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010 王都に向かおう


 戦鬼を積んで2日目の事。艦内放送が王都第二陸港への帰還と長期休暇、それに戦鬼の発掘と新たな陸上艦への更新を団員に知らせていた。

 新たな情報は第二陸港というところだな。 


「第二陸港だって? そうだな……。一口にいえば5つの桟橋と付属施設、陸港に隣接した工廟ということになるんだが、俺達の船籍はウエリントン王国の第二陸港になる。

 ウエリントン王国のほとんどの騎士団が所属する港と考えればいい。第一陸港は軍用艦と王侯貴族専用だし、第三陸港は商会の運搬船専用だ」

 俺の質問にアレクが答えてくれたけど、いまいちピンとこないな。

「一番活気がある陸港よ。陸港よりいくつもの幹線が伸びているから、無人タクシーで王都のどこにでも行けるわ」

 サンドラが少し補足してくれた。そうすると一番安いホテルを陸港で探して貰えるかもしれない。金貨が6枚もあるんだから2カ月ぐらいは泊まれるだろう。

「それで、リオがどこにも行く当てが無ければ、俺の実家に行ってみるか?」

「アレクも帰るんじゃないんですか?」

「俺達は海辺でのんびり過ごすさ」


 そういってサンドラ達を抱き寄せる姿は、遊び人そのものじゃないか。でも、俺のことを心配してそんな話をしてくれるから嬉しくなる。

 同僚のよしみというやつなんだろうけど、かなり長い休みを過ごすことになりそうだ。だいじょうぶなんだろうか?


「案内はフレイヤがしてくれるはずだ。お袋達にも伝えておくから、のんびりと過ごしてこい」

「泊まるところが無いなら、ここに向かえとドミニクが住所を教えてくれたんですが」


 俺が取り出したカードを、アレクが手に取って眺めている。両隣からシレインとサンドラが覗き込んでるけど、あまりよく知らない場所なんだろう、首を捻っている。


「この住所って貴族街でしょう?」

「ドミニクは親父殿の跡を取って騎士団長だ。先の騎士団長が貴族という話は聞いていてないし、貴族がここまで騎士団を大きくすることなどできん話だ」

「でも、この住所なら間違いなく貴族街よ。住み込みで働く知り合いがいるとか……」

 サンドラの話で2人が納得してる。

「まぁ、あまり近づく場所で無いことは確かだ。やはり、俺の実家に向かえ。その方が何もなくのんびりできる」

 アレクがそう言ってカードを返してくれた。

 となるとアレクの実家に厄介になることは、すでに決定事項ということになるのかな?

 

 5日程過ぎた時だ。どうにかヴィオラ騎士団御用達のヤードを通り過ぎた。3日後には王都に着くだろうとアレクが教えてくれたんだが、俺達はいつもの展望室でのんびりと時を過ごしている。

 そんな俺達の所にフレイヤがやって来た。

 フレイヤは火器部門の指揮官ではあるのだが、兄貴であるアレクがここにいるからなんだろう。度々俺達の前に現れる。

 アレクは大柄な美男子だけど、フレイヤは兄貴にあまり似ていないな。アスリートのようなしなやかな肢体に淡いブラウンの髪を肩より少し下で綺麗に切りそろえている。

 とはいえ……。


「兄さん、今度こそ家に帰るのよ!」

「俺は忙しいんだ。お前が帰ればこっちの様子も説明できるだろう? それより、聞いてくれたか?」

 掴みかからん勢いでアレクを睨んでいたんだけど、顔の表情を和らげて俺の方に顔を向けた。

「リオは私が連れて行くわ。兄さんの部屋を借りるけど、変なメモリーなんて置いてないでしょうね!」

「そんなものは無いさ。俺は至って健全な生活をしてたんだぞ。……リオ、そういうことだ。のんびりしてこい」

 ふん! という感じでアレクから顔を背けると、俺に手を振って帰って行った。


「元気な妹さんですね」

「まぁ、元気ではあるな。お前と一緒なら、少しはおとなしいかも知れん。弟と妹がお袋達を手伝っているはずだ。フレイヤと一緒に手伝ってやってくれ」


 アレクの実家は農家と聞いたんだけど、何を栽培してるんだろう?

 ずっとヤード暮らしだったから、機械の解体は得意なんだけど、組み立てはからっきりだ。まして農作物の世話なんて無理だと思うけどね。まぁ、水撒きぐらいはできるかもしれないけど。

「私達も1度行ってみたけど、大きな農場よ。ゆっくり暮らして楽しんできなさいな」

 サンドラの言葉にシレインも頷いている。アレクの実家は騎士達にはおなじみの場所なのかもしれないな。

 とはいえ、厄介になるとなれば手土産も必要だろう。

 王都に行くんだから、酒とお菓子を買い込んでいけば良いかな?


 夕食後に部屋に戻ってみると、トランクが1つ置いてある。

 俺の名前が何か所かに入っているのは、この陸上船を降りる際に荷物を入れておけ、ということなんだろう。

 元々たいした荷物があるわけではないが、コンバットスーツとわずかばかりの私物を入れておく。

 ここまで来ればアリスを使うことも無いだろうし、この黒いツナギでも問題は無いだろう。王都の中もこれで十分だ。

 騎士団に所属した騎士であれば、都市の中でも拳銃の携帯は許されているとアレクが教えてくれたから、このまま下りれば良いんじゃないかな?

