習だな。郷に入っては郷に従えとは言うけれど、ヤードのしきたりですと言って渡してみるか。厄介になる俺の気持ちの問題だからね。


 皆で食堂に移動して夕食を取る。

 この陸上艦で最後の夕食何だが、メニューは1つしかなかった。食堂にもかなりの被害があったんだろう。

 それでも、焼肉にサラダとカップスープはこの艦の最後の晩餐だから、食堂のマスターも腕を奮ったに違いない。小さなグラスでワインまで出てきたぐらいだ。


 食事を終えると、一旦部屋に戻って退艦の準備をする。

 すでに荷物はトランクに入っているから通路に出すだけだ。つなぎの艦内服のままではちょっと問題だけど、陸港には24時間営業のお店が沢山あるらしいから、そこで私服を買えば良いだろう。小さなバッグも欲しいところだ。

 忘れ物が無いか、もう一度じっくりと部屋を眺めると、ベッドの上に包みが乗っている。手に取ってみると、どうやら制服みたいだな。

 マントまで付いてるのが凄いと思うけど、アレクが騎士の制服について話してくれたから、たぶんこれの事に違いない。

 滅多に着る機会は無いらしいが、礼装として騎士は持っているようだ。これはトランクに入れておけば良いだろう。

 装備ベルトの小さなバッグに財布とカードがあることを確認して、トランクを部屋の外に出しておく。

 短い間だったけど、結構良い住まいだった。2か月前のヤード暮らしが夢のように思えるな。


 展望室に来てみると、俺が最初のようだ。荷物が少ないからだろうな。

 窓際に寄って、タバコに火を点ける。通りの遥か彼方が明るくなっている。あれが第2陸港の明かりなんだろうか?

 周囲の建物はすでに見上げるような高さだ。通りに面した建物は展望室の窓越しでは最上部を見る事さえできない。

 かなり王都の中心部に近づいたんだろうな。


「早いな。……おいおい、その格好で艦を降りるのかい?」

 アレクの声に窓から、ソファーに振り返ると、私服に着替えたアレクとサンドラ達がいた。

 白いチノパンに黒のポロシャツ姿は、日に焼けたアレクに良く似合っている。靴は革靴なんだな。サンドラ達は、2人ともシースルーのワンピースにハイヒールだ。しっかりと下着が見えてるんだけど、派手な色合いはひょっとして水着なんだろうか?


「生憎とこれになります。陸港で買い込むつもりですが、お勧めがあれば教えてくれるとありがたいんですが……」

 俺の言葉に3人が呆れている。

 やはり、これではまずいのかな? となると早めに買い込まないといけなくなりそうだ。


「まあ、座れ。そうだなあ、農家だから、グルカショーツにTシャツというところだろう。少し幅広のベルトを購入しておくんだ。ホルスターに小さなバッグぐらいは常に下げておくんだぞ。足は……、テニスシューズで十分だ」

「テニスウエアでキメても良さそうね。3セットもあれば着替えも楽よ。3Dマネキンが着てるものをそのままチョイスする手もあるわ」


 フレイヤが一緒だから、彼女に見立てて貰っても良さそうだ。迷ったら、サンドラが教えてくれた方法にしよう。

 大きなバッグをごろごろと引きながらフレイアがやって来た。

 俺を見て大きな口を空いてるから、やはり問題なんだろう。

 たっぷりとフレイヤに小言を言われてしまったが、陸港で買い揃えることには同意してくれた。

 

「ほら、見えてきたわ。あれが第2陸港よ」

 フレイヤの言葉に窓をみると、左右が見通せないほどの建物が目の前に迫っていた。

 飛行機の格納庫よりも大きいんじゃないか! 四角い大きな開口部がこちらを向いて開いているが、その大きさはまるで検討が付かない。

 

 「ダモス級陸上艦なら10隻は入港できるでしょうね。この船、本当に変えるのかしら? そうなると、入港制限が掛かるかも知れないわ。タナトス級なら5隻だし、それより大型のグラナス級なら3隻がやっとよ」

