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107 今度はドレスダンサーだって?


 プレートワームの群れは、バージターミナルより150kmほど北西に移動しているようだ。

 前は一体化した群れに見えたが、今はだいぶ広がっている。

 

 バージターミナルの2隻のラウンドクルーザーも、群れに向かって移動を始めている。

 緊急対応に目途が立ったのか、装甲甲板には各々数機の戦機が乗っている。

 リビングのスクリーンに映し出された、そんな情報をカテリナさんの解説で俺達は聞いていた。

 とりあえずは一段落って感じかな。

 

「プレートワームの総数は1,600匹と言うところね。群れが散開したから個体判別が出来るようになったわ」


 最初の攻撃で数百は倒しただろうから、総数は2千を超えていたのか!

 とは言え、まだまだ無視できない数字だ。次ぎも同じように攻撃するのか?


「カンザスの多目的円盤機とバージターミナルの偵察用円盤機が、現在群れを爆撃しているわ。6機で50kg炸裂弾が各々3個ずつ、あまり効果は期待できないわね。それでも、中心部を狙えば更に群れは拡散するわ。通常の騎士団でも対処が容易になるでしょう」


 直径1.5km程に広がっているし、プレートワーム自体があまり厚さを持っていない。爆弾が炸裂しても効果範囲は極めて狭いだろう。

 どうせ落とすなら、クラスター爆弾みたいなの良いんだけれど、ここでは使われていないみたいだ。


「このまま、前回と同じように攻撃すれば時間は掛かるけど、磨り潰せるわ。更に騎士団が数隻こちらに向かってるわ。たぶん、テンペル騎士団とタイラム騎士団との同盟騎士団でしょうね」


 騎士団の同盟はこんな自体に本領を発揮するんだな。

 騎士団が尊ぶものは『義』という概念らしい。ある意味正義の味方ってことになる。

 そんな考えがまるでない騎士団や騎士もいるけど、その信念を失った段階から滅びへの階段を転げ落ちることになるようだ。

 タバコを楽しみながら、騎士団について考えをめぐらせていると、頭にコツンと痛みが走る。


「リオ君、ダメよ! 先生が話しているときに、別の事を考えてては」

 いつの間にか短い指示棒を手に持っている。あれでコツンとやられたのか? それよりそんな棒を何処から持ってきたんだ?


「以上で、プレートワームの対応はドミニク達に任せられるわ。……問題はこれよ!」

 カテリナさんの言葉と共にスクリーンの画像が変わる。


 そこに映し出されたのは、……ウミウシなのか?

 大きさを対比させるものが何もないから良く分らないが、大きそうではある。2匹が、ゆっくりと渚を西からこちらに移動している。


「学者の間では『ドレスダンサー』と呼ばれているわ。生態は詳しく分かっていないけど、どうやらプレートワームの捕食者らしいわ。プレートワームはドレスダンサーから逃れる為に陸に上がったみたいだけど、ドレスダンサーもどうやら陸上を移動できるようね」


「何となく大きそうじゃが、大きいのか?」

 ローザの疑問は俺達共通らしい、全員がうんうんと頷いている。

「そうね、ヴィオラクラスかしら? 小さくてもガリナムよりは大きいわよ」

  

 カテリナさんの即答に、俺達全員が目を見開いて驚いた。

 フレイヤとリンダはコーヒーを喉に詰まらせて咳き込んでるぞ。


「倒せるんですか?」

 俺の言葉に、カテリナさんが俺を注目する。

「未だかつて、倒した騎士はいないわ。……でも、ウエリントン王立図書館の記録では、デイジーが退けたという古文書を見たことがあるわ」


 倒したのではなく、退けたのか……。

 だが、退かせるためにはそれなりの理由がある筈だ。

 それ以上の戦闘行為が不可能なまでに叩かれたか、それとも陸上での生存がそれ以上不可能だったのか……。


「何故、退いたかは書かれていませんでしたか?」

「書かれていなかったわ。だけど、戦闘は渚近くで行なわれた事は判明しているわ」


 となると、前者になるな。倒す事も可能だという事になる。

 

 もう一度、ドレスダンサーを良く見る。見れば見るほど、ウミウシに似ているな。

 だが、ウミウシは海から地上に出る事はない。

 基本構造がウミウシだとすれば、陸上への移動に必要なものは、皮膚と呼吸器の変化になるだろう。さらに、あの体形を維持するのであれば、内部組織は筋肉の塊になっているはずだ。骨なんかないんだからな。


「リオ君。出来る?」

 カテリナさんの言葉に俺は頷いた。

「デイジーとムサシを使って良いですね。それとフレイヤに円盤機を使わせます。エミーがカンザスでコントロールするには距離が離れすぎてます」

「母様に良い土産話が出来そうじゃ!」


 ローザが嬉しそうに微笑んでいる。

 エミーがそんな妹を優しく見ているのがそそられるな……って、まだ薬が効いているのか?