 荷物をトランクに入れて、部屋の真ん中に置いておく。トランクに張られたメモを読むと、生活部が責任を持って保管して次の陸上艦に運んでくれるらしい。


 携帯端末が受信を知らせてくれた。ベルトのポーチから取り出して話を始める。

「3日後には第二陸港に着くけど、アリスを隠せると言ってたわね? つまらない騒ぎは起こしたくないから、隠してほしいんだけど」

 小さな仮想スクリーンに映し出された画像はドミニクだった。相互通話スイッチを入れると直ぐに用件を切り出してくる。

「了解しました。原理は分かりませんが、この陸上艦から一時的に姿を消せるようです」

 俺の言葉に、暗視多様な表情を浮かべて通信を切る。


 さて、カーゴ区域に出掛けてみるか……。

 カーゴ区画に歩いていくと、ベルッド爺さんに先ずは挨拶だ。


「リオじゃないか。まぁ、1杯飲んでいけ。それで?」

「アリスを隠匿します。団長も、あまり騒ぎは起こしたくないと……」

「あれが、戦姫と分かればそうなるじゃろうな。で、できるのか?」

「アリスの自律電脳を使います」


 実際はアリスの頼むことになるんだろうけど、そこまでアリスができることをあまり知られない方が良いだろう。隠匿するための特別なプログラムを起動させると思い込んでくれれば十分だ。

 通常なら5人ずつの班が3つあるから、ハンガー区域は彼らの作業でがやがやしているのだが、今日は誰もいない。保全部として陸上艦の走行装置の補修に忙しいのだろう。そんな補修を駆動状態で行うんだから、器用なドワーフ族の中でもヴィオラの団員は腕の立つ連中揃いなんだろう。


 俺と一緒にアリスの駐機ラックまで歩いてきたベルッド爺さんだったが、近くに来たところでカーゴ区域の端から搭乗用のタラップを運んできてくれた。


「まったく困った事態だが、新たな陸上艦に乗れそうだから文句は言うまい。ほれ、直ぐに始めるといい。他のドワーフ連中が戻ってこないうちにな」

「済みません、直ぐに終わらせますから」

 タラップを登ると、アリスのコクピットを開放する。

 シートに体を預けると直ぐにポットが閉じて全周スクリーンにカーゴ区域が映し出された。


「アリス、前に姿を隠せると言ってたな?」

『この陸上艦を更新するなら、一時的に姿を隠した方がいいでしょうね。一時的に亜空間に退避します。マスターが外に出てから適当に合図を送ってください』

「了解した。それじゃあ、ポットを開いてくれ」


 ポットから出て、タラップを降りると、ベルッド爺さんがジッとアリスを見上げていた。

「この歳で稼働する戦姫を見られるとは思わなかったわい。それで、プログラムは終わったのか?」

「一応ですが……」

 アリスに向かって片手を上げると、空間に溶け込むようにアリスの姿が消えてしまった。

 ポカンとした表情で見ていたベルッド爺さんが、慌ててラックに走り寄り、その場に何もないことを確認している。


「まったく驚かされるわい。空間に溶けたように見えたが、次元の隙間に潜ったようじゃな。ワシ等にもその存在は数学の上では理解できるんじゃが、実際となると……、驚いてしまうのう」

「新たな陸上艦で再び出すことにします。このことは……」

「分かっとる。だが、誰も信じないじゃろうな」

 いまだに、アリスのいたラックを眺めているベルッド爺さんを後にして、何時もの展望室に向かって歩き出した。


「リオか。まだ見えないが、明日には見られるだろう。本当に王都に入ったことが無かったのか?」

 アレクの言葉はちょっと信じられないようなニュアンスが込められていたけど、本当のことなんだよな。


 ドワーフの爺さんと物心ついた頃からヤード暮らしだったからね。友人と言えばドワーフの若者ぐらいだったけど、どう考えても年台差があり過ぎる。ドワーフは長命種族だから、若者と言っても50歳は過ぎていたはずだ。

 それでも、通信教育で分からない問題は教えてくれたし、陸上艦の整備だって教えてくれた。

 通信教育が終了してヤードで働けたのも彼らのおかげに違いない。


「ずっと、ヤード暮らしでしたからね。憧れてましたけど、王都に言って働くよりもこのヤードで暮らせと仲間達からもずっと言われ続けてたんです」

「本当の田舎暮らしなのね。それなら仲間に従って正解だったと思うわ。でも、どうしたら戦機と一緒にあんな所にいたのかしら?」

「耳鳴りの方向にバギーを進めて行ったらあの機体を見つけたんです。動かせたのは偶然でした」

 サンドラがグラスを手に尋ねた言葉は、ここにいる戦機仲間の共通の疑問に違いない。一応、本当の事を話しておこう。全てではないけれどね。


「第六勘というやつか? それで戦機を見つけたなら、色々と期待ができそうだな」

「今では耳鳴りも消えましたから、もう探すことはできないようです。ですが、役目はきちんとこなしますよ」

 俺の言葉に皆が笑い出した。シレインが改めて俺のカップに酒を注ぎ足してくれる。

「何といっても戦鬼だからな。戦鬼を持つ騎士団は少ない。あの十二騎士団でさえ持たない騎士団もいるぐらいだ」

「そうねぇ。でも、そうなると戦鬼にはアレクが乗るんでしょう? アレクの戦機には誰が乗るのかしら?」

 アレクに答えたサンドラの疑問は俺の疑問でもある。1機余るんだよな。


「それはドミニク達の仕事だが、かつての仲間達の子供を探してくるかも知れんな。それでなければ、親父殿の付き合いのあった騎士団の子供になるだろう。戦機の数よりも騎士の数は多いが、それなりの身元調査を行うとなれば、騎士の資格を持っていても騎士に成れるものはかぎられるだろうな」

 騎士団というのはかなり閉鎖的な社会らしい。良くも俺を拾ってくれたものだ。

 だが、新たな騎士となればアレク達よりは俺に年代が近いんじゃないか? 良い友達になれるかもしれないな。


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