異世界転生して♀エルフになって無双して男の子に恋するやつ(短編なろう版)
俺はどうやら死んだらしい。超幸運なニートの代わりに巻き込まれて――
お詫びにチートな能力をもらって転生したら♀エルフって、なんでだ!?あっ、でもこいつと一緒にいられるならべつにいいかな。と今日も転生♀エルフは愛する人を守っていく。
とある方のTS転生ネタがとても素晴らしかったので書こうと思ったら既にカクヨムで別の方が連載小説が上げていましたのでこちらは短編となります。女の子の無双大好きなのです。(無双シーンはない)
…………あれ?
なんで俺、こんなところにいるんだろう。
そう気付いた時には、辺りは上も下も真っ白で何も見えないだだっ広い空間が広がっていた。
ぐるりと見渡してみても、景色は一向に変わらないので仕方ないから立ち上がって自分の姿を見てみる。そこにはいつも通りの俺がいた。いつもの高校の服にいつのもの靴にいつもの──
ん?ちょっと待て。
そういえば俺、誰だ?
よく考えてみると、今までの人生の記憶はある癖に自分の名前とどんな人間だったがごっそりと抜け落ちていた。これは果たして記憶喪失なんだろうかと疑問に思うよりも前に、その事実を知った瞬間目の前におっきなお胸の美女が立っていた。
うん、でかい。でかいことはいいことだ。
『変な事を考えないでください』
喋った。
あまりにも綺麗で静かに現れたもんだから作り物か何かだと思ったよ。しかも心を読むのか。プライバシーもくそもねえな。
『貴方の心など、身体が消えた瞬間から辺りに漏れているのですよ』
まじですか。いやそれより、身体が消えた瞬間ってなんですか綺麗なお嬢さん。
『女神です』
さいですか。
『こほん。……あなたは先程トラックなる物体によって轢かれた後しばらく引き摺られてぐちゃぐちゃになった挙句死んだのです』
そこまで詳しくは求めていなかったけど……成る程、俺は死んだのか。見事なまでにテンプレだな。
ところでなんで俺、記憶はあるのに自分のことすっかり忘れてるんですか?
『それは単に打ち所が悪かっただけですよ。よくある事でしょう?』
それは流石にないわー。打ち所が悪かっただけでピンポイトに自分のこと抹消とか都合良すぎじゃね。
『…………さて話を戻しますが、』
おい女神。
『実は貴方の死は本来は予定されていなかったものなのです。私の部下である新米がちょっと手を滑らせてしまった結果、死なせる対象の真後ろにいた貴方にトラックがぶち当たりました』
こいつは酷い。あ、一応聞きたいんですけどその死なせる対象って一応どんな人間だったんですか?
俺と同じクラスのぼっち眼鏡?それとも隣のクラスのぽっちゃり女子?