 

「円盤機は偵察用でも稼働時間は6時間よ。それでだいじょうぶかしら?」

「基本はヒットエンドランの繰り返しだ。最大2時間程の攻撃でカンザスに一旦引き上げれば問題ない。それで、あのひらひらドレスは俺達にどんな攻撃をするんですか?」


 最後はカテリナさんへの質問だ。

 嬉しそうな顔を俺に向ける。何か教室にいるみたいな感じだな。

 スクリーンに映し出された3Dの画像に、さっきの指示棒を向ける。


「攻撃手段はそれ程多くないわ。1つ目は、この口ね。強酸性の液体を出して相手を溶かしながら歯のない口から吸い取るの。分泌される強酸性の消化液は口の周囲3m程の範囲らしいわ。

 2つ目は、伸びた触角のような感覚器官よ。体長の三分の一程に伸ばす事が出来るわ。

 鉄をも切り裂き、装甲版を貫通させるとの記録もあったわ。

 3つ目は、この体と体重ね。体は通常の2倍に伸ばせるし、逆に半分にも出来るわ。そして体重は優に2千tを超えるのよ」


 大きさと体重すら武器になるという事か。

 だが、動きそのものはどちらかと言うと鈍い感じだな。後方からの攻撃ならそれ程脅威がないんじゃないか?

 ゆっくりとコーヒーを飲む。砂糖の甘さが体にしみるな。ライムさんは中々の腕だぞ。


「それでは、フレイヤとエミーを火器管制チームから一時的にリオに預けます。対応は全てリオに任せるわ。母さんと一緒に追い返すか、それとも討取って頂戴」


 そう言って、ドミニク達がリビングを出て行く。これからテンペル騎士団達との会議をするのかな。

 残り1,600匹はやはり脅威だからな。ガリナムが到着するのは明日になりそうだ。

               ・

               ・

               ・

「それで、具体的な作戦は持っているの?」

「未だですよ。でも、明日の朝に最初の攻撃を行おうと思っています。攻撃してその反応を見ながら、攻撃ポイントを修正すれば良いと思うんですが……」


 そんな事を告げた俺を見詰めるカテリナさんの表情は、小学校時代の先生とかぶるものがある。

 

「それで、ちょっと質問があるんですけど?」

「知ってる範囲なら教えるわよ」


「あのドレスダンサーですが、ずっと小さいのが南国の海辺にいるんじゃないですか?」

「ウミウシね。さすがはリオ君。良いところに気が付いたわね」

「ならば、当然のように類似した弱点があるんじゃないですか?」

 

 俺の言葉に、カテリナさんは微笑んで、ローザ達は驚いている。

 スクリーンの画像が切り替わり、よく見るウミウシの画像が現れた。


「これがウミウシよ。ドレスダンサーと良く似ているわ。レイトンによれば、ドレスダンサーはウミウシからの進化型だそうよ。リオ君の直感も中々のものだわ。でも、それが問題になるの。ウミウシなら中枢となる脳がこのように体線にそって左右に伸びているのよ。一撃で倒す事は困難だわ」


