第四話「巣食うモノ、狩るモノ」PART2
「ふむ……存外、冷静なようだが……殺意が漏れ出しているぞ……少しは楽しませてくれそうじゃないか! 来るがいい……小僧! 貴様の本気を見せてみろっ!」
「……舐めるなぁああああっ!」
サトルは長めのショートソードを抜くと立て続けの連撃を加える。
ベルクリアは折れた剣を使って、その連撃を巧みにさばいていく。
ナイフの刺さっていたところからは湯気が出ているのだが、浅かったらしく全く堪えている様子がない。
その鱗状の装甲も伊達ではなく、サトルの渾身の一撃すらも素手で受け止められてしまう!
「……こんな甘い太刀筋では私には届かんぞ? どれ、お手本をみせてやろう! 剣とはこう振るうのだっ!」
一瞬で間合いを詰めると、恐ろしく鋭い太刀筋で襲いかかるベルクリア!
……逆にサトルが圧倒され始め、防戦一方になる!
「どうした! どうした! 威勢が良かった割には大したことないな……パワーもスピードもなかなかのものだが、技のキレがないっ! この程度で我らに戦いを挑もうなど片腹痛いわ! そらっ! 隙だらけだっ!」
サトルの剣が弾かれて、宙を舞い……サトルも思わず、膝をつく。
「やれやれ……さすがに手強いな……こりゃ僕一人じゃ無理だな」
どう見てもピンチ……のはずなのだが、サトルにはどこか余裕があった。
剣を拾いに行くでもなく、新たな装備を構えるでもなく、どこか泰然とした様子で無防備に膝まづいていた。
「何だ貴様……もう諦めるのか? 拍子抜けもいいところではないか!」
ベルクリアは、折れた刀を捨てるとサトルの剣を拾い上げて、突きつける。
「いやいや、諦めるとか論外だよ? と言うか、無警戒に敵の武器を拾い上げるとか、何かあるとか思わないのかい? 何やら達人気取りのようだけど、所詮はスライム……浅はかなものだな」
「な、なにっ! おのれっ! 罠かっ!」
そう言って、サトルの剣を投げ捨て、後退し距離を取るベルクリア……実はハッタリなのだが、サトルとしてはベルクリアの位置が重要だった。
「こちら……レイン、やっと射線が通りました! 撃ち方ー! 始めーッ!」
サトルの兜に内蔵された通信具にレイン声が飛び込んて来た。
「罠……そうだね。まさに罠だな……あっさりかかってくれて助かったよ!」
……ベルクリアは本人も気付かぬうちに、窓を背にしたところへ誘導されていた……その背後には一際大きな鐘楼が見えた!
鐘楼の中で爆発音と共に白煙が立ち上る! 一拍置いて、2m近い長槍が床に突き刺さり、窓を背にしたベルクリアにも同じものがドカドカと突き刺さる!
1発は逸れて、2発はベルクリアを完全に射抜き、もう一発が肩口をかすめる。
並の人間なら、一撃で即死する致命傷なのだが……戦闘用スライムは床に縫い付けられながらも立っていた。
「ぐはっ! な、なんだこれは……この威力……た、対人用ではないな……まさか攻城兵器かっ! そんなものを持ち込んでいたのか! おのれっ! なんて奴らだっ! ……だがっ! この程度では屈せぬっ!」
ベルクリアは自らに突き刺さった槍を引き抜くと、鐘楼へ投げ返す!
槍が鐘楼の壁に突き刺さると、その部分が大きく崩れる。
大きな箱型の物が崩落に巻き込まれて、地面へと落下していくと、小さな人影が崩れかけた窓の奥でピョコピョコと引っ込むのが見える……。
火薬式バリスタ……本来、攻城用に用いるような兵器なのだが……支援部隊のアメリアが、喜々として自ら開発した試作品を持ち出してきて、なし崩し的に実戦投入となった。
槍の柄には、後方へ向かって細かい棘が生えていて、対スライム用の毒が塗られている。
……動けば動くほど、体組織が破壊されて行く上に、床や地面に縫い付けてしまえば、逃れることもかなわない……。
並のスライムなら、この時点でどうする事も出来ない、実に悪辣な兵器だった。
ちなみに、この火薬式バリスタ……実は基底部の強度不足で一発撃つと底が吹き飛んで使い物にならなくなる問題があって放置されていたのだけど、現代兵器の知識も持つサトルの助言で、基底部に粘土を詰め込むことで、威力は落ちるものの反動がほとんど起きない使い勝手の良い兵器となった。
その上、レイン達の使った据え置きタイプは4本束ねることで連続発射を可能としており、極めて強力な兵器となっており、サトル達はこれを、変異スライム戦の切り札として使う事にしたのだった。
サトルがスライムたちの注意を引いて、窓際へ誘導……レインとアメリアが射手として、バリスタによる狙撃で仕留める……それが本来の作戦プランだったのだが。
ベルクリアは想定以上の化物だった……。
「おいおい……バリスタの直撃まともに食らって、死なないのか……対スライム毒ももっと研究、強化しないと駄目だな。お前らのような強化体にはほとんど効果ない……うん、貴重な実戦データだな」
槍を二本も受けて、遠く離れた鐘楼まで槍を飛ばす膂力……そして、未だ衰えぬその戦闘力。
さしものサトルも焦りは隠せなかった。
「くはは……そうでもないぞ……結構、効いたぞ……我が装甲を貫くとはな……しかも、傷が一向に治らん……まったく、恐ろしいものを作り出したものだな……人間も侮れん」
そう言って、もう一本の突き刺さった槍を素手でへし折るとゆっくりと抜いていく……肩口に当たったものは肩周りをゴッソリえぐっており、左腕の自由をほぼ奪っていた。
レイン達は恐らく無事だと思われたが、これ以上の支援は期待出来そうもなかった。
(竜化して一気にケリを付けるべきか……いや、この街にはまだまだスライムが多数残っている。こいつを倒して、終わりという訳にはいかないかもしれない)
……サトルとしても判断に迷うところだった。
「どうした? もう手札が尽きたのか……他愛もないな! 戦いはまだまだ、これからだろうっ!」
手持ちの装備を見直してみる……ナイフはあの装甲には効果が薄い……ショートソードは位置的に回収は難しい。
何より、剣に関してはベルクリアは、達人レベル……素体にされた隊長自身、元々剣の達人だったのかもしれない。
基本的に、炎龍人の身体能力頼みで剣の素人のサトルでは、まともにやりあったのでは分が悪いのは明らかだった。
バリスタ狙撃で、ダメージを与え、片腕を封じた今なら、力押しで行けるかもしれないが……。
その構えに隙はなく……迂闊に手を出すと、危ういと言うことを本能レベルで理解する。
そんな風に攻めかねて迷っていると、サトルの視界の端で素早く影が動いたっ!
ちなみに、サトルはスライム相手に手段を選ぶ気はかけらにも思ってないので、卑怯な手段や騙し討も当たり前のようにやらかします。
町長も本来は屋敷ごと燃やすつもりでしたが、ミリアが単身突撃しちゃったので、直接戦う事にしました……ちょっとした裏話。