『貴方より陰気臭く、貴方よりキモデブで、貴方より超幸運な30代ニートです』
前二つからして碌でなしだって分かるが、絶対最後のひとつが俺の死因の原因だろ。
そもそもそいつその幸運のおかげで死なないんじゃないか。
『……』
だからだんまりはやめろってば。怖くなるから。
『はあ。仕方ないのですよ。彼、本来は超エリートコースを走る予定だったのにアイドルなんかにのめり込むから……』
あ、愚痴った。まあ神様でも幸運持ちのくせしてニートになる奴は許せないんだろうな。
『まあそういうわけですので、間違えて死なせてしまったお詫びに貴方には次なる世界への転生に記憶の引き継ぎ、そして素晴らしい能力を授けましょう』
わーいチートだやったー。……と喜んでる暇もないか。本当にそれは素晴らしい能力なんですか?俺、嘘付かれるのは嫌いなんですよ。
『そう言うと思って先手は打ってありますよ』
女神がぱちんと指を鳴らした。ちょっとかすった事については無視してあげることにしながら、俺の目の前に文字が書かれた四枚のカードが浮かび上がる。
『そこから自由に選びなさい。どれも貴方が根本から願った力です』
凄いな。さすが女神様。
と言うわけで俺は早速そのカードすべてに目を通す。一枚目には「あらゆる理性あるものを魅了する能力。ただし男は信頼程度とする」。んん、そうだな、ハーレムに男は必要ない。続いて二枚目、「魔界を牛耳るほどの魔力を持つ能力。魔力対抗可能、スキルの使い方知り放題」。ほうほう、これもいいな。スキルをどう使うのか分かるというの捨てがたい。三枚目、「賢者の如き知識を持ち、神通力を極めた能力。一定の年齢から不老不死、傷つくこともない」……不老不死ときましたか。二枚目に魔界とも書いてあったし、恐らく魔物娘もいるだろう。魔物は寿命が長いはず。ずっと魔物娘と添い遂げるのも、うむ、いいな。
さて、最後の四枚目は──
……女神様。
『はい』
俺、これにします。
そうして俺が手にしたのは四枚目のカード。内容はとてもシンプルなものだった。
「どんな逆境においても、絶対に愛する人を守りきれる能力」
どんなに可愛い子のハーレムだろうと、どんなに力があろうと、俺は多分本当に好きな子しか守れない。そしてその子が死ぬのなんてもっと嫌だ。
何、ハーレムは向こうで頑張って作ればいいさ。
『やはり、それにしましたか』
なんだ、女神様はもう分かってたのか。
『はい。貴方の心は今や丸裸ですから』
その表現はなんか恥ずかしいのでやめてください。……さて、それと同時に俺が手にしたカードはパラパラとまるで結晶のように零れ落ちて俺の手の中に吸い込まれていった。
少しだけ身体がぽかぽかと暖かくなった気がしていると、なんだか瞼が重くなってくる。いや、気のせいではなく周囲がぼんやりとおぼろげに消えかかって、俺もまるで眠りに誘われるかのように意識が遠のく。
『さようなら、素晴らしい貴方。新たなせいをどうぞ楽しんで』
女神様の言葉を最後に、俺は深く眠りについた。
──と、ここまでは良かった。良かったはずなんだけどなあ。
「どうしてこうなるのかなあ……」
頬杖を付きながら目の前に鎮座する鏡を眺める。そこに映っていたのは溜息も出る程の絶世の美少女だった。出るとこは出て引っ込むところは引っ込む。もしもここが人混みの中であればきっと誰もが振り向くことだろう。
少し他の人と違うところは耳が尖っているところ、とどのつまり、エルフであることぐらいだ。あっ、エルフはエルフでも上位種であるハイエルフですがなにか。一応父も母も普通にエルフで俺だけ先祖返りの白髪金目ですがな、に、か?
まあ、その絶世の美少女は俺であるわけだが。
まさか女神が最後に言った「新たなせい」が「生」ではなくて「性」だなんて誰が思うか!そこはちゃんと伝えてくれ女神様!