「刻む他に手は無さそうですね。後は、体液を漏らすのも方法だと思うんですが?」

「ドレスダンサーの皮膚は極めて弾力性が高いの。硬いんじゃなくて、衝撃を吸収するのよ。200mmの艦砲の直撃でさえ傷が付かないそうよ」


 なるほどね。

 だが、方法はありそうだ。

 攻撃の主体はレールガン。たぶん昔、デイジーがドレスダンサーを退けてのは、レールガンを使ったおかげだろう。今回はアリスとデイジーの2機掛かりだ。

 そして、とどめを刺すのはムサシと円盤機に任せよう。

 ムサシが皮膚に深い傷を着けて、そこに爆弾を投下すればいい。

 体表面は強靭でも、内部組織はそれ程でもない筈だ。そして体液を大量に放出するから、体組織が巨獣並みでも効果があるだろう。


「急いで作ってもらいたい物が2つあるんですが?」

「ソフトなら私が、ハードならベレッドが作れるわ」


 簡単に説明を始めた。作って貰うのは大型爆弾と遠隔起爆装置。そして円盤機への投下装置の設置だ。


「ムサシの抉った傷に爆弾を投下して内部で起爆させるのね。了解よ。明日には用意するわ」


 嬉しそうな表情でカテリナさんがリビングを出て行く。ベレッドじいさんと詳細な設計を始めるんだろうな。

 それは、2人に任せておけばだいじょうぶだろう。


「そうなると、我と兄様がドレスダンサーの前面で戦うことになるのじゃな」

「そうだ。しかも後方にはムサシがいるからレールガンの狙いは慎重に行なう必要がある」

「だいじょうぶじゃ。こんな感じで我は攻撃する。どんなに外れても後方に弾は飛ばぬ」


 俺のタバコの箱を使って攻撃方向を教えてくれた。

 頭の真横を狙うのか。

 となれば、俺は前から正確に狙っていけば良い。直径30mを超える巨体だ。外す方が難しいんじゃないか?


「私は出来る限り深くて広い傷を負わせれば良いんですね」

「そうなる。なるべく体の後ろの方でやってくれ。先程の話では触手がかなりの範囲で動き回るからね」


「私に上手く当てられるかな? 爆撃って難しいって聞いたわよ」

「それは、カテリナさんが知ってる筈だ。たぶん攻撃目標に合わせて円盤機を自動制御するシステムを構築する筈だ」


「我の代で、デイジーがドレスダンサーを倒したことになるのじゃな。母様も喜んでくれるじゃろう」


 そう呟いてローザがソファーから腰を上げた。そして俺達に手を振ってリビングを出て行く。

 ローザなりに気を利かせてくれたという事かな?


 2人の手を取って寝室へ向かおうとした時だ。

 リビングの扉が開いて、入って来たのはアレクじゃないか!


「お邪魔だったかな? どうにか動けるようになったぞ」

 動けると言っても車椅子なんだよな。サンドラが押している横で、シレインが心配そうにアレクを見ている。


 とりあえずソファーに案内したんだが、車椅子からはまだ離れることができないようだ。ソファーの隙間に車椅子を入れて両側にサンドラ達が腰を下ろした。


「まったく、兄さんの事で散々心配したんだからね!」

「それは済まなかった。母さん達にもよろしく伝えといてくれよ。ところでどんな状況なんだ?」


 簡単に状況を説明すると、おもしろそうに笑顔を俺に向ける。

「もう少し早く意識を戻すんだったな。だが、ヴィオラを使うならさらに日数が掛かりそうだ」


「ここにはカテリナ博士もいますから、直ぐに動けるようにはなるでしょうけど、まだヴィオラは艤装中のようです」

「主砲を全て交換して、なおかつ鉱物探査装置を搭載するんだ。簡単ではないが、今度は新型と聞いたぞ?」


「軍の恥を外部に出さないためでしょう。口封じにはそれぐらいは必要ですよ」

「それだけではないな。潜砂艦の対処方法を教えて貰った礼もあるんだろう。亡くなった団員には気の毒だったが、それなりに補償をはずんでくれたなら文句も出まい」


 とは言っても、亡くなった連中は帰って来ない。

 だが、それを行った者達にきちんと罪を償わせたから、怒りは収まったに違いない。やるせなさは残っているだろうけどね。


「まだ体が思うように動かんが、一ヵ月もあれば復帰できそうだ。それまでは、ここに遊びに来るからな」

「アレクなら歓迎しますよ。ところで、戦鬼をもう1機手に入れたのは知っていますか?」

「サンドラ達に聞いたぞ。ベラスコが使えば丁度いい。戦鬼を2機持つような騎士団にちょっかいを掛ける連中はそれほどいないに違いない」


 コーヒーを飲み終えたところでアレクは帰って行った。やはりまだ体が本調子ではないんだろうな。

 見送るフレイヤも心配そうな表情なんだが、その表情を兄貴に見せてあげたらいいんだけどね。

 アレクに前ではいつも尖っているように思えてならない。



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