第4話 ユータ異世界に立つ
まぶしい、という感覚に俺は目を覚ました。俺はいつの間にか寝てしまっていたようだ。
「ここはどこだ?」
森の傍、里山と言ったところだろうか。
「なんでこんなところで寝ていたんだ?」
寝起きで働かない頭を動かし、記憶を辿っていく。
「居酒屋で飲んで、女神様に……」
――ああ、思い出した。
そうか、俺は死んだんだった。ここにいるという事が何よりの証明だろう。本当であれば夢であって欲しかったが……。
「今更言っても意味がない、か」
俺はここで生きていくしかないのだ。そうと決まれば状況を確認しよう。
「ここが異世界か」
植物は見たことがないものばかりだが、大まかな形は変わらないようだ。もしかしたら植物の魔物もいるかもしれないが、少なくとも近くにはいないだろう。
「そういえば服も変化しているな……」
今更ながら服装の変化にも気づいた。元はGパンにTシャツ、スニーカーだったのが着丈の長い青色の服に変わり、服の上からズボンとは別のベルトで抑えてある。下は布のズボンとブーツに変化していた。
わかりやすく言うと青色のリ〇クだ。その上から白色のフード付きのマントを羽織っていた。
……こちらの服に変わっているのはありがたいがもう少し目立たなくしてくれてもいいんじゃないか? 女神様の趣味なのだろうか?
「まあいいや、ステータスの確認しよう」
気を取り直して女神が言ったように〝ステータス〟と念じる。
音もなく現れるウインドウ。
「すげぇなあ、ARまで実用化済みとは、案外異世界の技術もあなどれないかもな」
くだらないことを考えてるなと自嘲する。
さてさて確認していきますか。
ユータ 20歳 男
人族 level:15
賢者 level:1
HP 12000/12000
MP 23000/23000
職業スキル
魔道六法 level:7
回復魔法 level:10
空間魔法 level:1
魔力操作 level:6
HP自動回復level:2
MP回復強化level:4
闘棍術 level:3
鞭術 level:4
身体スキル
言語理解 level:10
演算 level:5
「うん、さっぱりわからん」
比較するものがないとステータス見ても意味がわからん。
まあ、最上級職らしいし弱くはないだろう。そういえば女神様、平均とか言ってたっけ? つまり賢者の中でもこれ以上に強い奴なんてゴロゴロいる訳か……。
こちとら素人だ。最上級職にまで上り詰める達人や天才とは戦いたくはないな。
「まあ、最悪ステータスでごり押しでもある程度戦えるだろう。人は人、自分は自分。俺はだらだらと暮らしていけたらそれでいいや」
あとは美味しい食事とケモミミ娘を愛でることさえできれば俺は満足だ。結構欲深いか?
「とりあえず歩くか」
目下の目標は人里に行くこと。幸い町はここからでも見えているので迷うことはないし。
そうと決まればさっさと行動した方が良い。今はちょうど日が真上にあるのでまだ時間は多少あるだろうが万が一にも野宿なんてことは避けたい。テントや食料もなく、何がいるかも分からない異世界で夜営など狂気の沙汰だ。
「金は貰ってるんだし、宿でもとって情報収集から始めれば良い」
あれ? そういえば金貰ったっけ?
