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第五話「迷宮事変」PART2

 ……最初、神様だと思った。

 そう言って、レインは懐かしそうに思い出話を綴る。


 冷たい雨の降りしきる夜。

 

 鳴り止まない剣戟と微かに聞こえる祈りの声。

 

 それが悲鳴と、形容し難い何かを引き裂くような音へと変わっていく。


 やがて辺りは静まり返り、雨音だけが残る。

 

 何かを引きずるような音……死神の足音。

 怪物から逃れ、逃げ込んだ納屋。

 

 レインの背中には、年端もいかない子供たち……皆、必死で泣き出したいのをこらえていた。

 

 死神の足音が扉の前で止まる……頼りになるのはささやかなの祈りの力。

 そんなものが何の役に立つのか……彼女は一瞬脳裏に浮かんだその考えを打ち消す。


「……神様、わたしはどうなっても構わないです……せめて、この子達を……お守りください!」

 

 意を決して扉の隙間から転がり出たレインは……。

 

 彼の戦いというものを初めて目にした。

 

 ーー紅い竜がそこにいた。

 

 鋭い爪に尖った牙……紅い縦長の瞳。

 炎を身にまといスライム共を焼き払いながら、狂ったように戦い続ける一匹の竜。

 

 やがて、動くものが居なくなる……紅い竜がゆっくりとこちらに振り返る。

 

 ……その獰猛な怪物の姿を、レインは何故か美しいと感じた。

 

「……神……様……?」


 思わず、そう口にする。

 

 紅い龍がレインに気付いたのか、振り返って見つめる……その眼はとても澄んでいた。

 優しい眼、深い悲しみを湛えた眼だった。

 

 その眼がすっと細くなる。

 

 そして、彼はゆっくりとこうべを振った……。

 

「僕は……神様なんかじゃないよ……生き残りは君だけかい?」


 言葉を話す竜の質問に、レインは首を横に振ると背後を振り返る。

 納屋の扉の隙間から覗く、小さな怯えた瞳……。

 

 それを眼にした異形の彼は、確かに笑った。

 

「そうか……やっと、僕は誰かを救えたんだね……良かった……ありがとう」


 それだけ言って、彼は翼を広げて、大空へと飛び立つ。

 

 気がつくと雨もやんでいた。

 

 分厚い雲の隙間から、小さな星の輝きひとつ。

 たぶん、彼女……レインはこの日……神様の奇跡に出会った。

 

 レインは、心から祈った。

 感謝の祈りと、ささやかな願い……もう一度、会いたいと。

 

 

 それから、様々な紆余曲折を通して、レインは彼と再会する。

 

 わずかよわい13歳で上級聖術をマスターし、「奇跡」の二つ名と司教の称号を得たレインは使徒直属と言う栄誉を与えられ、彼と行動を共にすることとなる。

 

 忌まわしきスライムを駆逐する紅き竜人……使徒サトルと共に。

 


 

「……それがわたしとサトル様の出会いなんですよ……解りましたか? わたしとあの人の絆の前には、新参の貴女の入り込む隙間なんて無いんです……わたしはサトル様にすべてを捧げる……これは定められた運命です! 正真正銘の愛なんです! 愛っ!」


 どことなく夢見がちな表情で、手にしたフォークにパスタを巻きつけながら、そう力説するレイン。

 

 向かいで、ワイングラスを片手にくつろいでいるのは、長い銀髪を無造作に束ねた長身の女性……ミリアだった。

 

「なんだ、君もあの男に救われたクチだったのか……まぁ、確かにあの時、彼の姿を見た時は、胸の高鳴りを覚えてしまったがな……うん、気持ちは解るな」


 そう言いながら、俯いて照れたように笑うミリア。

 それを見たレインの眉間に深いシワが寄る。

 

「……君もって……何なんですか、その仲間みたいな言い草は……と言うか、人の話聞いてましたか? わたしとサトル様は運命の絆で結ばれているんですよ? それを聞いて何か思わないんですか?」


「うん、素晴らしい話だと思うぞ……そこまで惚れ込んでいると聞いてしまうと、改めて、私の目に狂いはなかったと実感するな……うん、君は実にいい趣味をしている……」


 レインはそんなミリアの全面肯定に絶句する。


「えっと……そこは私も負けてられないとか、ライバル宣言とか、するところじゃないんですか?」


「……何故だ? 私は別に君と相争うつもりなぞ無い……良い男には複数の伴侶がいるのが、むしろ当然……貴族や王族の間ではそれが常識なのだ。まぁ、どちらが正妻となるかについてという事であれば、それは我々が決めることではないがな……違うか?」


 さも当然のように、そう口にするミリアにレインも返す言葉が見つからず、大口を開けてわななかせる。

 

