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第8話  ユータうなだれる

 冒険者ギルドを出ると外はもう暗くなっていた。

 しかし冒険者ギルドのある通りは大通りで街灯が設置されていたためそこまで暗くはない。


「街灯があるのか?」

 もしそうなら、それだけでこの都市の経済力がわかるというものだ。

 油だろうが魔法だろうが消耗品、それを多数並べても経費を上回る経済効果が有るのだろう。

 道を歩く人も別に少なくはない。治安も悪くは無いようだ。衛兵の見回りも多く、夜だからと言ってあまり危険を感じないのはありがたい。

 

「なんか良いなぁ」

 日本とは全然違う夜の街並み、異世界に来て感じる異国感。

 ――オラ、ワクワクすっぞ!


 ふと、足を止め路地を見てみる。街灯の光が届かない世界がそこにはあった。

 ……怖い。

 あまり路地に近づかない方がよさそうだな……

 足早にその場所を立ち去る。


 

「ここか?」

 看板には猫の尻尾亭と書いてある。まず間違いないだろう。

 さて、ネコミミとご対面だ。 


「「いらっしゃいませ~」」

 宿に入ると双子の10歳くらいのネコミミ少女が出迎えてくれた。宿の一階は食事スペースになっているようで二人は給仕をしているのだろう、木製のトレーを持っている。

 赤毛で実に可愛らしい双子だ。獣人はケモミミや尻尾がある以外ほとんど人間と変わらない。

 ――ああ、可愛いなぁ! 


「お食事ですか? ご宿泊ですか?」

「泊まりで」

「では受付までご案内します!」

 受付まで一人の少女が案内してくれる。と言ってもそこまで距離が有る訳ではないが。

 受付ももちろんネコミミだ。この子達の母親だろうか。

 

「泊まりたいのですが、空いてますか?」

「いらっしゃいませ、空いております。1泊銀貨3枚になります」

「このチケットは使えますか」

 サーシャさんにもらったチケットを見せる。


「はい、使えますよ」

 良かった、使えるようだ。これで10日間はただで泊まれるぞ。


「では一泊お願いします」

 そういってチケットを1枚渡す。


「かしこまりました、お客様は203号室となります、ミミ! 案内してちょうだい」

「はーい、お客様! ご案内します!」

 双子の内一人の名前はミミというらしい。

「よろしくね」

 ――子供って良いなぁ。姪っ子を思い出す。

 元気にしているだろうか。

 

「お客さん? どうかしましたか」

「いや、なんでもないよ」

 少し呆けてしまったようだ。


「ここがお客さんの部屋です!」

「ありがとう」

「ごゆっくりどうぞ」


 部屋にはベッドと机があるだけだが、手入れが行き届いているのだろう。

不衛生な感じはしなかった。

……うん、うちにあった布団より綺麗かもしれない。半年干してなかったし。


 ベッドに座り一息つき、迷宮探索に必要なものを考えていく。


「水筒は必要だろうし、どれくらい探索するのかわからないし食料も買っておこう。あとは武器と獲物を入れる袋も欲しいな」

……そうなると問題は金だ。手持ちは銀貨9枚、とても足りるとは思えない。


「まあいいや、優先度が高いものから集めていけば良いだろう」

 幸い宿代はかからない。武器はともかく、他の物は買えるだろう。


「でも荷物を運ぶのはめんどくさいなぁ」

 アイテムボックスさえあればと思う。

 アイテムボックス?


「あ、空間魔法の存在忘れてた」

 しっかりしろよ俺。何のために賢者を選んだと思ってる。

 とりあえず使ってみるか。

 意識を自分の中に向ける。そうすれば使える魔法がわかり、魔法名を唱えると魔法が発動する。

 空間魔法はlevel:1なので魔法は一つしかない。

 

「オサイフ?」

 ……なんだか嫌な予感がする。

 ポン、と目の前にがま口のオサイフがあらわれた。

 恐る恐る中を覗くと、中には大銀貨が10枚入っている。



 俺はうなだれた。



「はぁー、なんてこった」

 今までの苦労は何だったんだ?

 これに気付いてさえいれば、走りまわる必要も、借金をすることもなかった。

 

「女神様、ポンコツ女神なんて思ってごめんなさい」

 とりあえず、見ているかも知れない女神様に謝罪しておこう。

 だけどこれはありがたい。

 これだけあれば必要なものも揃うだろうし、なにより金が無い焦燥感がなくなるのは正直助かる。

 衣食足りて礼節を知る。人には余裕が必要だ。

 

 ある程度の金が手に入り、一安心する。そうするとドッと疲れが押し寄せてきた。

 ……眠い。

「少しだけ、少しだけ横に……」

 俺はベッドに寝転んだ。



 複数の鐘が鳴る音で目が覚める。

 いつの間にか寝てしまっていたようだ。

「ここどこだ?」

 ああ、異世界だっけ。

 夢であって欲しかった、いや、夢じゃなくて良かった。

 そう思う自分に苦笑する。


「てか腹減った」

 結局晩飯食えてないし。とりあえず朝飯食いに行くか。


 一階に降りると既に何人も起きていて、食堂スペースで朝食をとっていた。


「おはようございます! お客さん!」

 元気よく挨拶してきたのはミミだった。ピコピコ動く耳がとても可愛らしい。


「おはよう、朝食をお願いできるかな」

「わかりました! お好きな席でお待ちください」

「よろしく」


食堂に座り食事を待つ。運ばれてきたのは、パンをいくつか入れた小さなかごと、チーズ、ハム、サラダ、ゆで卵、バターの乗った皿にコーヒーのような飲み物だった。

「ありがとう、そういえばさっきの鐘の音はなに?」

「朝5つの鐘ですよ、これから一刻ごとに日暮れまで鳴ります」

「なるほど、ありがとう」

 なるほど、鐘の音が時計の代わりになっているのか。


 ミミにお礼を言い食事に取り掛かる。パンにバターを塗り、チーズやハムを載せてかぶりつく。

「旨い!」

 つい声が出てしまう。

 異世界の食事にはあまり期待していなかったが、パンは焼き立てだしバターも新鮮。

 この世界の食は存外悪くないようだ。


 ……一瞬で食べ終えてしまった。そこそこ量も有ったので十分に満足できた。

 食後のコーヒーをすすりつつ、これからの事を考える。


「明日必要な物買い出しか。面倒だな」

 ……このまま、二度寝ができたら幸せなのになぁ!

 いかんいかん、ちょっと金が手に入ったせいで思考が駄目な方に入りかけてるぞ!

 とりあえず宿から出るか。


「ごちそうさま」

「またどうぞ~」


 とりあえず町を散策するかな。店もついでに探せばいいや。

 こうして俺は朝のケルンを散策し始めた。


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