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異世界で、のんびり趣味に走りたい  作者: チカ.G
都市ケートン ー 鉱山に行こう
92/345

91.

 ダッドさんが教えてくれた旧坑道までまた歩く。

 でも今度は先が見えない斜面道を歩く訳ではないので気楽に歩けた。

 なんせあの道は足を滑らせたらそのまま下までまっしぐらだったもんな。

 そうして歩く事30分くらいで、目的の場所である三叉路に辿り着いた。

 ここに来るまでに数人のドワーフたちを見かけたが、みな忙しそうにピッケルを振るっていたので俺とミリーは邪魔にならないようにひと段落つくまで待ってから通らせてもらった。

 多分そのせいもあってここまで来るのに30分も時間がかかったんだと思うな。

 「よし、この辺でいっか。スミレ、周囲に誰もいないか?」

 『探索します・・・はい、一番近いところでここから500メートルほど離れています』

 「んじゃ周囲の事も気にしながら闇纏苔やみまといごけの探索開始。ついでにもう1つのランタンも出して両方とも頼めるか?」

 『はい、ランタンはどちらも私の方で動かす事はできますので大丈夫ですよ。それでは闇纏苔やみまといごけ探索開始します。範囲50メートル・・・反応なし。次、範囲100メートル・・・反応なしです。次、範囲150メートル・・・・反応1、ありました』

 俺の肩に止まったままスミレが探索を開始して、どうやら進行方向150メートル以内の場所にあるようだ。

 今回のスミレの探索は、目の前の2つの坑道の中のみに絞られている。いつものように円状に探索するとここじゃない坑道も範囲に入るからな。

 という事でスミレが探索したのは三叉路になっている目の前の2つの坑道だった。

 「どっちだ?」

 『こちらです。先導します』

 「任せた」

 スミレは右側の坑道を指差すと、そのまま俺の肩から飛び上がり俺とミリーを先導して進む。

 「ミリー、足元気をつけろよ」

 「わたしは、だいじょぶ。見えるもん。気をつけるのは、コータ」

 「はい」

 せっかくかっこよく声をかけたって言うのに、ミリーに言い返されて締まらないセリフとなってしまった。

 そんな俺の失望感に気づく事もなく、ミリーはさっさと前を行くスミレの後をついていく。

 俺は小さくため息を吐いてから後に続いた。

 





 暫く先を進んでいたスミレの姿をランタンの明かりで追いかける。

 「ここですね」

 そう言って止まったスミレが指差した先には何も見えない。

 「ここ? 何も、ないよ?」

 「俺にも何も見えないな」

 ランタンを持ち上げて照らしてみるが、そこには何もない。

 「やっぱりなんにも見えないな」

 『コータ様、苔の名前はなんですか?』

 「ん? 闇纏苔やみまといごけだろ?」

 『そうです。その名前の通り闇を纏って見えなくするんですよ』

 「闇を纏う?」

 『はい、周囲の明かりを吸収して暗闇を保ちます。ですので、大抵の人は気づかずに通り過ぎてしまうんです。たかが苔の採取依頼が赤のカードだと不思議に思われませんでしたか?』

