97.
カサカサっという音がしたかと思うと、黒い塊がこっちに向かって走ってくる。
「みゃた来たっ」
俺はパチンコを構えて地面を走るそれに向かって弾を撃ち出す。
その横で、ミリーは弓を構えて同じように走ってくるやつを射る。
それでも2人でたったの2匹しか仕留められない訳だ。
『5匹増えましたので、あと19匹です』
「うがーーっっ! なんでそんなにいるんだよっっっ! ってかなんで増えんだよっっ!」
『おそらく彼らの巣でもあったのでは?』
「んなとこに俺たちを連れてくるなよっっっ!」
俺がドデカゴキ討伐はしたくないって言ってたの聞いてただろうがっっ!
『あと18匹です』
「結界は絶対に解除するなよっっ!」
『当然です』
「ああもうっっ、なんでこんなとこに連れてきたんだよぉ。スミレなら探索ができるから避けられただろっ」
「コータ、喋ってないで、頑張る」
「はいっ」
ミリーに叱られてしまうとそれ以上スミレに文句は言えなくて、俺は慌ててポーチから弾を数個取り出してパチンコを撃ち始める。
とはいえ、パチンコだと威力はあっても1発1発が遅いんだよ。
さすがに連射はできない。
やっぱり違う武器を考えないといけないのか、俺。
ミリーだって弓を使ってるけど、なぜか彼女は俺が1発パチンコ弾を撃つ間に2本の矢を放っているんだよな。
一体どうやっているんだろう?
カサカサと結界の周囲を走り回ってなんとか俺たちの方に近づこうとしている。
もうホントにスミレの結界がなかったら、俺は発狂していたかもしれない。
ヒュン、と音がしてミリーの矢が飛んでいく。
それに負けられない、と俺もパチンコ弾を飛ばしたけど・・・外した。
どう考えてもミリーは俺の倍の数を仕留めている。
悔しくて今度はさっきよりも少しだけ狙いを定める時間を長くしてから弾を放つと、今度は見事に命中した。
「よっしゃっ」
『あと11匹です』
「これ以上集まって来てないだろうな? これ以上増えるのはヤダぞ」
『今のところはその様子はありません』
「ホントだな?」
『今のところは、ですよ。早くしないと仲間を呼ばれるかもしれませんよ?』
「マジか?」
『さあ?』
なんだよ、ゴキが仲間を呼んでるのかどうか知らないくせに適当に言ったな。
じろり、とスミレを睨んだところでミリーが俺たちを振り返った。
「スミレ、矢がない」
『新しいのはそこに置いてますよ』
「ありがと」
ミリーが矢を受け取るために後ろに下がったので、俺は今のうちに1匹でも仕留める数を増やしておこうとパチンコを構える。
と、奥の方で影が揺らいだのが見えた。
どうやら何かがやってくるようだ。
「スミレ、何か来ているぞ?」
『探索には引っかかってないですよ?』
「ホントか? なんか影が動いた気がしたんだけどな」
頭を捻りながらパチンコ弾を飛ばして、なんとかまた1匹仕留める事ができたとホッとしている俺の隣にミリーが戻ってくるとスミレを振り返る。
「スミレ、コータの言う通り。何か来てる」
『見えますか?』
「はっきりとは、見えない。でもたぶん、黒いよ?」
『ミリーちゃんが言うのであれば何かいるんでしょうね』
「おい」
なんだよ、それ。
俺が言った時は信じなかったくせにさ。
俺は文句を言おうとスミレを振り返ろうとしたが、そんな俺の視界の隅に何か動くものが見えた気がして、その方向に目を凝らす。
「ミリー」
「うん、来てる」
『探索には引っかかってませんよ?』
「あれ、何かな?」
「まだ遠くてはっきりと見えないなぁ。スミレ、ランタンの明かりを強くする事ってできないのか?」
『できます。ついでに2つ目のランタンも同様に明かりを強くします』
じっと目を細めてやってくるそれを見極めようとするミリー。
俺も同じようにしているが、さすがにミリーには敵わない。
でもスミレがランタンの光度をあげてくれたおかげで、坑道が明るくなり土壁がオレンジ色に照らし出された。
そのおかげで俺にもなんとか近づいてくるソレが見えるようになる。
「おい、あれ・・・」
「へんなものが、来るよ」
動いているものが近づいてくるのは判るけど、なんと形容すればいいのか判らない。
なんていうか沼地で見たアメーバの真っ黒バージョンだが大きさは直径が1メートルくらいで、10センチほどの繊毛みたいなものが外周に生えており、それが移動の際の動きに合わせてざわざわと動いているのが見える。
「スミレ、あれはなんだ?」
『判りません。データバンクオープンします。検索開始・・・・・』
振り返ると、スミレもソレを見て眉間に皺を寄せて嫌悪感を露わにしている。
そんなスミレを見るのは初めてだし、スミレが判らないと言うのも初めてだった。
「コータ、とりあえず矢を射ってみる」
「俺も弾を撃ってみる」
スミレが検索をしている間に小手調べとして1発ずつ当ててみる。
「あれ?」
「当たった、のか?」
俺の撃った弾もミリーの矢も当たった筈だ。