 そんな事を呟いてるけど、ヴィオラはダモス級ってことになるのかな。

 戦機の数は掘り出した戦鬼やアリスを含めても6機だけだ。戦鬼がいなければ今のままでも良いんじゃないかな。

 さらに陸港に近づくと、開口部の奥に何隻かの陸上艦が入港しているのが見えてきた。

 見た感じはヴィオラと同型艦だから、やはりダモス級という事だろう。


『ヴィオラ騎士団に連絡。入港後、A-1003会議室に集合せよ。入港まで1時間……』

 艦内放送が始まった。

 停泊まで、要所要所で放送があるんだろう。

「リオは初めてなんだから、私に付いてくるのよ。きょろきょろしてたら笑われてしまうからね」

 陸港の大きさに圧倒されて、フレイヤの注意も頷くだけで精いっぱいだ。

 ヴィオラが陸港の開口部を過ぎると窓のスクリーンが閉じられる。少しずつ停止モードに移行していくのだろう。進行速度もかなり遅くなっている。殆ど動きが感じられないほどだ。


『機関停止。15分後に船内電源を外部電源に切り替えます』

 艦内放送が終わると同時に、部屋の明かりがちらついた。

 ヴィオレが桟橋に接岸したということなんだろう。

 

「さて、会議室に向かうわ。給与の分配があるんだけど、既定分だけよ。鉱石の売却で得た金額次第でボーナスが出るわ。それは次に乗り込む時に支払われるの」

 フレイヤが席を立つと、アレク達も立ち上がる。アレクの荷物はフレイアの半分ほどだ。引いているトランクの上にバッグが乗っているけど、あれがアレクの荷物で、トランクの中身はサンドラ達の荷物に違いない。


 俺もバッグを持って後に続いた。通路を歩いて行くと、ブリッジ近くの区画に扉が出来ていた。

 ここが本来の搭乗口なのだろうか?

 そういえば、この船の区画ってどんなのがあるのかまだ分かっていなかったんだよな。このまま去ることになるかも知れないと思うと、ちょっと残念な気持ちになる。

 エアロックのように2つの扉を通ると、そこにはボーディングブリッジのような通路が続いていた。まるで空港に来た感じがするぞ。


「この位置だと、結構高さがあるのよ。この通路は安全対策も兼ねてるの」

 窓で立止まって下を覗いている俺にフレイヤが教えてくれた。

 もっとも、下の方は暗くてよく分からなかったけどね。

 そんな俺達の傍を、ネコ族の女の子達がにゃあにゃあ言いながら歩いて行った。何時も賑やかだから、思わず笑みがこぼれる。


 通路を出ると、王都の役人が手荷物の検査を行なっている。

 バッグを大きな箱に通すだけだが、それで御禁制の麻薬が検知できるらしい。

 そんな役人の前に、フライヤに習ってバッグを渡す。


「騎士ですな。両腕を見せてください。……はい。結構です。荷物も問題ありません。ウエリントン王国は騎士の来訪を歓迎いたします」

「ありがとう!」

 バッグを受取りフレイヤの元に向かった。まるで、入国審査だ。

 騎士と言う身分でいられるから、意外とすんなり入れるとはフレイヤが言っていたけどやはり初めてだと緊張してしまう。


「A-1003はこの先よ。ヴィオラ騎士団御用達の集合場所思えば良いわ」

 俺の手を引いてドンドン先に進んでいく。

 どうにか、俺達はA-1003の扉の前に付いたが、何処にもドアノブが無いし、扉の前に立っても開く事は無かった。


「このブレスレットをかざすの」

 フレイヤがブレスレットを部屋名称の金属プレートにかざすと、扉が横にスライドして俺達を通してくれた。

 部屋の中にはたくさんの椅子が並んでいる。先客が結構いるみたいで俺達は遅い方なのかもしれない。

 その前にカウンターが設えてあり、そこで入場者を確認をしているようだ。


「ブレスレットをこの上に載せて欲しいにゃ!」

 ネコ族の娘さんに言われる通りにカウンターの上にある金属プレートにブレスレットをかざす。

「騎士、リオ・シュレーディンガー。確認しました。認識番号1091どうぞ、隣に……」

 隣にいる娘さんが、俺に名刺サイズ程の紙片を渡してくれた。

「給与の明細にゃ。ちゃんと教団のカードに入ってるにゃ」


 俺のカードは火の神殿が発行しているカードで、一応ゴールドカードになってる。渡された紙には認定記号が『ALICE』と書かれている。一か月半程度の乗船だから、あまり入っていないんだろうけど、振り込まれた金額は、5,000Dとあった。

