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第七話「宰相フランネル」PART4

「あらぁ……宰相閣下、こんな夜遅く、私風情に直接連絡なんてどんな風の吹き回しかしらぁ……スライムはお嫌いなのでは無かったのぉ? うふふっ」


 タレ目の女が映り、そんな風に上機嫌そうに笑う。

 

 この映像通信は、フランネルが偵察用の小型スライムを品種改良した物を使っている……スライム同士の遠隔意思疎通手段、個体間共鳴通信の応用拡張により映像通話をも可能としていた。

 

 これの開発にも数多くのスライムを潰したのだが、もちろんフランネルには何の呵責も感じていない。


 ……この世界にも魔符による遠隔相互通信くらいはあるのだが、魔符を使い捨てにする為、コストが掛かると言う問題や長時間の通信は出来ないと言った問題があり、傍受などもやろうと思えば出来てしまうなど、色々問題があり、フランネルはあまり信用していなかった。

 

 その点、この通信はカズマイヤーの使うスライム同士の意志連携……共感通信とでも言うべきものを応用しており、そこら中に繁殖しているボールスライムなどを中継する事で、遠隔地同士でのほぼリアルタイムの映像通信すらも実現すると言う極めて高度なものだった。

 

 スライムという生き物はなかなかに便利な生き物なのだ……使い潰して、何が悪い……フランネルは、その程度の認識だった。

 

「ああ、貴様らは好きにはなれんし、貴様らの同胞だって、随分潰しているからな……お互い様であろう。

だが、お互いそれとこれは話は別だ……手短に用件を言おう……例の使徒対策……どうなっているのか……定期報告くらいあげろといつも言っているではないか」


 クリスタリアは、事実上のガズマイヤーの直属にあたる為、フランネルとは指揮命令系統が異なる……フランネルの意のままにならない存在のひとつであり、フランネルにとってはあまり関わり合いを持ちたくない相手だった。


「あらぁ……そう言えば、すっかり忘れちゃってたわ……」


「最後の連絡では、使徒の所在を掴んだと言うことで、現地のスライム共の統括権限をくれてやったはずだがどうなった? 何やら、結構な数を動員したようだが、そのせいで現地の情報網がズタズタになってしまった……損害はどの程度だったのだ? それに首尾はどうなっている……早急に報告せよ」


「あはは……ごめんなさーい! それがねっ! 思わぬ強敵で失敗しちゃったぁ……こっちも分体一個失って、動員したスライムも全部狩られちゃったぁ……まぁ、大失敗ね」


「貴様! 失敗しただとっ! 何故それを早く言わんッ!」


 思わずフランネルは激昂する……このレベル5スライムは勝手気ままで非常に扱いづらい……使徒に匹敵する戦力なのは認めるが、所詮は化物……ガズマイヤーの直命だからこそ、任せたものの……結果としては散々と言えた。


「だから、謝ったじゃない……フランネルちゃん……あなた、私に命令できる立場のおつもりで?」


 静かに平坦な声でレベル5がそう告げる。

 お互い無言のまま、表情一つ変えぬまま……時間だけが流れる。

 

 けれども、そんな沈黙を破ったのはクリスタリアだった。

 

「やぁねぇ……そんなカッカしないでよ。今解ってること……相手は、聖光教会……司教クラスなんてのが出張ってたわよぉ……。他にも武装神父がぞろぞろといたし……後は人間離れした動きをする剣士がいたわね……顔はこんな感じぃ」


 そう言って、クリスタリアは触手を掲げるとそれが変形して、ミリアとレインの顔を象る。


「ふむ……これはオルメキアの騎士マクミリア卿だな……本国は戦死したと公式発表していたようだが、実際は目撃情報が多数見つかっておって、その動向が気にはなっていた……もう一人は聖光教会の最年少司教のレインとか言う小娘だ……どちらも危険人物だな」


 二人については、フランネルの作り上げたデータバンクに要注意人物として、登録されていた。

 

 ミリアについては、オルメキアのスライム掃討戦で戦死と公表されていたが……案の定、大嘘だった。

 

 ドラゴンの頭を一刀両断したという化け物じみた逸話を持つ、オルメキアの双璧の一人ファルネリウス騎士団長。

 ……その娘と言う時点で化物なのは確定……オルメキアもそんな秘密兵器とも言える人物を惜しみなく投入したと言うことだった。

 

 レインの方は……詳しい情報がないのだが、この歳で司教の称号を持つ様子から……聖光教会でもトップクラスの術師で、聖光教会過激派の中心人物の一人と目されていた。

 

 この二人と使徒が組んで、スライム狩りを行っているとなると、この時点で十分脅威だった。

 

 実際、オルメキアもわずか一月もしないうちに、情勢がひっくり返ってしまった事を不審に思っていたのだが。

 間違いなくこの者達が関係している……フランネルもそう確信する。

 

「あら、知ってるんだ……さすがね。本命の使徒の方は大したことなかったけど……そのミリアって奴は化物ね……分体とは言え、私の剣手を見切るって避けるわ……一撃で強化装甲ぶち抜くわ……ついでに、冒険者共もやばかったわぁ……。

 雑魚だと思ってたら、びっくりするほどの腕利き揃い……初手で全魔力使って、自分も危ないくらいの大魔術放ってくるとか頭おかしいんじゃないって思うくらい! 冒険者のことってよく知らないけど、そんなハイレベル揃いなわけ? あいつらの馬鹿みたいな火力で、こっちもズタボロにされちゃったのよ……もう少し遊びたかったのに……」

 

 ……冒険者といえど、レベル5の脅威になるとすればAクラスの者達程度に限定される……。

 オルメキア周辺はせいぜいBクラス……それも1パーティしかおらず、その者達もスライムを紛れ込ませているので、その動きは掌握できている。

 

 ……そうなると、考えられるのはCクラス程度のはずなのだが……クリスタリアの分体を倒せるとはとても思えない。

 冒険者ギルドが密かに敵に回っているのだろうか? どうにも解せない話だった。

 

「おのれ……一体、何が起きているというのだ……クリスタリア……貴様一人では埒が明かない……我が直属の密偵と例の異世界人を動かす……彼らと連携した上で確実に任務を遂行するのだぞ……ひとまず情報不足の感は否めないからな……現状、軽はずみな動きはせず待機とせよ……それと報告は密にする事だ……いちいち陛下のお耳をわずわせてはならんからな……確実に、私に届くようにせよ」


「いやよぉ……なんで、私が人間なんかと組まないといけないの? 私は勝手にやらせてもらうから、そちらも好きにやればいいじゃない……でも、あの使徒クンは私のモノ……これだけは覚えておいてね。それじゃあねぇ……。」


 好き放題言って、一方的に通信を切られてしまう。

 フランネルも盛大に溜息を吐く。

 

 混迷を極めつつある世界情勢、身勝手で当てにならないスライム共、愚物そのものと言えるガズマイヤー。

 並の人間なら心労で倒れてしまっているだろうが、フランネルの鋼の精神力はそんなものではくじけない。

 

 幾多の情報の海の中で、現状を打破する為の思索を続ける……。

 

このパート、思ったより長くなった……。

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