でもソレの表面には当たった筈の矢は見えないし、俺の撃ったパチンコ弾が当たった場所には穴も相手いない。
まるで当たる直前に消えたか吸収されたようだ。
「も1回、矢を当てて、みる」
「俺は矢がどうなるか見てるよ」
頷いたミリーはさっきと違って今度はじっくりと狙いを定めてから矢を放った。
ヒュン、と軽快な音がして飛んでいった矢は、俺たちの目の前で見事にソレに当たったかと思うと、そのまままるで沼に矢を放ったかのように吸い込まれてしまった。
「地面がある筈なのに、吸い込まれたな」
「うん、あれじゃ、矢が当たっても、だめだね。どうする?」
「スミレ、検索は終わったか?」
『検索終了しました。けれど該当するようなデータは発見できませんでした』
「・・・マジかよ」
「スミレ、知らないの?」
『すみません』
ミリーとしてはなんでも知っている筈のスミレが知らないと言った事が不思議だったようだが、スミレとしては改めてそう聞かれて申し訳なく思ったのか謝っている。
「スミレ、この結界はアレも止められるか?」
『おそらく大丈夫だと思います。ですが、データが全くないので断言はできません』
「う〜・・・んじゃ、とりあえず正面の結界はそのまま。代わりに背後に結界を伸ばしてくれ」
『判りました』
「コータ?」
「スミレの結界が通用するかどうか判らないから、もしものために後ろに逃げられるようにしてもらったんだよ」
「わかった」
スミレに出した指示の意味が判らなかったミリーに説明をしてやりながら、俺は彼女の手を引いて後ろに5メートルほど下がる。
「コータ」
「なんだ?」
「カルッチャが、いなくなった」
「はっ?」
「だから、さっきみゃでいた、カルッチャ、全部いない、よ?」
俺は結界の周囲を見回したけど、確かにミリーの言う通りさっきまでカサカサとうるさいほどいたゴキがきれいさっぱりいなくなってる。
「もしかして、あいつらアレから逃げてたのか?」
『かもしれませんね』
「スミレ、アレは見えてるんだろ? 未だに探索には引っかからないのか?」
『・・・はい。探索にはなんの反応もありません』
「マジか・・・探索にかからないって事は、アレって生物じゃないって事か?」
『どうでしょう? 私の探索は動物だけではなく植物も探索に感知するようになっているんですけどね。それに鉱石や輝石も探索できるので、どうしてあれが探索できないのか私には判断できません』
どこか自信なさそうなスミレだけど、こればかりはどうしようもないだろう。
まさかスミレの探索にかからない生物がいるなんて思わなかったよ。まあ、魔物の中には闇に溶け込む物とかもいて、そういうものは探索にかからないとは言っていたけど、それでもそういう魔物も動きを見せればスミレの探索に引っかかっていたんだけどな。
なのにアレは動いているにも関わらず、スミレの探索に引っかからない。
さて、どうするか?
「このまま来た道を戻るか?」
『そうですね・・・』
「様子、みる」
「でもどうすればいいのか判らないんだぞ?」
「観察、すれば、弱点、あるかも」
俺としてはこんな得体の知れないものを前にする撤退は『勇気ある撤退』だと思うんだけど、ミリーとしてはなんとか仕留めたいんだろう。
でもさ、どうやって仕留めるんだ?
いつもであればスミレのデータバンクからの情報が得られるのに、なぜかアレの情報はないという事だから俺たちで考えるしかないわけだ。
でもパチンコも弓も効かないとなるとどうすればいいのか判らない。
物理攻撃が駄目って事か?
じゃあ、魔法?
でも俺、魔力はあるらしいけど、魔法は一切使えないぞ?
「ミリー」
「なに?」
「ミリーって魔法使えたっけ?」
「・・わかんない」
少し考えてから、ミリーは頭を振った。
「判らないって、使えるかどうか?」
「誰も教えて、くれなかったから、使えるのかどうか、もわからない、よ?」
「スミレ、ミリーの能力って鑑定できるのか?」
『残念ながらできません。レベルが5になれば能力値も鑑定できるようになりますが、現段階ではそこまでの能力は私にはありません』
つまり、ミリーが猫系獣人である事は鑑定できるけど、どのくらい筋力があるとか魔力の量とかは判らないって事だな。
「じゃあ、アレ、鑑定できるか?」
『先ほどしましたが、判りませんでした』
「判らない?」
『鑑定画面が文字化けしているんです』
なるほど。
さっぱり判らない、って事が判っただけだな、うん。
読んでくださって、ありがとうございました。
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Edited 05/05/2017 @16:59CT誤字のご指摘をいただいたので訂正しました。ありがとうございました。
スミレの出した指示の意味が判らなかった → スミレに出した指示の意味が判らなかった