 これに採取した鉱石の分け前がプラスされるらしいんだが、鉱石を売ってからになるようだから、どれ位貰えるのかがピンとこない。


「余り貰ってないわね」

「大丈夫だ。この間、騎士団長からボーナスを貰ってるからね」

「ああ、例の発見ね。なら、陸港のお店で色々と買い込んでもだいじょうぶね」

 小さな紙片を見ながらフレイヤがにこにこしてる。俺よりも多いんだろうな……。

 

 適当なテーブルに付いてしばらく待っていると、騎士団長が現れた。

 ブリッジ要員が小さなパンフレットを皆に配布している。


「それでは、次の航海は一月後の10月1日出航とします。9月30日の1500時までに、この会議室に来ないものは騎士団を退団したものとみなします。騎士団を去ったものは2度と同じ騎士団に戻れなくなりますから注意するように。……解散!」

 簡単な挨拶が終わると、皆が席を立ってぞろぞろと出口に向かう。俺の手元にはガイドブックのようなものが残った。

 バッグに詰め込んだところで、フレイヤに腕を引かれながら会議室を出た。

 

 ドンドン先に進むフレイヤを追うのが大変だ。

 通路が太くなるに連れて人も増えていく。見失ったら迷子になりそうだ。

 ついにフレイヤが通路の一角で立止まり、俺に顔を向ける。

 

「商店街は2つほど階下なの。エレベーターで行けば直ぐだわ」

 ちょっとした広場になった場所には左右にエレベーターが3基ずつ並んでいる。

 その1つに入り階を選択する。

 降りたところから始まるホールには着飾った連中がたくさんいるな。思わず眩暈がしてくる。

 思わず頭に腕を伸ばそうとしたところを、フレイヤにグイと腕を取られた。大型のスポーツ店に向かうんだったな。

 そのままフレイヤに手を引かれるようにして、大きな通りを歩き始めた。


 フレイヤが店名を確認しながら店に入ると、俺の意思を無視してカウンターの店員と話を始める。

 店員が案内してくれた3Dスキャン装置に乗ると俺の身体データが得られるから、後は俺の意見など無視してフレイヤが衣服を指定していく。

 別に俺には好みは無いけれど、少しは相談してくれても良いように思えるんだけどね。

 そんなことで、テニスウエアのようなシャツと短パン、それにソックスとシューズを手に入れる。

 大型のトランクを購入して、その中に俺の手荷物と一緒に詰め込んだ。


「服は上下で3式あれば十分だわ。Tシャツも3枚あるし、グルカショーツも2つあれば十分でしょう? 靴は1足だけど、サンダルも購入したわよ」

 そんな言葉を俺に告げて、次に向かったのはブティックのような場所だ。

 俺にはあまり関係なさそうな店だから、隣のお店に入って帽子とサングラスを購入した。さらに隣は酒屋さんだ。お土産用に、少し値段の高そうなブランディーを購入しておく。

 ブティックに戻ると、フレイヤの買い物が終わったみたいだ。店員さんが購入した品物を包んで紙のバッグに詰め込んでいる。

「あら、帽子を買ったの? 似合ってるわよ」

 俺に荷物を渡しながらフレイヤが褒めてくれた。

 ちょっと嬉しくなったけど、荷物がさらに増えてしまった。バッグには入らないから、トランクの持ち手に紙バッグの取っ手を通してトランクの上に乗せることにした。これなら落とすことも無いだろう。



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