「ち、違いませんけど! なんで、わたしとミリアさんが揃って、お嫁さんになるって話になるんですか!」


「なんだ、君は嫌なのか? 私も父上にサトル殿を何としても籠絡するように厳命されているのだ……最低限婚約者として連れてくるまで、屋敷の敷居を潜るなとまで言われているのだからな……致し方あるまい……私は不退転の心つもりであるぞ?」


 なかなかに酷い話にしか聞こえないのだけど……本人としては、むしろ夢見る乙女のような表情で喜々として語っているのだから、多分本望なのだろう……。

 

「……サトル様……なんで、こんな露出狂のデカ女をお側に仕えさせるのです? ……わたしがいれば十分なのに……」


 不服そうにふくれっ面になるレイン。


 この間のオルタンシアでの一件で、ミリアは相応の活躍をした上に、その後のスライム掃討戦の陣頭指揮を執るなどで、教会からも大いに信頼を得て、オルメキアからの強い推薦もあって、サトルの側近のような立場に収まってしまった。

 

 サトル本人もミリアの剣の腕を大いに買っており、剣に関しては、すっかり師匠と弟子のような関係になってしまっている。

 それに、その実直さや生真面目な人柄などもサトルは買っているようで、レインとしては、大変面白くなかった。

 

 けれど、さすがに露出狂と言われては聞き捨てならなかったらしく、ミリアが机をバンッと叩きながら立ち上がる。


「……言っておくが、私には裸で外を走り回るような趣味なぞ無いぞ! あの時は炎上する町長の屋敷から逃げる方が優先だったからな……それに騎士なんてやっていると、男の前で着替えたり、体を洗うなんかも良くあることだ……むしろ変に恥ずかしがる方がお互い無駄に意識してしまって、妙な過ちが起こったりするものなのだ……」


 さも当然のように返すミリアだったが、町長宅からの脱出の際、途中からいわゆるお姫様抱っこで抱きかかえられてしまったと言うのは黙っておいた方が良いだろう……と思ったりもする。

 

 そんな扱いを受けたのは、ミリアにとっては生まれて初めての経験で、免疫の無いミリアに取っては、もはや一撃必殺の破壊力があった……。

 

 そんな事もあって、ミリア的には大いに盛り上がってしまい……以来、すっかりこんな調子だった。

 

 それに加え、実の父親たるファルネリウスからサトルをどんな手段を使ってでも、籠絡するように命じられているのも、むしろ、拍車をかけていた。

 

 男児に恵まれなかったフォーグレン家の跡継ぎとして、次代を担うものとして、女である事を捨て、ただひたすらに騎士になるべく、少女時代を騎士団での訓練や冒険者稼業で終始してしまったミリアにとっては、極めて酷な無茶振りだったのだけど。


 オルメキア王国の方針自体が、スライム共への徹底抗戦に傾き、ゆくゆくは帝国とその衛星国家群との戦争すらも視野に入れている以上、サトルと聖光教会はなんとしても、味方に付けるべきだと言う事は深く理解していた。

 

 要するに、ミリアは体のいい人身御供に他ならないのだが、本人はご覧のように非常に乗り気なので問題はなかった。


 ……本人の様子を見る限り、限りなくモテない女子が変にこじらせた感は否めないのだけど……本人は真剣であった。

 

「……そ、そりゃあ、わたしも解りますけどね……旅なんてしてると、男の人の目とか気にしてられないですし……。一応、言っときますけど、サトル様はそもそも、わたしみたいに慎ましい身体の方が好みなんですからね! サトル様がわたしの裸を見た時のあの舐め回すような熱い視線……レイン、思い出しただけでヤバヤバです」


 そう言って、身体をくねらせるレインをジト目で見つめるミリア。

 

 けれども、ミリアから見れば、レインは子供も子供……単なるマセガキとしか思ってなかった……服の上からでも絶壁状態だと見て取れる胸を見ていると、むしろ可哀想になってくるくらいだった。


 その辺は、大人の余裕と言うと言うもので、そんな彼女をミリアはフッと鼻で笑いとばす。

 

 もっとも、彼女は彼女で男性経験はほぼ皆無なので、そんな偉そうに言えた義理ではなく……。

 むしろ、何を根拠にこんなに自信満々なのか、理解に苦しむ所だったが……ミリアの中では、色々ピンク色の妄想が留まるところを知らない状態で……もはや、誰にも止められない有様だった。

 

 そう言う意味では、この二人……似た者同士だった。

今回、前回から引き続き、主人公のサトル不在で女子トーク回です。

ミリアもレインも激しくチョロイン。


ミリアは、二十歳くらいなので、レイン相手に年上ぶってますけど、実は喪女歴=年齢だったり……まぁ、解ってません。(笑)


あとサトルの名誉の為に言っておきますけど、サトルは舐め回すように見たりなんかしてないてす。(笑)

レインちゃん多分ヤンデレ系。


読み直して、なんか変なので複数回訂正入るかも?

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