表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/300

104 バージターミナルの工事が始まった


 前方を滑空するデイジーの進路が少しずつ北に変わっていく。

 アリスはデイジーの後方100m程の位置をキープしながら滑空モードで移動している。時速120kmを越えているから、ローザに速度を抑えるように通信を入れておく。


 アリスが片腕を伸ばし、空間から55mm砲を取り出して両手で持った。先を行くデイジーが発射した後で、デイジーを追い掛けながらばら撒くつもりだ。


「見えてきたのじゃ!」

「全弾発射して、55mm砲をアリスに渡してくれ。300m程の距離を取って北西に移動だ。なるべく速度を落としてくれよ」

「了解じゃ。鬼ごっこは得意じゃぞ」


 デイジーが一段と速度を上げると、チラノタイプに接近して連続射撃を始めた。

 デイジーの逃走方向にアリスを先回りさせて、逃げてくるデイジーから55mm砲を受取ると、アリスが亜空間にそれを格納した。


 少し散開した状態で追ってきたチラノタイプの鼻先に1発放ったところで、俺達もデイジーの後を追い掛ける。


『レジオンですね。足は速そうです』

 そんな事をアリスが教えてくれる。

 なるべく距離を一定に保つのがポイントだ。

 速度を落としそうになったら、奴等に1発お見舞いすればいい。


「だいぶ離れたぞ。まだ誘導を続けるのか?」

「ああ、後10kmは欲しいな。それに弾丸が2発残ってる」


 そう言った後で、1発を打ち込んだ。残り1発だ。

 15分後に最後の弾丸を撃つと、少し速度を落として様子を見る。

 追い掛けてきたところで、デイジーに全速力で北に向かう事を告げた。


 大きく北西に距離を稼いだところで、南西方向に進路を変えて、カンザスの位置を確認する。

 円盤機からの画像を取り込んで、北方向に脅威がなくなったことを確認すると、カンザスへと帰ることにした。

               ・

               ・

               ・

 リビングに戻ると、ライムさんがコーヒーを入れてくれた。

 着替えを済ませて、ソファーに座る頃には飲み頃になる。

 タバコに火を点けて、コーヒーを味わいながら端末を使ってブリッジのレイドラに報告を済ませた。


「簡単じゃったな」

「やはり、55mm砲は相手の気を引くには最適だね」

 俺の言葉に、ジュース片手に前方の荒野を見ていたローザが頷いた。


 いつの間にかゆっくりとカンザスは動き出したようだ。

 船列を整えるために速度はそれ程出ていない。


「それが、我等軍の正式な対巨獣兵器だとは情けなくなります」

「カテリナ博士の作った滑腔砲が量産される筈じゃ。少なくとも1個中隊が装備できればウエリントンは万全じゃ」

 俯いたリンダの呟きを聞いたローザが、励ましてる。


 まあ、将来はそうなるんだろうな。

 そうなれば、中型クラスには十分だろう。

 だが、あの海サソリには難しいところだ。105mm砲クラスの滑腔砲が欲しいところだ。

 とは言え、そのクラスなら巡洋艦の大型艦砲と威力はそれ程変わらないから、要求は微妙なところだろう。精々倍の88mmクラスが妥当なところかも知れない。

 ひょっとして、ガリナムの88mm砲の一部は、滑腔砲になってるのかも知れないぞ。


 荒野を進むカンザスの速度が先程より早くなっている。第2巡航速度で鉱石探索を始めたようだ。


「やっと、移動が始まったようじゃ。もうすぐ昼じゃが、フレイヤ達は起きて来ぬのう」

「2交替で、疲れてるんだと思うよ。起き出すのは夕方だろうね。カテリナさんが来たら昼食にしよう」


 カテリナさん達は右舷にラボを構えてるからな。表向きは新型獣機の開発なんだけど、ホントは違うんじゃないか?