もしかしたらと思い服を探るも何も入ってはいなかった。
「なんてこった」
まあでも確認していなかった自分が悪い。異世界のことを考え、浮かれて確認を怠った自分のミスである。
「女神様~」
女神様を呼ぶが何も起こらない。神は助けてはくれないようだ。
ため息を一つ吐くが二度目の生をくれて上にチートもくれたのだ、感謝こそすれども文句などは言うまい。
「でも少し、ほんの少しだけ言わせてください。女神様あんたって神は……」
女神様は少し抜けていらっしゃるご様子。
こうなったら何とかなる精神で前に進むしかない。自力救済は人の常だ。
そう決まればさっさと行動しよう。
こうして俺は町に向けて走り出した。
町に向けて走り出して10分ほどたったが息切れなどはしていない。大学生活で三年が過ぎたころには運動不足で体力などが落ち、階段をのぼるだけで息切れしたものだが……さすが最上級職と言ったところだろうか。ステータスに表示されない身体能力も大幅に向上しているようだ。
それからもしばらく走り続け、町が近づいて来たので走るのをやめ歩く。
都市は壁で覆われた城郭都市でなかなか大きそうだ。
俺がいる側にもいくつか門があり、貴族用と商人用、あと平民用があるようだ。
もちろん平民用に並ぶ。町の守りを考えれば門は各方面に一つずつのほうが良いのではないかと思わないでもない。
そういえば入場料とかあるのだろうか? その場合はどうすれば良いのだろう。こちとら天下無敵の一文無しだ。
確認した方がいいな。
「すみません。少しお尋ねしたいのですがよろしいでしょうか」
並んでいる前の人に声をかける。かなりムキムキな人だ。冒険者だろうか?
「ん? どうした?」
「この街って入場料とかありますか? 今手持ちが少なくて……」
実際は少ないのではなく、無いのだが。
「あるぞ、銀貨一枚だ。物納もできるぞ、大銀貨一枚分までなら門にいる商人が査定し買い取ってくれる。多少買いたたかれるがな」
やはりあったようだ。しかし売るものなんて何もないぞ? さっきの林で集めてくるしかないのか……。
「そうですか、ありがとうございます」
「良いってことよ。兄ちゃん冒険者か?」
「違いますよ、なろうとは思っていますが」
「冒険者になればギルドから金が借りれるぞ」
「そうなんですか!」
「ああ」
なんと冒険者になれば金が借りられるようだ。これを利用しない手はないだろう。
「あと、ここら辺で買い取ってもらえるものって何が採れますかね?」
「んー、薬草や野生動物ってところだ。この辺りじゃ魔物もあまりいないしな。ウサギなら一匹銀貨1枚ほどで買い取ってもらえる」
「なるほど、さっそく探して来ようと思います」
「そうか、まあがんばれや。日が落ちるまでに戻ってこないと中に入れなくなるから注意しとけ」
「そうなんですね、ありがとうございました!」
さっそくウサギを探しにさっきいた林に向かう。日が落ちる前には何匹か刈りたいところだ。野宿は勘弁して欲しい。
薬草? 見たこともない植物しかないのに見分けられるわけないでしょ。
貰ったチートの最初の使い方がウサギ狩りなんて……少し悲しくなってきた。あまり考えないようにしよう。
「全部貧乏が悪いんだ!」
●
ユータが貧乏に嘆いているとき女神様は天界で少し青ざめていた。友人の女神を呼んでユータを観察していたのである。そこでユータにお金を渡していなかったことを思い出したようだ。
「アメノ? お金渡してなかったの?」
「そういえば渡してなかったような……」
「何やってんの!? これだから引きこもりは……」
「だからミスと引きこもりは関係ないでしょう!?」
「まあ、いまさら言っても仕方ないか……」
「どうしましょうかね……」
「そういえば彼は賢者だっけ? なら空間魔法の中にでも入れておけば良いんじゃない?」
「そうですね……仕方がありません。そうしましょう」
ここにユータがいれば「適当すぎるだろ!」と叫んだことだろう。
「この調子なら賭けは私の勝ちかな?」
「そんなことは……ないと思います」
「私の目を見ながら言ってみ?」
……言えません! 私も少し「負けるかも」などと思ったなんて。彼に幸せになってもらわないと私の日本酒が奪われてしまいます! お金を送る時にこっそり私の加護も与えてしまいましょう。加護を与えるには少し手間がかかりますが日本酒を奪われることと比べれば――ええ、問題ありませんとも。
ではさっそくお金と加護を送ってしまいましょう。フレイヤにはバレないようにしないといけませんね。
こうしてユータに女神の加護とお金が送られるのであるがユータが加護に気付くのはしばらくたってからの事だった。