 「え〜っと・・・」

 いいえ、全くそんなところまで考えてませんでした。

 でもそう言葉にするとまた叱られそうなので視線を逸らすだけにする。

 「スミレ、暗くして、見えなくしてる?」

 『はい、その通りです』

 「でも、匂いもない、よ?」

 『坑道内は湿度が高いですからね。おそらく湿気による鄙びた匂いが苔の匂いを隠しているんだと思いますね。それにもともとそれほど匂いのない苔ですから』

 「そっか。じゃあ、どうやって採取、するの?」

 『そのために昨日の夜、手袋を作ったんですよ』

 スミレの言葉を聞いて、俺は慌ててポーチから手袋を取り出した。

 同じようにミリーも背負っているリュックを下ろして手袋を取り出した。

 「そういや手袋がいるって言ってたよな。でもそれって闇纏苔やみまといごけを傷めないように採取するためじゃなかったっけ?」

 『それもありますけど、同時に採取するコータ様やミリーちゃんの手を守るためでもあります』

 「なんで昨日、その事を教えてくれなかったのかな?」

 昨日作ってる時に教えてくれたって良かったと思うぞ。

 『教えたらコータ様は採取せずに都市ケートンに戻ってたかもしれませんからね』

 「・・・へっ?」

 『もし依頼を達成する事なく都市ケートンに戻るなんて言いだしたら困るから、ですよ。ミリーちゃんもハンターになろうと頑張っているところなんです。そんな彼女に依頼を達成しないで諦めるなんて事を教えたくなかったんですよ』

 「あの・・・スミレさん?」

 俺にはさっぱり話が見えてないんですけど?

 「スミレ、わたしの、ため?」

 『そうですよ。コータ様から駄目な事を教わらないようにしないとね』

 「ちょ、ちょっと待て。スミレ、さっぱり話が見えないぞ。もっと判りやすく説明してくれよ」

 『判りました。私もここに来るまで判らなかったんですが、この鉱山にはいろいろな魔物がいるようです』

 「魔物魔獣が出るかも、っていう話は聞いてたぞ?」

 ハンターは魔物魔獣を無償で仕留めるから鉱山の中に入らせてもらいやすいって言ってたよな。

 『はい、鉱山という場所という環境のせいか、外よりも魔物魔獣が発生しやすいんです。もちろん外から入ってくる魔物魔獣もいますが魔素が溜まってそこで誕生する魔物魔獣も多いようです。実は昨日コータ様とミリーちゃんが管理所で手続きをしている間に鉱山の入り口から中を探索していたんです。その時に実に多種多様な魔物魔獣を探知しました』

 「多種多様って・・・マジかよ」

 『はい。それでですね。その中のいくつかはコータ様が苦手にする類の魔物ではないか、と推測しました。ですので事前にその魔物の事をお伝えすると依頼を放棄して帰ると言われるのではないかと考えたので、コータ様にはどのような魔物が出てくるのかを伝えませんでした』

 うっわぁ・・・スミレが話をボカシまくっているので、かえって不安感が煽られているように感じるのは俺の気のせいじゃないよな?

 「その、さ。一体どんな魔物が出るのかな?」

 『まず体長50セッチほどのゴキブリ、それから1メッチ超えのムカデでしょうか。ゴキブリはカルッチャ、ムカデはカルパッドと呼ばれていますね』

 「ちょっと待て、それ、虫じゃないぞ」

 『はい、魔物ですね。それから』

 「まだいるのかよ」

 50センチのゴキブリに1メートルのムカデ、それだけでもうお腹いっぱいなんですけど。

 『もちろんです。あとはナイトクロウラーと呼ばれる5メッチ以上の長さになるミミズですね。このミミズはクランゲと呼ばれてます。植物系の魔物は1種類ですが、こちらはバオムと呼ばれるもので木の根を伸ばしてきます』

