第5話 ユータ、ウサギを狩る
「ここらでいいかな」
俺はこの世界で最初に転移した場所に戻ってきていた。
最初は林かと思っていたが、少し離れた場所から見るとかなり広いことが分かった。どちらかと言えば森と言ったほうが正しいだろう。
ここなら何か売れそうなものが有るに違いない。とりあえずは町に入る金を稼がないと野宿が決定してしまう。
なんとしても金を稼がないと。
ウサギなら1匹銀貨一枚、余裕を持って3匹は狩りたい。
「とりあえず魔法が使えるか練習してみるか」
……そもそも魔法ってどうやって使えばいいのだろう? とりあえず、手を前に出して適当に魔法を唱えてみよう。
「ファイヤーボール!」
何も起こらない。呪文が違うのか?
「メ〇! メ〇ミ! メ〇ゾーマ!」
何も起こらない。うん知ってた。
「周りに人は居ないよな?」
少し心配になり、まわりを見渡すが誰もいない。こんなところを誰かに見られたら1週間は引きこもると思う。
「てか、全然使い方がわからん」
どうすんのこれ? 賢者が魔法使えないとか、アイデンティティ喪失してないですか?
「そういえば前に読んだラノベでは魔法を使うにはイメージすることが大事とか書いてあったっけ?」
まあ、ダメもとでやってみるか。
「炎よ! 球となり我が敵を穿て! ファイヤーボール!」
何も起こらない。
フ〇ック! 返せ! 俺の尊厳とか色々、さっき失った大事なものを返せ!
マジでどうすんの? 転生初日から詰んでませんかね?
「魔法魔法まほ……ん?」
あれ、なんか使い方が分かったかもしれない。今までは手の先から魔法を出すイメージでやってたけど、そうじゃ無く、自分の内側、記憶の糸を手繰るような感覚でイメージしてみると頭の中に色々と魔法が浮かんできた。
とりあえず、ファイヤーボールを選択、ボタンを押す感じでポチっとな。
「ファイヤーボール!」
ボヒュン!
うわ! 手からなんか出た。こうやって使うのか、なるほど。
よしよし、使い方もわかったし練習しよう。
あれ、なんか焦げ臭い?
ふとファイヤーボールが飛んで行った先を見てみると木が燃えていた。
「やばい! 火が燃え移ってる! ウォーターボール!」
ボヒュン!
……火は消えた。だけど ウォーターボールさんよ。木をへし折らなくても良いんじゃないですか?
これでウサギ狩りなんてできる訳がない。オーバーキル過ぎる。ミンチなんて買い取って貰えないだろうし、そもそも触りたくもない。
まだ、まだ慌てるような時間じゃない。風魔法もある、試してみても良いだろう。
「エアカッター!」
……一抱えある木が一発で切り倒せたよ、木こりさんも大助かり。HEY! HEY!! HOO!!!
こんなもん狩りに使えるか! くそったれ!
●
「おらぁ!」
ウサギにこん棒を振り下ろす。ウサギは少しうめき声をあげて動かなくなった。こん棒って意外と使い易いものなんですね。ゴブリンになったようで気分は最悪だけど。
「やっと三匹……」
この数時間でだいぶウサギ狩りが上手くなった気がする。コツは森から追い出すことだ。森の中では障害物が多く、ウサギに追いつくなど不可能だが、平野に追い出してしまえば賢者のステータスなら追いつくことができる。
追いついたとしても攻撃を当てるのは難しいが、それは数をこなせばいつか当たる。
「そろそろ町に行かないとな」
だいぶ日が暮れてきた。そろそろ町に向かわないといけない。
ウサギの数は3匹で銀貨三枚。これだけあれば町に入り何か食べることができるだろう。
俺は狩ったウサギを抱え、町に向かって走り出した。
●
「何とか間に合った……」
ぎりぎりセーフ。何とか日が落ちる前に到着できた。最上級職万歳、日本にいた時の体力だったら絶対に間に合わなかった距離だ。
並んでいる間は基本暇だ。できることと言ったら誰かと話すことぐらい。まあ、適当な雑談でもこの世界の事が知れるから助かる。
こんなことも知らないのか? とバカにされる事に我慢できるならいい情報収集だろう。
「次!」
門番から声がかかる。俺の番だ。
「すみません。身分証が無くて、お金もないので、このウサギを買い取ってもらいたいのですが」
「この水晶に触れろ」
門番さんが門の端に置いてある水晶を指さす。言われた通りに触れたら青色に光った。
「問題なし。奥でそのウサギを買い取ってもらうといい。そこで入場料も払うように」
「ありがとうございます、あと冒険者ギルドってどこですかね?」
「都市の中央、内壁の傍だ。五階建てのでかい建物だから行けばすぐにわかる」
「ありがとうございます」
お礼を言って頭をぺこりと下げる。
門番さんはさっきまでの厳しい顔を緩め〝迷宮都市ケルンへようこそ〟と言ってくれた。あの人は絶対いい人だ。心のメモに書き加える。
言われた通りに門の中を進む。いろいろとごちゃごちゃしたスペースが有ったのでそこに向かった。
「すみません、ここで買い取って貰えるんですか?」
「そうだよ、そのウサギかい?」
良かった。ここであっていたようだ。
「そうです、三匹全部買い取って貰いたいのですが」
「かまわないよ。ん? 血抜きしてないのかい? こりゃあ駄目だよ値段が下がる」
「血抜き?」
「ああ、血抜きもしてない肉なんて臭くて食えたもんじゃない」
なるほど、そういうものか。
てか、ナイフすら持ってないのにそんなことできる訳ないだろ。
「こりゃ皮しか使い物にならんな……三匹全部、大きいのも小さいのも合わせて銀貨2枚と大銅貨1枚だね」
おおよそ3割減か……まあ、仕方がない。
「わかりました。それでお願いします」
ぼられてる感が無くもないけど、他に選択肢もない。諦めるしかないだろう。
「あいよ、入場料引いて銀貨1枚と大銅貨1枚ね」
硬貨を受け取り門を抜ける。
「んー、やっと町に入れた」
町の中に入り、一言呟く。
町に入れたからといって感慨にふける訳にもいかない。冒険者ギルドに向かいお金を借りないと。
さっそく俺は冒険者ギルドに向かい歩き始めた。