 自分達の興味の世界で暮らしてるんだけど、結果を残してくれるから誰も文句は言わないんだよね。

 ベルッド爺さん達のダメコンチームが左舷にいるから、些細な事で仲違いをする事もない。

 表面上は互いに役割分担を明確にしているけど、結構互いの領分に文句をつけてるみたいだ。表だって争わなければ、ガス抜きにちょうど良いのかも知れないな。


 そんな事を考えていると、カテリナさんがリビングにやって来た。

 ライムさん達が食堂に連絡を入れて、昼食の準備に取り掛かっている。


「あら、まだ食べていなかったの?」

「カテリナ博士を待つように兄様が言ったのじゃ。これで、ようやく昼食じゃな。巨獣との鬼ごっこでお腹が空いたのじゃ」


 実際に動いたのはデイジーだと思うけどね。

 そんな事は口にも出さずに、テーブルへと足を向ける。


 昼食はラザニア風の料理に小さなワイングラスが付いている。ローザにはオレンジジュースだ。

 羨ましそうに俺達を見てるけど、まだ子供だからねえ……。

 食後は俺がコーヒーで他の3人は紅茶を飲んでいる。ソファーに深く腰掛けて一服しながらのコーヒーは格別だな。


「中々次の鉱石が見付からんのう」

「1度にバージ1台を満載できる量で無いと掘らない見たいね。尾根に近いから少しでも有効に採掘をするつもりのようだわ」


 船団を停めればそれだけ脅威の度合いが高まるからか。

 やはり、緯度が上がればそれだけ巨獣に遭遇するという事だな。


 ローザが飲み終えたカップをテーブルに置いた。

 それを見計らったかのようにカンザスが回頭を始める。


「どうやら、鉱石を見つけたようじゃな。数時間、何事も起こらねば良いのじゃが……」

「その時は、その時さ」


 そう言って、周囲の状況をスクリーンで見守る。

 今のところ異常は無さそうだな。

 カテリナさんがラボに引き上げ、ローザはお昼寝すると言って客室に戻っていった。リンダもローザに付き合うみたいだな。

 ソファーに残ったのは俺1人になってしまった。

 ライムさん達も、俺にマグカップのコーヒーを渡して、メイドルームに引き上げて行った。


 たまには1人でタバコを楽しむのも良さそうだ。

 ピンクのカプセルをコーヒーで流し込むと、タバコに火を点ける。


 鉱石採掘の航行をしている時の方がゆっくり出来るな。

 中継点に帰れば穴掘りが待っている。

 今頃は、現場監督が次の工事箇所を検討してるんだろう。

 だいぶトンネルが出来てきたから、次ぎは北の拡張用の先行トンネル辺りかも知れない。それとも、屋外のバージ用桟橋に併設する、鉱石の一時貯蔵庫辺りかな?

 

 俺達はそれなりに頑張っているが、テンペル騎士団の方はどうなってるんだろう?

 そんな事を思いついて、スクリーンの画像を中継点の遥か南に移動した。

 そこに映っていたのは大掛かりな桟橋工事だ。

 100m程の間隔を開けた長さ3km程の桟橋が3つ同時に作られている。

 海からは5km程離れた場所で、小さな崖になっているから海からの脅威は殆ど無いだろう。周辺には3つの駆逐艦クラスのラウンドクルーザーが警戒に当っていた。テンペル騎士団と同盟を結んだ小規模騎士団なのかも知れないな。

 

 獣機だけで50機はいるように見える。俺達の中継点よりも完成するのが早いんじゃないかな。

 あれが出来れば、中規模騎士団にも光明が見えてくる。あのバージターミナルを利用して周囲3千km程の範囲で鉱石採掘が可能になるだろう。

 

 それは俺達の中継点のメリットにもつながる。

 単なる荷卸ならば、わざわざ中継点に足を運ばずに済むわけだ。

 それに、北緯40度以南であれば、バージターミナルを利用した方が危険も少ない。

 ちょっとした商業施設が付属するのは時間の問題だろう。

 中型の巨獣が現れる事はめったにないだろうし、俺達に要請するなら、半日も掛からずに救援に向かえる。

 名前はテンペル騎士団だが、実質はテンペル騎士団と同盟を結んだ小規模騎士団で十分に対応が出来る筈だ。


 試験運用は一月ほど先になるだろうな。

 ダメ出しをしながら運用を開始するなら、半年先には本格的に運用が出来そうだ。

 中継点のバージ専用高速船の運行管理の再構築が必要になるだろう。

 ラズリー達も忙しくなりそうだぞ。


「あら、1人なの?」

 フレイヤがリビングを見渡しながら呟くと、俺の手を引いた。

 数時間の睡眠で起きたようだな。

 手を引いてくれるフレイヤを途中から抱き上げてジャグジーに向かう。

 ジャグジーの微細な泡が気持ち良いな。


 俺達が体を離すのを見計らったかのように、俺達の間に体を滑り込ませたのはドミニクだった。

「今度は、私の番かしら?」

 今度はドミニクを抱きしめる。


 俺達がジャグジーを出たのはそれから1時間以上過ぎていた。

 ドミニク達は一旦部屋に戻りメイクを直すようだな。

 俺は、ソファーに戻ると、タバコに火を点ける。

 カンザスはまだ動かない。結構な量が採掘されているんだろう。

               ・

               ・

               ・

 6日掛かってバージに鉱石を満載にして、中継点へと戻りつつある。

 ガリナムのバージにも満載だ。300tバージが8台だから、昔の採掘から比べると格段に採掘量が多い。

 それだけ騎士団の団員が増えているし、中継点や桟橋要員もいるんだから、稼がねばなるまい。

 中継点で、産業があれば良いのだが……。


「ようやく終ったのじゃ。明日には中継点じゃな」

「次の日から、穴掘りか……」


「でも、おもしろいですよ。目で見て作業の進捗が分りますから」

「姉様はそうじやろうが、飽きてきたのじゃ」


 ソファーでワインを飲みながらのんびりと時を過ごす。もちろんローザはブドウジュースだ。

 この世界の成人は18歳となっている。ローザはようやく15歳。中継点に来てから1つ大きくなったが、まだまだ成人には時間がある。


「それなら、リンダ達を連れてレイトンに付き合って欲しいわ。試掘調査をしたい箇所があるみたいなの」

「レイトン?」

 カテリナさんの言葉に、思わず聞き返してしまう。


「あら、前に話したでしょう。地質学の学者よ。私より年上だけど此処で果樹園を作って欲しいって話してあるわ。

 専用のラボを西の桟橋に構えているわ。先ずは領内の地質調査を先行したみたいなんだけど、おもしろそうな場所を見つけたと言ってたわ」

 

 そんな話があったけど……。

 果樹園はかなり難しいんじゃないかな?

 俺としては、居住区で地味な研究をしながら、子供達に勉強を教えてくれた方がありがたい話だ。

「果樹園は無理でも、ハウス栽培ならいけるんじゃないかな?」

 フレイヤの実家は農家だからな。それなりの目は持っているようだ。

 希望があるってことかな? カテリナさんの知り合いなのがちょっと気になるけどね。


「レイトンさんの移動はどうなるの?」

「自分で密閉式のバギーを運転できるからだいじょうぶよ。じゃあ、連絡を入れとくわね」


 俺も行きたかったぞ。だが、中継点全体を考えると、穴掘りは急務なんだよな。

 そんな話で夜は更けて行く。明日には中継点に戻れるから、今夜は大人しく皆で休もう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