 ゴキブリムカデミミズと言われて俺は思わず足元を見回した。

 ランタンは2つともスミレが浮かべてくれているので結構視界はいい。

 そんな明かりの下、とりあえず何も動いていない事にほっとする。

 「言ってくれたら良かったのに」

 『もし私が事前にお伝えしていたら、尻込みしていませんでしたか?』

 「それは・・・」

 ない、と言い切れない自分が情けない。

 『でしょう? ですので、昨日はあえて情報を公開しませんでした』

 「いや、でもさ、それが判ってたら武器を作って備えたよ」

 『そうでしょうか?』

 「コータ、虫、きらい? 出てきたら、わたしが、捕みゃえるよ?」

 「ミリー・・・捕まえるって、デッカいんだぞ」

 「大きい、の?」

 「スミレの話ではミリーよりでかいムカデ・・なんて言ったかな?」

 『カルパッドです』

 言い難い名前なので既に記憶に残っていなかった。

 「わたしより、大きい、カルパッドなの?」

 「そう言ってたぞ」

 「魔物に、なった?」

 『そうですよ。坑道内に溜まった魔素を吸収しすぎたんでしょうね』

 スミレの説明を聞いていると、放射能の影響で虫や動物が巨大化したっていう古い映画を思い出したよ。

 「で、この手袋がどう役に立つんだ?」

 『闇纏苔やみまといごけは光を吸収して闇に紛れ込むので、目で見て探す事は難しいんです。ですので、魔力の流動を見る事ができる人はそれによってある程度の場所を特定できますが、そうでない人は暗い場所に手を突っ込んで探します。けれどそういう場所は魔物にとっても心地良い場所ですから、闇纏苔やみまといごけを探すために突っ込んだ手を魔物に食いちぎられる事もあるそうです』

 「・・・・」

 『そう言った事故を防ぐために、この手袋をつけてもらいます。これは特殊素材を使って作り上げた手袋で、カルパッドの噛みつきにも耐える事ができますよ』

 俺はついさっき手に嵌めた手袋を見下ろす。

 ぱっと見は軍手だ。ただ色は黒で軍手ほどごわごわした手触り感はない。

 でもデッカいムカデに噛まれても平気だって言われても素直に信じられないよ。

 「これ、生地そんなに厚くないけど、本当に噛まれても大丈夫なのか?」

 『もちろんです。生地が破れないように魔法陣を仕込んであります』

 「どこに?」

 『手のひらの部分の糸を操作して魔法陣を書いたんです。それなら目立たないでしょう? それに繊維にイズナを混ぜ込んでありますので、少々の怪我でしたら治せるようになってます』

 万能手袋じゃん。

 『防水機能もついていますので、安心して濡れたものも扱う事ができます』

 苔だからな、土ごと回収する時に濡れて汚れるかもしれないから、防水機能は嬉しいぞ。

 でも、だ。デッカい虫魔物はちっとも嬉しくない。

 俺、虫嫌いなんだよ。まあ虫が好きっていう少数派もいるかもしれないけどさ。

 「つまり、この手袋を嵌めて岩壁のくぼみや薄暗い場所に手を突っ込め、そういう事なんだな」

 「はい、そうなりますね」

 「見えない、場所触ると、手袋、汚れるかも・・・・手袋、汚れてもいい?」

 『大丈夫ですよ。汚れたら帰って洗いましょうね』

 「うん、スミレも、手伝ってくれる、よね?」

 『もちろんです。一緒に洗いましょうね』

 俺はミリーとスミレの会話を聞きながら、手袋を嵌める。ぐいっと引っ張ると手首から10センチくらいまで手袋で覆う事ができる。それに伸縮性があるからか、俺の手にぴったりと大きさを合わせてくれる。

 これなら直接俺の肌に触られる事はないだろう。

  それが判っただけでもラッキーなんだろう。

 だって考えてくれよ、デッカいゴキブリが俺に触るかもしれないなんて想像するだけでゾッとする。

 自慢じゃないが、ゴキブリ⚪︎イホイをゴミ箱に捨てるのでさえ素手を使わなかったんだ。

 「ミリーは虫大丈夫なのか?」

 「虫? 大丈夫って?」

 「だからさ、怖い、とか、苦手、とか」

 「怖くない、よ?」

 何が怖いのだ、と不思議そうな顔で俺を見上げるミリーを見て、なぜか負けた気がした俺だった。

 

 


 読んでくださって、ありがとうございました。


 お気に入り登録、ストーリー評価、文章評価、ありがとうございます。とても励みになってます。


Edited 05/05/2017 @16:41CT  誤字のご指摘をいただいたので訂正しました。ありがとうございました。

特殊素材を使って作り上げたて服とで → 特殊素材を使って作り上げた手袋で

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