と言っても、今ここに女神様がいるわけがない。いるとするなら……。
「何やってるんですかアイーラ」
「クオン!」
愛しい愛しい恋人の声に思わず笑みが零れる。見る人が気絶しそうな程美しい笑顔だと自分でも自負してるのだが、今日もクオンにはそれが伝わらない。でもいいもん。俺はなんだかんだクオンが好きだから。
さて、皆さん知っての通り俺の前世はばりばり男だった。それが生まれ変わったらまさかのエルフに加えて女。これってもしや俺が守られる立場?ハイエルフは良く姫的立ち位置だし、下手したらくっころ姫騎士になってオーク蹂躙もあり得る?と昔の俺は思わずそんな妄想に怯えて、女の癖して男のふりばかりをしていた。郷から出た後はこのでかい胸をさらしで押し隠し、分厚い鎧を来ていたおかげで周囲からは男のエルフと認識されていた。
しかし、たった一人だけ俺の正体を見抜いた奴がいる。
「えっ、女だったんですか」
それがこのクオンだった。Sランクのプリーストで、良く上位パーティに引っ張りだこだった彼はたった一人で低級クエストばかりしていた俺を見兼ねて声を掛けてきたのがキッカケだ。
しばらくぽつぽつと会話を重ねていくうちに、俺が女である事すら気付いた彼はそれを追求しながらも詳しくは聞いてこなかった。
しかしある日、食事中にふとクオンがずっと疑問に思っていた事を聞いてきた。
「君。女なのに男のふりして何が楽しいんですか?堅苦しくありません?」
「……ただでさえエルフで、しかもハイエルフ。そんな俺がまさか女だなんて周囲が知ったらどうなるる?そこらの男に貪られるのがオチだ。俺はやだね。そんなこと」
いまだ愛する人が見つからない俺にとって、男はみんな敵だ。そして今や女もよく分からない。そう言い放ってやると、クオンは事もあろうか俺の気持ちを笑い飛ばす。
「馬鹿ですね。そんなの、そこらの男より強くなればいいだけでしょう」
「……男より強い女がモテると思うか」
「モテるんじゃありませんか?少なくとも、僕は好きですよ」
僕は好きですよ。僕は好きですよ。僕は好き……──
その瞬間、俺は何かに頭を殴られたような衝撃を受けた。今こいつはなんて言った?好き?そんな女が好きだって?
つまり、俺が好き?
その答えに辿り着いた時には、既にクオンは食事を終えて席を立った後だった。
しばらく放心しながら貸家に戻って夜を明かした翌日、俺は鎧を脱ぎ捨てた。さらしを取り、いつの日にかと用意していたエルフの女用の装備に身を包んでギルドへ向かう俺の足取りは何処か軽々としていたと思う。
さて、そこからは怒涛の展開だったと簡潔に締めておこう。クオンにアタックしまくってたらギルドの他のいけ好かないSランクが俺を巡ってクオンに勝負を挑もうとしたから捻り上げてやったり、俺を狙ったハイエルフの一族がクオンを狙って差し向けた暗殺者をぷちっとしてやったり、挙句にクオンがオークに攫われた時にはクオンを真っ先に助け出した後にオーク残滅に精を出したりとかなーり濃厚な一年となった。結果、俺はつい先日念願のクオンの恋人へと昇格したのだ。
もう一度言おう、俺はクオンの恋人になった。
「クオン、クオン。疲れてないか?おっぱい揉むか?抱くか?めちゃくちゃにしてくれるか?」
「揉みません。抱きません。めちゃくちゃにもしません」
「けぇち」
かちゃかちゃと得物の杖の調子をメンテナンスしながら冷たい返事を返すクオンを背後から抱きしめる。彼の頭の上に御自慢のどでかい胸を置いても反応しない姿に逆にきゅんきゅんとしながらぎゅうっとした。
「ちょっと、苦しいじゃないですか」
「クオンが抱いてくれないから俺が抱いてるだけだもん」
「全く……」
そうは言っても振りほどかないクオンはきっととっても優しい。転生する前のハーレムでも作ろうと考えていたあの頃と現実はだいぶ違うが、それでも俺はこの今が好きで好きで仕方がない。
それに──
「(クオンの子供が産めるなら、女でもいいや)」
「っ?」
ふふ、と浮かべたアイーラの顔は妖艶だが、その瞳はまるで獲物を捕らえた蛇のようでもあった。クオンもまた背後から感じた気配にぶるりと震えながらも気付かないふりをする。
邪な考えを持つ男に怯えてたくせに、今や己が邪な考えを──しかもかなりのものを持っている事に本人すら気付かないまま、彼女となった彼は今日も愛する人を守ってる。
アイーラ(TS主人公)
俺系先祖がえりのハイエルフ。クオンが好きすぎてハーレム思考はどこかいった。
クオン(Sランクプリースト)
とっても強い男の子。アイーラの愛がとても重いけど、なんだかんだ受け止めている男前。
女神様(大体この人のせい)
主人公を間違えて死なせてしまった部下神様に対象を死なせるように命令した上司。たぶん強い。